空いっぱいに祈る恋 10

「真紀・・・何があった?」
玄関を入ってすぐに問いかけてくる薫に真紀はやっぱり、と内心呟き背後を振り返る。
「・・・特に、何も。薫さんが気にする事じゃないから・・・」
「真紀!」
「・・・元クラスメートに会っただけ。・・・それだけだよ。」
二階へと上がろうとしながら笑みでごまかす真紀を咎める薫に渋々返すと真紀は顔を上げる。
眉を顰めたままの薫に真紀は笑みを浮かべる。
「・・・真紀?」
「大丈夫だから。・・・オレは平気、だから・・・」
腕を離して、と言外に訴える真紀に薫は溜息を漏らすと腕を引き寄せ真紀を抱きしめてきた。
「・・・薫さん」
「もう二度と他のヤツに触らすのは嫌なんだよ。ちゃんと話して。対処の方法だってあるかもしれないから・・・」
戸惑う真紀をきつく抱きしめ呟く様に小さな声で言う薫に真紀はその胸元へと顔を押し付ける。
「・・・これからはなるべく一人にはならないから、大丈夫!オレも薫さん以外は嫌だよ。」
何気なく口に出し真紀は自分の言葉に一瞬後、顔を赤く染める。
最近の薫が優しくて守られてる感じが強くなっていたからつい出た言葉があまりに恥ずかしいのと、薫に言う言葉じゃないだろう、とぐるぐる考えだした真紀は薫の笑い声に顔を上げる。
「・・・薫さん?」
「真紀、好きだよ。オレのものだって自覚を持ってくれて嬉しいよ。」
笑みを浮かべ顔を近づける薫に真紀は何も言えずにただ瞳を閉じる。
玄関先で誰も来ない家だと分かってはいるのに交わすキスは真紀に居心地の悪さとほんの少しの高揚を与えていた。

********************

「真紀、オレ出かけてくるから・・・鍵かけて寝てていいよ。」
携帯の着信音にキスを突然打ち切られ呆然としていた真紀の目の前で短い会話を済ませた薫の言葉に真紀はそろそろと薫を見上げる。
財布の中身を確認していた薫は真紀の視線に気づき笑みを浮かべる。
「二度と真紀以外には触れないから、友達に会うだけだよ。」
「・・・・っ!オレは別にそんな事は・・・」
「行ってくるね。」
頭を撫で唇へと軽くちゅっ、と音を立てキスを送り薫は出て行く。
バタリ、と閉まるドアの音を聞きながら赤面した真紀は鍵をかけるために玄関へと向かう。
それから、まだ制服姿の自分に今更気づき玄関で投げ出された鞄を手に自室へと向かう。


夜、薫が出かける事は二人で住みだしてからはほとんど無かったのにどこに行ったのか気になり頭を振り思考を変えようと真紀は思いなおす。
どんどん流されてる気がしてならない。
他の誰とも違う人に体だけではなく心まで囚われている気がするのも、本当はそう考える時点で既に囚われているのだと真紀はまだ気づいてもいなかった。
一人きりの家には何の物音も、もちろん聞こえずに一人が好きだと思っていたつい先日までの事が嘘の様に今の真紀には寂しい感情しか湧かなかった。
一人は寂しいと生まれて初めて真紀は知った。
そう思わせたのが薫なのだと真紀は改めて自覚せずにはいられなかった。
ありあわせの食事を取りお風呂へと入るとがらんとした部屋がやけに寂しく部屋へと戻ると早々に床へつく。
結局眠るその時迄薫の事しか考えていなかった自分に真紀は気づこうともしなかった。


がちゃがちゃ、と鍵を開ける音と扉の閉まる音、そして物音に真紀は薄っすらと目を開ける。
時計を探し時間を確かめるとまだ明日にはならない時間で、真紀は寝起きだからなのか少しだけ頭の重い体を起こすと部屋から出て居間へと降りていく。
暗闇の中ソファーに座り込んでいる人を見て真紀はそっとドアを開いた。
「薫さん?・・・帰ってるの?」
ひっそり、と問いかける真紀に人影が動く。
おそるおそる近寄る真紀はひかれたカーテンの隙間から漏れる月の灯りで薫だと気づき笑みを浮かべてお酒の匂いに気づき眉を顰める。
「・・・飲んでるの?」
「あぁ・・・わけあり。オレは飲めないよ・・・車で行ったし・・・」
「・・・でも・・・」
戸惑う真紀を横に座らせ、薫は真紀の頭を撫でてくる。
「・・・薫さん?」
顔を近づけてくる薫に真紀は初めて彼の髪が濡れてるのに気づき手を伸ばした。
良く見たら服も微妙に濡れていて真紀は顔を上げ薫を不思議そうに見上げる。
「・・・酒、かけられただけ。つけがいろいろ舞いこんできてね。」
苦笑して答える薫は真紀の頬へと手を伸ばす。
聞きたい事はまだあったのに答えてくれる気が無いのか薫は真紀へとキスをしてきた。
パジャマ代わりのシャツを捲り上げられ真紀は薫のいつのまにか屈みこんで胸元へと下がった頭へと手を伸ばした。
「・・・っう・・・何?」
「お風呂、行かなくて・・・平気?」
髪を強く引く真紀に顔を上げた薫は真紀の言葉に苦笑する。
「平気、だから・・・暖めてよ。」
笑みを浮かべた薫に真紀はただ頬を赤く染める。
だから、薫は真紀の胸元へと顔を近づけ赤く少しだけ色づいた果実を口へと含んだ。
びくり、と身震いしたけれど真紀はもう何も言わなかった。

********************

「門倉の事、調べてたんだよ。」
「・・・それって・・・」
「何で、オレなのか、本当に恨まれる覚えは無かったんだけど・・・オレもあまり褒められた生活はしてなかったし、ね。」
真紀の素肌に顔を摺り寄せ呟く薫の髪がくすぐったくて身じろいだ真紀は薫の言葉に彼へと顔を向ける。
「・・・薫さん?」
「今はもちろん品行方正!真紀以外には触れてないし来るものは丁重にお断りしてるよ。」
少し目を細める真紀に苦笑すると薫は軽いキスをしてくる。
「・・・っふ、かお、る・・・さん・・」
「今のオレには真紀だけだよ。一番欲しいものが手に入ったのに他はいらないだろ?」
顔中に降り注ぐキスの合間に語る言葉がとても嬉しそうで真紀は薫の背へと手を回し次第に熱を持ち深く重なり合う唇を受け入れた。


いつからこんな心を持ったのかは知らないままに真紀はもう薫を離せない自分に今、この瞬間、やっと気づく。
もう、認めないわけにはいかなかったのに最後のそして最初の言葉が言えないまま薫の手管に今日も唯々諾々と従う自分がいる。
だって「家族」のはずだったのだ。
仲の良い兄弟に戻りたいと思っただけだったのに気づいた気持ちはそんな思いじゃなくてただ独り占めしたいだけ。
自分だけを見て、考えて・・・欲しいだけ。

「・・・っあ、ああ・・・かおる、さん・・・・」
突き上げられて、思わず漏れる声に薫が笑みを浮かべるのを嬉しいと思う感情は真紀の中には存在すらしなかったはずなのに。
温もりが鼓動が入る肉の塊がどれも自分のものだと確認できる行為に流された結果得た事実は真紀の常識を根本から崩していくものだった。
汗ではりついた前髪をかきあげてくれる優しい指先に手を伸ばし真紀は無意識に顔を摺り寄せる。
「・・・真紀?」
意外な行為に名を呼ぶ薫に真紀は笑みを向ける。
潤んだ瞳で見上げ微笑んだその顔に薫自身が反応する。
中で質量を増やされ眉を歪める真紀に薫は顔を近づけるとキスをする。
唾液まで啜り、貪るキスをしながら勢いをつけて腰を振り出した薫の行動に真紀は戸惑いつつも必死に受け入れる。
ぐちゅぐちゅと響く水音と激しく擦れ合う肌の音にあまり身動きのとれないソファーの上真紀は薫へとしがみついた。
しっかり抱きしめてくれる腕の中、真紀は体の中で弾ける熱い温もりを感じ、自身からも精液が漏れるのを感じた。

白く霞み意識が遠のいていく中頭を優しく撫でられるのを真紀は感じていた。

いつだって悔やむのは後の事。
話をきちんとするべきだったと悔やんでも聞かなかった自分が悪い。
世界に二人しかいないなんて事ありえないし、それが大事だったと真紀が気づいたのはだいぶ後になってからだった。

大切な事にはいつだって後になってから気づくから。

続きますとも。いろいろ作りすぎてやばい感じです。

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