空いっぱいに祈る恋 9

「・・・っや・・・ふぐっ・・・っん・・・」
有無を言わせず押し込められた肉の塊に吐き気が襲ったあの日。
口の中で段々と質量が増えていくのも、生温いその感触すらも気持ち悪い以外の何も真紀に与えなかった。
もちろん、初めての経験ではなかったのに、今までの行為では一度も感じられなかった寒気と吐き気という気持ち悪さが先に立ち、もし口が常に塞がれてなかったら、きっと吐いていた。
どうせならその汚物をぶちまけてやりたかった、と後悔したのはぼろぼろの制服と共に残された血まみれ、汚辱まみれの自分を少しだけ冷静に見れたときだった。
記憶の上塗りだと薫としたSEXは真紀に快感のみを与えた。
同じなのに違うもの・・・その意味を真紀は認めたくはなかったけれど考える時に来たのかも知れなかった。


「真紀・・聞いてる?」
「・・・何?」
闇の中、少しだけ窓から漏れる月の灯りで薫だと認識出来るほど間近にある顔が真紀の問いかけで微妙に形の良い眉を歪ませる。
「薫さん?」
「明日からは送り迎えにするから・・・少しだけ、我慢して。」
溜息を漏らすと抱きしめてくる薫に真紀は不思議そうな顔をする。
どうしてそんな話になってるのかわからなくて、でも聞ける様な態度を薫は取ろうとしないから真紀はただ頷いた。
頬に手を伸ばされ顔を上げさせられるとキスをされる。
少しずつ熱を持つそのキスに真紀は疑問すら曖昧なまま気づいたら薫にベッドへと押し倒されていた。

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「・・・・っく、かお・・る、さん・・・」
「・・・真紀・・・」
柔らかなキスを顔中に与えながら薫はゆっくり、と真紀の中へと押し入ってくる。
ずぶずぶと差し込まれているものの大きさも質感すらもう知らない真紀じゃなかった。
どうすれば痛くないのか、体が覚え、次になにがあるのか、これから先何が待っているのか散々体に教え込まれたから意思より先にどうしたら良いのか体が自然に反応する。
慣らされた体は薫を飲み込み受け入れ快楽へと導かれるのを待ち望む体へと変化していた。
それは決して真紀の意思じゃないと思いたかったはずなのに最近は分からなくなっていた。
薫以外の他人に触られるのは流石に嫌だけど、薫ならいいか、と思う真紀がどこかにいる気がしてならなかった。
変わっていくのは体で心じゃなかったはずなのに真紀の心さえも大きく変化していくそんな気がして、それは最近さらに強く思うようになってならなかった。
中をゆっくりと掻き回されるのも、ぐちゅぐちゅと鳴る水音さえも真紀の体に快感を産み付ける行為の一つでしかなかったから。
ぎしぎし、とますます激しく軋むベッドの上。
「・・・あっ・・・あっ・・・んっ・・」
真紀の喘ぎ声と微かに乱れる薫の吐息が暗闇の中響く。
首へとしっかりと手を回す真紀を抱きしめると薫は激しく腰を振り最奥へと熱い飛沫を吐き出した。
遅れて真紀の先端からも白濁の液が吐き出され薫は真紀へとキスをしながらきつく抱きしめた。


「・・・薫、さん。昼間の・・・知ってる人、いたの?」
「昼間?・・・ああ、真紀を犯したやつらの事?」
つい曖昧にはできなかった真紀の問いかけに以外にも薫は淡々と呟いた。
特に怒って欲しいとも思っていなかったけれど少しだけ拍子抜けした真紀の頭を撫でてくる薫に真紀は顔を上げる。
笑みを向けられつい返した真紀を薫はそのまま抱き寄せる。
「・・・薫さん?」
最近優しくなってはいたけれど抱き合った後は、ほとんどすぐ眠る事の方のが多い真紀はそれに戸惑いの声を漏らし腕を伸ばし離れようとする。
「その態度は傷つくんですけど・・・」
「・・・だって、いきなり・・・」
「慣れろ!」
有無を言わせないまま話さない薫に真紀はますます戸惑いを隠せないまま薫の腕の中固まる。
そんな真紀に苦笑すると薫はそっと唇へとキスをする。
「・・・・・!?」
「抱き合う時は最近しがみついてくるのに、慣れないね、お前。」
苦笑を漏らす薫に真紀は顔を赤く染めたまま下を向く。
昼間と違って顔色の判別がつかない夜を少しだけありがたく思いながら。
「『門倉蓮(かどくられん)』そんな名前だったかな?・・・うちの大学のヤツだよ。あまり知らないけど学部も違うし・・・恨まれる覚えもないはずだけどな。」
沈黙の続いた後突然言いながら思い出すかの様に瞬きを繰り返す薫に、おもわず顔を上げた真紀は何も言わずに薫を見る。
目が合うと笑みを浮かべる薫に真紀はやっぱり笑みを返すしか出来なかった。
「大丈夫。・・・もう、二度と真紀には触れさせないから・・・」
「・・・薫さん?」
手を伸ばし顔を近づけ真紀へとキスを繰り返しながら薫はもう一度同じ言葉を繰り返した。
それは、まるで、自分自身に言い聞かせてるかの様に真紀には聞こえていた。

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「おはよう、真紀!・・・今日はどうした?・・・歩きじゃなかったのか?」
「ああ、うん。暫く、薫さんが送迎するって言い出して。・・・まだ、本調子じゃないからだと思う・・・けど。」
直毅の問いかけに真紀は言い訳じみた言葉を言う。
そっか、の一言で納得はしてくれたけれど、直毅の顔は何か言いたそうだった。
だけど真紀は笑みを浮かべて全て見なかった事にした。
悪いと思ってはいても言えない事が増えてくるな、と内心思いながらも何一つ真紀は直毅には言えなかった。
ひとつ話すには全て話さなければならなくなる、どうしても一人では抱えきれなくなるまで、その時が来るまでは真紀は直毅に何も話したくなかった。
真紀が常識から大きく外れてしまっている事を直毅にはまだ知られたくなかったから。
親友だと今でも思っているけれど隠し事が増えているのもわかってはいたけれど直毅とまだ友達でいたかったから真紀は今はまだ笑みでごまかせるならごまかしていたかった。
ずっと、友達でいたかったから。


放課後、歩いて帰れるから、と先に帰った直毅と別れ薫へとメールを送った。
校門の前で待たせるのも悪いから来る時に帰りはメールで知らせるからと薫には伝えていた。
すぐに返信が来て『今から行く』と短い言葉が送られてきた。
帰り支度も済ませた真紀は一人下駄箱へと向かった。
靴を履き替え真紀は人の気配に顔を上げ、そのままの格好で固まる。
「あれ〜?・・・新名じゃん。」
「・・・今日は一人?・・・会うのは久々だよね・・・あれ以来?」
「相変わらず小さいし、可愛いじゃん。」
後ずさろうとして真紀は大島に腕を掴まれる。
触れられただけで、全身に鳥肌が立つくらいの寒気を感じる。
「・・・・何の用?」
青ざめた顔でそれでも問いかける真紀の前大島筆頭に名前すら知らない二人も嫌な笑みを浮かべている。
「あの時は、あの時だけど・・・新名って思ったより、良くてさ。また、お願いできるかな?」
にやにやと笑みを浮かべ話す大島の横でひょろり、と病的な色の白さが特徴のヤツがこくこくと頷いてくる。
「こいつらが良いってうるさいから、今度はオレも良いかな?」
少し小太りで背の一番小さいヤツの言葉に真紀は大島の腕を離そうとする。
小太りとひょろりも近づいてきて真紀は必死にもがいた。
「離せよ!・・・オレに近づくなよ!」
後ずさり必死にもがくその時真紀のズボンで携帯が鳴る。
いきなりの音に大島の腕が緩んだ隙を逃さずに腕を振り切り真紀はそのまま校門へと駆け出した。
見慣れた車に駆け寄り真紀は後を振り返る。
追ってはきたけれど、大島達は真紀が車に近寄った瞬間に苦虫を噛み潰したかの様な顔になり早々にまた校舎へと戻っていく。
溜息を漏らし乗り込んだ車の中の薫に真紀は笑みを向けた。


「真紀?」
「薫さん!良い、タイミングだよ、助かった。」
訳がわからないまま驚く薫の横へと真紀は乗り込むとドアを閉める。
「・・・何かあった?」
「平気。薫さんのおかげ。ありがとう!」
最近じゃ滅多に向けてくれない前回の真紀の笑みに戸惑いながらも薫は車を動かす為に前を向きなおした。
走り出した車の窓から流れる景色を見ながら真紀は学校が平和な場所じゃなくなる瞬間を知り唇を噛み締める。
きっと家に帰ったら何があったのか聞かれるだろう事を想像しつつもあいつらと話しているより薫との時間の方が何倍も良いと思う。
薫からの連絡が遅れればどうなっていたのか真紀は想像したくもなくて重い溜息をそっと漏らした。

続きます。そして何も言いません。

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