PURE LOVE 6

それから重い沈黙が続く部屋の中、妙に時計の秒針の音が響いて、息を吐くのも躊躇われ、自分の部屋なのに居心地の悪い柚希の前で大和は盛大な溜息を零した。
「・・・・・お前、本当に、バカ?」
自覚はあるけれど、他人から言われると妙に気に触るその言葉に柚希は顔を上げる。
真っ直ぐにみつめる視線に当たり、逃れ様とする柚希に大和は更に深く大きな溜息を零した。
「言われなくても、わかってる。」
「・・・・・あ、そう。で、どうするの?」
「別れる。・・・・・それしか無いし、だけど・・・・・それは本当におれと慎二の問題だし。」
巻き込んどいて今更だけど、それでも明確な意思を胸に言う柚希に大和は頭をがしがしと掻き毟ると立ち上がる。
「・・・・・帰る?」
戸惑いながらも問いかける柚希をじろり、と睨んだ大和は何も言わないまま台所へと歩いて行く。
「大和!」
「タバコ吸いたいだけ・・・・・帰って欲しい?」
換気扇を動かすとポケットから取り出した少し皺のついたパッケージからタバコを一本取り出し口に銜えるとポケットを更に探り、ライターを取り出すと火を点ける。
ボッと点いたその小さな火で一瞬赤く染まる大和をぼんやり眺めていた柚希はじっと見ていた自分に気づいて思わず視線を逸らした。

「もう、平気だし・・・・・帰らない、の?」
戸惑いながら呟く柚希に大和はタバコを銜えたまま近寄ってくる。
「そんなに早く追い出したい?・・・・・おれは迷惑?」
「迷惑なんて、お世話になりました。でも、ほら・・・・・もう、遅いし。」
少しだけ笑みを浮かべると柚希は覗き込み問いかけてくる大和の問いかけを否定して窓を指差し躊躇いながらも答える。
どこか気まずい雰囲気の中、白々しく笑みを浮かべる柚希に大和はもう、何度目かも分からない深い溜息と共にタバコの煙を柚希へと吐き出した。
「・・・・・な、何して・・・・・」
「お前、まじめにありえない。もっと、他に言う事無いわけ?」
咽こんで、ゴホゴホと咳を繰り返す柚希の前で、大和は呆れた声で呟く。
目に煙が染みたのかボロボロと零れだす涙を拭き擦りながら柚希は訳も分からないまま顔を上げる。
「・・・・・何を?」
呟いてはみるけれど、大和の視線の鋭さに身を竦ませたまま柚希は今度は視線を逸らす隙も与えられずに射抜かれるその視線にぎゅっ、と唇を噛み締める。


*****


言葉を発する事なくただ唇を噛み締め、視線に耐える柚希の態度に大和は内心溜息を零す。
「おれ・・・・・帰るわ。じゃあな、柚希・・・・・。」
ここに居ても仕方が無い、そんな態度で立ち上がる大和はそのまま柚希に顔を向ける事もなくさっさと玄関へと向かう。
「・・・・・大和?」
「もう、関わらないから、それで良い?・・・・・じゃあな。」
戸惑いながらも見送る柚希へと顔を向けはっきりと告げる言葉にびくり、と肩を震わすのを見て顔を逸らした大和は靴を履くと、扉へと手をかける。
「待って、待ってよ!・・・・・ちゃんと話すから、待って!」
「何を話すの?・・・・・もう、話す事は無いんだろ?」
振り向きもしないままの大和に戸惑いながらも柚希は立ち上がると玄関へと歩き出す。

「これだけは言わないと、きっとおれ・・・・・同じ事を繰り返しそうだから。」
やっと顔を向ける大和に少しだけ笑みを向けると柚希は口を開いた。
「おれ、前は言えなかったけどちゃんと大和の事、好きだった。」
「・・・・・何で、今更。」
訝しげな視線を送る大和に柚希は笑みを浮かべたまま口を開く。
「言わないとまた引きづりそうだから。・・・・・慎二の気持ちに応えたつもりでいたのに、おれは大和を思い出してた。だから、もう、同じ事は繰り返したくない。」
いつまでも燻っていた気持ちを全部水に流してしまわないと、柚希が前に進めない。
だから、視線から逃げない様に固く拳を握りしめた柚希は真っ直ぐに大和をみつめる。
「それで、何て言えばいいの?・・・・・答えが必要?」
「・・・・・そんなつもりじゃ、答えは分かってるから。」
思わぬ言葉に言い惑う柚希が瞳を伏せるから大和はそっと唇を噛み締めると体の向きを変え、扉へと背を押し付け寄りかかると冷たく固い扉の感触を感じながら俯いたままの柚希へと視線を向ける。
「「だった」の過去形だよな?じゃあ、もう答えはいらないか。でも一応教えといてやるよ・・・・・おれも柚希が好きだったよ。だから、確かめたかった。柚希にとっておれはどういう存在なのか。」

その言葉に驚いて目を見開いたまま顔を上げる柚希から視線を逸らすと大和は続ける。
「『本命』が出来たおれを認めたお前には二度と近づかないつもりだった。・・・・・だけど、凄く気になった。4年も続いといておれはただの友人にしかなれなかったのに、全身で『恋人』だって主張するあいつの位置が羨ましかった。」
「・・・・・大和?」
「何で、手放したんだろうって、何度も思ったけど今更だって、どんだけ続いてもおれはただの友人にしかなれないだろうって思ってたし・・・・。」
泣きそうに眉を顰めて唇を噛み締める柚希へとそっと大和は手を伸ばす。
「でも・・・・・最初から始められるかな、おれ達。」
伸ばした手でそっと頬を撫でる大和を見つめたままの柚希の両目が段々と潤んで今にも流れ落ちそうな液体が溢れだして来る。
「おれで、いい、の?」
「柚希が良い!・・・・・柚希はどうしたい?」
「・・・・・・・っが、良い。大和が、・・・・・良いっ!」
服の端へと手を伸ばすとぎゅっと握り締めたまま呟く柚希を大和は今度は躊躇う事なく抱きしめる。
腕の中の温もりに包まれた柚希は必死に堪えていた涙を耐えきれずに零しだした。
柚希を腕の中へと抱えこんだ大和は頭へと顔を押し付けるとやっと取り戻せた温もりを更に強く抱きしめると笑みを浮かべた。


*****


朝日が薄暗い部屋の中を照らした眩しさに柚希は目を細める。
散々泣きまくった昨日のお陰で目の周りが昨日よりも更に腫れたのかじくじくと痛むけれど、昨日までの自分よりも今日はどこか心も軽くて晴れ晴れとしていた。
「起きた、柚希!・・・・・ご飯作ったけど、食べる?」
問いかけと共に鳴るお腹の鳴る音に慌ててお腹を押さえ頷く柚希に大和は笑みを返してくる。
頬を少しだけ赤く染めたまま起き上がりベッドからテーブルへと移動してくる柚希を席に促すと簡単なお味噌汁とご飯と目玉焼きを目の前に広げる。
「これ、大和が作った?」
「うん。大丈夫、誰でも作れるから、味は保障する。」
久々に見る朝ご飯を前にそっと問いかける柚希の前で大和は笑みを浮かべてくる。
「うち、ご飯なかったよね?・・・・・炊いたの?」
「・・・・・ごめん、買ってきました、近くのコンビニで。」
暖めただけです、と笑う大和に頷き柚希は箸をつけだした。

食事の間、ただ黙々と箸を進める大和に柚希は顔を上げると口を開いた。
「・・・・・会いに行く。ちゃんと、言うから。」
「一人で平気?・・・・・おれも行こうか?・・・・・家じゃなくてその近くで会うとかにはできないのか?」
「一人で平気だよ。・・・・・大和見たら怒りそうだし、それに、外ではあまり、話したくない内容だし。」
言い惑う柚希にあまり良い顔しないまま大和は渋々頷くと、それでも送らせろと聞かなくて結局慎二の家の傍まで送ってもらった。
「・・・・・本当に、一人で平気?」
「大丈夫だよ。それに、酷いのはおれだし、何されても言われても自業自得だから、平気だよ。」
「お前ね、何かあったら呼べよ!ワン切りでも良いから携帯鳴らせ!・・・・・本当に鳴らせよ!」
ドアを開けて出て行く柚希の腕を掴み尚も言い続ける大和に苦笑を返すと何度も頷く。
微妙に納得しないながらも送り出してくれる大和に手を振ると柚希は歩き出した。
車の走り出す音が背後で聞こえるから柚希は立ち止まり部屋に一人で待つ慎二を思い浮かべ、部屋のある場所を見上げると深呼吸をして息を整えると拳を握り締めまた歩き出した。

私は主人公至上主義です!それだけは言っておきます。
たとえこの先再び暗くなろうとも・・・・・。

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