この前とは違う。 ほとんど素面に近い浅葱は触れる度にいちいち過剰に反応し、ぽろぽろと零した涙は尽きる事も無く、慎二はそんな浅葱にキスを繰り返しながらも一度火のついた体を治める事が出来無いまま、一気に最後まで踏み込んだ。
「・・・・・んっ、あふっ・・・・・んぁ・・・・・・」
何度も塞ごうとする口から、堪え切れずに零れる吐息交じりの喘ぐ声、その声に更に冗長される自分を感じながら、慎二はただ腰を深く何度も突き入れる。 ぐちゅぐちゅと中で広がる先走りの液の響く水音も、理性で抵抗しても欲望に流され慎二を受け入れる体も、あの日、抱きついてきた浅葱そのままで、慎二は何度も舌を絡める口づけを送りながら浅葱を抱きしめもうすぐ到達する快楽へと一気に駆け上がった。 更に深く奥を突き上げ、限界まで膨れ上がった欲望が堰を切る様に浅葱の奥へと流れ込む。 唇を噛み締め、声を抑え、びくびくと誘発されたように自身の腹の上に吐き出された白濁。 長く、深い息を吐く浅葱を慎二は体が更にべたつくのも構わずにぎゅっ、と腕を回しきつく抱きしめる。 まだ、熱く火照る体を互いに感じながらも、きつく抱きしめた腕をそのままに慎二は顔を上げると少し潤み熱を持った瞳で自分を見る浅葱へと深いキスをした。 ずくり、とまだ浅葱の中にいる自分が喪いかけた力を取り戻すのを感じながらも慎二は腕を緩めようとはしなかった。
ぱちゃん、と水の落ちる音で微かに身動ぐ浅葱を抱えこんだ慎二はその顔を覗き込む。
「浅葱、気づいた・・・・・気分は?」
長い睫毛を奮わせるとぼんやりと開く瞳を確認した慎二はぽつり、と呟いた。 まだ意識が上手く浮上していないのか、とろんとしていた瞳が次第に大きく見開かれ何度も瞬きを繰り返した浅葱は覗き込む慎二の視線に気づく。
「・・・・・何で、ここ・・・・・・」
慌てて体を動かそうとしてばちゃり、と跳ねる水の音に浅葱はやっと今いる場所と自分の置かれている状況に気づく。
「浅葱、平気?」
「・・・・・慎二・・・・・どうして・・・・・・」
言いかけ、しっかりと抱きかかえられている自分に気づき言葉を喪う浅葱を慎二は抱き直すと首筋へと鼻を擦りつける。 身動ぎ避けようとする浅葱をきつく抱きしめると慎二は息を吐いた。
「ごめん、無理させた?・・・・・意識、喪うからびっくりした。」
「・・・・・放せよ、慎二・・・・・何であんな事したんだよ。」
抱きしめる腕の中から逃れようと頭を振りながら呟く浅葱に慎二は微かに笑みを浮かべる。
「言っただろ、浅葱が忘れられなかったって、俺、言わなかった?」
「・・・・・・だから、俺がいつお前とヤった? 俺には全く覚えが無いんだけど・・・・・」
「めちゃくちゃ酔った日、浅葱から誘ってきたのに・・・・・本当に覚えてないんだ・・・・・」
残念だ、と言葉に込める慎二に浅葱を体をびくり、と揺らした。
「・・・俺が誘ったって、一言も聞いてないんだけど・・・・・」
「そりゃ、言ってないし。次の日覚えてなかったから、な。・・・・・だけど、まじ良かったんだよね。」
思い出すたび勃つくらいに、と耳元で囁いてくる慎二に浅葱はぶるり、と身を震わせる。
「だから、って・・・・・何で、今更・・・・・」
語尾が小さくなる浅葱を湯船の中慎二はもう一度抱きしめなおした。
「どうしよう、俺。・・・・・浅葱に惚れそう。」
抱き込み顔を擦りつけ微かな声で吐き出す慎二の呟きに浅葱は眉間に深く皺を作り溜息を吐いた。
*****
「嫌だ!・・・・・忘れるなんて無理!!」
「・・・・・慎二〜、俺達友達だろ、ずっと俺は慎二と友達でいたいんだよ・・・・・だから・・・」
「だから、忘れろって? 無理だよ、今更友達には戻れない・・・・・浅葱はそれで良いのかよ?」
風呂から上がるとさっさと身支度を整えだし、改まった様に告げる浅葱の言葉にまだ髪も乾かさないまま、バスタオルを腰に巻いただけでベッドへと座りこんだ慎二は頑なに頭を振る。 一度手にした最高の蜜を手放すなんて慎二には考えられなかった。 二度と触れられなくなるなんて考えたくもなくて慎二はただ頭を振る。
「慎二・・・・・友達なら長く付き合えるけど、そっちの相手もコミは違うだろ?・・・・・飽きたら友情も終わるの、俺は嫌だよ。」
「・・・・・体だけが欲しいんじゃねーよ! 友人だって今でも思ってる、だけど・・・今までみたいに浅葱を見れない、なのに無かった事にして、続けろって言うのかよ。その方が俺には拷問だよ。」
「一度や二度の過ち、それでいいじゃんか!」
どんなに言葉を探しても上手い言葉が見つからなくて強硬に意見を覆す気の無い真剣な浅葱を見て慎二は顔を逸らすと溜息を吐いた。 納得なんて出来ないまま慎二は内心重い溜息を吐くとわかった、と呟く。
「・・・・・・忘れてくれる気になった?」
「・・・それは、無理!! だけど、暫く会わない、頭も冷やしてみるわ。・・・・・だから・・・ソレまで、バイバイ浅葱。」
やっと顔を上げた慎二は笑みを浮かべると答える。 困惑した視線を向ける浅葱を慎二は追い立てるように手を振る。
「慎二、俺は・・・」
「だから、言い分は理解したから、次に会う時までには無かった事にしとく。だから、今は帰れよ、早く帰りたいんだろ。」
ベッドから降りると浅葱の腕を引きドアの前へと促した。
「慎二?」
「帰れよ、ほら、じゃあな。」
ドアを開き慎二は浅葱を外へと追い出すとドアを閉める。 ドアに寄り添いずるずると床に座りこんだ慎二は自嘲の笑みを浮かべると独りクスクスと笑いだした。 自分で思っていたよりも、嵌っていたし、このまま浅葱だけを抱けるならそれでもいいかと思いはじめてもいたのに出鼻を挫かれた様で今の慎二には笑うしかできなかった。 頭を切り替えないととか立ち上がって身支度整えてさっさとこの部屋から出ないととか思うのに立ち上がる気力すら湧かないままドアに凭れた慎二は暫くそのままの姿でいた。
「・・・・・・っ慎二!・・・・・待てよ!」
見かけた横顔に足の向きを変えると歩き出した慎二の背後から聞こえる声に彼は渋々立ち止まる。
「・・・・・久しぶり〜、何? 何か用?」
「何で?・・・・・俺の顔見て、出て行こうとしなかった?」
「気のせいだよ、ちょっと用事を思い出しただけだから、また今度来るよ。・・・じゃあな。」
眉を顰め問いかける声に笑みを浮かべた慎二は軽く答えるとそのまま手を上げる。 尚も問い掛け様とする浅葱から何気なく視線を逸らした慎二は目の端に映りこんだ人物へと顔を向ける。
「・・・・・譲?」
「慎二!話、聞けよ・・・・・って、誰?」
近づいてくる足音に背後へと体を向ける浅葱の横から体ごと慎二へと体当たりする様に近づいて来た人に慎二は瞬きを繰り返し目の前に来た顔を見る。
「ねぇ、今日は遊んでくれる?・・・・・ずっと、会いたかったんだよ。」
甘える様に腕を絡め顔を擦りつけながら上目遣いに慎二を見上げてくると譲は甘えた声で話しかけてくる。 手馴れてはいないと思ってはいたけれど、なかなかどうして、人を誘う目にはもう色香が漂っていて、慎二はこくり、と喉を鳴らした。
「・・・・・慎二!!」
浅葱の少し慌てた声音に構わず慎二は譲へと笑みを向けると、その華奢な肩を抱き寄せる。
「用事できたから、やっぱりまた今度。・・・・・じゃあな、浅葱。」
早々に出口へと足を向け歩き出した慎二に譲はますます嬉しそうに体をも擦り付けてくるから、その腰を引き寄せる。 背後に刺さる視線を感じるけれど、そのまま振り返ることもなくお決まりの場所へと足を向けだした。
*****
「お前、本当は結構、慣れてる?」
ベッドへと押し倒し、服を乱しながらもキスの合間に問いかけてくる声に譲は顔を上げると曖昧な笑みを浮かべる。
「慎二さんよりは素人だよ・・・・・」
「・・・・・言うじゃん。」
ぼそり、と呟く微かな呟きに笑みを浮かべた慎二はその口を塞ぐために濃厚なキスを仕掛ける。
「・・・・・はっ、んんっ・・・・・・やっ、あんっ・・・・・イイッ・・・・・・」
ぎしぎしとベッドの軋む音と唾液の絡まった譲の喘ぎ声だけが部屋の中を覆う。 前回よりも更にきつく慎二を締め上げるその中を何度も突き上げながら乱れる譲の顔に重なる人を思い出し、びくり、と震えると慎二は動きを止める。
「・・・・・んっ・・・慎二、さん?」
「あ・・・っと、ごめん・・・・・・」
戸惑う擦れた声に頭を振ると慎二は笑みを返し突き上げを再開する。 朧になる面影に尚も頭を振り、現状の行為に没頭する為に深く奥を突きあげる。 ぐちゅぐちゅ、と突きあげる度に繋がった部分から聞こえる水音も激しく奥を探る慎二に喘ぐ譲の声すらも遠くから聞こえるそんな感覚に襲われながらも慎二は義務の様に最奥へと欲望を吐き出した。 じんわりと広がる精液にびくびくと体を奮わせる譲から自身を引き抜いた慎二はベッドから降りるとそそくさとシャワーを浴びる為に立ち上がった。 冷水を浴び頭を冷やすと、慎二は温めのお湯を体に浴びる。 行為の最中もちらつく顔をまた思い出し慎二は未練がましい自分に唇を噛むと頭を振る。 未だかつてベッドに今いる相手以外を思い出す事なんて無かったのに、どうかしていると尚も頭を振ると慎二は自嘲の笑みを浮かべる。
シャワーを浴びて戻ってきた慎二を待ち侘びていたのか、ベッドから半身を起こした譲は笑みを向けてくる。 その笑みが後ろめたい自分を自覚しているのか妙に眩しくて瞳を微かに細める慎二を気にも止めずに譲は口を開いた。
「ねぇ、次はいつ会えるかな?・・・・・僕、慎二さんとまた会いたいな。」
無邪気な言葉にいつもなら軽く返せるのに言葉に詰まり黙り込む慎二に譲は微かに首を傾げてくる。
「・・・・・慎二さん?」
「ごめん、もう無理かも。・・・・・本当にごめん。」
問いかける譲へと慎二は立ち尽くしたまま深く頭を下げる。 いつもならこんな面倒な事なんてしないのに、「また、いつか」の言葉で別れるのに、今の慎二にはそれが出来そうもなくてただ頭を下げた。 次の言葉を見出せずただ呆然と見上げて来る視線から逃れるように手早く身支度を済ませると慎二はまだベッドの上にぼんやりと座りこんだままの譲に背を向け足早に出て行く。 重い扉が閉まりやっと息を吐いた慎二はもう一度頭を振るとそのまま歩きだした。
かつかつと鳴る自分の靴音を聞きながら当分夜の街に出るのは止めようと内心硬く誓う。
また微妙な所で終わってますが、どうするのかな慎二君?てな感じですね;
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