ぼろぼろと溢れる涙をそのままにとぼとぼと歩く後姿はまるで「失恋」をした子供の様に見えるだろう。それでも拭っても止まらない涙は次から次へと溢れてきて鼻を啜る音にも水気が増してきている。早く家に帰りたくて重い足を動かしやっと辿り着いた部屋の扉を開けた瞬間穣はずるずるとその場に座りこんだ。 別れを切り出したのは確かに自分で、嫌われる事も望んでた。だけど、関わろうとそれでも手を伸ばす翼は穣には予想外の出来事だった。巧く思考が働かない中、自分がきちんと笑えていたのかも自身が無い。ぐちゃぐちゃな頭の中を整理したくても、どこから整理すれば良いのか検討もつかなかった。二度と触れる事も笑顔を見せあう事も無い存在なのだと何度も思い知ったはずなのに、軋む胸の痛みを抑えきれない。暫く玄関に座りこんでいた穣がやっと立ち上がったその時、部屋の窓から差し込む光はすっかり夜の闇へと変わっていた。何もする気が起きないまま、すぐにベッドへとダイブする。ぎしり、と軋む音に穣は掴まれた腕へと空いている手を伸ばすと擦る。まだ熱を持っているその場所を何度も撫でながら、穣は深く重い溜息を零した。 少し乱暴に立て続けに鳴るチャイムの音に穣はいつの間にか眠っていた自分に気づきベッドの上、ごそり、と身を起こす。しつこく鳴らされるそのチャイムが自分の家だと気づきのろのろと身を起こした穣はぼーっとする頭を振りながら玄関へと歩き出す。相手を確かめる、普段なら絶対に忘れないそれをする事なくドアの鍵を開けぎっ、と重い扉を押し開く穣の力より更に乱暴にドアは外側から押し開かれる。立っているその人を見上げた穣は働かない頭に一気に冷水を浴びた様に顔色を変え、玄関から後ずさる。そんな穣に構わずまるで自分の家の様に臆する事なく足を踏み入れたのは数時間前別れたはずの翼だった。
「・・・・・話す事はないって・・・・・」
「俺にはある。 質問にも答えてないだろ?」
震えそうな足に必死に力をこめ立っている穣の擦れた声に翼はその言葉を否定する勢いできっぱりと告げる。居心地の悪い空気が玄関を覆い息苦しくなるのを確かに穣は感じていた。
「入れてくれる気は無いわけ?」
部屋の入り口の前、立ち尽くす穣が一歩も動こうとしないのを見て翼は眉を微かに顰めて呟く。
「・・・・・話は、ここで聞きます。 入れる理由も無いし・・・・・」
ぎゅっと拳を握り締め、震えそうな声を必死に抑え告げる穣に翼は口元を歪める。別れた後、翼が頻繁に浮かべる嘲笑だ。それでも穣は今にも崩れ落ちそうな体を必死に堪え、拳を握り締め爪先に力をこめる。
「・・・・・本命が出来ると態度も変わるんだ。 わざわざ訪れた人をこのままここに止めるわけ?」
「俺には話す事は無いし、斉藤が勝手に来たんだ。 ここに居るのが嫌ならすぐに帰れば良いだろ。」
だから部屋に入れる理由は無い、と告げる穣に翼は玄関の扉を閉じるとそのまま扉に寄りかかる。
「じゃあ、良いよ、ここで。 で、本命が出来たって噂は広まってるけど、本当? この間の今日で候補の相手でもいたわけ?」 「斉藤には関係ない。俺とあんたは別に友人でも何でもない。話す理由も無い。」
「・・・・・別れた男のその後が気になるただの興味だけど、迷惑かけたんだから、それぐらい聞く権利は有ると思うんだけど。」
微かに溜息を零すと胡乱な眼差しを向けてくる穣に翼は顔を向ける。嘘か本当か真実を見抜こうと真っ直ぐに見つめる視線を感じて穣はそっと息を吐くと向けられた目を逸らさず見つめる。
「付き合う相手が出来ました。 これで斉藤には二度と関わらないと誓えるし、余計なねたを振られる事も無いだろ? 話がそれなら答えは是で噂は本当。・・・・・分かったら帰ってくれる?」
「・・・・・本当に本命が出来たんだ・・・・・」
「そうだよ。だから帰れよ、もう二度とここに来ないでくれ!」
深く息を吸い込むと一気に告げる穣に翼は探る様に真っ直ぐに向けてくる視線を逸らさないまま呟くから大きく頷いて口を開く。関係は無い、とっくに縁は切れている。それなのに、動こうとしない翼に穣は玄関の扉へと手を伸ばす。
「用ナシはさっさと追い出すんだ・・・・・付き合う気はないって、あれほど言ってたのに・・・・・」
「探せと言ったのは君だろ? おかげで今の人に会えたからとりあえず礼は言っておく、ありがとう。だから、もう帰って下さい!」 伸ばした腕を掴み問いかける翼の声に穣は口元を微かに緩め呟く。笑顔を向ける穣に戸惑った翼の隙をついてすぐに捕まれた腕を離すと寄りかかる翼を押しのけ扉を押し開いた。
「二度と来ないで下さい。 斉藤と俺は二度と関わらない、それが望みだろ?」
「・・・・・成橋、俺は・・・・・」
「さようなら」
早く出て行けとその体を押しながら告げる穣に翼は何かを言いかけてすぐに口を噤む。だけどその場から一向に動こうとしない翼の前、穣はすぐに触れた手を離すと、一歩後ずさり別れの言葉と共に深く頭を下げた。
*****
沈黙が続く中、開けた扉の向こうから夜の風が入り込み肌を撫でる。なのに、頭を下げたままの穣は息苦しさに眉を顰める。一分、一秒がやけに長く感じる程沈黙が重い。
「・・・・・好きだったんだ。」
ぽつり、と重い沈黙を破り告げる翼に穣は思わず顔を上げる。玄関に立ち尽くした翼はいつのまにかじっと足元を見つめているのか瞳を伏せていた。意外と長い睫毛が瞼が動く度にぱさぱさと揺れるのを穣はじっと見つめる。
「初めて成橋を見た時から、多分一目惚れだった。 付き合ってる間も夢を見てるみたいだった。だけど、夢はすぐに壊れて、俺は歴代の成橋の恋人達の様にきっちり半年で振られて、いつものパターンならすぐに成橋には次の相手が出来るはずだった。」
なのに、と微かに息を吐いた翼は一端言葉を止める。
「新しい相手はいつまでたっても現れないし、振られたのは俺なのに逆だって噂は広まるし、捨てられたのは俺なのに成橋は俺を見る度に怯えた態度を取るし、訳が分からなかった・・・・・だから、強引に成橋に触れたし、酷い態度もとった。それで態度が変わるなら、本当に俺は別れた過去の相手だって納得できたから。」
吐き出す様に呟く翼の声に穣は汗ばむ手を思わず握り締める。からからに渇く喉を潤したくて穣はこくり、と喉を鳴らす。
「俺の一挙一動を探る様に見る成橋が分からなかった・・・・・付き合う相手が出来たんなら一つだけ聞いて良いかな?」
「・・・・・何?」
自分で思うよりも擦れた声をやっと絞り出した穣に翼は顔を上げる。さっきまで見せていた嘲る様な冷たい視線じゃなかった。何度も見た覚えのある翼本来の優しい眼差しに穣は更に拳を握り締める。
「俺は、少しでも成橋に好きでいてもらえたかな? 少しは好きになってくれてたかな? 予定通りのお付き合いの相手はやっぱりそれだけの相手なのかな?」
首を傾げ、問いかけというよりもただ独り言の様に告げる翼に穣は一瞬戸惑う。別れは穣の身勝手な結論から導いた答えだった。それはもちろん穣だけの事情で何一つ翼の事は考えなかった。だからとことん嫌われても、異論は無かった。ほんの少しでも繋がっていたかったのも穣だけ、その縁を切るのが怖いと思ったのも穣だけ。嫌われるのも拒まれるのもしょうがない。だけど、身勝手な自分の結論だけを表に出したその先を穣は何一つ考えなかった。嫌われるだろう、拒まれるだろう、それだけしか頭に無かった。もちろんその通りになったのだと思っていたのだけど、穣は何も言えずにただ頭を下げた。今の自分にはそれしか出来なかった。何を言っても空々しく感じるだろう。それは全部今更だから。
「・・・・・成橋?」
「ごめん! 俺を恨んでも憎んでも構わないから、本当にごめん!」
いきなり頭を下げる穣に戸惑う翼の声が振ってくる。だから、謝罪の言葉を口にした。それもきっと今更だとわかっていたけれど何か言わずにはいられなかった。
「俺は謝ってほしいわけじゃない、ただあの時の答えを知りたいだけなんだよ! それは、俺の事は少しも好きじゃなかった、そうとって良い謝罪?」
擦れた翼の問いかけを否定したくなる自分を必死に堪え、穣は下げた頭を上げる事なく叫びを聞く。それは塞がらない傷を少しでも治したいそんな叫びに聞こえる。
「・・・・・ごめん!」
馬鹿の一つ覚えの様に同じ言葉をまた呟く。最後まで自分の事しか考えない最悪の男は記憶にも残らなくて良いと思う。今更何を言えというのだろう。今更だから、遅すぎた真実は虚言にしかならない。好きで好きで、好きすぎて自分がダメになるから別れたのだと今更言えない。顔を上げようともしない穣の耳に微かな唸り声が聞こえる。びくり、と肩を震わす穣の前翼はいきなり笑い出した。 「・・・・・どこまでも人をバカにする人だね・・・・・最悪。 あんたみたいなヤツをどうして、俺は・・・・・」
呟く低い声、比例してその瞳の色がどんどん暗くなっている気がして穣は声をかける事なく後ずさる。だけどその反応はすでに遅すぎて、手を掴まれ、物凄い力で床へと押し倒される。がんっ、と大きな音を立て床にぶつかる背に走る痛みに顔を顰める穣の上にすぐに翼は圧し掛かってくる。
「・・・・・やっ、め・・・・・斉藤? 何を・・・・・」
圧し掛かられた状態での抵抗なんてほとんど無意味に近い。それでも穣は首を振り逃げ出そうともがき暴れながら、戸惑う声で呟いた。そんな穣の上、翼は口元を歪めると顔を近づけてきた。
「知ってる? 人って拒まれるほど燃えるって・・・・・」
耳元へと低い声で呟くその声に穣はぶるり、と身を震わせる。諦めきれずに再びもがきだす穣の腹へと一端は浮かしかけた体重を一気にかけてくるその衝撃に呻く穣から翼は一端離れると開けたままの扉を閉める。やけに大きな音が耳に響き、痛む腹を抑え呻きながら、背筋を滑る冷たい汗を感じていた。
「ほら、ちゃんと奥まで銜えろよ! 痛いのはお前の方だろ?」
髪の毛を引っ張り顔を押し付けながら上から冷たい声が降ってくる。唾液と汗や涙その他諸々で汚れた穣が従う様に銜えているのは翼のモノだ。喉の奥から迫上がってくる吐き気、銜えきれない端から零れる唾液、呼吸すらも苦しいほど奥に押し付けられ、無意識に逃れようとする穣の頭を掴んだ翼の残酷な声がただ部屋に響く。 衣服は当に剥ぎ取られ、ぼろきれを辛うじて纏っている穣と違い、翼は下半身を少しだけ寛げ穣が銜えているそれだけを外気に晒しているだけで、後は何処も乱れていない。
「んんっ、っん!」
溢れ出す先走りだけでも、飲み込みきれずに呻いていた穣は髪を捕まれいきなり毟るように翼から離される。すぐに翼のモノの先端から溢れ出した白い液が顔にかけられ、ぽたぽた、と顎を伝い床へと滴る生臭い液を穣は拭おうと顔に手を伸ばす。
「良い、格好だな?」
低い呟きと同時に目の前で光るフラッシュに穣は呆然と視界に入る物を見つめる。唇の端を歪め冷たい視線のまま笑みを浮かべる翼の手には携帯がいつのまにか握られていた。カメラに形として残された自分の痴態に気づき慌てて顔を拭為に伸ばした手は粘つきべとべととするそれを巧く拭えなくて拭ける物を探す為に視線を彷徨わす。
「・・・・・何、終わらせようとしてんの? まだ、これから、だろ?」
引き裂かれたシャツの切れ端を手に取ろうと後ろを向いた穣はびくり、と肩を揺らす。冷たい声と同時に足を捕まれ、すぐに床へと引きづる様に押し倒す翼に穣はそろそろ、と後ろへと顔を向けた。
「・・・・・何を・・・・・」
「こんなので終わるわけないだろ? 折角銜えてくれたこれ、が無駄になるだろ?」
擦れた穣の問いかけに、翼は銜えていたせいでてらてら、と蛍光灯の灯りに反射する自分のモノを穣へと見せつける様に手で持ち上げる。そこは一度は欲望を吐き出したはずなのに、もう半分ほど勃ちあがっていて、先端には白い液が零れ落ちそうについている。視線をできるだけ逸らしながら穣は床についていた手を握り締めると、渇いた喉をこくり、と鳴らした。
*****
這い蹲り少しでも逃げようとした穣の抵抗は難なく背後から翼に抑えこまれる。ほとんど準備をしていない場所にどぼどぼと冷たい液をかけられすぐに奥を穿たれ容赦なく抜き刺しを繰り返された。ぐちゅぐちゅ、と滑った水音が部屋中に響き渡り、液のせいなのか粘着音はどんどん大きくなっていく。
「・・・・・んっ・・・・・やっ・・・・・」
零した呻き声を必死に堪える穣は唇を噛み締め、がんがんと容赦なく突き刺す熱い杭からそれでも逃れようともがいた。じたばたと空いている足を動かそうとする諦めの悪い穣の抵抗はすぐに両足をも抑えつけられ徒労に終わる。
「無駄だよ、分からない? 下手に逃げると痛いだけだろ?」
「・・・・・っん、はなっ・・・・・し、て・・・・・」
頭を振り、翼の呆れた声に擦れた呟きを零した穣は大きく肩を揺らした。ぎゅっと掴まれたソレが何なのか、理解するより前に体が震える。翼が握りこんだのは萎んだままの穣自身だった。
「・・・・・これも良くしてあげる?」
問いかけながらもすでに手を動かす翼に穣はただ頭を弱く振る。握りこまれた自身の先を親指で擦りながらも快感を引き出すために扱きだしている翼に穣は唇を更に噛み締める。何度も擦られ奥を突かれる度に濡れた音が更に大きくなり、自身も翼の手の中ゆっくり、と形を取り始めた。最早穣自身の意思に関係なく体は翼の思い通りの姿へと変わっていく。体の中で弾け溢れる奔流に翼の手の中の穣自身も形をすっかり変え、今にも零れ落ちそうな熱の奔流は穣の意思では止める事ができなかった。 頭の奥が白くなり目の前すらも白くなっていく。意識を失う寸前、翼の手の中、自身の先から溢れ出した白い奔流が微かに視界に入った。
続きます 何と言うか収まりがつかなくなっている気が・・・・・; ちなみに次回もちょっと痛いかも、な予定であります。 20090802
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