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新しい恋人が出来れば縁は切れる、そう思っていたしそうなる予定だった。怒って、傷ついて、どう転んでも『酷い男』のレッテルが貼り付けられた穣は翼の記憶の端にも残らないはずだった。どこで間違えたのかなんて、検討もつかなかった。
使われていない教室の中。下半身を露にされた穣は両足を大きく広げ、熱く堅い肉を体に受け入れている。
遠くで聞こえる人の声、喧騒と遠く離れた別世界を作り出している穣と翼の今いる部屋の中には篭ったねっとりと肌に刺す空気と、それに付随するかの様な粘着質な音が響いてる。
「・・・・・っく・・・・・」
唇を噛み締めても堪えきれない呻きを零す穣の背後にいる翼は容赦なく腰を打ちつけてくる。だらだら、と床に落ちる穣自身から零れ落ちる白い液が床に小さな水溜りを作っていく。それは穣自身からのものだけでは無い。飲み込みきれない背後を穿つ杭から外部へと溢れ出た熱も混じっているのかもしれない。
「・・・・・そろそろ、イきそうなんだけど・・・・・中に、出すから。」
「・・・・・・やっ・・・・・・・・・」
「成橋の答えは、期待、してないからっ・・・・・」
耳元で呟く低く擦れた声にふるふると緩く首を振り微かに噛み締めた唇の隙間から零す声はすぐに消される。穣の意思は必要ないと言い切る翼は更に激しく腰を打ちつけてくる。ぐちゅぐちゅ、と更に大きく響く音が一瞬止み、中で蠢く熱い奔流を感じた穣は拳を握り締め体をびくびくと震わせる。

人生に選択があるのなら、あの日。穣の人生は最悪な方向へと転がったのだと思う。ぎしぎしと痛む体でやっと意識を取り戻した先にはシャワーヘッドを片手に立つ翼の姿だった。ぽたぽた、と雫が滴り落ちる自分の姿に気づき、やっと全身濡れている事に気づいた穣は意識を強制的に戻されたのだと知った。
「まだ、これからなのに、意識失うなんてありえないだろ?」
目を開いた穣に気づいたのか、手に持つシャワーヘッドを湯の中に放り込むと未だに座りこんだままの穣へと身を寄せ告げると翼は唇を微かに歪ませる。冷たく突き刺す視線は健在で、すぐに立ちあがろうとする穣の腕を掴んだ翼はそのまま体を反転させると何の言葉もなくいきなり欲望を押し付けてきた。
「・・・・・やっ、やめ・・・・・」
「うるせぇよ! 痛いなら、なお結構! 俺の痛みはこんなもんじゃねぇんだよ!」
ぐちゅり、と入り込んだ異物が奥で蠢き卑猥な水音が聞こえる。壁に押し付けられた穣はがんがんと何の遠慮もなく突き上げるソレに低く呻き唇を噛み締める。膝が床に擦れて赤くなり擦り剥けたのに気づいたのはずっと後になってから。お風呂場から引きづる様にベッドへと投げ出され、背後から欲望を突きつけられた穣は涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を更に唾液で汚し、体中べとべとな姿で次の日一人きり、ベッドの上で目覚めた。何の後始末もされていない自分の体を抱きしめ蹲るように泣き出した穣はそれが始まりだとその後思い知る。
卑猥な画像が添付された脅迫ともとれるメールは呼び出しのメール。あの日から三週間も経つのに、体を好き勝手に弄ばれる日々は続いていた。それは日々エスカレートしていた。


*****


「・・・・・もう、止めよう・・・・・」
呼び出しを受けた部屋に入ったと同時に告げる穣に翼は一度ちらり、と視線を向けるけれどすぐに手元で操作している携帯へと視線を戻す。何度目の呼び出しなのか数えるのも当に止めた。でも、こんなのは違う、何度もそうなる度に口に出したかった事を必死に告げる穣の前、翼は相変わらず纏う空気もぴりぴりとして怖い。
「・・・・・あの、斉藤?」
「聞こえてるよ! だけど、止める時は俺が決める、成橋の意思なんて関係ない・・・・・・脱げよ!」
ぎろり、と睨むと告げる冷たい声に穣はびくり、と肩を揺らし立ち尽くす。窓の桟に座ったまま動こうとしない翼はもう一度「脱げ!」と低い声で告げてくる。唇を噛み締めたまま穣は翼から目を逸らし俯くと、震える自分の手をシャツに伸ばす。
「上は良いよ、そのままで・・・・・下だけ脱いでよ・・・・・」
大きくも小さくも無い、けれど冷たく尖るその声に穣はシャツにかけた手をそのままズボンへと伸ばす。かちゃかちゃ、と手が震えるせいか巧くベルトを外せずもたつく穣に翼は窓の桟から立ち上がるとすたすた、と近づいてくる。
「・・・・・やっ、何を・・・・・」
「外せないみたいだから、俺が外してやるよ! そんなに俺が怖い?」
穣の手を払いのけ、ベルトを外し、ズボンの前をいとも簡単に外しながら告げる翼の声にただ唇を噛み締める。何も返さない穣のズボンをそのまま一気にずり落とす翼はそのまま跪き下着へと顔を寄せる。
外気に触れる肌に生温い息がかかり、穣は無意識に後ろへと下がろうとするけれどそれは翼に阻まれる。いつの間に手を掴まれていたのかも分からない。一歩も動く事が出来ずに固まる穣の下半身へと寄せた顔を更に近づけた翼はそのまま下着の上へと手を伸ばしてきた。

今にも崩れ落ちそうな体を必死に空いている手を伸ばし目の前にある机へと伸ばした穣は唇を噛み締め両足を踏ん張る様に地につける。耳に響くぴちゃぴちゃ、と聞こえる水音、口を開き拒みたくてもきっと出るのは喘ぎで言葉にもならない事は分かっている。下着の脇から取り出した穣のモノを舌先でただ舐めて突いている、それだけなのに、下着越しにぎゅっと握られたソレは十分に育ち漲っている。先から出てくるいく事はできないけれど耐え切れなかった先走りをただ緩慢に舐められ突かれているそれだけで篭った熱が体中を駆け巡り汗が吹き出してくる。
「まだ、我慢するの?」
舌先だけで刺激を与える合間にお伺いを立てる様僅かに顔を上げ問いかけてくる声に穣はただ唇を更に強く噛み締めた。手を放されてもその感覚すら危ういほど頭の奥がぼやける。それでも唇をきつく噛み締める穣に翼は微かな溜息を吐く。吐き出した息がかかるだけで敏感な体はびくびくと震える、机にしがみつく指が白くなる程力を籠めているのをちらり、と視界に入れた翼は顔を近づけてくる。
「ねぇいい加減諦めない? 気を失われたら俺が面白くないんだけど・・・・・」
我慢も限界に近い穣の顔色を伺いながら問いかけてくる翼から少しでも身を放そうとする穣はいきなりがくり、と膝を折る。びくびくと震える穣の両足の間に見える下着は濡れていた。ぎゅっと締め付けていた手を翼が穣の顔色を気にして緩めたおかげで我慢の限界を越えた体はいきなり解放された。

「・・・・・っふ、くっ・・・・・んっ・・・・・」
長引く快感に震える体が止まず噛み締めた唇の隙間から呻き声を漏らす穣の前、翼は濡れた下着から手を放した。
「あーあ、イっちゃった・・・・・一人だけイくのって有り得なくない? しかも乗り気じゃなかったのに・・・・・」
呆れた声で呟く翼の声にも穣は俯いた顔を上げようともしないから、そっと息を吐いた翼は顔を覗きこむ様に屈む。
「一人だけは酷くない? 俺にも良い思いさせてくれるんだよね?」
告げる言葉は軽いのに、ぴりぴり、と肌を刺す冷たい空気は未だに消えない。咄嗟に逃げようとした穣はまともに動けないせいもありすぐに腕を捕られ床へと背中から倒される。
「止めたいなら、最後まで抵抗できる様になってから言えよ! 好きでもない男でも体はしっかり感じてるじゃん!」
唇を歪め笑みを向け淡々と語る翼から顔を背けた穣は唇を噛み締めたまま口も開かない。諦めているのかすぐに抵抗も止めた穣の上に体重をかけた翼はそのまま顔を近づける。
「少しは反論すれば? 言わなきゃ本当に俺の好き勝手にするよ?」
「・・・・・言っ、えば・・・・・止めて、くれる?」
体重をかけられているせいで巧く言葉にならない擦れた声で呟く穣に翼は微かに目を細めると更に笑みを深くする。
「さぁ?」
肯定とも否定ともとれない曖昧な呟きと同時に更に顔を近づけてきた翼は唇へと舌を伸ばしてくる。びくり、と奮え避けようとした穣の行動は遅くてすぐに深く唇を貪られる。息さえ奪う程の深い口吻は舌をも絡めとる。息も唾液すらも啜り取られながら、穣は深く瞳を閉じる。その目に溢れた涙は耳を伝い床へと零れ落ちた。


*****


「・・・・・っふ、んっ・・・・・」
机にしがみつき、声を堪える穣の背後から翼は容赦なく奥を何度も抉る。ぐちゅぐちゅ、と卑猥な水音と何度も肌が擦れる異様な音、そしてしがみつく机ががたがたと揺れる音と互いの息遣いだけが部屋の中に響く。
「嫌だ、嫌だというわりには、感じてる、よね?」
背後から圧し掛かり、耳元へと息を吹き込みながら告げる低い声に穣は机を掴む手に更に力をいれる。せき止められ、今にもはちきれそうな自分自身を直後に強く握られ、穣は奥をぎゅっと締め付ける。そのせいか、耳元で微かに呻く翼のモノがぎちぎちと入り込んだナカで更に肥大するから穣はびくびくと体を震わせる。
「やっ、もう・・・・・やめっ・・・・・」
「・・・・・くっ、今更・・・・・止められるかよ!」
頭を振り微かな声を絞り出す穣の上、呻きながらも更に奥を突くスピードを早めだした翼が告げる。がんがんと更に深く突き上げ、奥を抉る翼に穣は机にしがみつく体を何度も震わせる。トロトロと翼に握りこまれた自身から溢れ出す液は途切れる事なく、深く奥を抉られ、熱い欲望の証を流し込まれ震える体をいきなりきつく背後から抱きしめられた穣はずるずると力なく翼の腕の中へと崩れ落ちていた。
「後始末はよろしく」
床へと無造作に転がされた穣に翼は淡々と冷たい言葉を吐き捨てると何事も無かった様に部屋を出ていく。足音がやけに響いた床から顔を上げた穣は重い体をやっとの思いで引き起こした。途端に下肢から流れ出るモノについ零しそうになった唇を噛み締めた穣は床へとついた手をただ握り締めた。身支度を整え、何一つ痕跡の残らない部屋を見渡した穣はそのままずるずると床へと蹲る。下着の中、まだ零れるモノを感じる。表面上拭っただけでさすがに学校のトイレでは深く奥を探ってまで掻きだせない。解放される前におかしくなりそうな自分に気づいて穣はただ唇を噛み締めた。

メールが来るのに怯えながら、「止めよう」と何度も告げるその度に体をより乱暴に弄ばれ、常に倦怠感が付き纏う体を持て余しながら、穣は日常を送る。表面上何一つ、顔に出さないから怪しまれる事すら無いのに、虚しい自分に溜息しか消えない。いつか飽きる、それまで弄ばれるなんて穣には耐えられなかった。
いつもの様に重い体を引きづる様に歩いていた穣は人気の無い廊下なのに気づき、つい壁へと寄りかかる。そして窓にこつん、と頭をつけた時視界に入った光景に思わず窓から離れる。そっと壁越しに覗いた窓の向こうに翼がいた。
自分の前では嫌味な笑いしか向けない翼が幸せそうに笑う姿に思わず見入って、彼女の存在に気づいた。笑みを向ける相手、幸せそうなカップルの雰囲気が穣のいる場所まで伝わるその空気に穣は思わず手を握り締める。胸の中を渦巻く薄暗い感情を押し殺し、人の気配がした廊下を穣は歪んだかもしれない表情を押し殺し歩き出す。新しい恋人ができれば切れる縁のはずだった。幸せな二人を壊す事も、自ら手を放した穣が今更嫉妬する理由もどこにも無い。虚しい自分を押し殺し歩きながら穣は決意を籠めた目で前を見据える。愚かな茶番を潔く終わらせるために、自分が出来る事を頭に思い浮かべながら。
その日届いたメールを穣は初めて無視した。
一人家へと向かう道を歩きながら穣は空を見上げる。夕暮れが迫る空は何故か霞んで見えた。


うーん、暗い;
何かお題の総合タイトルとかなり離れています。確か『恋人達の夜に5題』じゃなかったか?
「幸せ」を目指して頑張ります! 20090809

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