「やっぱり、帰るんだよな。・・・たまに、遊びに来いよな。歓迎するぜ。」 悪霊騒ぎから3日後。 聖が名残惜しそうにぽつり、と呟く。 あの後。 事後処理に弘の『記憶操作』の能力が大活躍でダークの事は人々の記憶から消し去った。 弘の件は奇跡の帰還!と話題になりもしたのだがこちらも記憶操作で簡単に記憶を植え替え解決した。 「ありがとう。君たちにはお世話になりました。感謝してます。」 「・・・こちらこそです。ありがとうございました。」 聖の後からおずおずと礼を言う弘に尚人は逆に頭を下げる。 弘の能力が無ければ事後処理は時間がかかったのだから。 弘はあの後、母親に聖との件をあらいざらい話何となくだけど認めさせ、仕事を探すからと聖の家に転がりこんでいる。 母親は渋々認めたそうだけどそこに弘の脅迫もどきがあった事は聖から聞いた。 「お二人とも、お元気で。是非良かったら家にも来てください。」 「是非行かせてもらうよ!SSクラスの人の住む家なんて滅多にお目にかかれないし、な?」 航の言葉に聖がにっこりと微笑み返し弘へと同意を求めてくる。 答えずに溜息を漏らす弘に尚人と航は笑い出した。 「今度は是非平和な時に。さようなら。」 航が最後の言葉を言うと二人はD地区を後にした。 「なぁ、ダークどうなったんだ?」 二人きりになりぽつり、と問いかける航に尚人は前を向いていたが航へと顔を向ける。 「あの後、ハンター仲間に『カイ』を探してもらったんだ。」 「当然・・・死んでる、よな?」 「生きてた」 「ふーん・・・って凄いじいさん?」 「普通ならね。ハンター業はかなり前に辞めて連絡係に徹してた。彼やダークの場合は一定の年を取ると後は人の何十倍もの時間をかけて年を取るんだって。・・・ウィルスに感染しない限り生き続ける長寿の生命なんだよ。」 「・・・どこに?」 「これから会いに行く人を見れば分かるかもね。」 意味深な笑みを向ける尚人に航は首をひねっていた。 ******************** 「ブロンドさん、いる?・・・尚人だけど。」 『尚人?・・・今、開けるよ。』 呼び鈴を押し問いかける尚人に答える声の後、数分後、中から20代の男が出てきた。 長い髪を首の後で緩く束ねた男は「どうぞ」と二人を中へと通す。 応接間に通され、ソファーに座り待っていると先程の男がお茶を持ってくる。 「結果報告からしてくれる?」 「うん。・・・全て解決したよ。でね、犯人がダークという少年でね、彼は」 「ダーク?・・・13,4歳位の少年かい?」 「そう。彼の頼みでオレが殺した。それで、ブロンドさんに伝言。」 「オレに?」 「『ありがとう、そしてさようなら、カイ』報告終わり。帰るよ。」 淡々と話し立ち上がる尚人に男は顔を上げる。 「尚人。オレの名前は何故知った?・・・言ってなかったよな?」 「・・・仲間にも確認はしたけど、ダークに記憶に感応した。それで・・・」 「ハンター辞めたのはオレなりの謝罪だった。オレには・・・あの子は殺せなかった・・・」 「・・・ダークに会いたい?」 「え?・・・でも、ダークは・・・」 「D地区の人にお金貰わないとやっぱりまずいし、ね。」 にっこり、微笑み言う尚人に二人はさっぱりわからなかった。 「ただいまーーっと。」 「お前!!!なぜ、わたしを生かしたのだ?」 尚人の声にドタドタと足音の後、甲高い声で少年は抗議してくる。 そして、後の二人に気づき大きな瞳をますます大きく開く。 「浄化の光?・・・あれが。」 居間へと場所を移し3人は尚人からダークが生きてる理由を聞き出していた。 「そう。あれで浄化されないなら、そう悪い生き物じゃないんじゃないの。だから、こっちに転移させたんだよね。」 悪霊が死ぬ時に十字切る?と尚人はぼやく。 「・・・神父に救われたのか?」 ぽつり、と呟くダークに神父?と航が問いかけるのにダークはこくりと頷くと言う。 「わたしは12歳になるまで神父に育てられたんだ。」 「・・・そんな例あったか、尚人」 「さぁ、あのさ、神父に貰ったものとかある?」 問いかけにこくりと頷くと首から提げていた袋を服の中からダークは取り出す。 そこにあった、入っていたものは三人の瞳を驚愕させた。 「最高神父のみが持つことを許される・・・『祭祀の十字架』・・・」 カイがぽつり、と呟く。 尚人と航はただ呆然としていた。 「これが・・・ダークの命を救ったのか。」 カイの呟きが理解できないのかダークは不思議そうに首を捻る。 「十字を切ったからこの十字架が反応したんだ。浄化の光はこれが吸収したんだ。・・・いつも、身につけてたから人への戻りも早かったんだ・・・」 「これが?・・・やっぱり、あの人が・・・」 ダークは十字架を胸に抱きしめると俯き肩を震わせた。 誰が見ても分かる・・・泣いているのだと。 ******************** 「・・・聞いていいか?何で神父に育てられたのかを。」 長い沈黙の後問いかける航にダークは頷くとゆっくり、と顔を上げる。 「神父様・・・セシア言うには、ボクはセシアが止めなかったらハンターに殺されてた。だから、本当言うと両親どころか仲間の顔も知らないんだ。」 ダークは微かな吐息を漏らす。 それは静かな部屋の中、大きく響いた。 「ボクがボクを知ったのはセシアが街まで出かけてた日だった。」 留守の間に教会の掃除をしとく様に言われたあの日。 「すいません。神父様はいらっしゃいますか?」 話しかけてきたのは村の人じゃなかった。 何も知らないダークは律儀に問いかけに答えた。 「神父なら留守だよ。用があるなら聞いとくけど?」 穢れを知らないかの様な純白のドレスの女性は少年を見て凍りついた。 目の前に来た少年は魔族特有の金の瞳を持っていたからだ。 彼女は魔族は恐ろしい生き物で『人を喰う』と聞かされ育った。 少年だろうが魔族には違いなく彼女はできる限りの虚勢を張り叫んでいた。 「来ないで!神聖なる教会にお前の様な化物が居るなどとは・・・出て行きなさい!!ここはお前の居る所ではありませんわ!!!」 何を言われてるのか理解できないダークに構わず彼女は護身用のナイフを投げつけてきた。 外で待機していたのだろうお付きが駆けて来て同じような罵声をダークは浴びる。 付き人たちは彼女の前に立つと剣を振りかざし叫ぶ。 「神聖なる教会に化け物の居る場所は無い!」 「教会に入り込むなど卑しい化物め。穢れが移る!」 ダークはやっと理解した。 彼らにとって自分が『化物』と呼ばれる生き物なのだと。 何度も剣で切り付けられダークは全身を研ぎ澄まされた獣のように身を固め投げつけられたナイフへと手を伸ばす。 全身が血だらけのダークは彼らを真っ直ぐ見据える。 金の瞳は涙でぐっしょりと濡れていたけれど、それでも瞳の光だけは失ってはいなかった。 「ここをどこだと思っていますか?ここは教会です。神聖なる神の住まう場所で刃物を投げつけるとは不届き物!出て行きなさい!」 凛とした声が裏口から響いた。 ダークはナイフを落とし声の方へと振り向いた。 カ−−ン、と金属音が教会の中に響く。 神父の姿を認め抗議したのはあのお付きの後に隠れた女性だった。 「私たちは魔物を追い出そうとしただけですわ!」 「その子に刃物を持たせた事も使わせた事もありません。普通に暮らしていた魔族たちを魔族だからと残虐に殺してきたのはあなた達の様な方でした。魔族だからとそれだけで幼き子をも殺す人と手を出さなければ何もしない魔族。どちらがより非道でしょうか?」 神父の問いかけに彼らは何も答えず逃げる様に去って行った。 彼らを見送り溜息を漏らすと神父はまだショックが隠しきれずに呆然としたままのダークへとゆっくり、と近づいていく。 「お前の両親を私は知らない。けれど、私たちが出会えたのは彼らの庇護のおかげだと思う。魔族であること恥じる事では無いと私は思うよ。・・・わかるか?」 こくり、と頷くダークを神父は優しく抱き上げる。 「・・・それにしても、無事では、ないな。・・・風呂に入った後消毒しような。」 「うん。」 ダークは神父へと抱きついた。 いつでもどんな時でも守られていた幸せな日々が崩れていったのはその後だった。 |