「村の人には?」 「セシアが見てる子だからってボクは普通に扱われてたよ。聖書・天文・理学・地学・数学・文学・歴史・道徳色々な事セシアは教えてくれた。・・・それが、12歳の時・・・」 黙り込むダークにブロンドが思い立ったように問いかける。 「・・・戦争・・・か?」 こくり、と頷きダークは再び話し出した。 「悲惨、だったよ。あの惨劇で大多数の人が変わってしまった。家族で村を離れる人も後を絶たなかったし、孤児だって増えた。」 「セシアと離れたのは?」 孤児たちの為に施設を作り、村に残った人々の為に食料を調達したりとセシアは走り回る。 今までダークに好意的だった人達はあの日を境に変わる。 寝る場所も住む場所も人は失ったのに魔族のお前は何の努力もしないで寝る場所も住む場所も与えられてるとダークを糾弾し始めた。 皆苛立っていた。 戦争と言う悲劇で人が変わってしまった。 「セシアは必死にボクを守った。軋轢を消そうとした。でも、一度不審を抱いたらずるずると尾を引いて・・・セシアはボクを連れて村を出たんだ。」 長い旅の末セシアの師匠の下へと身を寄せたけれど積もり積もった疲労でセシアは倒れてしまった。 「この十字架はセシアが亡くなる時に『神のご加護があります様に』ってセシアがくれたんだ。セシアの師匠はここにいて良いって言ったけど・・・教会を出たんだ。そして・・・。」 「オレと出会ったか。」 ブロンドの言葉にダークはこくりと頷く。 「十字架・・・良く持ってたね。」 「セシアの形見だ。誰にも渡さない。」 尚人は十字架を袋に戻すと首にかけてあげる。 「ありがとう」 にっこり、微笑むダークは大切に袋を服の内側へとしまう。 −−−−−−−−いつも見守っているよ。−−−−−−−−−−− 優しいバリトンが聞こえる。 ダークはゆっくりと胸元を抑えると瞳を閉じた。 ******************** 「尚人!・・・ダークはオレが引き取りたい。かまわないか?」 「良いですよ。・・・でも、外にはあまり出さないで下さい。」 ゆっくり、とブロンドは頷く。 その仕草を見て尚人は思い出す。 何故ダークがブロンドを信じたのか、彼は教えてくれたから。 「カイはセシアに似てるんだ。笑い方とかふとした時の仕草が・・・でも、気づいたのはずっと後になってからだけど。」 優しい神父セシアか。 ダークをどれだけ大切に育てたのかダークと話してみれば何となく分かる。 きっと義務だけじゃない、家族として真剣に愛情を注いだまさしく『親子』だったのだろう。 カイ=ブロンドは眠るダークを抱き上げると家へと帰宅した。 ******************** いつか母に手紙を書こう。 航との楽しい生活、ちょっと危険だけど自分をいかせる仕事の事。 そして、周りにできた仲間の事。 母はどんな顔をしてくれるだろうか? そして、父はやっぱりボクを嫌うだろうか? それでも、彼が好きな事も書いておこう。 自分の事も・・・ここに来て航と会えて幸せだと・・・書こう。 ボクはちゃんと生きてるし、元気だと。 「尚人〜?どうした・・・考え込んで。」 「え?・・・何か母に手紙書きたいな〜って、ダークに影響されたのかな?」 「書けば。俺の事も書いとけよ。」 言いながら頬に軽くキスしてくる航に尚人は笑い出す。 キスがちゃんと欲しくて航へと体を向けると尚人は瞳を閉じる。 優しい温もりが唇へと触れて尚人は航へと抱きつく為に手を伸ばした。 「はい。・・・仕事?」 『そうだけど、かなりの急ぎだ。民間の《依頼》なんだけど受けてくれるか?』 「・・・と、いう事は遺産相続のもつれとか?」 『いや、除霊なんだが、【色魔】が憑いてるとかで。』 「・・・色魔、ね。場所は?・・・わかった。」 電話を切り尚人は側で聞いていた航へとメモを見せる。 「大事件の後は休めるんじゃなかったか?」 「なんだけど、凄い家が近いから。」 書かれてるメモの住所は確かに家の近くで航は溜息を漏らす。 尚人はその姿に苦笑するとメモを上着のポケットに入れると靴を履きだす。 「一緒に行こうか?」 「すぐ、終わるよ。待ってて。」 笑みを向け答える尚人に航はキスを送ると尚人を見送る。 外に出ると尚人は気合いを入れると走りだした。 end |