「聖さん!・・・オレ、感応できます。もしかしたら、位置わかるかもしれません。」 そう言うと聖の手を取りゆっくりと重ねる。 《強く 弘さんを 思って下さい》 頭の中に尚人の声が響き聖は瞳を閉じる。 -------数時間後 「どう?やっぱり、無理かい?」 考えこむ尚人に聖は問いかける。 「・・・反応があったのは、例の場所。確かに弱ってますけど・・・生気ですね。」 聖に重なる様に感じた別の気が存在したのを尚人も感じてはいた。 ・・・でも、あれは? 「聖さん。弘さんの写真とかありますか?」 当時のなら、と聖は立ち上がり数枚の写真を持ち戻ってきた。 そこには、明子にどことなく似ている、でも『綺麗』が似合う男が写っていた。 14,5歳のその子はとても自殺を考える程思いつめる感じじゃなく幸福そうな笑みを浮かべていた。 「尚人、この人がそこに?」 「・・・聖さん、この写真いつのですか?」 「それは、自殺の一ヶ月前だった・・・かな?」 「人は変わる・・けど、オレが視たのは寂しそうな横顔でした。」 尚人はそう言うとおもむろに立ち上がる。 「多分、弘さんはこの世のものではないものか、見てはいけないものを見たんでしょう。」 「・・・じゃあ、あの血は?」 「固定観念が、強すぎる方々は別件を調べなかった。その後の自殺者は女性が多い事からも十中八九、女性の血である確率の方が高いかと・・・」 「尚人、弘さんは何処に?」 「あの場所にいる。・・・でも、別空間の繋がってるから彼は多分そこに。」 航へと躊躇う様顔を向ける尚人に力強く頷いてみせる。 「わかってる。行こう、尚人。『仕事』を片付けよう!」 頷き尚人は安心するかの様、微笑む。 「聖さん、弘さんが生きてたら、どうなる?」 「問題ないよ。あいつが弘が取り替える。あいつのは『交換』。記憶を摩り替える。」 答える聖に航と尚人は笑みを向ける。 それから三人は今後の策を立て始めた。 「本当に二人だけで良いのか?」 心配する聖に大丈夫と念を押し二人は今、例の場所にいる。 とうとうここまで戻ってきた二人は堅く手を繋ぐと、中へと入っていく。 ******************** D地区での邪悪な妖気漂うその場所は有名な自殺名所にもなっている。 建物は立派な本当なら神が居るはずの神社だ。 と、いっても、賑わうのはやはり正月だけだったらしいが、今は誰も寄り付ことはしないらしい。 少し、住宅地から外れた人通りの少ない場所は『自殺』にはうってつけの場所だったのだろう。 でも、近くにある民家には迷惑以外のなにものでも無いけれど・・・。 「航・・・ついててんね、絶対だよ!」 「わかってる。尚人、愛してるよ。」 だから、大丈夫と言うと素早く尚人へと深い口付けをしてくる。 キスに酔い尚人はうっとり、と瞳を閉じた。 中に入って気づいたのは外側から視るより想像以上の妖気が充満している事だった。 それだけでは無い膨大な量の妖気だか霊気で感応力の強い尚人は顔色が悪く、まともに立つのも辛くて航に支えられていた。 「尚人、どこからかわかるか?」 優しい航の声が頭の上から響いてくる。 尚人は重い頭を巡らせある一点を指差した。 「視える?・・・そこが、一番強い。弘さんの遺書が見つかった部屋。」 がらり、と襖を開けた部屋の中には何も無かった。 ・・・と、言うのはおかしいかもしれない。 それは、多少霊感のある者なら感じる事の出来る部屋だった。 誰も居ないはずの部屋の空気が、一瞬、変わった気がしたと同時に、うっすらと人の姿が現れてきた。 「・・・尚人!」 航が驚愕の声を出す。 尚人はただ目の前に現れる人をみつめていた。 そこにいたのは『菱山弘』その人で、写真で見るよりもはるかに綺麗が似合う男だった。 あれから6年も経っているから、成長しているからなのかますます綺麗さに磨きがかかっていた。 線が細く、彼はその場にひっそりと座っている。 航にも尚人にも気づかず彼は瞑想に耽っているのか固く瞳を閉じている。 「菱山弘さんですか?」 尚人が他の霊気を刺激しない様にひっそりと問いかける。 はじめて、彼は瞳を開き二人を認識する。 「・・・どなた、ですか?」 擦れた、でも甘いテノールで弘は話す。 「オレたち、頼まれたんです。・・・聖さんに。」 航が驚きながらもゆっくり言葉を繋ぐ。 「・・・ひじり?・・・・どちら様で・・・」 弘は形の良い眉を顰め頭を抑える。 記憶障害かと尚人はぼんやり思う。 長い間ここにいたから、時間間隔が麻痺してるのかもと考える。 戸惑いつつも話を続けようとする尚人は物音に気づく。 かたん、と鳴った音の方へ思わず目を向け尚人は微かに声を漏らすと航の腕を掴む。 掴まれた航は尚人の視線の先を見て、驚きに目を見開いた。 そこにいたのは以外な人だった。 ******************** 「江都子さん・・・なぜ?」 かろうじて出した声が擦れる。 航は尚人の手を握る力を無意識に強めていた。 『なぜ?・・・航に私が聞きたいわ。弘を連れていくのは私が許さないわ!私達は長い苦しみから解放を望んだ同志なのだから。』 江都子はそう言うと微笑む。 その微笑は寒気が襲うほど恐ろしい魔性の笑みに尚人には見えた。 「彼には・・・待ってる人がいるんだよ。」 『ダメよ!弘はここに居る。・・・そうよね?』 江都子の言葉に弘は顔に笑みを浮かべる。 「ぼくは、江都子とここにいる。・・・待たれても、もう遅いよ。」 言う時に一瞬眉を歪めたが誰も見てはいなかった。 尚人は何を言えばいいのか迷い航はただ黙っていた。 「・・・どうして、その人じゃないのに・・・あなたを一番待ってる聖さんが可哀想です。」 「違う!・・・僕は一番なんかじゃ・・・」 尚人の悲痛な叫びに反応してから、弘は口を噤んだ。 しまった、と後悔してる弘に航は彼を見る。 「・・・覚えてるんですか?」 「聖に言って、ぼくを忘れろと・・・あいつなら、もっと、良い人がいるから・・・」 「彼だけが信じてたのに!母親は生きてるとも思ってなかったのに・・・彼だけがあなたの事生きてるって確信してたのに!」 航は勢いに乗せ一気にまくしたてたのに、弘はもう反応をしなかった。 『わかったでしょう?・・・弘は私を必要としてくれてるのよ。』 江都子は弘に近寄ると彼へと寄り添う。 「6年間、あなたを思い続けた聖さんに・・・それが、あなたの答えですか?」 尚人は聖の弘の事を心配していた心に触れた。 だから、どんだけ心配していたのかも分かっていた。 その答えがこれでは聖が可哀想だと思う。 だからこそ、尚人は言葉を続けた。 「聖さんにはあなたが言えば良い。彼を縛り付けるあなたがいなければ、きっと、別の恋をしていたはずです。」 航に支えられながら語る尚人の前弘はそれでも黙っていた。 |