「見ろ!・・・尚人、これ。」 パソコンで調べてた航が興奮した声尚人を呼ぶ。 「何?・・わかったの?」 「多分な・・。『江都子さん』が亡くなる以前にはっきりとした『理由』を持つ人物が居たんだよ。『菱山弘』・・・当時は15歳。あの場所で6年前自殺してる。でも遺体は未発見だそうだ。」 「みつかってないのに、自殺?何で分かるの?」 「遺書が見つかってる。でも、現場はろくに調査してないな・・・調書が微妙だ・・・」 いい加減と思いつつ尚人は航の見てる画面を除きこむ。 ----------家庭内の問題と受験ノイローゼの見方濃厚。 父親の経営してた会社が二年前倒産。その後嵩む借金を見捨て女と夜逃げした父、夜の仕事で何とか生計を立てだした母親にたいして子供と年の変わらない年下の愛人発覚、二つ上の姉は周りの反対を押し切り男と駆け落ち・・・。 ざっ、と流した『菱山弘』の家庭は悲惨の一言しか出なかった。 まるで、ドラマの泥沼。 「しかも、受験が重なり・・・精神的に追い詰められたって所か?」 ぼそり、と呟く航に尚人はただ頷いた。 「・・・調べられるかな?・・・まだ母親は居るんだよね?」 少し考えた後問いかける尚人に航は目の前のパソコンをかたかたと鳴らす。 「母親は・・・BER「プリンセス」経営。名前は菱山明子。まだ、居るみたいだな・・・」 笑みを向ける尚人に航は立ち上がり出口へと尚人を促した。 ******************** 「ここみたいだ。」 地図を見ながら歩いていた航が一軒の店の前で立ち止まる。 店の名前をもう一度確認すると尚人を連れ中へと入る。 店内は客足は、ほどほど、という所。 これが、終日この調子なら少ない部類に入るのだろう。 内装はさっぱりしすぎていて、申し訳程度のカウンターには若い男のバーテンダーが一人いた。 「すいません、オーナーはいらしてますか?」 航が男に話しかけると男はすぐに反応した。 「オーナーですか?・・・少々お待ち下さい。」 慣れた応対で尾t個は答えると一礼して奥へとさがる。 年の頃は20、21歳。 長い髪を後で束ね、身長も高い、今どきの若者の様だが礼儀はしっかりしている。 何より、顔がかなり良い。 人気が高そうな男だった。 「お待たせしました。私に何か用でしょうか?」 数分で男は42,3歳の女を連れて戻って来た。 ふっくらした赤みのある頬、優しげな、おっとりした目元。 若い頃は美人だったのだろう、と思わせる女だった。 今でも、年の割りに化粧は薄く程ほどの美人だった。 「菱山さんですね?」 確認を取る航に女、菱山明子はこくり、と頷く。 「わたしは、藤沢と申します。実はある事件と関連して、息子さんの名が出てきたのでお話を聞きたいと思いまして。」 あくまで、冷静に話す航に緊張気味だった明子はぴくり、と反応すると隣りの男へと視線を流す。 「弘の事ですよね?・・・あの子は6年前に・・・」 「知ってます。彼の生前を聞きたいのです。どんな方だったのか、教えてはもらえないでしょうか?」 明子は横から丁寧な物言いを始めた尚人の言葉に緊張を解したのか、思い出した様に二人を奥へと案内する。 「どうぞ、お掛け下さい。お茶持ってきますので・・」 二人をソファーへと座らせ明子はお茶を運んでくると彼らの前へと座る。 「何から、話したら・・・私は今思うとあの子に何もできませんでした。お恥ずかしい話ですが、日々増え続ける借金に頭を悩ませてた私の負担にならない様にあの子気を使ってくれてたのかもしれません。・・・あの子を私はわかってませんでした。」 家庭がばらばらだったから、尚、仕事に励んだ明子は一人取り残された息子の意見も聞かずに良い高校に行かせたくて必死に働いた。 周りを見返したくて、日々息子が追い詰められていた事に彼女は何ひとつきづかなかった。 「夫と娘の件もあの子が慰めてくれたのに・・・。」 明子は語りながら息子を思い出したのか目元を潤ませた。 「親思いの方だったんですね。・・・辛いことを思い出させました、申し訳ありませんでした。」 航と尚人は深々と会釈するとその場を早々に立ち去った。 ******************** 「待ってくれ!・・・待ってくれないか!!」 店を出てから数分後。 二人を呼び止めたのは先程のバーテンの男だった。 「・・・何か、用ですか?」 不思議な顔で問いかける航に男は息を整えると口を開く。 「ヒロの事で・・・あいつ、自殺なのか?」 驚く二人に構わずに男は話を続ける。 「オーナーの前じゃ言いづらかったけど、あいつの『自殺』がどうも・・・」 「・・・知り合いですか?」 「同級生だよ。・・・良かったら、家に来ないか?」 二人を促したバーテンの男は陸奥聖と名乗った。 「汚いとこだけど・・・上がって・・・」 通された部屋はワンルームで荷物があまり無い部屋だった。 「あの、自殺じゃない根拠があるんですか?」 居心地悪そうにフローリングに座り、尚人がお茶を持ってきた聖へと問いかける。 「あんたら、能力者だろ?・・・オレもそういうのがあって・・・」 聖はぽつぽつと語り出す。 「オレには『気を視る』事でもちろん生きてる人しか見れない。だけどオレが視たいと思った人のは必ず視える。・・・ヒロの気は確かにあるんだ。あいつの気を間違えるはずがない。・・・だから、遺体もみつかってないし、生きてるんじゃないかって・・・でも、」 「生きてるけど場所までは探せなかった、ですか?」 航の問いかけに聖はただ頷く。 暫し考えこんだ航は尚人へと顔を向ける。 「生気だけじゃ・・・生きてることには・・・」 尚人はぽつり、と呟いた。 「ヒロが自殺した場所は自殺の名所になってるんだけど、すごく、不自然な死が多くて、調査に来た監察がぼやいてたんだ・・・」 「どういうことですか?」 「・・・つまり、不自然すぎるんだよ。オレが思うに『自殺』は生の世界に疲れたから死んでいく・・・わざわざ、生を長引かす死に方はしないだろう?」 聖はいったん呼吸を整える為かお茶を飲むと再び語りだす。 「”手首を切る””投身””首吊り””薬物使用”・・どれも、『綺麗』じゃないけど、死ぬ方法としては有名だろ?・・・・でも、あの場所での自殺者はこのどれにもあてはまらなかった。彼らは尋常な死に方では無かった。自らの肉体を切り刻んで逝く。これは、普通じゃないだろ?」 「・・・ヒロさんは生きてると?」 航の問いかけに聖は頷く。 「確証もある。・・・自殺推定時刻にオレはヒロに会っているし。」 「・・・えと、あの、菱山明子さんの『恋人』って、あなたですか?」 考えこんでいた尚人の突然の問いかけに航はつい、頭を抑えた。 当の聖は気分を害した様子もなく、逆に頬を赤く染める。 「噂のはなったけど、家の母親と同じかな?・・・オレは息子の方が好きだったし、別に気にも留めなかったけど・・・」 そう言うと少し黙ってから聖は言葉を繋ぐ。 「・・・自殺理由の中にあったっけ、否定もしてくれなかったな。」 聖は一瞬遠くを見る様目を細めたが元に戻る。 「お二人の事、弘さんの母親は?」 「知らないだろ。ヒロは明子さんの自慢の息子で、あいつが自殺したって聞いたときは凄かったし・・・あのさ、この際、ヒロの体だけでも良いんだ。葬式もしてないんだ。だから、頼む!ヒロを探して!」 頭を下げ切実に頼む聖に尚人は航と顔を見合す。 『菱山弘』は生きている? そんな疑問が尚人の中に浮かんでいた。 |