Midnight Angel・3

"私の航を返して---------!!!"
悲痛な叫びが聞こえる。
尚人は一人真っ暗な場所に立ち尽くしていた。
"あの人を返して!・・・・お前さえいなければ!"
鬼?・・・恐ろしい形相の女。
ボサボサの髪を振り乱し、濃い化粧を施しすぎてやけに青白い顔が闇夜に浮かぶ。
そして、手に、しっかりと握られてるそれはどす黒く染まった鋭利な刃物だった。
女は気づけば尚人のすぐ前に立っていた。
ただ呆然と立ち尽くしたままの尚人は頭の中で何かが引っかかる。
女に見覚えがある気がしたのだ。
つい、最近どこかで会った・・・そんな気がするのに中々思い出せないままの尚人に女はにたり、と笑みを浮かべる。
"あの人は私のもの・・・あの人は私のもの"
ぶつぶつと同じ言葉を語りながら女は尚人へと刃物の矛先を向けてくる。
咽まで出掛かってる女の存在を考えながら、それでも、尚人はじりじりと後退しながら間合いを取る。
逃げないと、殺される!本能で尚人は悟る。
振り上げてくる刃物から滴り落ちるのは血だと気づく。
今更の様に血の独特な鉄錆の様な匂いが鼻につき尚人は女を改めて真正面から見る。
突然、意識が開ける様に愛しい恋人を思い出す。
生前を尚人は知らない。
知らないけれど、思い出した。
航の恋人だった人、髪の毛に気を取られあの『江都子』だと気づかなかった。
女は尚人へと真っ直ぐ刃物を振り落としてくる----------その瞬間航の声が聞こえた。

「尚人、尚人」
「−−−−−−んっ!」
目を開くと航が除きこんでいた。

「・・・大丈夫か?」
とても大丈夫には見えないけれど問いかける航に尚人は微かに笑みを浮かべる。
「・・・航?」
「ああ。電話・・・例の奴から・・・」
何だろう?と首を傾げながら起き上がり尚人はびっしょりと汗をかいてる自分に眉を顰める。
電話を受け取り心配そうに自分を見る航に笑みを浮かべると対話を始めた。

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「多分・・・この近くなんだけど・・・」
「うん。凄い悪寒がする。・・・・それに、近くに彼女の家もある・・・」
「出てきた時と一致するね。」
神妙に頷く航へと尚人は手を伸ばす。
「・・・私情が絡むのは初めて?」
「うん。・・・航も助けられるし、いい仕事だよね。」
笑みを向け手を握ってくる尚人を航はそっと抱き寄せ額へと優しいキスを送る。

『強大な強い妖気?・・何、それ。』
『それを視るのが君の仕事だろ?』
『・・・はいはい。それで、どこ?・・・急ぎだよね?』
『もちろん。場所は最近自殺者が異常に増えてる、D地区だ。・・・すぐ、隣りだろう?』
『・・・D地区ね〜。了解。』

そんな会話が昨日有り二人はD地区に今居る。
そこは航の住んでいた場所でもあった。
そして霊査の結果、妖気の漂う範囲内に彼女の家もあった。
いやな符号に尚人は唇を噛み締める。


D地区は徹底したセキュリティシステムで有名な地区だ。
尚人たちが今住んでいるC地区とは比べ物にならない徹底した厳重な管理で有名な地区で住んでる人間さえも堅実すぎるのが多すぎるとは航の弁だ。

「あそこから、流れてる!」
辺りを見回した尚人はそう叫び想像を越す邪悪な妖気の凄さに暫しの間愕然とする。
「尚人?・・・あそこ、は・・・」
青ざめた顔で呟く航に尚人が問いかけ様とする前に航は続ける。
「D地区の自殺者はここ数年、他の地区と比べるとあきらかに桁違いな程増加してる。そして、増える直前つまりそのきっかけが5年前。・・・それから、減少は一度も無い・・・」
「・・・5年前?」
「そう。・・・そして、江都子さんはここで、自殺した。」
「・・・自殺じゃなくて事故なのかな?」
「尚人?」
「だから、何かの霊的な事故。彼女は無理やり自殺に追い込まれた・・・それだと、この、妖気と繋がらないかな?」
「した、じゃなくて・・・させられた?」
こくり、と頷く尚人に航は来た道を尚人を連れ戻りだす。
「どこ、行くの?」
「・・・自殺者を過去5年間分調べられるとこ。」
妖気の原因の為にも、と付け足す航に尚人は力強く頷き二人は『資料館』へと向かう。

********************

「自殺資料ですか?SRカードをご提出下さい。」
見たい場所を告げる尚人に受付嬢は淡々と答える。
「SRカード?!」
オレはただの学生だし、そんなのあるわけ無いじゃんと尚人は呆然とする。

『SRカード』とはスペシャル・ライトの略でようは特権の事だ。
そのカード一枚でどこの惑星もフリーパスの優れもので番号管理でカードの持ち主の階級もわかるというもの。
特権を持つ人はとても特殊な人達でまだ学生でしかない尚人には見たことも無い幻のカードだ。

悩んでる尚人の横で黙って成り行きを見ていた航は金色のカードを受付嬢へと差し出す。
「証明番号と身分を確かめさせて頂きます。」
彼女は事務的にカードを受け取り機械へとカードを差し込んだ。
((ワタル・フジサワ/25age/one's home:planet『α』/work:scientist+doctor/SS01A14B))
機械が抑揚の無い音声で語るのを聞き彼女の顔色が変わる。
「先程は失礼いたしました。ご希望の資料は入って右端にございます。」
丁寧な手つきでカードを返しキーカードを渡しながら答えると彼女は深々と頭を下げる。
航は呆然としてる尚人を連れ無造作にカードを受け取ると、飄々とした態度で中へと入って行った。

「航って凄い人なんだね。しかもSSクラスなんて滅多に会えないはずなのに、身近にいたなんて信じられない・・・」
何とか立ち直った尚人の開口一番の言葉に航は憮然とする。
「・・・尚人、いいから、仕事・・・」
まだうっとりと航を見つめる尚人に彼は溜息を漏らしつつもその顔は可愛い、と思っているのだからどうも、緊張感の欠けるどこまでも甘々な二人だった。

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