Midnight Angel・2

部屋の中は真っ暗だった。
部屋の電気をつけ、周りを伺うが航はどこにも居なかった。
寝室へと向かう尚人の足がぴたり、と止まる。
「航・・・いるの?」
薄暗い寝室に航は横になっていた。
安堵の息を漏らし尚人は部屋の入ろうとして違和感を感じる。
航の上部に青白い光に包まれた女の人がいた。
この世の人とは言いがたい(実際亡くなってるのだが)、綺麗な女の人だった。
生前を尚人はもちろん知らないけれど、妖艶な魅力のある人だったと思わせる綺麗な人。
彼女は尚人に気づきまるで尚人に挑戦するかの様に航へと顔を寄せ唇へとキスをしてくる。
眠っているだけだと思っていた航はどことなく、ぐったりとしている。
ぴくり、とも反応はしないけれど確かに感じる心音に尚人はとりあえずほっ、とすると改めて彼女へと視線を向ける。
睨み付け口の中でぶつぶつと経を唱え、手で印を結ぶ尚人の前青白い光は霧散し彼女も消える。
尚人は慌てて航へと走り寄った。
「・・・・・・うっ・・・」
夢か現実か分からず頭を振り航は心配したのか少し泣きそうな尚人と目が合う。
あの人より、愛しくて大切な・・・そう心に思いながら航は笑みを向け尚人、と呼びかける。
「航〜大丈夫なの?・・・体平気?」
抱きつき泣き出しながら問いかける尚人を宥めながら航は口を開く。
「オレ・・・何してた?」
「・・・オレが来た時は寝てただけ、でも・・・」
女が居た、と呟く尚人に航は敏感に反応する。
「・・!・・・女って、誰だ?」
尚人は丁寧に先程の出来事を話し出す。
女の特徴を聞き青ざめる航に尚人は大丈夫?とつい問いかける。
返す航の声には微かに震えがあったがそれでも彼は尚人に笑いかけてくれた。
「・・・知ってる人?・・・教えて、航・・・」
まるで子犬の様に訴えてくる尚人に苦笑して航は迷いながらも口を開く。

「・・・オレの『力』・・・教えたことあったか?」
無言で首を振る尚人を抱き寄せ航は話を続ける。
「・・・一番強い力は予知だよ。」
「・・・予知って、あの?」
こくり、と頷くのを感じて尚人は航を見上げようとする。
「・・・人はたまに視えるけどほとんどは夢で自分限定だと思うけど・・・」
尚人の肩に頭を乗せ航は話を続ける。
「多分・・・尚人が見たのは江都子さんだよ。」
「・・・えつこさん?」
「恋人みたいだった。・・・尚人に会う一ヶ月前に彼女は亡くなってるけど・・・自殺だった。・・・オレが割り切れなくて江都子さんを追い詰めた・・・」
「・・・航?」
「彼女よりもずっと前からオレは夢の中で会う性別不明の人に恋してた。だから、いつか会えるその人の事ばかりで恋愛はできなかった。・・・なのに、それでも良いからって彼女は告白してきたけど、オレには無理だった。」
美人で器量良し、周りからも人望の厚い良い人・・・なのに恋愛はできなかった、と航は苦しそうに言う。
「・・・それで、自殺?」
「オレにはそうとしか思えない。」
「うなされてたのはその人が原因?」
「・・・尚人?」
ぼそりと呟く尚人の不機嫌な問いかけに航は不思議そうな顔になる。
あれは宣誓布告だと尚人は理解する。
尚人から航を奪う気だと、考えたらむかむかして尚人は一人力む。
そんな尚人を航は訝しげに見つめていた。

********************

「・・・で、どうするの?・・・彼女!」
「うん。オレの夢から現れた罪の意識なのか知りたいから、霊視・・・出来る?」
手貸して、と尚人は航の手を握り意識を集中させる。
------------------------------航の奥底に彼女はいなかった。
「・・・本人だよ!航を連れてくつもりで来たんだよ!!!」
「連れて、ってどういう・・・」
航の疑問に答えることなく尚人は航の青い瞳を見上げる。
吐息が触れ合うほど近く顔を近づける尚人に航は怪訝な顔をする。
構わずに唇へと唇を寄せる。
青い瞳に見られ視姦されてるみたいだがいまさら止められないほど尚人は航に惹かれてるので止まらないの方がしっくりくる。
あと、もう少しの所で尚人の体は止まる。
疑問に思い目を開く尚人を航は寸前で止めていた。

「・・・尚人〜?」
「航!キスしたい・・・キスしよう!」
率直な言葉に航は肩を落とす。
「・・・今はダメ・・・何するかわかんないから・・・」
「・・・他の人なら良いの?」
「他って、そういうんじゃなくて・・・」
「・・・もう、良い!・・・夢想化の航君は夢の中の人に会ってきてよ。」
泣きそうな声で言う尚人は立ち去ろうとして航に抱き寄せられる。
「・・・ごめん!補足が必要だった。」
「いらない、聞きたくない、離せよ!!」
暴れる尚人をベッドへと押し倒し航は強引にキスしてくる。
一度離し今度は優しいキスを繰り返す航に尚人はそろそろと手を伸ばす。
何度も交わすキスはだんだん深く濃厚なキスへと変わり航は尚人の服を脱がしながら全身へとキスと愛撫の手を進めていった。

全身くまなく愛され航の裸の胸に頭を乗せ尚人は甘い気だるさの余韻に浸っていた。
尚人の頭を撫でていた航が尚人と名を呼ぶから尚人は航へと顔を向ける。
「尚人。・・・オレの事夢想化って言ったよな?」
「あれは・・・」
「大丈夫、怒ってたら抱かない。・・・自慢じゃないがオレの予知は外れたことが無い。長い夢も終わりを告げたんだ。」
笑みを向ける航に尚人は身を乗り出す。
「・・・夢の人分かってるの?」
「もちろん、尚人だよ。」
驚いたままの尚人に航は口を開く。
「13歳の尚人は可愛いかったよね。・・・あれじゃ、男の子には見えないだろ・・・」
にっこり、笑みを向け答える航に尚人はまだ分からないのか眉を顰める。
「・・・出会いそのまま。オレはあの日尚人に出会って長い夢から覚めた気分だったよ。」
「・・・航、航!好き」
抱きついてくる尚人を再び押し倒すと航は耳元へと愛を囁く。
キスを交わしながら二人はもう一度愛し合い始める。
微かな喘ぎ声とベッドの軋む音、そして、素肌がシーツに擦れ合う音が薄暗い部屋の中に響いていた。

「あいつが欲しい!あいつしか要らない!」
「おかしいよ、夢の中の人なんて現実にはいないかもしれないじゃない。・・・お願い!私を見てよ・・・」
「割り切ってよ、江都子さん!・・・オレにはあいつだけなんだよ、あいつだけを抱きしめたくて、愛したい!」
「航!・・・愛してるの、他の人じゃなくて・・・私を見て・・・」
泣きながら抱きついてくる彼女に航は悪寒を感じる。
-------------だめだ!これは、夢?!・・・尚人、オレを助けてくれ!・・・・
航はぎゅうぎゅうと抱きしめてくる彼女を振り払いベッドから降り叫んだ、と目が覚める。
尚人は一息つくと隣りで眠る航を見る。
航は魘されていた・・・顔色もあまり良くない。
尚人は瞳を閉じるとズキズキと痛むこめかみを押さえすこしもんでみた。
生生しい感触がまだ残ってる気がする。
傍にいたからダイレクトに伝わる航の夢に尚人は感応した自分に気づく。
こんな夢を毎日見てる航の精神力の強さに安堵したのも事実だったが・・・
「起きたんだろ。・・ごめん。」
謝る低く優しい声音と同時に髪を撫でる優しい仕草。
「平気だよ、それより・・・」
「わかってる。」
堅い顔で頷く航は尚人を抱き寄せる。
--------愛してる、離れたくない・・・。
感応でストレートに伝わる思いに尚人は航の腕の中で泣きたくなった。

********************

「解決策を考えよう、航。」
「江都子さんが出てきた理由か?」
「うん。」
泣き出す寸前の赤い目をして尚人は頷く。
助けたかったから、目の前の大事な人を尚人は失いたくなくて泣くのをこらえる。
「実家で・・・何か分かるかもな・・・」
「じゃあ、明日そこへ行こう。何かわかるかも。」
「尚人、危険かもしれない・・・」
「航が居る。それに、オレ、航を渡したくない!」
「・・・尚人、愛してる」
抱き寄せキスしてくる航に尚人は何度目かの深い愛撫の海へと堕ちていった。
堅い決意を胸に秘めながら・・・・。

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