・・・あいつが居ないこの部屋は暗くて寂しい。 ・・・でも、オレは決してあいつを待っているわけじゃない・・・はず。 待ってるのは甘く懐かしい・・・あの人? 西暦というのがあれば時は40世紀。 人類は自らの高度成長した科学力で、故郷『地球』を破壊しておきながら、故郷をさっさと見捨てると人口惑星を創り出した。 人口惑星は12有り『国家』という概念が無くなり世界は都市だけで栄えだした。 そしてここは人口惑星の一つ『β』 高度な文明技術を持つ惑星で『α』の次に優秀な科学力を誇り、10の都市とどこの惑星にもついている中央管理局とで成立している。 中央に人が入ることは滅多に無く、普段は機械管理されていて、大元の管理局は月に設置されておりそこから12の惑星に送信されている。 防衛都市『メガロ』 『β』最大都市。 都市といってもかなり大きく平面にすると「北アメリカ」サイズになるだろう大きさだ。 この世界では都市同士の交流はもちろん惑星同士の交流も全くといっていいほど無い。 その為生涯都市から出ない確率はとても多く、居住地はそう簡単には変えられない。 もちろん、一部に例外はあるが・・・。 『メガロ』は非常に大きい都市なので端と端の人が会うのも珍しいが隣り同志の地区に住んでいたとしても会うのは少なかった。 オレ、諏訪尚人が、あいつ、藤沢航に会えたのも偶然と言うより奇跡に近かった。 -----それとも、あいつに会うのは運命だったのだろうか? オレにはわからない。 ただ今言えるのはあいつと会って変わったといえるだけ・・・・。 ******************** 『闇』の中から声がする。 ・・・私を助けてくれないのですか? 悲痛な叫び-----女の声だ。 聞き覚えがある、甘く懐かしい-----そうか、あの人の。 深く瞳を閉じあの人を思い出す。 面影を描き出そうとして、輪郭をなぞろうとする。が『闇』の中の声が再び聞こえてきたので目を開く。 まだあの人の声が聞こえる。 幻聴だとわかっているのに全てを見透かされそうでオレは耳を塞ぐ・・・無理なのに。 ------愛している。 言った時はそれが真実だと思ってたのに、言った後、後悔したのも事実。 あいつがいるから、罪の意識に? ・・・っちがう。 違う、そうじゃなくて、不実な恋・・・いや愛に溺れたオレを嘲笑するあいつの顔がよぎったから・・・ 助けてくれないのですか? 悲痛な叫びは寝ても、起きても響いてくる。 許してくれ・・・オレにはあいつが・・・全てだから・・・・ 言いたくてもあの人はもう居ない。 そして、今日も『闇』からオレを責める声がする。 恨まれるのが怖いのではなく嫌われるのが怖くて不用意な愛をあの人に囁いた報いだと分かってはいる。 今頃、あいつはどこにいるのだろうか? 助けて欲しいとあいつの名を呟いてみるがそれが無意味だとわかってる。 この部屋に居ないのだから聞こえるはずが無い。 でももしかしたら感じてくれるかも・・・ 『闇』の中の声がオレを呼ぶ。 ・・・・・堕とされる感覚がオレを襲う・・・あの人が呼んでる・・・オレを必要としてくれるあの人・・・『闇』に堕ちていく・・・・・ ******************** 声が聞こえた気がして彼、諏訪尚人は身を震わせる。 やけに鼓動が響く・・・こんな感覚初めてで思わず外を見上げる。 不安でたまらなくなる。 何かが起ころうとしてる?・・・誰に?・・・まさか! 尚人は走り出す。 不安の源、藤沢航の元に。 はやる心を落ち着かせながらも自宅へと走り続けた。 藤沢航は尚人の『協力者』であり『理解者』。 そして、永遠を誓い合った恋人でもある。 尚人の様に表向きは学生だが裏に『仕事』を持ってる人が多いのが『防衛都市メガロ』の特徴だ。 しかし尚人の『仕事』は特殊でなりたいからなれるものでも無かった。 尚人は『殺し屋』又は『祓い師』と呼ばれる職についていた。 特殊な力を持つものしかなれなくて尚人も当然航もこの『力』を持っていた。 どんなに文明が発達しようと変わらないものがある。 いつの時代にも『金』という欲に取り憑かれた一部の人はいる。 そんな人達から請け負う『殺し』と発達しすぎた科学のつけで出来た誤差を『祓う』のが尚人の仕事だった。 そして防衛都市メガロには尚人の様な特殊な仕事についてる人が多い都市でもあった。 尚人は航との奇跡の出会いをおもいだしていた。 それは5年前に遡る。 仕事を始めたばかりの新米でその日の仕事は新米には無謀な依頼だったのだが試したくて受けた。 仕事は何とか成功したが尚人は深手を負った。 傷を負っていながらも現場から離れたのは良いが見慣れない場所に戸惑いそして何より疲れ果てていた。 意識が薄れそのまま気を失っていた。 気づいた場所は見知らぬ場所のベッドの上。 傷の手当もされていた。 上等な毛布・ベッド・家具・・・部屋、だけど生活感の感じられないそこはまさに別世界だった。 ベッドから降りようとしたその時部屋のドアが開く、ガチャリ、という音がした。 尚人は侵入者に驚きベッドの上でおたおたしてしまい住人の声を聞くその時迄助けられた、その事さえ忘れていた。 「起きるな!・・・傷が開く!」 「・・・・・」 声がした方に尚人はゆっくりと体を向けた。 「ごめん。怒鳴って・・・座って」 「・・・ありがとう」 尚人は彼が手に持ってるトレーを見て礼を言う。 「あの、助けてくれて。・・・オレ、諏訪尚人です。」 「・・・航、藤沢航。これ、食べて。」 航は笑みを浮かべるとトレーの上のお粥を尚人へと差し出した。 「生活感」の無い航の部屋にその日から尚人は居つき今じゃすっかり普通の部屋になった。 二人はそれから急速に仲良くなった。 藤沢航は学校の関係で越してきたばかりらしく、研修行事で方々に出かけてきたらしく尚人の傷だらけな姿を見ない振りができなかったことも教えてくれた。 「・・・でも、危なかったぜ。オレまだ越してきて日が浅いから地理不明だろ。・・・医学取って無かったらと思うとゾッとするよ。」 冷や汗さながらに話す航に尚人は身を小さくする。 「・・・医者なんて凄いな・・・」 尚人は心底から感動していた。 だから、航がご同類だと知った時も、尚人の全てを話せると感じていた。 それは彼の透き通る青い瞳の前では何も隠せないと想っていたのも真実だった。 航が「一緒に住もう」と誘った時、自然に頷いていたのも彼の魔力に絡め捉えられていたのかもしれない。 航の頷いた時に見せてくれた、その後度々見せてくれる幸福な笑顔が頭に浮かぶ。 更にスピードを上げ尚人は自宅へと走る。 息を整えると回想を打ち消し鍵を自宅のドアへと差し込もうとする。 焦っているのか、上手く入らなくて何度目かでやっと差し込むと扉を開く。 尚人は急いで中に・・・航の部屋へと向かっていく。 心臓の音がやけにはっきりと響いていた。 |