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「本当にごめん! 巻き込んで、すいませんでした!」
「・・・・・いいけど、やっぱり坂井が早く兄さんに言っとけば解決した話じゃねーのか?」
「本当だね。 由里さんより、お兄さんの方が子供欲しかったみたいだし。」
「・・・・・すいません!」
恐縮したまま頭を深く下げる未知の前、悠里と夏は顔を見合せると互いに肩を疎め笑みを交わす。「後は二人で話したいから」と早々に知昭から部屋を追い出された三人は寒空の中歩くのも辛くて適当なファーストフード店へと転がり込んだ。
「それにしても、これからどうするんだろう?」
ぽつり、と呟く悠里の声に未知は顔を上げると、問題が山積みな事に気づき溜息を吐く。
「どうにかなるんじゃねーのか? とりあえず既成事実があるんだから、それをたてに親脅すぐらいはしそうだぜ。」
外見上も中身もそっくり、とはとても思えない知昭の開き直った最後の姿を思い浮かべ告げる夏に悠里も笑みを浮かべる。
「良かったじゃん、坂井。 由里さんの事、ちゃんと大事にしてる人で。」
「・・・・・まぁ、それなりに見直したよ。 あの二人が一緒にいるって言うなら俺は応援したいし・・・・・そう、思ってる。」
由里さんが幸せならそれで良い、小さく呟き笑みを浮かべた。
「とりあえず、問題もそこそこ解決はしたんだし、坂井も文化祭の協力してくれるよな?」
にっこり、と笑みを返し告げる夏に悠里が隣りで小さく吹き出す。未知は視線を逸らしかけ、引き攣った様な笑みで答えた。

カウントダウンカレンダーがいつの間にか作られた教室の片隅で、買い物班は一部は備品を買いに、残りは装飾係に頼まれた細々とした装飾を作っているだけで、居残り組みの悠里はつい殺しきれない欠伸をする。それに釣られたのかこちらも同じく居残り組みの未知も大きな欠伸をする。
「おい、おい、二人して何してんだよ・・・・・暇ならこれもやるか?」
見咎めるように上から聞こえる夏の声と同時に頼まれた新たな小道具の製作図と材料を落としてくるのに悠里は曖昧な笑みを浮かべ未知へと顔を向ける。
「・・・・・どう、その後?」
「うん、毎日口論してる、飽きたりしないのか疑問だね。」
肩を疎め微かに口元に笑みを浮かべた未知の答えに悠里は夏へと視線を向ける。
「もう、俺達には何とも言えないだろ? それで、親父さんもお袋さんも反対派?」
「・・・・・母さんは早々に兄貴側に回ってる。 孫が出来てるって聞いて、ころっと態度豹変。親父と兄貴が口論してる隣りの部屋で母さんは由里さんと優雅にお茶飲みながら赤ちゃん用品のカタログ見てるよ。」
「由里さんと一緒に?」
「・・・・・ああ。孫がいるんだからって、母さんが強引に由里さんを家に置いてるから・・・・・」
「それって、認めてるよね? なのにお父さん、未だに知昭さんと口論中?」
「由里さんの事は認めてても、兄貴の最初の対応が気に入らなかったらしくて・・・・・由里さんの事は気に入ってるみたいだよ。早々に婚約を破棄したのも親父だし。」
「・・・・・・何か、複雑な親心なのか?」
「さぁ 知らないけど、毎日、毎日・・・・・本当にいい加減にして欲しい!」
切実な声で呟く未知はそのまま再び大きな欠伸をする。どうする事も出来ない悠里と夏は顔を見合わせるとただ同情を籠めた目で未知の肩をどちらも慰める様に軽く撫でるように叩いた。


*****


文化祭の日はもう前日にまで迫っているせいなのかとっぷり日が暮れた教室のあちらこちらの電気は煌々と未だに点されたままだ。喧騒激しいそんな教室の傍から離れた悠里は時計変わりの携帯を取り出し時間を確認すると扉へと手をかける。
「・・・・・先生、永瀬先生?」
誰に聞かれても困らない様に呼び掛ける悠里の声に薄暗い部屋の中でびくり、と影が動く。扉の傍についているはずの電気のスイッチへと手を伸ばし、電気を点ける悠里の目の前、のそり、と置きあがった人はドアの方へと顔を向ける。
「おはよう、今・・・・・何時?」
「・・・・・寝てるなんて優雅だね。もうすぐ20時になるとこだよ?」
「20時かよ・・・・・で、まだ残ってるヤツらばかり?」
おいで、と手招きしながら告げる泰隆に悠里は近づきながらこくり、と頷く。すぐに手を伸ばされ抱きついてくる泰隆に悠里は扉へと目を向けながらも、久しぶりに触れる温もりに押し付けられた頭を軽く撫でる。
「悠里は? もう帰る所だよね、もちろん。」
「・・・・・えーと、あともう少し、したらじゃ・・・・・ダメ?」
「ダメだよ。約束は20時までだろ?・・・・・ギリギリじゃ怒られるのは俺だから、とりあえずクラス回って帰します。例外は認めません!」
名残惜しそうに頭を押し付けたままだった泰隆は悠里の答えに顔を上げるとすぐに立ち上がる。そうしてきっぱりと告げるその声に悠里は微かに眉を顰め、そっと溜息を吐いた。
「俺を誘惑して時間稼ぎでもしてこい、とか言われたか? そんな事考えるのは伊藤だけだろ?」
溜息を聞き止めたのか、顔を覗きこみ問いかける泰隆に悠里はただ肩を疎める。肯定も否定の言葉も出さないけれど何も言わない事が答えになる事だってある。悠里の頭を軽く叩いた泰隆は腕を伸ばし、不自然な格好で寝ていた体を解きほぐす様に大きく伸びをした。

「ごめん、伊藤バレバレだった・・・・・とりあえず、一番最後に来るって。」
手を合わせ、予想以上に早く帰ってきた悠里の第一声に夏は眉を顰めるとすぐに立ち上がり身の回りに広げた道具を片付け出した。
「みんな! 先生の見周り来る前にさっさと片付けよう!!」
まだ作業中のクラスメート達は悠里の声に作戦が失敗したのを悟り早々に片付け出した。夏のバカみたいな冗談の様な作戦が悠里へと出されていた時クラス全員がそこに居たので知っていた。戻った早々片付けるその為の下準備はしていたから片付けは早々に終わる。
「・・・・・帰り支度は?」
「準備OKです 永瀬先生!」
がらり、と開けた教室の様子に微かに口元に笑みを浮かべたまま告げる泰隆の声に夏が親指を立てにやり、と笑みを向け答える。そっと微かな溜息を零し無言でドアへと寄りかかる泰隆に頭を下げながらクラスの生徒達が帰って行くのをぼんやり見ていた悠里は慌てて鞄を肩にかける。
「さようなら、先生。」
頭を下げ呟く悠里に泰隆は目を向けるとただ笑みを向けるからそのまま廊下を歩き出す。
「滝沢! 話あるから、ちょっと!」
おいで、と手招きしながら呼び掛ける泰隆の声に、先を歩き出しているクラスメート達に手を振りながら、ゆっくり近づく。
「何?」
「話あるって言っただろ・・・・・おいで・・・・・」
問いかける悠里の耳元にこっそり、と呟いた泰隆はくるり、と背を向け歩き出す。クラスメート達とは逆方向。悠里はそっと息を吐くとその背を追いかけ少し早く歩きだした。


*****


話がある、と言いながら何も言わず身支度を始める泰隆に悠里は傍にある椅子に座る。
「・・・・・話、何?」
「そんなの口実に決まってるだろ。 悠里は俺と一緒には帰りたくない?」
身支度をする手を止めないまま淡々と答える泰隆に悠里は何も言わずに首を振る。上着を着て、車の鍵を取り出す泰隆に悠里は立ち上がると一度は下ろした鞄をもう一度肩へと掛け直す。
「今日は泊まる?」
「・・・・・良いの?」
笑みを隠せないまま問いかける悠里に泰隆は無言で頷くから悠里はそっと服の端を掴む。誰もいないのか一応気にはしているけれど、本当なら抱きついて喜びを表現したくなるぐらい隠せない笑みを堪えながら歩き出す悠里に泰隆は笑みを返すとただ頭を撫でてくる。

何度も通えば第二の我が家と同じ位馴染む泰隆の部屋には悠里が家から持って来た物がこつこつと増えている。それだけじゃなくて、専用のカップも歯ブラシもパジャマさえ常備されている。揃えてくれたのは泰隆だけれど渡された時はかなり嬉しかった。合い鍵も渡されて、本当に恋人になれたんだと実感した時の感動は何度訪れても消えない。お気に入りのソファーでこれまたお気に入りのクッションを抱きしめテレビを見ていた悠里はつい思い出した過去に口元を緩ませる。
「悠里、にやけてないで風呂入れ! 何、そんなにテレビ面白い?」
「・・・・・わっ、いきなり声かけないで、驚くじゃん!」
「驚く、って・・・・・何、思い出し笑い? スケベだね、もうこれからの夜を考えてる?」
「・・・・・考えてません! お風呂入ったら寝ます!!」
近づいてくる泰隆から香るシャンプーの匂いから逃げながら答える悠里はすぐに捕まる。腕の中引き寄せられ、耳元へと問いかけられふるふると首を振りながら答える悠里に泰隆は笑みを浮かべたまま顔を近づける。
「えーっ、二人きりの夜は久々なのに、だめ?」
すぐ目の前まで近づいた顔が傾き、問いかけられるたびに息が肌を撫でる。びくびく、と肩を震わす悠里を更に強く抱きしめたまま泰隆はぼやけるほど顔を近づけてくるから悠里は目を閉じる。落ちてくる温もりをもっと深く味わう為に手を自然に背へと回していた。


この回、何か書くのが辛かったです。
閑話休題ラブな二人でした。話、進みませんね;

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