「はーるばる来たぜ、函館!」
「・・・・・ここ、札幌だから。」
「知ってるから、突っ込むなよ!いいだろ、歌いたかったんだからさ・・・・・」
電車を降りてすぐに漫才を始めだすクラスメートに苦笑を浮かべたまま悠里は隣りに立つ、友人夏へと顔を向ける。
「・・・・・やっぱり、気温とか違うよな?」
「ああ、そうだな〜。『10月なのに今年は暖冬だよね』とか電車の中で話していた人達いたけどな。」
呟き、肌を撫でる風に首を疎める悠里に夏は笑みを向けると車内での事を思い出し笑みを深くする。 地元に比べたら格段の温度差にぶるり、と震える悠里はやっと周りへと目を向ける。 ひらひら、と先ほどから木々の間から零れ落ちているのは茶色の葉。 「紅葉の時期なんだな。」
「・・・・・ああ、今月がピークらしいぞ。」
呟く悠里の視線へと顔を向ける夏の同意の声に暫くぼんやり、と落ちていく葉を眺めていた。
「滝沢、点呼してる、行くか?」
ぞろぞろと降り立つ生徒が増えてきたせいなのか一つの場所にまとめようとしている教師に気づいた夏の声に悠里は集まりだした皆の場所へと歩き出す。 知らない土地なのに、高い建物が並ぶ札幌の駅は見知らぬ場所という気はあまりしなかった。
「滝沢、夏!こっち、こっち!」
来い来い、と手招きするのはクラスメート、夏の旅行でも一緒だった匂坂哲也で当然の様に隣りには間宮馨が立っている。
「・・・・・間宮、顔色悪いけど、平気?」
「ありがと、滝沢。平気だよ、それより流石に北国・・・・・寒いよね?」
出発の時から顔色の冴えなかった馨は少しだけ赤みの差してきた顔で呟くから、夏が隣りでくすり、と笑う。
「・・・・・何?」
「いや、滝沢も同じ事言ってたからさ。テツは元気そうだな?」
「冬に来れなくて残念だ、と散々愚痴ってたけどね。」
笑みに首を傾げる馨に悠里の顔を見て告げる夏はもう一人の友人へと笑みを向ける。視線に気づいたのか笑みを向けてくる哲也は四人の中ではかなりの薄着だ。シャツの上に羽織ったの薄手のパーカー一枚にジーンズ姿の哲也は二枚もしくは三枚は着ている周りの集団の誰よりも薄着だった。 ちなみに馨はシャツの上にパーカーと薄手のジャケット、下はジーンズを、悠里はハイネックのシャツにジャンバー下は少しだけ丈の短いパンツだけれどブーツを履いているし、夏もシャツ二枚の重ね着の上に厚手のパーカー、そしてジーンズと、地元にいる時よりは着ている。
「お前ら、それで暑くないのかよ?」
「向こうにいる時と同じ格好のお前が怖いよ、僕は。」
三人を見比べ呟く哲也に間髪いれずに馨が突っ込むから悠里と夏はただ笑いだす。
*****
今回の修学旅行では初の試みだとかで、クラス単位でのホテル泊まりとなっていた。自由行動の時間が妙に多くて、学校で指定した門限さえ守れれば団体行動は今回は一つも無いのだと言われている。観光と呼べる目玉になるものがあまり無いからじゃないか、というのが大半の生徒の意見だけれど、それはそれで楽しみの一つだった。 クラス単位で泊まるホテルへの地図を渡され、少しだけ注意事項を言われ、そのまま駅で晴れて「自由行動」の身となった悠里達はそのまま駅の中へと戻った。
「なぁ、とりあえず寛げる場所探そうぜ。」
「だな。」
哲也の声に四人はぞろぞろととりあえず駅と一緒になっている店の中へと入って行く。 休憩場所を見つけ、やっと椅子に座れた彼らはそのまま渡された地図を広げる。
「とりあえず、荷物置かないとまずいよな?・・・・・ホテルの場所って駅から近いのか?」
「・・・・・みたいだけど、先にホテルに荷物置いてくる?」
適当に頼んだジュースを飲みながら、各自脇に置いてあるスポーツバッグと互いの顔を見合わせる中、夏と馨が話しだす。悠里と哲也はただ手元のジュースをずるずると啜る。
「でも、ホテル行くと、もう出るのめんどくないか?」
夏のその呟きに全員一致でとりあえず駅のロッカーに荷物を置いて今日は駅周辺を歩こうという事に決まりジュースを飲み終わるとロッカーを探す為にがたり、と立ち上がる。
「だから〜私は安曇(あずみ)君といたいけど、向こうがね。」
「・・・・・仕方ないよ。結構男って、友達優先するじゃん。」
「でもさ、彼女がいるのに、男と行くとこあるからって、誘いを断るのはむかつかない?」
「それは結構くるかも。・・・・・そんなに友達大事なの?」
「もぉ、最悪だよ。あいつらホモかと思ったもん。・・・・・だからさ〜安曇君より良い男いないかな?・・・・・何か、見返してやりたいんだよね。」
「・・・・・あれ、より?無理だよ・・・・・」
困った顔の彼女の前、友人だろう彼女もそっか、と溜息を零した。
「滝沢〜行くぞー!」
哲也の声に悠里は立ち上がりかけたまま丁度隣りの席に座っていた彼女達の会話に聞きいっていた自分に気づき、慌てて鞄を持つと逃げる様に歩き出した。
「何、やってんの?」
「ごめん!・・・・・隣りの会話に聞き耳立ててました。」
夏の問いかけに手を合わせ呟くとバーカーと三方から告げられ悠里は苦笑を浮かべるしかできなかった。 だけど、何処がともいえないけれど気になった会話はロッカーに荷物を置き、あちこち動き回り、ホテルに着いた頃には完全に忘れていた。
駅から歩いて10分ぐらいの場所にあるそのホテルには結構スーツ姿のビジネスマンが多くて私服姿の悠里達は鍵をもらうと早々に部屋へと向かった。
「先生方もここに泊まるんだっけ?」
「・・・・・一部だって聞いたけど?・・・・・それより、ここ結構高いね。」
「まぁな。それにしてもダブルルームなんて、結構金かけてる?」
「・・・・・5人部屋とかあるらしいから、俺らはただ運が良かっただけ、じゃないの?」
同室は夏しかいない、二人部屋だ。哲也と馨もやっぱり二人部屋らしく、運良く隣りの部屋だった。 夏との探りあうような会話を交わしながら悠里はぼんやりと外を眺めたまま別の事を考える。
「で、永瀬先生はどこのホテル?」
「泰隆さんはここだよ・・・・・って、何、言わせる?」
何気ない問いかけについさらり、と返し悠里は思わず夏の方へと振り向く。ベッドに座り、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる友人に悠里は肩を疎めると溜息を吐いた。
「・・・・・言わせたくて鎌かけた?」
「いや。素直に返ってくるとは思わなかったけど、同じホテルかよ。・・・・・向こうも二人部屋とか?」
「・・・・・いや、個室だって。アミダで勝ち取ったって教えてくれた。」
そう言いながら、メールを見せる悠里に夏は思わずその画面を見て吹き出す。
『個室Get! いつでも遊びに来てね♥だけど連絡は忘れずに☆⌒ヽ(*'、^*)chu 泰隆』
「すげーっ!永瀬先生、やっぱり若いわ。」
「何だよ・・・・・あんまり、夏の兄ちゃんと変わんなくない?」
「・・・・・あの人も顔文字とか使うのかな、良くわかんないや。」
ははっ、と渇いた笑みを零す夏だけど、最近兄の話を口にする時は何だか、表情が柔らかくなっている気が悠里にはしていた。何か夏の中で変化は起こったのだろうけど、その内話してくれるはずだと悠里は何も問いかけなかった。だけど、弱みを握られているみたいな今の関係から少しは進歩したくて、携帯を閉じると改めて夏へと顔を向ける。
「伊藤、俺・・・・・話があるんだけど。」
「へ、何?いきなり真剣な顔してどうした・・・・・」
戸惑いながら後ずさる夏の前、ベッドの端に座りこむと悠里は大きく深呼吸をするともう一度夏と視線を合わせる。
「最近、何か変わった事、あった?・・・・・それって、俺には言えない事?」
悠里の突然の真剣な問いかけに夏は驚きの顔に柔らかな笑みを浮かべる。
「俺、そんなに分かりやすいか?」
「嫌、別に。でも・・・・・今回は何となく変わったかな、と。」
頭を掻きながら呟く夏に悠里は首を振ると、曖昧な答えを出す。毎日顔を付き合わせていたら、それなりの気配が分かるのだと、巧く言葉にできないソレを口にした悠里に夏は笑みを苦笑に変える。でもそれは苦いだけではなく、どことなく甘い空気も漂っていた。 「恋人ができたんだけど・・・・・あまり広めないでくれるなら教える。・・・・・凄い以外なヤツだから。」
そう告げると小さな声で呟いた恋人という夏の相手はかなり以外な人だった。
*****
「驚き、じゃない?」
「・・・・・言われても、俺は伊藤の兄さんを知らないし、ね・・・・・」
興奮した声で告げる悠里に泰隆は肩を疎めるとただ苦笑する。夕食を食べるとメールで「今から行く」と部屋番を泰隆から聞きだした悠里は会ってすぐに友人の驚きの恋人を興奮したまま告げてくる。今朝振りの恋人との再会より、友人の衝撃の告白の方が悠里の中では大きかったようで泰隆は苦笑しか零れなかった。そんな年下の恋人の幼い顔が赤く上気しているのも、かなり可愛いと思う辺りは泰隆も話半分で聞いている。
「悠里の中では俺との貴重な時間も友人の恋人の話で盛り上がるつもりですか?」
他人の恋路なんて興味がない、と強気で告げる泰隆の前、悠里は興奮していた自分を恥じるかのように俯くから、その頭を撫でてやりながら泰隆はそっと彼を抱き寄せる。
「まだ、話したいなら、止めないけど?」
「・・・・・もう、いい・・・・・・から、もっと、強く・・・・・」
顔を寄せ問いかける泰隆に悠里は胸元へと顔を擦り付けると背中へと腕を回しぎゅっと抱きついてくる。そんな悠里に泰隆は何も言わずに望みどおり悠里をきつく抱きしめると額へと触れるだけのキスを落とした。 そのキスが不満だったのか、顔を上げる悠里がただ瞳を閉じるから泰隆は笑みを浮かべながらも、言葉じゃ伝えられないまだつたない恋人を抱き寄せる手の力を緩めると希望通りに唇へもキスを落とす。 触れ合うだけのそのキスが少しづつ深くなるのにお互い不満なんてなかった。
修学旅行編であります。ちなみに札幌周辺観光できる場所はあるのですが、微妙なのですよ。 年越すの覚悟で続きますのでよろしく♪
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