「・・・・・んっ、あっ・・・・・やっ、も・・・・・む、り・・・・・」
頭を振り小さな声で拒みながら、やけに重い瞼を押し開いた悠里は目の前にある顔をまだ半分しか開いていない目で思わずじっと凝視する。 「おはよう、ごはんはパンと米どっちが良い?」
まだ覚醒には程遠い目覚め半分だというのに気づいているのかいないのか、いつもと変わりない笑みを向けてくる泰隆に次第にクリアになってくる頭の奥に描かれる情景に悠里の顔は赤く染まっていく。
「・・・・・悠里?」
怪訝な声で問いかける泰隆の前、今すぐ布団に潜ってしまいたいほどの昨夜の痴態をはっきりと思い出した悠里はずるずると布団に潜りこもうとするけれど、努力虚しく、寸での所で引き上げられた腕の中、ますます顔も首筋も赤くして俯く悠里を泰隆はただ笑みを浮かべ、まだ反応が鈍いのを良い事に拒まれる前に強く抱きしめてきた。
「・・・・・今更、だろ?・・・・・昨日が特別凄かったんじゃないのに、変な悠里。」
背をゆっくり、と撫でながら告げる泰隆の笑みを含んだ声にも何も返さず、悠里は無言で胸元へと頭を擦りつけた。 規則正しく聞こえる心音に少しづつ落ち着くのを感じた悠里をそのまま泰隆は暫く抱きしめ優しく背を撫でていた。
「どうぞ。・・・・・本当にパンで平気?」
「・・・・・ありがとう、平気。朝はどっちでも大丈夫だから。」
「そうなんだ。それより、本当に無断外泊も平気?」
「・・・・・・まだ、言ってる。・・・・・平気だよ、それに俺女の子じゃないし。」
「でも、やっぱり、俺も行こうか?」
「だから、くどい!・・・・・いらないよ、それに、この時間ならもう出勤してます!」
「・・・・・ああ、そっか。」
何気ない会話に盛り込まれた見え隠れする過保護な意見に、時計を見上げ淡々と呟いた悠里につられて泰隆は時計を見上げると肩を落とし目の前の焼きたてのパンをがぶり、と齧る。 二人で迎える初めての朝に内心少しは落ち着いたけれど、それでもまだドキドキと高鳴る心臓の音が気になっていた悠里はそんな泰隆にただ笑みを浮かべるとつられるようにパンへと手を伸ばした。
*****
「ぁんっ・・・・・もう、だめ・・・・・・!」
「もう少しだけ・・・・・ちゃんと、家まで送るし、ね。」
イタズラな手が折角整えたシャツの隙間から差し込まれるのを必死で拒む悠里の耳元へと泰隆は息を吹き込むように呟きながらもどんどん中へと押し込んでくる。微かに触れた爪先が胸の尖りに触れびくり、と体を震わす悠里に笑みを向けた泰隆はそのまま唇を舌で舐める。 べろり、と食べられそうな程執拗に舐めてくる泰隆にべたべたになった口元を僅かに開いた悠里は隙を逃さず入り込んできた舌に口内を掻き回され、震える足を抑える為につい泰隆の腕を掴んでしまう。
「このまま、ここでする?・・・・・それとも」
「・・・・・ッド・・・・・・ベッド、が良い・・・・・です。」
キスの合間に呟きながらも胸の尖りを今度は爪先で触れるだけに留まらず、指で捏ねだした泰隆に悠里は擦れた声で呟いた。悠里のその返事とほぼ同時に体が一気に持ち上がる奇妙な浮遊感で抱きあがられた事に気づいた時には早足で歩き出した泰隆にベッドの上へと素早く投げ出される。 いきなりかかった体重という重みに悲鳴を上げるベッドの軋む音は大きく響いた。 その音すら気にならない程、泰隆の下、悠里はさっきの続きとばかりの深いキスを何度も繰り返しされながら、胸元どころか全身彷徨いだした手に心奪われていた。
窓から差し込む日は確かに明るい、なのに、そんな爽やかな日の光の差し込む部屋の中には、夜の続きの淫蕩な空気が溢れ出し爽やかとは程遠い別世界を作り上げていた。
「・・・・・んっ、も・・・・・はぁ、ッ・・・・・・」
「もっと、声・・・・・出して・・・・・・」
くちゅ、くちゅと鳴り響く水音は粘り気さえも混じり、濡れた肌の擦れ合う音やベッドの軋む音に消され途切れ途切れに聞こえる荒い息に混じり聞こえる甘い喘ぎ声が部屋を覆っている。すでに奥まで埋め込まれた異物を内壁が自分でも意識しない内に締め付けながらも悠里は泰隆へと手を伸ばす。 すぐに答えて握り返してくる少し汗ばんだ掌に、体全体が熱く昂ぶり、例外なく手も熱いまま悠里は答えてくれた手をぎゅっと握り締める。重なる手は決して渇いてはいないから、耳元でくちゅ、と肌の擦れ合う濡れた音もする。 それでも繋いだ手に力をこめた悠里は与えられた深く長いキスにゆっくりと瞳を閉じた。
「・・・・・泰隆、さん・・・・・もっ・・・・・」
「イきそう?」
低い問いかけに、こくこくと顔を赤く染め、頷く悠里に泰隆は笑みを浮かべると汗で濡れた前髪をかきあげ額へと軽いキスを送る。そしてゆっくりと出し入れしていたモノの速度を早めていく。部屋中に響き渡る濡れた音は更に激しさを増し、ベッドの軋む音と互いの息遣いだけが部屋の中を覆いだした。 悠里はいつのまにか外されていた手を首筋へと回し、激しさを増す泰隆に置いていかれない様にしっかりと縋りつく。 汗で滑り落ちそうなのを爪を立て必死に縋りつき、汗で濡れた泰隆の顔を見上げた悠里は無意識に笑みを浮かべる。 熱が体中を覆い、頭の奥が白くなっていく。 体の奥で溢れ迸る熱を感じながら悠里は自身から生温い精液が腹にぼたぼたと零れ落ちていくのを感じていた。
*****
「この辺、だったよな?」
「大丈夫。ちゃんと、合ってるよ。」
見慣れた流れる景色をやっと目にした悠里へと問いかける泰隆の声に振り向くと笑みを返す。 結局、昼も当に過ぎ、辺りはすっかり薄暗くなりかけている夕方、そろそろ闇が降りてくる時間帯にこうして送り届ける泰隆に苦笑しか浮かばない。 離れ難くて、ベッドに戻ったらそこから抜け出る事も叶わず、とうとうもう何も出ませんという所まで抱かれた結果、気づいたら夕方だった。
「体、平気?」
「・・・・・大丈夫、だと思う。かなり、疲れてるけど・・・・・」
「まだ、若いのに。」
「・・・・・・確かに若いですけど、俺は元々そんなに性欲は、無い・・・・・と思うんだけど・・・・・・」
単に泰隆が絶倫と呼ばれる人の部類なんじゃないかと、内心思いながら答える悠里に泰隆は何も返さずに笑いだした。 見慣れた流れる景色のある場所の前、スムーズに止まった車の横に見えるのは悠里の家だった。
「ありがとうございます、結局送ってもらいまして・・・・・」
「いいよ。・・・・・明日は学校来れそう?」
「・・・・・大丈夫だから、また明日。」
軽く頭を下げる悠里の前でハンドルに手を乗せたまま笑みを返し泰隆は問いかけてくる。鞄を持ち直し、ドアのぶへと手をかけドアを開いた悠里は振り向き笑みを返すと頷き地に足をつけ立ち上がる。
「悠里!」
助手席へと身を乗り出し名を呼ぶ泰隆に立ち上がった悠里は少しだけ屈みこんだ。
「・・・・・・・っ!!」
「また、明日。・・・・・学校で。」
腕を引かれ、別れの挨拶にしてはやけに濃厚なキスの後、笑みを浮かべる泰隆に悠里はもう一度立ち上がると開いていたドアを勢いをつけて閉める。バタン、と音が出るほどほぼ叩きつけたドアの向こうで泰隆は笑みを浮かべると手を上げる。軽快なエンジン音を轟かせ走り去る車を悠里は立ち尽くしたまま、暫くぼんやりと眺めた後、唇を袖で拭いながら背を向ける。
見慣れた自分の部屋で鞄を放り投げ、制服から私服へと着替えた悠里は携帯を取り出した。 タイミング良く鳴りだす携帯を開くとメールが来ている。中を開いてマメな男の姿を思い出し笑みを浮かべた悠里は返事を返すために携帯を持ち直し、ベッドへと座りこむ。 別れたのはほんの数分前なのに、また会いたくなる胸の高鳴りが止まらないまま悠里は携帯を片手にベッドへと倒れこむ様に横になり、止まらない笑みを浮かべる。 実感なんて湧かない、だけど、昨日も今日も体の全てに触れられ、まだ火照る体はすぐにでも記憶を呼び覚ます。思い出すだけでますます熱くなる体を抱きしめた悠里は溜息を吐く。
「・・・・・恋人、か・・・・・」
ぼそり、と呟き、顔を赤くした悠里はベッドの上で一人悶える。誰かに見られたら怪しさ倍増だと自分でも思うのに緩む頬が止められない。耳元でキスの後囁かれた言葉を思いだし、悠里はますます顔を赤くすると、暫く一人でごろごろとベッドの上を転がっていた。 『好き、だよ。悠里』
何度も囁かれたその言葉が、悠里の心の奥深くに浸透してくる。待ち望んで、それでも一度も心に響いてこなかったその言葉が昨日も今日も何度も告げられたのに、全て宝物の様に温かくて愛しい。
「好き、だよ・・・・・泰隆さん。」
本人に面と向かって言えるのは、まだ無理だけど、口に出すだけで笑みが零れてくる。悠里は止まらない笑みを隠す事なく一人ベッドの上、携帯を手に悶えていた。それは暫く続いていた。
ラブ全開を目指してここまで来ました! 今回は書いてて、こんなん違うと思いながらも止まりませんでした。 それではまた次回で。
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