窓から差し込む日が完全に落ちてしまい廊下を照らす蛍光灯と薄っすらと入ってくる月の光に包みこまれた屋上へと続く階段に座りこんだまま悠里は泰隆の腕の中、下校の音楽が途絶えるのを聞いた。
「・・・・・どうする?」
暫く続いた沈黙を破り、ぼそり、と呟く声に胸元から顔を上げる悠里へと顔を向けた泰隆はをその顔に笑みを浮かべたまま問いかけて来る。
「先生?」
「・・・・・先生、は止めろよ。立って、とりあえず職員玄関から出れるはずだから、ほら、帰るぞ。」
「帰る、って・・・・・」
手を引かれ立ち上がり悠里は眉を顰めると泰隆の言葉に瞳を伏せる。
「いつまでも学校にいたら俺はともかくお前はやばいだろ。・・・・・だから、さっさとここを出るぞって言ってんだよ。何、想像してんだよ?」
「・・・・・別に、何も・・・・・」
繋いだ手を離そうとしないまま落ちた鞄を立ち上がる時にすかさず拾った泰隆は戸惑う手を引き、階下へと続く階段へと足をかける。
「・・・・・泰隆さん!」
「悠里、何して。」
引いた手を逆に強く引き返し名を呼ぶ悠里に泰隆は驚いた顔を向け呟く。真っ直ぐに見つめる視線に階段へとかけた足を踊り場へと戻した泰隆は踊り場から一歩も動こうとしない悠里の顔をそっと覗き込む。
「何?・・・・・急ぎ?」
「俺、俺は・・・・・」
不安な声音を隠せないまま小さく呟く悠里へと笑みを向けた泰隆は繋いだままの手に力をこめる。
「このまま、さよならにはしないよ。ちゃんと家までも送るし・・・・・だから、とにかくここから出るぞ。分かった?」
有無を言わせない断言の言葉を続けると、泰隆は手を引き階段を降り始めた。 急な階段をかなりの速度で降りていく泰隆に悠里は何も言えないまま着いていくだけで精一杯で、そのまま昇降口で靴を取ると職員玄関へと促される。
「悠里、これ」
手に持った靴を下に置くと自分も座りこみ靴を履きだした悠里の横へと泰隆も座りこむ。片手を取られ不思議そうに顔を上げる悠里の前でその掌の上にちゃりんと落とされたのは鍵だった。
「家まで送るって言っただろう?」
「・・・・・これ、車の鍵?・・・・・でも、俺・・・・・車、知らないよ」
手の中に落とされた鍵を握り締め呟く悠里に泰隆は笑みを向けると外が見える玄関の前で手招きをする。
「ほら、角にあるあの黒い車。わかる?・・・・・その鍵についてるボタン押したらライトが点滅するからやってみな。それが俺の車、帰り支度済ませたら俺もすぐ行くから、中で待っといて。」
外へと指をさし、鍵についてる丸いボタンまで差す泰隆にこくこくと頷いた悠里は鞄を持ち直すと一人外へと出る。まだ中にいる泰隆はそんな悠里に手を振ると自分も帰り支度をするためなのか背を向けると足早に来た場所を戻っていく。 少しだけその後姿を見送った悠里はすっかり薄暗くなった外の空を見上げる。 星はあんまり見えないけれど月は煌々と輝いている、少しだけ肌寒いと思える冷たい風が吹いている中、悠里は教えられた車の傍へと急いで走り寄った。
*****
「ごめん、待たせた?」
がちゃり、と開くドアと共に顔を覗かせた泰隆に悠里は椅子へと寄りかかっていた身を起こすと首を振る。 滑りこむ様に入って来た泰隆はそんな悠里に笑みを向けると彼が差し出した鍵を受け取った。ブルルッ、振動音と共にかかる車のエンジン音が暗闇に響き渡る。
「・・・・・泰隆、さん?」
「大丈夫。ちゃんと家まで帰すし。」
ハンドルを握り締め闇を見つめる泰隆に悠里はおどおどと名を呼ぶけれど、向けられた笑みと返された言葉に黙り込む。笑顔に全てを隠している様で話しかけても答えてくれそうも無い雰囲気が泰隆から漂ってきて、悠里は思わず抱えた鞄を更に強く抱きこんだ。 「・・・・・車、で来てたんだね?」
「え?・・・・・ああ、駅から家が離れてるからね、車の方が結構便利なんだよ。」
流れる景色を眺めながらぼんやり呟く悠里に泰隆は真っ直ぐに前を見つめたまま答える。その口元に浮かんだ笑みは相変わらず何を考えているのか読めないままで、悠里はすぐに外へと視線を戻した。 おかしい、と思ったのはそろそろ走り出して30分も経つのに相変わらず住宅街に辿り着かない外の景色に気づいてからで、悠里は泰隆へと視線を向ける。 だけど中々切り出せないまま見つめる悠里の向ける顔に気づいた泰隆は信号待ちで車を止めると顔を向けてくる。
「・・・・・何?」
「え、っと・・・・・俺の家、そんなに遠かったかな、と。」
「電車と車なら断然電車の方が早いだろ?・・・・・でも、今は悠里の家に向かってないから。」
「・・・・・・はい?」
「ちょっと、寄っていかないか?・・・・・まだ、遅くはない、だろ?」
その言葉に身を竦ませる悠里に気づかなかったのか泰隆は信号が変わったのに気づくと車をまた動かしだした。 狭い車内、気のきいた会話一つない気まずい雰囲気が続いているのに、泰隆の考えがますます分からなくて悠里は鞄を抱く手に更に力をこめると俯いた。
「ほら、上がって!」
扉を大きく開き先に靴を脱ぐとすたすたと歩いていく、ある意味マイペースな泰隆に戸惑いながらも悠里は急いで靴を脱ぐと後に続く。昔、何度も訪れた場所のはずなのにかなり緊張しているのか、悠里は抱えた鞄をそのまままだ戸惑いが隠せないまま歩く。
「適当に座ってて。今、何か、飲むもの探してくるから。」
ネクタイを外し、背広を脱ぐと背を向ける泰隆に悠里は慌てて口を開いた。
「泰隆さん!・・・・・どうして、ここに?」
「・・・・・迷惑だったか?」
「え?」
「真っ直ぐ家に帰すべきだったか?・・・・・帰りたい?」
足を止めると呟き体を向け問いかける泰隆に悠里は立ち尽くしたまま首を傾げる。 戸惑う悠里の前まで足早に近づくと問いかけながら顔を覗き込んできた泰隆の顔からは笑みは消え、あまり見た事の無い真剣な目を向けられる。
「・・・・・帰りたい、って言ったら帰してくれるの?」
見慣れない真剣な瞳が全身を突き刺している様でますます身を小さくしながら呟く悠里から少しだけ瞳を逸らした泰隆は一瞬後、すぐに手を伸ばし悠里を引き寄せそのまま強引に抱きしめてくる。
「・・・・・っない!・・・・・・帰さないよ、悠里!!」
腕の中抱きこみ耳元で繰り返し囁く様に呟く泰隆に悠里は顔を胸元へと押し付ける。
「なら、帰さないでよ、先生。」
顔を押し付けたまま呟く篭った声に泰隆はその背を撫でながらもう一方の手で悠里の顔を上げるとゆっくり、と顔を近づけてきた。裏も表もない、何も考えなくて良い温もりが唇に触れるその瞬間、悠里はそっと瞳を閉じる。
*****
キスもSEXだって何度もしたのに、違いは一つ、互いの想いがあるだけで行為が変わるなんて悠里は知らなかった。 たった一つ、「好き」だって互いに告白しただけで、触れられる唇、手、体全体がすぐに熱を持つ。 何度も触れ合う唇が熱を持つのも、互いの体に触れ合った手から伝わる温もりが温もりなんて生易しい言葉じゃ現せない程の熱を持つ。 たった一つの言葉、それだけで。 「・・・・・・っあ。やすっ、た・・・・・んんっ・・・・・・」
「悠里。声、我慢しないでいいから・・・・・もっと、聞かせて。」
「・・・・・やっ、ああっ・・・・・!」
当に脱がされ素肌を晒し、両足の間に体を挟め、喘ぐ悠里の胸元へとキスを何度も落としながら泰隆は下肢へも手を伸ばしている。まだ下着をつけているそこへと熱心に布越しに触れてくる手は悠里の熱をただ煽る。
「・・・・・泰隆、さん・・・・・もう・・・・・」
「まだ、直に触れてないのに、パンツ濡れてるね。」
「・・・・・・んあっ!!」
首筋を赤く染め、頭を振る悠里へと体を摺り寄せ囁く泰隆の声に背筋がぞくぞくする。更に硬く主張する自身を握りこまれ悠里は泰隆へと震える手を伸ばし、肩を掴み溺れるものが藁を掴むその勢いで背へと腕を回すと滑らかな素肌に爪を立てる。
「・・・・・っ、悠里!」
「ダメ、もう・・・・・だから・・・・・んっ・・・・・」
眉を顰める泰隆の顔に自分の顔を摺り寄せ泣き声にも似た声で呟く悠里の唇はすぐに塞がれ、熱を持った舌が素早くに入り込んでくる。口内を長い舌が歯列を辿り、逃げる舌を捕まえ絡み取りながらも下肢へと触れる手はついに下着の中まで入り込んできた。親指の腹で先端を擦られ、全体を揉まれ扱かれる。口はキスで塞がれ、飲み込み切れない唾液が顎を伝い肌へと零れ落ちる。
「・・・・・・んん、んぁ・・・・・」
熱が今にも溢れだしそうで隙間から声を漏らす悠里に泰隆は唇を離すと耳元へと唇を寄せてくる。
「いいよ、イっちゃって。」
低いその呟きに堪えきれない欲望が温もりに包まれ達するのを次第に白くなっていく頭の奥で悠里は感じていた。
やっとここまで?・・・・・でも、久々Hは甘すぎです。
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