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「・・・・・んぁ・・・・・っんん・・・・・んっ・・・・・・!」
両足を広げられただされるがままに堪えきれない声を零す悠里に泰隆は顔を近づけると唇を塞ぐ。
体勢を変えたからかぐちゅり、と濡れた音がやけに艶かしく静かな部屋に響きびくり、と体を震わせる悠里の腰へと腕を回し抱きこみながら泰隆は更に腰を進める。
熱く更に体内で膨れる肉の塊に奥をがつがつと突かれるたびに濡れた音は激しくなり、肌の擦れ合う音も聞こえてくる。
膨れ上がる欲望を体の奥で感じながら、熱を持つ自分自身からもぽたぽたと肌に触れる先走りに気づき、悠里は堅く閉じていた瞳をゆっくりと押し開いた。
冷めた瞳、だけどその奥でゆらゆらと湧き起こる熱に気づき、目が合った瞬間、反射的に瞳を逸らすと悠里は揺らされるがまま、ぼんやりと目の端へと映った床へと視線を向けた。
「・・・・・んっ!!」
体内で吐き出された熱を受け止め呻く悠里に構わず、泰隆は最後の一滴まで搾り出すかの様に強引に腰を押し進める。
最奥から一気に引き抜く泰隆に悠里はぶるり、と身を震わせるが、手足を動かす力も無いのか、そのまま机の上、横たわっていた。
ほとんど裸に近い格好で机に投げ出された体は窓から差し込む光で所々が卑猥に光っている。
両足の隙間から流れ落ちる白濁の液に気づいた泰隆は簡単な身支度をしながら行為の後がありありと出ている卑猥な姿の悠里へと目を遣る。
目線を合わせようとした泰隆に気づくと気だるい体をゆっくりと起こした悠里は床へとそろそろと足をつけると何も言わずに制服を着こんでいく。

「・・・・・そのまま着て、制服大丈夫なのか?」
「問題ありません。・・・・・もう、行ってもよろしいですか・・・・・用は無い、ですよね?」
他人行儀な態度も相変わらずな悠里に泰隆は苦笑を浮かべるとただ頷く。
簡単に制服を着込んだ悠里はおざなりに頭を軽く下げるとそのまま歩きだす。
「ねぇ、最近態度が更によそよそしくないか?」
目の前を通り過ぎる悠里の腕を引き、確かめるように問いかける泰隆にそれでも悠里は顔を上げて彼を見ようとはしないまま唇を歪める。
「気のせい、じゃないですか?」
「・・・・・よそよそしく相手すれば俺がすぐ飽きるとか思ってる?」
問いかけにびくり、と肩を揺らし悠里は唇を噛み締める。
背後で微かに空気が変わるのを感じ、掴まれた腕を離そうとする悠里は簡単に引き寄せられる。
「・・・・・あの、行かないと・・・・・・」
震えそうな声を抑えるから、更に小さくなる呟きに構わず泰隆は俯く顔を強引に上げてくる。
伏せた瞳の上の睫毛が小刻みに震えるのも、内心漠然と襲いかかる恐怖で震えそうな体をも押し殺し悠里はそっと息を吸うとそっと両の手を握り締め油断すればがくり、と力の抜けそうな足へと力をこめる。
「質問に答えてから行けよ。・・・・・よそよそしい態度で線を引いたからって、俺がお前を手放すとでも?」
「・・・・・そんな事、考えていません。これは、僕の方の問題だから、先生には関係ありません。」
「何だよ、それ。・・・・・メールじゃ普通なのに、会うといつもこれ・・・・・いい加減他人行儀は止めないか?」
呆れた呟きに唇を噛み締める。
何を言っているのか分からないまま悠里はただ頭を振る。
口を開けば泣きそうな程気持ちが高揚してくる自分を感じていた。


*****


隙を窺い腕を振り払い、走り出した悠里はそのまま教室を出ても暫くは走っていた。
静かな廊下に響く自分の足音がやけに響いて、はぁはぁと荒い息を零しながら悠里は勢いで上がった階段の踊り場でやっとずるずると座りこんだ。
屋上へと続く階段には立ち入り禁止の屋上のおかげか滅多に人が来ない。
いい穴場にもなるけれど、逆に穴場だからやばい時もあるけれど、もう放課後、時間も遅いし窓から差し込む日も落ちかけているから大丈夫だと確信すると悠里はそのまま顔を立てた膝へと押し付けた。
自分の膝の布越しに伝わる温もりに堪えてきた感情が零れそうになる。
憎い人、嫌いな人、再会した時から自分の中に位置づけた彼の存在。苦手な人じゃなくて嫌い、忘れたい人じゃなくて忘れ難い憎い人。そう思わないと悠里は泰隆と二人きりでなんていられなかった。
泣いて泣いて、涙はそれでも枯れなくて、たかが「失恋」だと言い聞かせてきた日々を思い出したくなかったのに、立ち入りたくなくて線を引いたのに、真っ向から否定されると、悠里の一人よがりだと本当に強く思う。
再会した悠里は便利な玩具、泰隆の中でそう位置づけられている気がして本当は怖かった。
脅迫めいたメール、撮られた卑猥な画像に諾々と従う自分でいる事、決して彼を知ろうとも知りたいとも思わない、二度とバカな自分に戻らない。何度も言い聞かせたのに、こんなに言い聞かせているはずなのにどうして上手くいかないのかと、唇を噛み締めた悠里は聞こえてきた足音に顔を上げた。

落ちかけてきた日は窓から最後の光を放ちゆっくり、と上ってくる人の姿もぼんやりと光に紛れ、悠里はこくり、と唾を飲み込んだ。
「・・・・・どうして、ここに・・・・・」
「帰った形跡がなかったから・・・・・鞄、教室に置きっぱなしだったし。」
持ち上げたその手に見覚えある自分の鞄があり、悠里は立ち上がると階段へと足をかける。
「・・・・・わざわざありがとうございます。・・・・・言われなくても、もう帰るつもりでしたから。」
「それで、逃げるのか?」
手に持たれた鞄を受け取ろうと伸ばした手を避けると、すぐ傍へと顔を近づけ呟く低い声に悠里は彼を見上げる。
何度も瞬きを繰り返し、相変わらず笑みを浮かべたその顔からは何の感情も読み取れずに悠里は見上げたまま、言われた言葉を頭へともう一度響かせる。
「先生?」
「また逃げるのか?知らない、見ない、聞かない・・・・・そのままで良いのか?」
「何を・・・・・。」
戸惑いながらも目を伏せる悠里の前、泰隆は不安定な階段という狭い場所から踊り場へと足を踏み入れた。
「取りに来いよ、お前の鞄。」
階段から離れると窓の傍に立った泰隆はまだ呆然と自分を見る悠里へと曖昧な笑みを返し鞄を持ち上げる。
言われるまま踊り場にもう一度戻ると悠里は泰隆へと近づいてくる。

一歩ずつゆっくりと足を踏み出す悠里の前泰隆は鞄を持ったまま、窓の傍の壁に寄りかかり動こうとしない。相変わらず何を考えているのかさっぱり分からない、けれど、警鐘が頭の中で鳴っている気がして悠里はほんのわずかの距離を進めず足を止める。近づいてはいけない、そう本能が言っている気がするのに、悠里は重い足を動かした。


*****


「鞄、ありがとうございました。」
ほんの少し離れた場所から手を伸ばし受け取ろうとする悠里に泰隆は微かに目を細めると鞄に触れかけた手を強引に引き寄せた。
「・・・・・先生!?」
「その呼び方、凄く変、『先生』だけど、間違ってないけど・・・・・イラつく。」
戸惑う声に構わず引き寄せた手へと力をこめ更に体を近づけた泰隆は悠里の耳元へと呟いた。
呟く声でかかる息にびくり、と肩を疎めた悠里を更に強く引き寄せた泰隆はそのまま強引に唇を塞ぐ。
息さえ奪うかの様な強引なキスで、酸素を求め勝手に開いた口の中に勝手に入り込んできた舌は歯列を擦り、口の中をひとしきり撫で回し、逃げ惑う舌を絡め、唾液を啜る。
「んっ・・・・・んんっ・・・・・っ!!」
腕の中、それでも身動きする体を強引に抑えこんだ泰隆は呻く悠里へと長く深いキスを送り続ける。深く、長いキスはずっと続いている。もうほとんど支えられて辛うじて立っている状態の悠里は微かに聞こえた重いものが落ちる音でやっと唇を離される。息継ぎすらまともに出来なかった悠里の荒い息を聞きながら泰隆は腕の中へと目を向ける。濡れて潤う瞳は伏せられ、激しいキスの名残を思わせる濡れた唇の端から、飲み込みきれず零れた唾液が流れていた。指先を伸ばし、唇を拭う泰隆に悠里はされるがままだけれど決して顔を上げようとはしない。
「どうして、こんな・・・・・」
「逃がさないって言わなかった?どこにいても、離す気は無いよ。」
腕の中から逃れようとする悠里に泰隆はその腕を簡単に離しながらそれでも呟く。力無くずるずると床へとそのまま崩れ落ちた悠里はそれ以上何も言わず辛うじて床へとついた手をぎゅっと握り締める。
微かに眉を顰めた泰隆の顔は当然悠里には見えなかった。

「そろそろ、下校の時間、か。」
話を逸らしたのか、ただ呟いただけなのか、泰隆のその声とほぼ同時に下校の放送が流れ出した。
無言のまま、ゆっくりと立ち上がる悠里は床へと落ちていた鞄を手にするとそのまま階段へと近づいた。
「悠里?」
「帰ります、さようなら・・・・・先生。」
軽く頭を下げ階段を降りていくその背を泰隆は暫く眺めると頭を振り微かな溜息を吐いた。
差し込んでいた日はとっくに沈み空はどんよりと薄暗くなっていた。


進まないのは計画性の無い私のせいか。散々悩んでこれですか?
次回こそと書くのは止めておきますがまた次回!

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