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ピピッ。ピピッ。
電子音が微かにしてポケットの中で震える携帯を取り出し中を確認する友人の眉がどんどん顰められていくのをぼんやり眺めた伊藤夏は覗き込もうと少しだけ身を寄せた。
「・・・・・何?!」
「いや、ちょっと気になってさ、だって眉間に皺が寄ってきてるし・・・・・何、変なメール?」
「・・・・・そう、かな?・・・・・いつもの迷惑メールだよ、受信拒否してるのに・・・・・」
眉間を擦りながらも、素早く閉じた携帯をポケットにしまうと苦笑を浮かべ答える友人に夏は「俺もあるよー!・・・・・本当に迷惑だよな。」と話を返すしか無かった。
前は穏やかで常に笑みを浮かべていた友人に妙に溜息が多くなったのはいつの事だろうと夏はぼんやりと考えだした。
夏の友人、滝沢悠里は今も増えた溜息を微かに漏らし夏と視線が合った途端に曖昧な笑みを浮かべた。

「いつから、かな?・・・・・最近滝沢本当に溜息多くない?」
久しぶりの友人との帰り道、送られてきたいつものメールを見てつい眉を顰める悠里に夏は首を傾げ思った疑問を口に出す。何度も訴えかけてきた視線には気づいていたけれど、面と向かってまじまじと言われたのは、これで二度目だと思いながらも話す気は無い悠里の曖昧な笑みに夏は諦めの溜息を吐くと黙り込んだ。
「そういえばさ、いつからの知り合い?」
「・・・・・誰が?」
「永瀬先生!・・・・・メル友なんだろ?」
話を変えようと振ってきた夏の疑問に悠里はかなりタイムリーな話題に笑いだした。
「ち、ちょっと、何、笑ってんだよ・・・・・俺、おかしな事言ったか?」
「・・・・・ごめん、ちょっと・・・・・別にメル友ってほどでも無いよ。・・・・・ただ顔見知りってだけ。」
「滝沢、兄貴とかいたか?」
「いないよ。・・・・・そうじゃなくて、元家庭教師と元生徒。それだけだよ。」
「・・・・・それだけ、って・・・・・」
いつの時代の家庭教師だったのか、当然夏には分からないけれど、家庭教師だった先生をただの顔見知りだときっぱり断言する悠里に夏はどこか納得いかない疑問を持ちながらも「そうなんだ。」と相槌だけを打った。
何となく、ただの勘だけど、それ以上、『永瀬先生』について悠里が話す事はないだろうと思った夏はがらりと話題を変えた。そんな夏に悠里は内心深く謝りながらも友人の心遣いに乗る事にした。
今はまだ、多分これからも話せる事はないだろう、と思いながら。


*****


「・・・・・いつまで、続けるんですか?」
不意に上からひっそり、と呟く様に問いかける小さな声に泰隆は顔を上げる。
疑問が顔に出ていたのか、悠里は大きく息を吸い込むともう一度口を開いた。
「だから、こんな事、いつまで、続けるんですか?」
「・・・・・飽きる、まで?」
少しだけ迷ったのか、いきなりの問いかけに驚いたのか微かに首を傾げる泰隆の答えに悠里は眉を顰めると顔を逸らした。行為の最中に話しかける事なんて、最近は全く無かった悠里の変化に泰隆は一瞬だけ悠里を見上げ何か言おうと口を開きかけたが、もうこちらに視線を向ける事すら無いのを悟り目の前で自己主張を始めたモノへと意識を戻した。
生温い温もりが先から周りへとつつっと這いだし、先端へと到達した温もりに包まれ、少し堅い皮膚に生温いモノが触れない場所を擦られ悠里はびくり、と身を震わせる。
始まってしまった行為を無理に広げられ、目を開くと見える自分の足をぼんやり眺めながら悠里は唇を噛み締める。
気を抜くと漏れそうになる声を抑え、抗い難い欲望を必死に拒むのはいつも最初だけだと自分でも分かっている、見えなくても何をされているのかも分かっている、耳を塞ぎたくなるぢゅっぢゅっと先端を吸われる濡れた卑猥な音、篭りだす体の中を駆け巡る熱、そんな全てから解放されるのは早い方が良いと思いながらも、自分は呼ばれればまたのこのことここへ訪れ、そして後悔だけが山の様に溜まっていくのも分かっている。
まともに取り合おうとしない泰隆の態度に悠里は唇を噛み締める歯に更に力をこめる。

「んっ・・・・・っく・・・・・んぁ・・・・・・」
堪えきれず溢れ出る声を噛み殺し、耐える悠里へと顔を近づけてきた泰隆は舌で固く閉じた唇をひと舐めすると、強引に口を割ろうとする。そうしながら口付けてくる唇を拒む事を許されないまま悠里は息苦しさに口を開いた。
隙を見逃さず、滑りこんできた舌に口の中を掻き回されながら、頭を手で押さえつけられ身動きを取る事すら出来ずに深いキスを受け入れる。口内を好き勝手に動き回る舌に捕らえられた舌を強く吸われ、飲み込みきれず溢れた唾液が口の外へと零れだす。息さえ上手く出来ずに、キスをしながら咽る悠里に泰隆はやっと唇を離すと零れた唾液を唇で啜った。はぁはぁ、と胸を動かし荒い息を吐く悠里に泰隆は軽く唇を押し付けると、両手を背に回し抱きしめてきた。
「・・・・・何?」
「ねぇ・・・・・止めたい、の?」
いきなりの行為に戸惑い擦れた声を零す悠里に泰隆は胸元に顔を押し付けたまま問いかける。ゆっくり、と顔を上げる泰隆に悠里はこくり、と唾を飲み込むと飲み込み切れない言葉の意図を探す為に泰隆へと視線を向ける。
「・・・・・止めてくれるんですか?」
「まさか、聞いてみただけだよ。・・・・・それに前にも言っただろうけど、悠里の意思は関係ないから。」
これは俺の意思、そう断言すると笑みを浮かべる泰隆に悠里は眉を顰める。眉間に寄せた皺へと唇を近づけた泰隆から逃れようとした悠里はその体を押さえつけられ強引に押し付けられた唇にびくり、と体を揺らした。
「逃がさないよ、此処から、俺の傍から。」
耳元へと低く呟いてくる声に背筋を冷たい汗が流れ落ちるのを感じながら悠里は固く瞳を閉じる。


*****


口の中で更に膨らむ欲望を必死に銜えこみあいている場所を手で擦りながら舌を這わせ唇を窄め啜ったりする悠里の頭を大きな手が撫でるように触れてくる。
「もう少し、奥に入るだろ?・・・・・そう、それで、そう、良い感じ。」
髪の毛を指へと巻きつけながら告げる低い声に習う悠里に泰隆は笑みを浮かべる。じゅっじゅっと濡れた音、溢れ出た唾液で口の周りを汚しながらも奉仕する幼い顔に嗜虐心が湧いてくるのを必死に堪え泰隆は背を背もたれへと押し付ける。ぎぎっ、と軋む椅子の上、目の端へと映った携帯を手に取ると、言われた通りに事を進める悠里の姿をフレームへとおさめる。ジジッ、ピッと何度も聞こえてくる機械音に離そうとした口を頭を押さえつけられ止められ、悠里は目の前にいつものレンズを向けられているのに気づく。
「続けろ!早く!」
低い声で呟く泰隆の声は少しだけ熱が篭っていて、もうすぐなんだと悟ると視界に映るレンズから目を逸らし、悠里は再び唇を動かしだした。先端を突き、零れ出る先走りの液を啜り、手で擦る。言われた通りの行為を繰り返し、そして口の中大きく膨れ上がり熱を持ち硬くなる欲望へと一心不乱に舌を擦りつける。
頭を力強く引き、喉の奥に吐き出される欲望の証に悠里は目を閉じ、口の中ねっとり、と絡みついてくるその液体を必死に飲み込む。ずるり、と引き抜かれる欲望はまだ力を失ってはいなくて、口の中にいたからなのか光に反射してどす黒くてらてらと光っていた。

床へと座りこみ肩で忙しなく息をする悠里へと泰隆は手を伸ばしてくる。
怪訝な顔で見上げる悠里へと苦笑を浮かべると腕を取り彼を引き寄せ椅子の上へと乗せる。
「・・・・・吐き出せば良かったのに、飲み込めとは言ってない。」
「先に、言って下さい。」
まだ違和感があるのか、しきりに唾を飲み込む悠里へと顔を近づけると泰隆はその唇へと舌を伸ばした。苦い、覚えのある味、独特の匂いすら嗅ぎ泰隆はそのまま悠里へと唇を押し付ける。
「自分の味、って微妙。」
唇を離し呟く泰隆に悠里は口元を少しだけ緩めたけれど、そのまま目を伏せる。腰へと回していた手で悠里の体を引き寄せると泰隆はまた唇を近づけ舌を伸ばす。
戸惑った顔で泰隆を見たけれど悠里はそのまま瞳を閉じるから泰隆は唇を押し付けると薄く開いた唇の中へと舌を差し込んだ。ぎしり、と軋む椅子の上で、それから何度も深く唇を触れ合わせた。腰へと回していた手に力をこめてくる泰隆に悠里は躊躇いながらも肩へと触れた手をそのままにしていた。
ただ受け入れる先に見える欲望に飲み込まれる自分を少しでも引き止めたい悠里の希望があっけなく崩れ落ちていくのはもうすぐだった。


進まない、やばいくらいに進みません;
でも今回はここまで、次回こそ・・・・・進むのか?

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