ひっそり、と静まった教室に微かに机の軋む音と荒い息遣い、それから本当に微かに何かの擦れ合う音が響く。
「・・・・・っく、んんっ・・・・・んぁ・・・・・」
机に爪を立て止められない声を必死に噛み締める悠里に構う事なく泰隆は最後の瞬間に向かい腰を大きく振る。 ぱんぱんと激しく肌がぶつかり合う音が出るほどの突き上げをされ、中のモノが更に熱を持ち膨れ上がるのを感じた悠里は閉じた目に力をこめる。 唇を噛み締め机へと立てる爪さえもかしかしと乾いた音をひっきりなしに鳴らす悠里の上で微かに泰隆が呻いた。 同時に体の奥、吐き出され広がる熱に煽られ悠里自身も熱く滾る欲望を押し出していた。
先ほどまでの熱い交合さえも感じられない涼しい顔で淡々と身支度を終えた泰隆はまだ気崩した制服姿の悠里へと目を遣るが無言のまま部屋から出て行く。 ぴしゃり、と閉められたドアの音に悠里はやっとのろのろとだるい体に鞭を打ち崩れた制服を直すために立ち上がった途端に眉を顰める。 足の間を伝う不快な感触。 目にしなくても分かる、吐き出された欲望の証を何とかする為に制服のポケットから取り出したウエットティッシュのパックを手にした悠里は微かに自嘲の笑みを零す。それでも手早く処理を済ませると元の通り制服を着込んだ悠里はそろそろと教室を出ると真っ直ぐに近くにあるトイレへと向かう。 個室に篭り、おざなりの処理をした場所を今度は更に念入りに綺麗にすると悠里はもう一度制服を着込むと便器に座り、妙に不釣合いな溜息を吐いた。
鏡の前でもう一度身支度を整えると悠里は大きく深呼吸を繰り返す。 俯き胸に手を当て何も無かったのだと心中言い聞かせた悠里は顔を上げると軽く両の頬を叩く。 教室へと向かう足取りはそれでも重く、溜息だけは尽きなかった。
*****
無理矢理体を繋げたあの日、意識を取り戻した悠里の目に映った携帯に残された痴態は消したはずだった。 家に帰って知らないアドレスから届いた携帯のメールを見るまで本当に単純で忘れっぽいと常々言われているだけある悠里の頭の中では勝手に記憶の隅に追いやられていた。 なのに、届いたメールに添付されていた画像を見た時、忘れていた記憶を起こされた。 淡々と身勝手な文が書かれていたのを読み進める内に、手に持つ携帯を投げ出したくて堪らなかった。逃げられない、あの時確かに携帯に映し出された画を見ながら思った事、それが真実になるなんて本当は想像すらしていなかった。 泰隆の気持ちも考えすら見えないまま、あの日からメールで呼び出される。 もし行かなければ「痴態をばらまく」そう、脅され仕方なく触れたくも無い人の腕の中、快楽に耽る自分。 嫌だ、そう思うのに、触れられれば体は反応する。 散々教え込まれた体の隅々まで知っている男の手管に陥落した自分をどうにかしなければ、そうも思うのに、悠里は行動を起こすきっかけすら見当たらない自分に今は溜息しか零れなかった。
「今日は趣向を変えてみようか、いつも同じじゃつまらないだろ?」
二人きりでの部屋でのいつもの行為を始めようとした時、泰隆は初めて口を開く。 常に人受けする柔軟な笑みを口元に湛えるその姿からは、まさか目の前の生徒を脅している男だとは誰も思わないだろう、と悠里はぼんやりと思う。
「・・・・・・何、を・・・・・・」
擦れた声で呟く悠里の前で泰隆は部屋に来たときから手にしていた紙袋を引き寄せ中から何かを取り出した。 目にするのは初めてだった。 悠里だって年頃の男だし、友人達とアダルトビデオの一つも見ている、だけどソレを直に見るのは初めてで思わず泰隆を伺う様な表情を顔に浮かべたまま見上げる。
「もちろん、使い方は知っているよな?・・・・・もうすぐ昼休みが終わる。次の悠里の授業は自習でね、俺が見るんだよ。」
笑みを崩さないまま続ける言葉に悠里は思わず喉を鳴らし後ずさる。 そんな悠里の腕を引き寄せた泰隆は「面白い趣向だろ?」と耳元へと呟くとそのまま机の上へと押し付けてくる。
「・・・・・っ!!やめ、それだけは・・・・・」
「俺に意見できる立場にいないだろ!・・・・・・大丈夫、楽しませてあげるから。」
体の下でもがく悠里を押さえつけたまま泰隆は下半身へと手を伸ばしてくる。 器用にベルトを外す金属音の後ずらされた下着に隠されていた場所へと冷たいものが塗りつけられる。 いつのまに用意されていたのか分からないその手際のよさに驚きながらも悠里はまだ諦めずもがくのに体重をかけられ押さえつけられている体は自由にならなかった。
細く長い指に体の中を掻き回されその違和感に泣きそうになりながらも悠里は唇を噛み締める。 最初から冷たい液体で濡らされた体はすんなりと指を受け入れ、異物が入った時に感じる痛みは全く感じられなかった。 それでも拒もうと体を動かす悠里をしっかり抑えつけたままの泰隆は指の本数を増やしていく。 ぐちゃぐちゃと卑猥な水音が耳に聞こえ、中を掻き回され、生理的な反応を示したまだ下着に隠されたままの悠里自身の先がじんわりと濡れていく。
「嫌だ、嫌だと言っているのに、相変わらずここは正直だね。」
音を鳴らし掻き回していた指を秘孔から引き抜きながら下着越しに自身を捕まれびくり、と身を震わせる悠里の耳元で泰隆は笑みを混ぜながら話しかける。耳元にかかる息でさえ悠里の性感を刺激して唇を噛み締めた悠里は何も言わずに泰隆へと顔を向けようとする。
「もうすぐ、だから、我慢しろよ。」
柔らかな声の後、硬く冷たい何かが指の抜けた場所に入り込んできて悠里は噛み締める歯に力をこめる。 ずぶずぶと潜りこんでくるそれには柔らかさも熱さもなくただ無機質な紛い物。 指一本よりも大きいけれど泰隆のソレより小さいモノ、そんな事を思う余裕がどこかにある自分に悠里は内心嘲笑するけれど、全て収まったのか泰隆が体を放す。 それでも机に身を預けていた悠里は突然襲ってきた衝撃に身を震わせる。
「そんなに大きくないし、振動も小さいから問題は無いだろ?」
「・・・・・・っ、やっ・・・・・とっ、て・・・・・」
「これが今日のメイン。授業の間、ずっとつけてな。落としても周りに気づかれても困るのは悠里だ、そうだろ?」
話しかけてくる声に反論する気力もないまま襲ってくる波に悠里はただ唇を噛み締める。 そんな悠里の下半身を元の通りに戻した泰隆は「授業はさぼるなよ」と言い捨てると部屋から出て行く。 同時に聞こえてきた予鈴に悠里は渋々立ち上がると違和感たっぷりの下半身を気にしながら教室へと歩き出した。
*****
「今日は自習なのでプリントを預かりました。前から配りますので最後に提出してください。」
いつも浮かべている柔和な笑みのままプリント片手に言葉通りに教室に入って来た男を見上げ悠里は唇を噛み締める。 微かな振動音が誰かに聞かれたらさすがに言い訳はできない。 監督付きの自習なら当然教室内は静かになるのに、号令の合図に渋々立ち上がった悠里はその拍子に中で動く異物に眉を顰めたままそろそろと椅子へと座る。 そんな悠里と目が合った泰隆は変わらない笑みを浮かべているから目を逸らすと配られたプリントへと視線を移した。 体の中で苛む熱を一身に堪えながら、霞む視界を目を擦り瞬きを繰り返しながらプリントを見つめる。 気を抜けば体の中微かに動く異物の存在を知られてしまう、だらだらと下着を濡らしている自分自身の気持ち悪さで悠里は冷や汗が止まらない。
「滝沢、顔色悪いけど・・・・・平気?」
隣りの席に座っていた夏の小さな声にびくり、と肩を揺らした悠里はそれでも友人に笑みを浮かべる。
「・・・・・平気、だから・・・・・気にしないで・・・・・・」
必死に言葉を搾り出す悠里に夏の眉が顰められる。
「自習中だよ、どうかした?」
話し声に気づいたのか、ずっとこちらを探っていたのか割って入った声に夏は近づいて来た男を見上げる。
「すいません、ただ、滝沢の顔色が悪いので。」
「滝沢?・・・・・ああ、君か。凄い汗だけど、本当に平気?」
白々しく聞いてくる声に悠里は視線を逸らすとただ頷く。 誰が見ても具合が悪そうに見える悠里に他のクラスメートもちらちらと動向を探ってくる。
「滝沢を保健室に連れて行っても構いませんか?送り届けたら俺は戻ってきます。」
「そうだよ、滝沢保健室行け。」
「お前、顔色悪すぎだって。」
「熱あるよ、絶対に。」
立ち上がり口を開いた夏に便乗するようなクラスメートの声に悠里は唇を噛み締め両手を握り締める。
「静かに!自習は続けといて、俺が連れて行くから。静かにプリントを終わらせる事!!」
きっぱり、と口を開き驚くクラスメートの前で泰隆は悠里の腕を掴むとそのまま椅子から立ち上がらせる。
「・・・・・大丈夫、ですから・・・・・」
戸惑い離れようとする悠里の体を引き寄せた泰隆は半ば強引に教室から出て行く。
おぼつかない足でふらふらと歩く悠里を抱きかかえる様に保健室に連れて行った泰隆はその好感度を更に上げるのだけれどそれはまた後の話。
「歩ける、から・・・・・離して下さい・・・・・・」
語尾が小さくなる声に泰隆はそれでも悠里の体を放そうとはしないまま保健室とは違う部屋へと悠里を連れてきた。 見慣れたいつも連れ込まれる部屋の前、立ち尽くす悠里の背を押し中へと入った泰隆は大きく息を吐く。
「保健室に行かれたら困るのは悠里の方だろ。ばれたら楽しくないじゃんか。」
淡々と呟く声に悠里は立ち尽くしたまま唇を噛み締める。
「取るから、ここに座って・・・・・悠里?」
身動き一つしない悠里に泰隆は顔を上げる。 唇を噛み締め両手を握り締め睨み付けたまま立っている悠里に気づいた泰隆は肩を疎めるとやっぱり笑みを浮かべる。 おどける彼の真意が全く掴めない悠里は体の奥を苛む振動に抜けそうになる力を両手を更に強く握り締め堪えるとまっすぐ向けた目に力をこめる。
何も語るべき事はありません。 恋愛はどこへ?
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