ばしゃりっ。 木の温もりに包まれたゆったりと寛げる空間に突然響いた水音にその空間に居た人達は一斉に音の出所へと視線を向ける。 そんな視線にも動じないまま座っていた青年の前の女性はがたり、と椅子を鳴らすとかつかつと高いヒールの音を響かせその場を去っていく。 一人取り残された青年は濡れた髪を掻きあげると口元を少しだけ歪ませ苦笑を零した。 一瞬止まった空間に時間が戻り、焦った様にぱたぱたとタオルを持った従業員が駆けて来て人々の関心は多少は薄れたけれど気になるのかちらちらと青年を伺う人もたまに見られる中、青年へと近寄ってきた丁度同い年位の青年が濡れねずみの彼を見て笑みを浮かべるまで無遠慮な視線は続いていた。
「・・・・・何、その姿。」
「見ての通りだけど。笑いたいなら無理するなよ。」
呆れるように呟いた彼の前の席に座ると同時に彼は俯くと肩を奮わせひっそりと笑い出す。 そんな反応は当然だと理解はしていたけれど面白くないのか唇を尖らせたままやけになった様にがしがしと頭を擦る彼、大和に目の前の男、海はやっと顔を上げる。
「今日、あいつは?」
「話合いしてくるって。部屋の前で降ろしてきた。」
「・・・・・大丈夫なのか?」
「分からん、けど・・・・・大丈夫な気がする。」
「で?お前のそれは何?」
「まぁ、こっちも身綺麗になろうかと、ね?」
まだ濡れている服を指す海に大和は苦笑を浮かべ呟いた。 こればかりは目の前の人間に一から話す気にはなれず曖昧にごまかした大和に海は首を傾げてくる。
「まぁ上手くいけば明日からは普通に来るはずだから、大丈夫だって。詳しいいきさつは柚希に聞け!」
「分かったよ。」
答える気が全くないのを感じ取り海が溜息を吐いても大和はただ曖昧な笑みを浮かべるだけだった
「お帰り〜」
部屋の前で手を振る男に柚希は顔を上げると苦笑を浮かべながら彼に近づいた。 もうすっかり薄暗くはなっていたけれど、照らす外灯で微妙に服が濡れているのに気づき首を捻る柚希に大和は苦笑を浮かべる。
「・・・・・どうしたの、って・・・・・聞いて良い?」
「身綺麗にしただけだから、深く追求するな。」
ぼそり、と呟く大和に柚希はますます疑問を顔に浮かべながらも部屋の鍵を開けるとドアへと手をかける。
「柚希の方こそ、上手く終わらせた?」
「・・・・・それは、微妙。でも、これで終わりだよ。」
曖昧な答えに眉を顰める大和へと顔を向けると柚希は「入って」と扉を開き中へと大和を促した。 押されるまま足を踏み入れ中へと入り込んだ大和に柚希は「お風呂入ってきなよ、風邪ひくから」と真っ直ぐにバスルームへと大和を追いやる。 渋々とバスルームへと向かう背中を見送り柚希は一人リビングへと向かった。
*****
「・・・・・何というか、想像してたより、良い奴じゃん。」
ぼそりと呟く大和に柚希は何も言わずに苦笑を浮かべる。 そして自分の勝手で振り回した彼をそっと思い出す。
「おれ、どうすればいいかな?」
「どうすればって言われても・・・・・出来るのはもう会わない事じゃないのか?」
「・・・・・だよね。」
肩を落とし項垂れ呟く柚希を呆れた様に見た大和は手を伸ばした。
「後悔するな!・・・・・きっとおれらが介入しなくても、遅かれ早かれきっとどこかで綻びは出てくるはずだから、だろ?」
頭をゆっくり、と撫でながら最もな意見を告げる大和に柚希は頷き彼を見上げる。
「・・・・・・。」
「・・・・・何?」
「大和の服が濡れてたのは何で?・・・・・何かあった?」
じっと見上げたままぽつり、と疑問を投げる柚希に大和はつい視線を逸らす。
「大和!」
「言っただろ、身綺麗にしたって・・・・・それだけ。」
「それだけって?」
「言葉の通りじゃん。」
疑問を浮かべる顔に溜息を吐くと大和は身を寄せてそっと呟いた。
「おれもお前も他に相手はいません。お互いだけです、それでわかる?」
ゆっくり、と言葉が耳から浸透していった柚希は驚いた様に大和を見つめる。
「・・・・・大和」
「これ以上は言わないから。頼むから察しろ、それから・・・・・」
目を閉じて、と耳元で囁かれ柚希はそっと瞳を閉じる。 同時に唇へとそっと触れてくる温もりを感じて柚希は目の前の大和の服の端をぎゅっと握り締めた。
「・・・・・っん、やま、と・・・・・」
ぺちゃぺちゃと濡れる音が響く部屋の中擦れた声で呟く柚希に大和は埋めていた足の間から少しだけ顔を上げる。
「もう少しだけ、我慢して・・・・・すぐに済むから、ね。」
濡れた唇の端を上げると微かな笑みを浮かべた大和の声に柚希はびくり、と体を揺らした。 潤んだ瞳でじっと大和へと視線を向けてくる柚希に苦笑を浮かべると身を起こし顔を近づける。
「準備しないと、辛いだろ?」
「・・・・・もう、やだ・・・・・」
頭を振り呟く柚希の頬へ唇を寄せるとそっとキスを落とす大和にそれでも頭を振る。 「柚希〜ちゃんとしないと痛いだけだし。」
「・・・・・だって、ずっとそこだけっ!」
微かな溜息を吐くと「痛くても知らないから」と呟いた大和は開いたままの足の間に体を押し入れて来る。
「大和!」
首筋へと腕を絡め引き寄せるとキスをねだる柚希に唇を寄せるとそっと温もりを分け合いながらも秘孔へと欲望の証を当てると少しづつ潜りこむ。 微かに唇の端から零す吐息を肌で感じながらも大和は奥へとゆっくりと進めていく。
「・・・・・ふっ、ん・・・・・・」
異物の入り込む感覚に眉を顰める柚希の唇を塞ぎながらも大和はずずっと勢いをつけて残りの全てを埋め込むと唇を離し、そっと息を吐いた。
「・・・・・平気?」
問いかけに無言でただ頷き微かに笑みを見せる柚希の汗で額に張り付いた前髪をそっと掻き上げると大和は唇を額へと押し付ける。 詰めていた息をそっと吐き出し柚希は大和へと縋りついたまま瞬きを繰り返した。 柚希の内側が挿入られたモノへとべったりと纏わりつくのを感じながらもその異物にゆっくりと馴染んでいくまで大和はただじっと身じろぐことも抑えながら優しいキスを繰り返した。
*****
「今日は何の理由で休みだって?」
胡乱気な眼差しで呟く海の前で大和はハハハ、とただ乾いた笑いで答える。 いっそう強くきつい視線に溜息を吐いて口を開きかけた大和はふらふらと危うい足取りで向かってくる人に気づく。 急いで立ち上がるとその人へと駆けて行く大和に海は唖然とした顔で見送り歩いていたのが柚希な事に気づく。
「柚希!・・・・・大丈夫なのか?」
柚希へと手を伸ばしながら大和は耳元へと後半はひっそりと問いかける。
「・・・・・このくらい、平気だよ。それに、留年の方が怖いよ。」
学費を払ってる実家の母親の姿を思い浮かべたのか身震いする柚希に大和は苦笑を浮かべる。 まだ足取りも重い柚希の腰へと手を伸ばし大和は海の元へと彼を促しだした。
「小林・・・・・別れ話もたついたのか?」
「何で、大丈夫だよ。・・・・・それは江藤にもご迷惑をおかけしました。」
笑みを浮かべ頭を下げる柚希に海はただ笑みを浮かべる。 さらりと返せるのなら上手くいったのだと海は深く追求はしない事にすると「じゃあ」、と口を開く。
「体調、まだ酷いのか?」
「・・・・・それは別の事情、です。」
呟きちらり、と大和へと視線を向ける柚希に海はただ頭を傾げる。 疑問を浮かべている友人に気づいた柚希は笑みを浮かべると時計へと視線を向ける。
「ほら、江藤・・・・・次の抗議始まるから行こう!・・・・・また後で!!」
海を促しおざなりに大和へと手を振り柚希は構内へと戻っていく。 手を振り返した大和は伸びをすると次の時間が休講なのを思い出し目の前に置いてある缶コーヒーへと手を伸ばしゆっくりと口をつける。
「あいつ、結構タフだと思うんだけどな。」
本人にはとても言えない一言を呟くと大和は窓の外をぼんやりと見つめる。
「お前、本当に大丈夫か?歩き辛そうだけど・・・・・」
「平気!・・・・・少し寝違えただけだから。」
心配と顔に書いてある海へと柚希は腰を叩きながら答える。 実は腰よりも昨日から実は朝日が昇る迄永遠と大和と裸でベッドにいたせいで、まだ異物があらぬ所に嵌っている違和感が抜けないせいだとは言えなくて曖昧な笑みを浮かべる柚希に海はやっぱり頭を傾げる。 昨日から今朝にかけて抱き合った時に何度も囁かれた言葉まで同時に思い出し一人柚希はそっと頬を赤くする。 そんな顔を気づかれたくなくて必死に俯き講義の準備をする柚希に海はあえて何も言わなかった。
退屈な講義にあくびを噛み殺しながら柚希はぼんやりとこの怒涛の数ヶ月を思い出した。 きっと忘れないだろう自分の我が儘で傷つけた人を思い出しかけ軽く頭を振るとことん、と机の上に頭を乗せ、まるで子守唄の様な講義へと耳を傾けだした。
どんな終わりが良い終わり方なのか分かりませんがこれで一応終わりです。 お疲れ様でした、私! 20070925
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