流れる街並みを眺め、逸る気持ちをぎゅっと拳を握りこんで押さえ込み、話しかけてくる運転手にも適当な言葉を言い繕うと目的の場所でさっさと料金を払い慎二は降りる。 見上げたマンションは周りが暗いからなのか薄ぼんやりと白い外観がまるで浮き出るように目に映ってくる。その入り口で大きく息を吸い込み吐き出すと自分に気合いを入れ直した慎二はゆっくりと中へ入っていった。
前に来た時はそこそこ酒が入っていたし、浅葱は泥酔していたしで、彼に気をとられゆっくり住んでいる場所を見るなんて事もしなかったけれど、一人でいるからなのか今更だけど、一人暮らしにしては結構良い所に浅葱は住んでいると何となく辺りを見回した慎二は思う。 大学に通っていたほんの数ヶ月前まで自分が暮らしていた場所と違って家賃も高そうだと、どうでも良い事を考えながらタイミング良く開いたエレベーターへと慎二は乗り込む。 独特の上昇音が響く小さな個室で一人壁に背を押し付けた慎二は瞳を閉じると最後に会った浅葱の顔を思い浮かべ、最初に何を言おうかをやっと考えはじめた。
チャイムへと指を伸ばしかけ戻した慎二は胸に手を当てると何度も深呼吸を繰り返す。 誰も通らないからいいものを、さっきから慎二はこの行為を何度となく繰り返している。 自分でもバカじゃないかと思うけれど、それ以上に浅葱に会う事が慎二に緊張を運んでくる。 静かな廊下でチャイムを押すのを躊躇う震える指を持ち上げ、何度目かの正直でやっと指に力を入れた。 軽快な音が室内にいるであろう人へと来訪者を伝える為に鳴るのを聞いた慎二は息を吸い込むと、拳をもう一度きつく握り締め直した。
*****
微かな物音と共に少しの沈黙の後、重い扉を開く音が聞こえ慎二はこくり、と唾を飲み込む。
「・・・・・何で、何しに、ここに・・・・・・」
扉の端からそっと顔を覗かせ、戸惑い呟く声に慎二は顔を上げると何も言わずにただ笑みを向ける。 真っ直ぐに向けられたその笑みに怯んだのか、少しだけ扉を閉めかけた浅葱はそっと息を吐くと、大きく扉を開いた。
「・・・・・浅葱?」
「・・・・・ここじゃなんだから、どうぞ。」
中へ促し、ドアの端に寄りかかる浅葱に慎二は微かに頭を下げると玄関へと足を踏み入れた。 広い玄関、部屋数はどれくらいだろう?そんな事を思いながら、さっさと先に上がり、室内へと更に促す浅葱に慎二は思わず否定の為に首を振る。
「慎二?」
「ここで、いいよ。・・・・・すぐ、帰ろうと思っているし・・・・・」
「わざわざ、家まで来て?」
「・・・・・浅葱と二人きりで話せる場所が欲しかっただけだから。」
笑みを向け答える慎二に居間へと続くドアの前、立ち止まった浅葱は疑問を顔に浮かべたままその眉を少し顰める。
お互いの顔を見つめたまま沈黙だけが続く静かな世界で居心地悪そうに立ち尽くしたままの浅葱に気づいた慎二は重たい沈黙を破る為に息を吸うと口を開く。
「・・・・・俺、いろいろ考えたんだけど、やっぱり、前に戻るのは無理だと思う。」
「無理、って、どういう事?」
「友達のままでいたいって言ってただろ?・・・・・俺には多分無理だよ、浅葱と会わない間も俺の中で事実は消えなかったし、これからも忘れる事はないと思う。」
「・・・・・慎二?」
「だから、もう二度と会うなというなら、浅葱には会わないし、家にも二度と来ない。」
「・・・・・何だよ、それ・・・・・」
「これでも、一応考えたんだけど、望む答えじゃなくて、ごめん。・・・・・俺、浅葱をこんな意味で好きになるなんて思わなかった。だけど・・・・・・・後悔はしてないから。」
低く唸る声に慎二は少しだけ顔を伏せるとぽつぽつと呟き、最後だからと顔を上げると浅葱を真っ直ぐに見つめたまま言葉を繋ぐ。戸惑う様に逸らされる視線につい苦笑を零すと、そのまま慎二は背を向ける。
「・・・・・待てよ!!」
ドアのぶへと手をかけた時に掛けられた声に振り向きたくなる衝動を抑えこみ慎二はそっと息を吐くとそのまま外へと出るためにのぶを回した。
「慎二!・・・・・待て、って言ってる!!」
背後からの再度の呼びかけと同時に足音を鳴らし近づいて来る気配を感じた慎二はのぶを回した手をそのままに、その場へと立ち止まる。 ぎゅっと引っ張られる感覚にそっと盗み見た場所に服を引く手が見え、慎二は背後へと少しだけ体を向けた。
「もう、話す事はないから・・・・・俺、帰るよ・・・・・・」
「勝手に言うだけ言って帰るなよ。・・・・・俺は対象外だったのに、何で、一度寝たから?・・・・・寝たら興味が出たわけ?」
鼻を啜りながら問いかける声に慎二はのぶを回した手を離して後ろを向くけれど、伏せたままの浅葱の顔は見えなくて、眉を少しだけ顰めたまま黙り込む。
「大学中退して、こっちに帰ってきてから、狂ったように遊び歩いてたのに、たった一度寝ただけの俺を好きになるなんて有り得ないだろ!」
「・・・・・知るかよ、好きになったもんは仕方ないじゃん。」
「ふざけんなよ!!・・・・・俺で遊んで楽しい?・・・・・友達じゃなくなったら、体に飽きたら簡単に捨てられる。お前の遊び相手の一人になるなんて俺は嫌だったから・・・・・」
「ふざけてんのはそっちだろ!・・・・・遊び相手?俺は浅葱が好きだって言っただろ?・・・・・何で遊び相手に告白しなきゃなんないんだよ!!」
服の端を掴み、鼻を啜る音が増え、それでも必死に言い募る浅葱の言葉につい乗せられ強引に体を捻ると肩を掴み否定の言葉を吐き出した慎二は覗き込んだ浅葱がぼろぼろと涙を零し泣いているのを見る。
「・・・・・浅葱?」
「・・・何で?・・・・・・一度寝たら興味ができたから?・・・・・友達のままで俺は良かったのに・・・・・・・」
「俺は、良くないよ。・・・・・友達は、こうして・・・・・抱きしめてあげられない。」
慎二は小さな声で呟くと、そのまま引き寄せ包み込む腕の中、尚も泣き続ける浅葱をその背に腕を回ししっかりと抱きしめる。
*****
腕の中肩を奮わせ微かに声を漏らし啜り泣く浅葱の背を何も言わず慎二はそっと何度も撫でる。 ようやく落ち着いたのか、胸元に瞳を閉じたまま頭を擦りつけてきた浅葱を慎二は腕に更に力を込め抱きしめ直した。
「友達と恋人の境界線って何?・・・・・抱きしめるくらい、友達でもやるじゃん。」
ぼそり、と呟くと同時に腕の中、やっと顔を上げる浅葱に慎二は笑みを向けるとその背に回した腕を少しだけ緩める。
「抱き合うが友達だろ?・・・・・あんまり境界線は分かんないけど、傍にいたらどこでも良いから深く触れていたいのが恋人じゃないか?」
「慎二は、俺と恋人になりたい?・・・・・友達じゃだめ?」
「・・・・・無理。こうしているだけで、浅葱にもっと触れたくなるし、今まで通り対象外にはもう見れない。」
「・・・・・俺と寝たから?」
問いかけに少しだけ考えた慎二は抱きしめたままの腕をそのままに浅葱へと顔を近づける。
「慎二?」
「それがきっかけで浅葱を見る目が変わったけど、俺は一度寝ただけで、誰かを気にするなんて事はなかったよ。どうでも良い相手ならすぐに忘れる。」
「・・・・・それは、友達付き合いが長かったから・・・・・・」
「だとしても、もう、戻れない。浅葱を知らない俺じゃいられない、友達には戻りたくない。」
困惑した顔で戸惑う浅葱をもう一度深く抱きしめると慎二はその耳元に好きだよ、と囁いた。 びくり、と体を奮わせた後、躊躇いながらも慎二の背にゆっくりと手を回してくる浅葱をいっそう強く抱きこむと慎二はその顔へと唇を寄せる。 ちゅ、ちゅ、と軽く触れ合うだけのキスを何度も繰り返す。 いつ、だれが訪れるかも分からない玄関先でする行為じゃないとお互い分かっていたのに、触れ合ったらもう止まらなかった。 何度も繰り返すキスは次第に舌を絡め唾液を滴らす濃厚なキスへと変わり、ただ抱きしめ合っていたはずの体を互いに弄りあいだした。 キスを繰り返しながら、邪魔な服を少し乱暴に互いに剥ぎ取り行為に没頭しだす二人にはもう互いしか見えていなかった。
「・・・・・っんん、ああっ・・・待って、しんっ!・・・・・・・っあ・・・・・・」
壁に背を押し付け、足を両腕で持ち上げると、ゆっくりと欲望を押し付けるとそのままゆっくりと潜りこんでくる慎二に浅葱は彼を抱きしめる手に力をこめたまま眉を歪め抑え切れない声を漏らす。
「・・・・・・っく、ごめん・・・・・痛い?」
最奥まで推し進めてから、やっと吐き出す様に擦れた声で告げる慎二に浅葱は思わず吹き出す。 拍子に中がぎゅっと締まり呻きながら見上げる慎二に浅葱は眉を顰めたまま笑みを造る。
「大丈夫、だけど・・・・・・何か、おかしいの・・・・・」
「は?」
「・・・・・余裕、ない感じ・・・・・・っん!!」
「あるわけ、ないだろっ!・・・・・・ずっと、欲しかったんだから・・・・・」
きつい内部で更に膨れ上がる自分を感じながら少し引き、また突き上げると声を絞り出す慎二にもう浅葱は何も言わずにただ背へと回した手に力をこめる。 言われなくても余裕ないぐらい盛りのついている自分に慎二は気づいている。 包みこむようなそれでいて押し出すような内壁に埋めた自分が更に勢いを増すのも痛いぐらいに感じている。 それでも、ほんの少し残っている理性がぎりぎりで欲望に忠実な自分を止めている。 大事にしたい相手だから、傷なんて作らせたくない、だから、保つ理性を少しだけバカにされている気がしながら、慎二はゆっくり、と腰を動かしだした。 繋がるそれだけで、多大な負担をかけている浅葱へと楽な姿勢では決してないその格好のまま唇を寄せる。 差し出された舌を絡めとり、唇を貪る様なキスをしながら突きあげるスピードもゆっくり、とでも確実に早めていった。
次で終われるかと思います。が、予定は未定、また次回♪
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