恋人に不信感を持ったら「恋」は終わりだとどこかで聞いた事がある。 恋人の心が手に取るように分かっていた日々が幻だと思える今の紫(ゆかり)にとってはとても耳に痛い言葉だった。 何度目かの浮気の代償はかなり大きなものだった。 遡る事、ほんの一時間前の自分を思い出した紫は更に大きな溜息を零さずにはいられなかった。
「ごめん、子供・・・が、できたんだ・・・・・だから、別れてほしい」
付き合って半年、付き合いはじめた頃と変わらずにいると信じて疑いもしていなかったそれが幻想だと知ったのは、彼氏である勝利(しょうり)のそんな言葉だった。
「それって、どういう事?」
「だから、彼女に子供ができて・・・・・」
「・・・・・彼女なんていたんだ。分かった、さよなら」
たっぷり、一分、だけど、一分呆然とした紫はやっと問いかけ、その答えに愕然とした自分を目の前の男には絶対に悟られたくなくて、淡々と受け答えをすると立ち上がる。
「紫?!」
「・・・・・さよなら、二度と会わないから」
戸惑い名前を呼ぶ男へと顔を向け淡々と答えながらも紫は早くこの場から立ち去りたくて仕方なかった。 ろくに顔もみずにそのまま店を出て行く紫は店を出て暫く経ってから飲み物代を置いてくるのを忘れたのに気づいたけれど、手切れ金にしては安いものだと思うように頭を振ると再び歩き出した。 家に帰りついて、力なく玄関先に座りこんだ途端に貼り詰めていた糸が切れるようにやっと紫は泣きだした。
散々泣いて赤く腫れた目、鏡に映る自分を眺めながら、今日が休みなのに安堵の溜息を零さずにはいられなかった。 紫が勝利と付き合いはじめたきっかけはバイト先で知り合ったから、ただそれだけで、実はお互いの事をはっきりは知らなかった。 好きだ好きだと言われても、それ以上踏み込もうとはしなかった紫、勝利はそんな紫に優しかったけれど、いつからだろう、彼の優しさを空々しく感じたのは。 思えばその時から紫の中で気持ちは少しづつ冷めていったのかもしれない。 まだ泣ける程には好きだけれど、彼をだからといって引き止めたいとは思わない、それが紫の出した答えだった。 それにいつまでも未練たらたらで引きづるそんな情けない男にはなりたくなかった。 それでもきっと会えば自分の思いとは関係ない位心の中にうだうだと未練が募るだろうから、と紫はその日の朝、バイト先に電話すると理由も曖昧なまま勝利から逃げたい自分の為にバイトを辞めた。 バイトに行かない、それだけでうじうじ悩みだす心が少し楽になった気がした紫は求人誌と適当にお腹に入れる食べ物をコンビニで調達する気になり、外出する為に重い腰を上げ立ち上がった。
*****
数冊の求人誌と間に合わせの食べ物をかごに詰めレジに並んだ紫は入り口から入ってくる客に何気なく目を向け慌てて顔を逸らした。紫の家と勝利の家はあまり離れてはいない。歩いていける距離に勝利の家はあったし、そういえばこのコンビニも圏内だと改めて気づかなかった自分に唇を噛み締める。 向こうは気づいていない。 客として入って来たのは、勝利とあの時、別れる理由になった浮気相手、もしくは向こうが本命だったのかは分からないけれど、とりあえず妊娠した彼女。二人はぴったり、と身を寄せ合い雑誌コーナーへとすぐに向かったから見たのは一瞬だけど、早く買い物を終えないと間違いなく顔を合わせるだろう。 焦る紫の心を知るわけも無い、コンビニの店員はやる気の無い態度でたらたらと商品をスキャンする。とてもスローなその仕草に苛々が募るけれど、まさか文句も言えず、早く終わる事だけを祈る。 喧しいほど賑やかな甲高い笑い声が店内に響く。聞こえるのは雑誌コーナーから。勝利の言った事が本当なら彼女は妊婦のはずだけど、笑えるのだから悪阻に悩まされる事もなく素晴らしく元気なのだろう。 どうでもいい事を思いながら、やっと終わった自分の買い物した袋を渡され紫は逃げる様に店を後にする。振り向く事もせずに歩き出した紫はそっと溜息を零した。早く新しい働き場所を探したら、引越しも考えようと決意新たに、真っ直ぐ部屋へと戻る。
求人誌で探した職場を面接の為に回る日々が始まり、慣れないスーツにも袖を通した。引越しを考えるなら、いつまでもバイト生活よりも、安定した職に就くべきだと思い直し、新たに候補に上げた職場も数件、面接を受けた。これ。といった手ごたえはどこにも見つからなかったけれど、どこかに引っかかれば良い方だと思い、繋ぎで見つけた短期の日雇いも始めた。 仕事をしていれば、家にずっと居て、わざわざ記憶に留めておきたくない失恋を思い出すよりましだ。手なり、体なり動かしていればそれなりに記憶は薄れていく。 所詮、何の形も産まない非生産的な恋愛だ。薄れていくならそれだけで、紫は前へと簡単に進める。 だけど、そこに落とし穴がある事に紫は気づいていなかった。 記憶が薄れるのは、会わなければという前置きがつく。 そんな簡単な落とし穴がすぐ近くに簡単にある、その事実に紫はその日まで気づきもしなかった。
恋人でいた時は時間や互いの都合の悪さで近くに住んでいる、と知っていたにも関わらず、偶然会うなんて事は一度もなかった。 当然互いの家を行き来する事もほとんど無かった。元々、紫はべったり、張りつく恋愛は好きじゃない。お互いに適度な距離感がある、それが紫の恋愛への価値観で、互いの自由を尊重するといえば聞こえは良いけれど、わざわざ家に着たり、呼ばれたりというのは好きじゃなかった。 だから、勝利の家が近くにある事は知っていてもわざわざ呼ばれてもいないのに家に行ったり、呼びもしないのに訪れられる、それは紫の嫌いな行為の一つだったから、どこにあるのかも正確には知らなかった。 家で会わなくてもバイト先で会うし、バイト終了後出かけるとかすれば良い、そんな考えの持ち主である紫は遊びで付き合う相手としては楽な相手だったのかもしれない。 お互いに干渉しない、それは良い言葉かもしれないけれど、逆に言えば、興味が無い、と言う事にもとれる。 紫が傍にいない間に勝利が浮気していたとしても、紫は言われるまで気づかなかっただろう。考えてみれば、そういう事だったんだ、と思うのだけれど、別れて数ヶ月経っても紫は前に進むどころか、仕事の切れ間に何度も勝利を思い出した。 会わなければ薄れる、だから、記憶も次第に風化していくはずだと、その場凌ぎの仕事で空いている時間の隙間を埋め込むのに記憶は鮮やかなままだった。そうして、躍起になっていた紫はまともに寝る事も食事もほとんどとらないまま仕事に明け暮れ久々の自宅でのまともな睡眠の為に帰った結果無駄な努力を知る。
*****
自宅の前に立つ人影に気づいたのはもうすぐ部屋に着く、その時だった。すっかり日が落ちているので、ちかちかと今にも切れそうな外灯がアパートの目の前にあるけれど、丁度死角になる紫の部屋の前は辛うじて人が立っていると確認できる程の明るさしかない。当然、紫の立つ場所からも人の顔なんてろくに分かりもしない。 だけど、人影を見た瞬間背筋に悪寒が走る。体格や背格好で男と分かるけれど、紫の部屋に訪れる近しい身内も親しい友人にも覚えはない。 人と関わるのを極力避けてきたのは、何も恋人になった相手だけじゃなく、親、兄弟、友人、全てに紫は距離を置いてきた。一人暮らしを始めてから、これまで紫の部屋に来た人は数えるほどしかいなかった。 近づく足音に気づいたのか、顔を上げる人影、だけど薄暗くてやっぱり顔は見えない、なのに紫の足は止まる。人影の立つ場所が紫の部屋の前である事をそっと確認する紫の耳に声が響いた。
「お帰り、紫! 遅かったんだな・・・・・」
低い、けれど待ち人が来たのが嬉しいのか少し弾むその声に紫は帰る途中に寄ったコンビニで購入した食べ物をどさり、と落とす。 「・・・・・・何で・・・・・?」
「紫? 突然悪かったよ・・・・・連絡しても携帯通じないから、だから・・・・・・」
「・・・・・二度と会わないって、別れる時に俺は言っただろ・・・・・今更、何?」
戸惑いを隠しきれない紫の態度に気づいてないのか、待ち人へと嬉しそうに告げながら近づくその声を大きく息を吸い込み遮る。 睨む様に勝利を見つめながら同じくらい冷たく問いかける紫に近づく足音が止まる。 距離にして30cmぐらい、手を伸ばせば届くそんな距離に佇み、口を開きかける勝利を紫はじっと見つめる。
「今すぐ帰ってくれないか? 話す事なんてないだろ?」
溜息を吐き出し、落としたコンビニの袋を手にした紫は未だに佇む勝利の横を通り抜け部屋の前へと辿り着く。ポケットから取り出した鍵で無造作に扉を開けるとそのまま勝利に顔を向ける事なく部屋へと入りこんでいく。
「待ってくれ! 話があるんだ、だから・・・・・少し、時間をくれないか?」
我に返ったのか、締まる扉に足を挟みこみ手を扉に掛けた勝利が叫ぶその声に靴を脱ぎ早々に玄関へと入った紫は冷たく勝利を見下ろす。
「邪魔だよ、あんた。 迷惑になるから、こんな夜に大声で叫ばないでくれないか?」
「・・・・・紫!」
「話は無いよ。 あったとしても、俺には関係ない。 分かったら今すぐ帰れよ! 二度とここにも来ないでくれ!」
「頼む! 少しで良いから話したいんだよ!!」
戸を閉めようとする紫に慌てて手を扉に掛けた勝利は同じ言葉を繰り返す。堂々巡りの無意味な言い合いになりそうで、周りに迷惑を掛けるのも分かって紫は溜息を零すと仕方なく部屋へと招き入れる。
周りを見渡しながらも、ソファーへと座る勝利と逆に紫はキッチンに近い壁に背をつけ座ろうともせず勝利を見る。
「・・・・・わざわざ何の用ですか? お互いに何かを預かる事も預ける事もしてませんが?」
「部屋に来るのは迷惑だったかな? でも、他に会える理由が見当たらなかったから・・・・・」
居心地悪そうに身動ぎしながらもソファーに座ったままの勝利に紫は冷蔵庫から取り出したお茶をコップに注ぐと不機嫌な顔を隠しもしないまま目の前のテーブルへとどん、と少し乱暴にコップを置く。
「そう思うなら用件済ませて帰ってくれませんか?」
他人行儀な敬語を崩さない紫の冷たく低い声音に勝利は身を竦めながら、微かに溜息を吐き出した。
「バイト、辞めたんだな、今はどうしてるの? 新しい仕事見つかったのか?」
「関係ないですよね?わざわざそんな事聞きに来たんですか? オレがどこで何をしようと一切関係ありませんよね?」
問いかけに淡々と冷たく答える紫に勝利は微かに眉を顰める。自分の答えに傷ついている態度を隠しもしない勝利に苛々感が募るのを感じながらも紫は目の前の男を見上げると口を開いた。
「オレとあんたの縁はあの日の喫茶店できっぱり切れたはずです。今更オレに何の用があるんですか?」
別れを切り出したのは目の前に座る男で、あの日も言い出すまでかなりの沈黙が続いたのを今更紫は思い出す。忘れたいし、もう過ぎた事だと何度も言い聞かせたはずなのに、心のどこかで今も僅かながらの未練がある自分にさえ顔を歪めた紫は黙り込んだままの勝利を真っ直ぐに見つめる。
「何度も言いますけど、帰ってくれませんか? オレの貴重な時間を無駄な沈黙で潰したくないし、あの日にも言ったはずですが、二度と会いたくないと」
紡ぐ言葉に棘が混じるけれど、紫はもう勝利と話したいとも思わなかった。結論が見えているのに無駄な話はしたくない、それが全てだと言いたいけれど、実際は彼の顔を見るそれだけで自分の中に残っている未練がましいみっともない弱い心が疼くからだ。 これだけ言って、態度にも現しているにも関わらず、座ったソファーから動きもしない勝利に紫は何を言えば良いのか言葉に詰まる。 沈黙が部屋の空気を更に重苦しいものに変えていく、それなのに尚も黙り続けている勝利に紫は溜息を吐くと少しでもその重苦しい空気から逃げる様に窓へと目を向ける。すっかり暗くなった窓の外では切れかけた街灯がちかちかと揺れているのか、たまに灯がちらつくけれど、暗闇しか見えない。 相変わらず話そうとしないまま黙り続ける勝利の目の前、紫は大きな溜息をこれみよがしに吐くと窓へと顔を向けたまま口を開く。 「話が無いなら帰ってくれませんか? いるだけで邪魔なんですが・・・・・」
毒をたっぷりまぶした辛辣な紫の言葉に肩を揺らした勝利の姿を目の端に捕えながら、あの日慰謝料だと勝手に思ったまま飲み代も払わず店を飛び出した自分を思い出し紫はまだ着たままの上着のポケットから財布を取り出す。
「飲み代の支払い催促ですか? すいません、しっかり払いますから、いくらですか?」
「・・・・・いや、あの・・・それは、良いよ、高くないし」
「払います、千円で足りますか? 飲み代の催促じゃないなら何ですか? 何度も言いますけど、借りてるものも貸してるものもありませんけど?」
財布から千円札を取り出し勝利の目の前へと置きながら紫は微かに眉を顰めたまま問いかける。
「・・・・・仕事、今、何してるの? バイト先に戻る予定とか無いのかな?」
「は? だから、何度も言ってますよね? オレが何の仕事をしてようと、どんな生活をしてようと、あんたには一切関係ありませんって、聞いてないわけ?」
堂々巡りになりそうな勝利の問いかけに紫はびくびく、と引き攣るこめかみを抑え怒鳴りだしそうになる自分を堪えて、告げる。
「話ってそれですか? なら、あんたには関係ない・・・以上。 帰ってくれませんか、そして二度と来ないで下さい!」
「・・・・・紫、あの・・・」
「いい加減にしてくれよ! オレはあんたとは二度と関わりたくないし、関わろうとも思わない。 分かったら今すぐ出て行って、二度とここに来ないでくれ!!」 戸惑いながらも口を開いては閉じるのを繰り返す勝利の目の前、紫は一気に言葉を告げると立ち上がり玄関へと向かう。
「いつまでいるんだよ! オレは出て行けって言ってるだろ?」
座った場所から身動ぎ一つしないまま、呆然と紫を見上げる勝利に吐き出す様に再度言葉を繋げる。それでも、立ち上がろうとしない勝利に紫はこれで何度目なのか分からない溜息を零すと狭い部屋の中、座る勝利の腕へと手を伸ばす。
「出て行けって言ってるのにまだ居座る気? 早く行ってくれない?」
「・・・・・オレは、話があるって・・・・・」
「だから、その話って何だよ? オレは今更あんたと話す事も無いし、話したいとも思わない。そんなに必要ならさっさと話して早くここから出て行ってくれよ!」 うんざり、と肩を竦め告げる紫に取られた手を離し、勝利は困った顔で俯く。そんな姿に困ってるのはこっちだ、と叫びだしたいのを堪え紫は頭を掻き毟りたい衝動と戦いながら拳をぎゅっ、と握りしめる。
「バイト先に戻ってくれない、かな? オレに会うのが嫌なら、あそこに行くのは別の人間にするし・・・・・だから、あの・・・」
「話ってそれですか? 答えはお断りします! あんたと関わる職場には二度と行きません! たとえ会わなくても、同じ会社にいるだけで嫌です!」
考える事なくすらり、と告げる紫に勝利は困った様に微かに唇を歪める。元いた紫のバイト先はチェーン展開のファミレスだ。勝利は数店舗を巡り、新メニューの相談とかフェアのお知らせ、時には店舗を手伝う店舗と本部を繋ぐ営業の正社員で、あの辺りの担当社員でもあった。
「話は終わりですよね? でしたら、早くお帰り下さい!」
にっこり、と笑みまで向け告げる紫に勝利は立ち上がるのかと思ったらその場で土下座をする。
「これから忙しい時期に抜けられるのは困るんだよ! 頼む、期間限定でも構わないから、今の時期だけでも良い。だから、お願いします!」
「無理です、他を探して下さい!」
きっぱり、と躊躇う事なく否定の言葉を告げる紫に勝利は床へとついた手を握りしめる。
「・・・・・新しいバイトが見つかるまで、あんたらで何とかすれば? たかがバイトにそこまで責任求める方がどうかしてませんか? 忙しい時期? そんなの辞めたオレには全く関係ないので、お帰り下さい!」
「今から探しても経験者には叶わない、一つの店舗にそんなに派遣できないし・・・頼む、頼める人が他にいないんだよ!」
諦める事なく頭を下げ告げる勝利に紫は溜息を零すと、息を大きく吸い込んだ。
「・・・・・新しい仕事を始めているので、オレにはどう考えても無理です・・・今の仕事覚えるのに大変なので他の事は出来ませんので、ご理解いただけたらお引き取り願えますか?」
「新しい仕事って・・・・・時間の合間にとか・・・」
「無理です・・・短期で雇った方でも当たって下さい!」
淡々と言葉を繋ぐ紫に勝利はやっとのろのろ、と立ち上がる。
「いきなり・・・押しかけてごめん、それじゃあ、さよなら」
「さようなら、二度と会う事は無いですけど、どうぞお元気で・・・お幸せに」
玄関先で振り向き告げる勝利に社交辞令のお決まりの言葉を吐き出した紫はついでとばかりににっこり、と笑みを向ける。そんな紫に釣られる様に引き攣った笑みを浮かべた勝利は肩を落としたまま部屋を出て行く。かん、かん、とアパートの階段を降りて行く音を耳にしながら紫はずるずる、と床へと座り込む。 自分は最後まで平静で普段と変わらない態度でいれた、と重苦しい緊張感からやっと抜け出せた気がして大きな溜息を吐き出した。 新しい仕事はその場繋ぎの日雇いをひたすら詰め込んでいるだけだから、戻れない事はない。だけど、勝利の願いを叶える事は紫には出来なかった。 辞めたバイト先に出戻りするのも、勝利に近い場所にいる事も紫には出来なかった。あの場所にいれば、勝利の結婚話はすぐに耳に届くだろうし、平静な顔で通常の仕事をこなせる自信は紫にはなかった。 忘れたい、と必死で願っているのに、傷口に自ら塩を塗り付けるそんな自虐的な自分に紫はなれなかった。 その次の日から新たに増やした日雇いのバイトをひたすら詰め込み、纏まった金額を手に数日後、逃げる様にアパートから引っ越した。 もう二度と会わない、何度も口にしたけれど、同じ場所に住んでいれば偶然目にする事だってある、いつまで経っても先に進めない自分がいるから、紫は引っ越し先を探す時に遠くの町にまで足を伸ばした。 二度と戻る事の無い街並みから背を向け、紫は手元に残った手提げ鞄を手に歩き出した。
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お題なのに前編、えっとお次は時間が経過します、色々時間が解決できれば、と思います;20120319UP
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