Sweet Pain 後編

「どうした?・・・・・ラブラブになったのに前より疲れてないか?」
健吾の問いかけに祐は何も言えないまま結局曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
あれから冬樹がぱったりと日替わりで毎日違う女を連れ歩く事をしなくなったのにも実は気づいていた。
傍から見れば祐だけを見てくれる理想の恋人になった。
だけど、不安は消えない。
何度抱かれても、耳元で愛を囁かれようと信じる事が祐にはもうできなかった。
きっとまだ好きな気持ちはあるけれど、冬樹とは会えばほとんど体を重ねるだけで、ここ数ヶ月二人の関係についてのまともな会話は何も交わしていない。
そんな彼のどこが嘘で、どこが真実だと見分けられるのだろう。
どんどん落ち込んでいく内心を気取られる事のないように祐はただ笑う事しかできなかった。
「先輩、俺・・・・・話が、」
いつもの様に学校帰りに連れ込まれた冬樹の部屋で当然の様にベッドに押し倒され忙しなく服を脱がせ始めた彼の肩を押すと祐はもう絶え絶えの息を吐くと口を開いた。
「何?・・・・・しながらでも良いだろ?」
「駄目、です。・・・・・・俺、ちゃんと話したいから。」
いつになく強気な言葉に冬樹は溜息を吐くと祐の上から身をどけ、起き上がる。

軽くなった体をすでに乱れた服を調えながら起こすと久々に冬樹の顔を祐は真っ直ぐに見つめる。
あんなに体を繋げているのに、肝心の相手の顔をまともに見るのも久々で心のどこかで笑える自分に少しでも余裕がある事を確信すると祐は息を整える。
「・・・・・ちゃんとって、何の話?」
眉を顰めたまま低い声で問いかける冬樹に祐は膝の上へと置いた手をぎゅっと握り締める。
汗ばんだ掌にただ普通に座っているだけで、緊張している自分に祐はそっと苦笑を零す。
「・・・・・俺、先輩に言われた事考えました。でも、分からなくて、先輩とは・・・・・」
「俺は祐を放す気は無いって言わなかった? その先はいらない。・・・必要ないよ。」
紡ごうとした言葉を少し強い口調で遮ると冬樹は祐の腕を引き強引にベッドへと押し倒した。
戸惑いながら見上げる祐の腕を片手で器用に押さえ込むと馬乗りになったその体勢のまま冬樹は祐へと顔を近づける。
「・・・・・っ、先輩!」
「聞きたくないって言わなかった?・・・・・欲しいのも求めるのも俺だけ、これ以上、惨めにさせないでよ。」
拒むように叫ぶ祐に一度軽くキスをした冬樹は顔を上げるとそっと苦笑を浮かべたまま吐き出すように告げた言葉の後、もう一度今度は舌まで絡める深いキスをする。
息継ぎすらまともにできない苦しさに鼻の奥をつん、とさせながら、祐は冬樹の最後に吐き出した言葉だけを思い浮かべていた。

*****

「先輩、俺はちゃんと話がしたいです。」
「だから、俺には無いって、言っているだろう。」
「・・・・・先輩っ!」
体を繋げている間も、同じ言葉だけが、頭の中をしめていた祐は情事の事後が濃厚な乱れた姿を直そうともしないまま冬樹へと再度の話し合いがしたいと言い出した。
そんな祐に眉を顰めたまま冬樹は早々に祐を置いて部屋を出て行こうとする。
重い体に叱咤をかけて祐は必死でその腕に縋りつき引き止めようとするから重い溜息を吐いた冬樹は渋々とその場へと立ち止まる。
「何の話? 俺は別れ話には頷かないよ。別に祐が俺を好きじゃなくても構わないし、体だけでも俺は満足だし。」
捕まれた腕を振り払おうとしながらも淡々と呟く冬樹の言葉に祐は怯みそうになり緩みかける手の力を必死に入れると腕の先にある顔を見つめる。
「俺の・・・・・心、はいらないんですか?」
「・・・必要ないよ。俺に無い心をどうすれば手に入れられるわけ?」
「・・・・・俺は、先輩が・・・・・」
先の言葉に詰まり躊躇う祐に冬樹は苦笑しか浮かべない。
好きだと思うのに、口に出せないまま俯く祐の手を冬樹は強引に振り払うと部屋を今度こそ出て行こうとする。
ドアへと手をかける音に祐は顔を上げる。
「・・・待って!・・・行かないで!・・・・・先輩!!」
ベッドからずり落ちながらも、必死に手を伸ばす祐に冬樹はドアの前で振り向く。
「話なんて無理だろ・・・・・俺達の意見は違うから・・・・・」
「・・・・・俺は、ちゃんと先輩が好きです・・・なのに、どこが違うんですか?」
座りこんだまま泣きそうな顔で呟きながらも見上げてくる祐に冬樹は溜息を吐くとドアに背を押し付けたその姿勢のまま頭コツコツと軽くぶつけだす。
「・・・・・先輩?」
躊躇う様に問いかける祐を見ようともしないまま黙り込んだ冬樹の出す音だけが妙に部屋の中へと響きだした。

「・・・・好きって何の?」
「先輩?」
やっと発された低い問いかけに躊躇いながらも問いかける祐へとやっぱり視線を向けることなく冬樹はただ苦笑を浮かべる。
「祐の好きは誰にでも言える好きだろ?・・・・・特別好きなわけじゃなくて、誰もが同じ位置の好き、だろ?」
黙り込む祐へと少しだけ視線を向けてから、冬樹は苦笑を崩さないまま続ける。
「俺が欲しいのはその「好き」じゃないから・・・俺を特別好きに思ってくれるそんな気持ちを、祐が持っているとは思えない。だから、いらない。」
きっぱりと断言され、何も言えないままただ呆然と見上げる祐と視線が絡みあった冬樹の顔からは笑みは消えていた。
突き刺さるほど真っ直ぐに見つめてくる視線を逸らすことも出来ないまま祐はこくり、と唾を飲み込んだ。
「・・・・・違うって決め付けないで下さい。」
「は?」
「俺の気持ちを先輩が決めつけないで下さい!好きに違いがあるって俺だって知ってます!!」
緩んだ手を再度握り締めた祐は突き刺さる視線に負けないように真っ直ぐに冬樹を見上げる。
黙り込んでいた祐の突然の反論に冬樹はまぬけな声しか出せない。
「・・・・・なら、どう違うわけ?」
搾り出す擦れた冬樹の声に祐は上気して赤く染まった顔のまま真っ直ぐに冬樹を見上げる。
「俺、先輩に告白された時、凄く嬉しかったんです。憧れていた先輩からの告白に驚いたけど凄く嬉しかった。」
告白された日を思い出すと、今でも祐の心の奥は甘く疼く。
世界中の幸福をその手に貰った気がしたあの日。
「でも、俺はその他大勢の一人でした。・・・・・それに気づかされてから、諦めもありましたけど・・・・・俺は大切な人の一番になりたいんです。だから、先輩とは無理だと思いました。」
「そんな事、俺には一度も、一言も・・・言わなかったよな?」
「嫌われるの怖かったんです・・・でも別れるなら、どう思われても良かったから・・・・・」
重い溜息を零すから祐は冬樹から思わず視線を逸らした。
どこか居た堪れない気分で身動きすらとれないままじっと俯いたまま握り締めた拳を見つめる。

床を擦る音と微かな布の擦れる音に微かに顔を上げた祐はすぐ傍まで来ていた冬樹を見上げる。
「先輩?」
「言ってくれれば、俺達、ちゃんと変われたのに・・・・・」
すぐ前へと座りこむと祐の頬へと伸ばした手で冬樹は彼の顔を上げさせると笑みを浮かべる。
苦笑じゃないけど、少し困った様なそんな笑みに祐はただ瞬きを繰り返した。
「俺は、何も言わない祐は俺の事はどうでもいいと思ってた。・・・・・告白もお前の中ではどうでも良い事だったんだって。」
無言で返す祐に構わずに冬樹は一度瞳を閉じた後、真面目な顔で祐を見つめる。
「俺は人一倍独占欲だけはあると思う。でも、最初からそれはまずいかもって・・・結構、無理してた。だけど、別れを持ち出されてまずいだろって・・・・・何も言ってくれないと俺は気づけないし、酷い事したと思う。」
「・・・・・先輩?」
「名前、呼んで?・・・・・祐のものだって証明して?」
顔を覗き込んだ冬樹の言葉に祐は戸惑う様に少しだけ身を放そうとするけれど、いつのまにか腰に腕が回されていてそれも叶わなかった。
「祐?」
名を呼びかける冬樹に祐は突然の告白にあまり上手く理解出来ないまま、それでも深く息を吸い込む。
「・・・・・冬樹さん?」
顔を真っ赤に染めたままぽつり、と小さな声で名を呼ぶ祐を冬樹はただきつく腕の中へと抱き込んだ。
言葉よりも何よりもこれが上手く気持ちを伝えるには最善だと思えた冬樹の腕の中で祐は聞こえる心音にそっと息を吐いた。

*****

「・・・・・冬樹さん?」
実はさっきまで抱き合っていたせいで乱れたままの祐の服の中へと手を差し込んでくる冬樹に戸惑う様に声をかける。
そんな祐に笑みを向けた冬樹は顔を近づけるとキスを仕掛けてくる。
「思いが通じ合ったらHしたくならない?」
「・・・・・なるの?」
「なるんだって。・・・・・何か、冷たいな・・・反応が。」
眉を顰め問いかけると苦笑を浮かべたまま、ぶつぶつと呟くから祐は笑みを浮かべるとその首筋へと腕を回した。
「祐?」
「Hするんでしょ?・・・・・なら、ベッドまで連れて行って。」
顔を合わせると笑みを返す祐に冬樹はまかせろ、とそのまま抱き上げすぐ傍のベッドへと優しく降ろすと、そのまま抱き寄せる。
「・・・・・っふ、んんっ・・・・・あっ・・・・・」
Hの前にキスするのも肌を愛撫されるのも、さっきまでと同じなのに、どこか違う気がして抑えられない熱が体中を走りぬけ祐は甘く擦れた吐息を零す。
「祐?」
「・・・・・んっ・・・・・やっ・・・変、に・・・なぁ・・・っん・・・・・・!!」
いつになく乱れる祐に冬樹の愛撫にも更に熱が入り、両足の間に顔を埋め熱心に祐の自身と秘孔にまで舌を伸ばすと更に深く舌と唇、そして指を使い愛し始めた。

「あんっ・・・・・んんっ・・・・・っん・・・・・」
くちゅくちゅと指が動く度に聞こえる水音に混じり、噛み殺す事のできない喘ぎが祐の口から零れる。
舐めるだけでも、指で内部を掻き回すでもない音も聞こえ祐は悲鳴にも似た声を出しそうになり唇を噛み締める。
何をどうしているのかも、できれば分かりたくないほどの卑猥な音が零れてきて、祐は必死に冬樹の髪へと手を伸ばした。
少しだけ届いた指で、摘める程度の髪を微かに引く祐に冬樹はやっと顔を上げる。
「・・・・・何?」
濡れて光る唇が祐の羞恥を更に煽るのが分かっているはずなのに、拭おうともしないまま問いかける冬樹は少しだけ意地悪な笑みを浮かべている。
「・・・っ、ふゆ、き・・・さん・・・・・んっ、もう・・・・・」
必死に乱れた息の下、微かに呟く祐に冬樹は笑みを浮かべたまま身を起こすと顔を近づけてくる。
汗ではりついた髪を払ってあげながら額や頬へと軽いキスを何度も与える冬樹に祐は目線だけを合わせる。
「まだ、痛いかもよ?」
「・・・・・平気、だから・・・・・お願、い・・・・・・」
ふるふると緩く頭を振りながらも、つたない言葉で願う祐に冬樹は微かに息を吐くと唇へとキスをする。
すぐに、舌を差し込むそのキスに祐は必死に冬樹の肩へと手を伸ばす。
飲み込みきれない唾液が唇から零れるのをそっと拭った冬樹はもう一度、キスを与えると祐の顔を見つめた。
秘孔の傍で存在だけを誇示していた、熱い塊が、祐の中へと埋まっていく間も冬樹は眉を顰めはしたけれど目だけは逸らさなかった。
ずぶずぶと潜りこむ異物に、かなり解され、蕩かされたはずの内部はぎちぎちとそれでも押し出そうとするからいつだって、最初は痛みがあるけれど、今の祐にはそれは深く繋がり愛される為なら我慢できる痛みだった。
何度も体だけは繋げていたのに、この痛みに慣れる事なんて無かったのに、心境の変化で痛みも甘く変わるから、祐はただ冬樹へと伸ばした手の力を抜き笑みを浮かべた。

「・・・・・好きだよ、祐。・・・・・絶対に放さないから・・・・・」
深く繋がり、抱きしめると耳元で囁く冬樹に言葉もなく頷いた祐はその背へと腕を伸ばすとぎゅっと抱きついた。
これから先きっと自分達は行為に慣れ、気持ちにも慣れるだろう。
だけどきっと忘れないこの甘い痛みだけは。


甘い痛みとはまさに・・・・・いや、ドリームですから!
書き逃げ上等、またいつか。 20071117

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