「君が好きだよ」
言葉に耳を疑いただ驚いた顔で瞬きを繰り返す卯月祐(うづきたすく)に目の前の彼、如月冬樹(きさらぎふゆき)は笑みを浮かべたまま今度はもう少しだけ近づき耳元へと同じ言葉をもう一度繰り返した。 夢の様な現実が実感できなくてつい自分の頬を抓る祐に冬樹はただ笑を浮かべてくる。 初めてその姿を視界に入れたときから気になりだし憧れていた一つ上の先輩からの突然の告白に祐は自分を保てないままその意識を手放していた。 夢の様な奇跡に浮かれていた祐は一番肝心な事を忘れていた。 顔見知り程度で最近やっと挨拶ぐらいは交わす仲の接点すらろくに無い自分になぜ告白してきたのか、その事を祐は聞き忘れていた。 自分になぜ告白したのか、好かれる事を何かしたのか、何一つ分からないまま祐はただ憧れていた人からの告白にただ浮かれていた。
「何で、たまの休日にお前といるのかな、俺は?」
ぼやく友人、羽住健吾(はずみけんご)に祐はただ苦笑を返しぼんやりと窓の外を眺める。
「先輩とは、その後どう?・・・・・何かあった?」
「・・・・・別に。何で?」
「いや、一時期はかなり浮かれてたのに最近落ち着いたからさ。・・・・・デートとかは?」
「しないよ・・・・・それに、俺と先輩って付き合ってるのかそうでないのか、良く分からなくてさ。」
「・・・・・はい?」
飲んでいたジュースをつい吹き出しそうになりながら必死で飲み込むと聞き返す健吾に祐はやっと顔を向けた。
「告白はされたけど、だからって別に変わらない。誘えば乗ってくれるけど、それだけ。俺達、本当に付き合っているのかな?・・・・・もちろん、何もないから。」
真顔で問いかけてくる祐に戸惑いながら健吾は窓へと顔を逸らしそのまま驚いた様に目を見開いた。
「健吾?」
固まる健吾に祐も視線を窓の外へと移して納得した様に呟いた。
「可愛い子だよね・・・・・この前とは違う子だね。」
前はギャル系だった、と呟く祐に健吾は驚いた様に顔を向けた。
「・・・・・お前。」
「先輩の隣りには、やっぱり女の子が似合うよね。俺って、何だろう。学校にいる間の目くらまし?」
窓の外にいたのは冬樹と腕を組み親しそうに歩く女の子。 ぼんやりとその姿を眺めたまま祐は苦笑を浮かべるとぼんやりと呟いた。
*****
「いきなり呼び出して、すいません。」
「・・・・・いいよ、話って何かな?」
あの日から数日経ってから祐はやっと冬樹に伝えようと思った。 呼び出した相手に頭を下げる祐に冬樹はいつもと変わらない笑みを浮かべたまま問いかけて来る。
「あの、こんなのは違うから、だから・・・・・」
喉元まで迫上がった「別れたい」の言葉を目の前の相手に完全に塞がれ祐は目を見開いたまま驚きにただ立ち尽くした。 腕を引かれ食いつかれる様に貪られる唇にやっとキスをされているのだと祐が認識できたのは濡れた音が耳に聞こえ唇を離された時だった。 呆然と立ち尽くしたままの祐に顔を近づけたまま冬樹は笑みを浮かべる。 それは見慣れた誰をも魅了する様な爽やかな笑みではなく寒気を感じる程の冷たい笑みで祐は自身の背中を冷たい汗が流れるのを感じる。
「俺は認めないよ。・・・・・何も聞く気は無いから。」
身震いして少しでも離れようと手を伸ばす祐の両腕を掴み冬樹は耳元へと呟いた。 いつになく低く冷たい声に怯えた様な目を向ける祐に冬樹は更に笑みを深める。 放す気は自分には無いのだと態度で示す様に抱きしめてくる冬樹に祐は戸惑いを隠せないまま目を閉じる。 見たくない現実を見せられたかの様にただ戸惑う祐を冬樹は胸の中へときつく抱き寄せるとそのまま笑みを消した。
「二度と俺と別れようなんて思わない様にしないとね。・・・・・もっと、構わないと。」
呟くと再び唇を押し付け、ねっとりと舌まで差し込まれた祐は突然人が変わった冬樹への戸惑いから、まだ立ち直れないまま呆然とされるがままただ受け入れる。
床に倒され素肌を晒され這い回る手をぼんやり見ていた祐はやっと何をされているのか気づきとにかく冬樹の下から抜け出そうと体をもぞもぞと動かしだした。
「祐?」
「・・・・・止めて下さい、こんなのおかしい、です・・・・・」
戸惑いながらそれでも呟く祐に冬樹は眉を顰めると逃げようともがく体を押さえつける。
「おかしい?・・・・・俺達は恋人同士、だろ?・・・・・触れ合うのがおかしいわけない、違う?」
「・・・・・でも、先輩は俺を好きなわけじゃないですよね?・・・・・誰でも良かったんですよね、だから、今までは俺に触れようともしなかった。だから、・・・・・無理しないで下さい。」
「・・・・・何、言って・・・・・」
黙り込んだ冬樹の押さえつける力が少し緩んだから祐は下から抜け出すと乱れた服を調える。
「もう、先輩には近づかないから、先輩も俺には関わらないで下さい。・・・・・さよなら。」
呆然と座りこんだままの冬樹の背へとそう呟くと祐は出口のドアへと手をかける。
「俺と別れるのがお前の結論?・・・・・分かった振りして一人で納得して俺の気持ちも聞く気がない?」
ぼそり、と呟く冬樹に祐は一瞬だけ振り向こうとして頭を振ると手をかけたドアを開く。 そのまま外へと歩き出そうとして、祐はかなり強引に腕を引かれ再び中へと引きこまれ、そのまま壁に縫い付けるように抑えられる。
がつんと壁に当たる衝撃に、痛みに眉を顰めたまま祐は顔を上げる。
「・・・・・先輩?」
「何も思ってないのはお前だろ?・・・・・俺が何しようと何の関心も見せないのはお前だろ!言いたい事あるなら言えよ、何も言わないまま勝手に納得して終わらせんな!」
肩を掴み、口調も荒く吐き出す冬樹に祐は戸惑う様に顔を逸らすと何も答えないままただ唇を噛み締める。 その態度がますます気にいらないのか冬樹は肩を掴む手に少しだけ力をこめたまま口を開いた。
「別れたいなら理由を言えよ。・・・・・お前にとって俺は?・・・・・何も関心が無いのはお前の方なのに、俺の気持ちを代弁するの止めろよ。」
「・・・・・俺はそんなつもりは、ただ・・・・・」
壁に押し付けられた背が痛いのか掴まれている肩が痛いのか分からないまま擦れた声で祐はやっと呟く。
「ただ、何だよ。・・・・・俺にも納得できる答えをくれよ。」
「・・・・・俺は男だしつまらないから、先輩には女の子が似合うから、だから・・・・・」
「だから、女と付き合っても文句は言わない?・・・・・なら、別れる必要ないじゃん。今まで通りで良いじゃん。誰と遊んでも良いんだろ? 何をしてても構わないんだよな?」
「・・・・・だから、俺は・・・・・」
更に肩に食い込む力が強くなり眉を顰める祐に冬樹は笑みを浮かべた顔を近づける。
*****
「嫌っ!・・・・・止めっ・・・離せよ!!」
せっかく直した服の中へと手を潜りこませてくる冬樹に祐は言葉で止め、必死に抗い拒む。 なのに、冬樹の手は止まらずに、壁へと押し付けられたまま少し温度差のある冷たい手で素肌に触れてくる。 その冷たさに体をびくり、と揺らす祐に冬樹は笑みを浮かべると唇へとキスをしてくる。 優しい、いつもの冬樹とは違う。 全身から冷たさが滲み出ている彼なのに、祐は息を吐くこともできない程深く貪られるそのキスにただ泣くことしかできなかった。
「・・・・・っん・・・・・んんっ・・・・・・」
拒む唇を強引に押し開き、口内へと舌を差し込み嫌がる舌を絡めとリながら、冬樹は祐の必死の抵抗さえも力で捩じ伏せる。
「・・・・・っやぁ・・・もっ・・・・・・」
頭を振り、擦れた声を零す祐を壁へと押し付けたまま冬樹はベルトへと手を伸ばす。 かちゃかちゃと外されるベルトと開かれるズボンの前、唾液を送り込まれ、ほとんど塞がれた口では息さえも上手く出来ないまま祐は自分の一番弱い場所を強引な手にさらりと下着越しに一瞬だけ触れられ体を疎ませた。
「祐、好きだよ」
やっと唇だけは放され呆然としたまま肩で荒く息を吐く祐を抱き寄せ耳元へと冬樹は呟いた。 ろくな抵抗も出来ないまま壁へと押し付けられた祐はその言葉に止まらない涙を拭おうともしないまま冬樹へと視線を向ける。
「・・・こんな、事・・・・・楽しいですか? 俺は、先輩が・・・・・分かりません。」
「分からなくて良いよ。・・・・・何も言おうとしないなら、強引に奪うのが早いだろ。」
「何を・・・・・・!!」
笑みを浮かべ答える冬樹に眉を潜ませた祐を強引に床へと引きづり倒した。 抵抗する間もなく馬乗りになった冬樹を祐は呆然と見上げる。
「・・・・・・先輩?」
「俺は祐を放す気は無いよ。・・・それを証明してあげる。」
体重をかけ、顔を近づけ笑みを浮かべる冬樹はそのままそっと唇へと触れると止めた手の動きを再開させた。 状況をまともに判断できないのか戸惑った視線を向ける祐に構わないまま冬樹はほとんどはだけたシャツの袖を縛り祐の自由を奪うと素肌へと顔を摺り寄せその肌へと舌を這わせ始めた。
「・・・・・せんっ・・・・・んあっ・・・・・」
名を呼ぼうとしても出てくるのは自分の声とも思えない詰まった声で、祐は思わず唇を噛み締める。 胸の突起を執拗に嬲られ痛みがじんじんと体中を駆け巡り、噛み締めた唇の隙間からは殺せない息が零れ落ちる。 締め付けられた手首は動くほど締まっていく気がして、祐は冬樹が何を考えているのかも分からないままただされるが儘になるしかなかった。 いつ、誰が来るかもしれない狭い教室の中は妙に静かで耳につくのは肌を擦れ合う音、そしてばくばくと高鳴る自分の心音だけがやけに響く。 顔をやっと向けた冬樹の唇が妙に艶かしくて、祐は思わず唇を噛み締めたまま目を逸らす。
「もう、抵抗は止めたんだ。・・・・・俺にされるがまま?」
耳元へと唇を寄せ呟くその声に祐はびくり、と肩を揺らす。 耳へと生温い息が入る度に体の奥が変になりそうでただ怖かった。
「・・・・・もう、止めて下さい。 どうして・・・・・」
噛み締めていたせいで色が変わった白に近い唇で祐はぽつり、と呟いた。 強引に組み敷かれ、抵抗さえも抑えられた惨めな自分を想像するとただ泣けてくる。 そんな祐に冬樹は溜息を吐くと更に顔を近づけた。
「祐は俺から離れたいんだよね。・・・・・だけど、俺はお前を手放す気は無いんだよ。それなら俺は強引に奪うしかないだろ?」
「なんっ・・・・・・・・・・!!」
擦れた声で呟くと冬樹は奪う様に唇へと触れてくる。 同時に準備もろくにされていない最奥に埋め込んでくるから祐は声にならない叫びを上げる。 ぎちぎちと進められる度に何とも言えない痛みが続き微かに漏れる祐の声は擦れた呻き声だった。 それでも冬樹自身も痛みに眉を顰めたまま何とか奥まで埋め込むと微かに息を吐いた。
「・・・・・ごめん、きつい・・・・・よな?」
額に前髪を貼りつかせたまま肩で荒く息を吐く祐の前髪を掻き分けてやりながら、冬樹はそっと呟く。 言葉を語る度に響く微妙な振動で祐は漏れそうになる声を唇を噛み締め抑えながら、涙で潤んだ視界にぼんやりと冬樹を写す。 最初から返事を期待しての問いでは無かったらしく、冬樹は笑みを浮かべるとそのまま祐の反応を確認しながらも動き出した。
*****
「・・・・っふ・・・ああっ・・・・・んっ・・・・・・」
一度関係を持てば一度も二度も同じなのか冬樹は祐を呼び出してはこうして事に及んだ。 時間も場所も関係なく、二人きりになればすぐに組み敷かれ、体を好きにされた。 最初はただ痛いだけのその行為に体は気づかないまま馴染んでいたらしく、挿入の時の痛みさえ我慢すれば後はなし崩しだった。
「・・・・っん、あっ・・・・んんっ・・・」
「ねぇ、気づいてるのかな? 俺が今は祐だけだって事・・・・・」
腰を進め、少しづつ突き上げを早めながらも呟く冬樹の言葉も祐の耳には入ってこなかった。 ただ熱くなる体に置いてかれそうな心を必死に守る事しかできなかった。 がつがつと責められ蕩けだした最奥から卑猥な水音が聞こえだし、飲み込み切れない精液が肌を伝い溢れるから更に水音が響き、祐の声さえも消される気がする。 何を言われても気づかないし、熱くなる体にただ翻弄された。 唇を奪われるように塞がれ、ねっとりと舌を絡められる。 息継ぎすらまともに出来ず零れる唾液も気にしないまま深く深く絡め取られるから祐は息苦しくて縋りつく様に冬樹へと手を伸ばした。 冬樹の手で絶頂まで押し上げられた祐自身が冬樹の手の中で震えると白濁した液を溢れ出すと同時に最奥でも熱い飛沫が溢れ祐は身を震わせた。 喘ぎ声すら塞がれ、上も下も絡め取られた行為が終わると荒い息を吐いた二人は熱い体を抱き合いまるで相思相愛の恋人の様に寄り添う。 いつまで続くのか、いつ終わるのかも分からないまま祐は冬樹の腕の中、熱が冷めていく体を持て余していた。
読みきりで片付けたかったのにすいません;またもやですか・・・でも次でこれは終わりです。
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