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待ち望んでいない事は早く訪れる。 見上げた空は快晴。雲ひとつない真っ青な空を眺めたまま広海は苦笑を零す。
「・・・・・笑い事じゃないんだけど・・・・・」
背後からの声にすぐに後ろを振り向いた広海は眉を顰めたまま不機嫌な顔を隠しもしない暁にそのまま顔を向ける。暁本人だけがどんなに拒んでも、親や彼女が乗り気な結婚式は破談になるどころか、着々とその準備を勧め、今日がその日だった。逃げる事も考えたのに、結局その日が来るまで何もできなかった自分が悔しいのか唇を噛み締める暁に広海はそっと近寄る。
「今から逃げとく?」
「・・・・・今更かよ。 で、何か計画は有るのでしょうか?」
窺う様に顔を覗き込み問いかける広海に暁は低く唸るように呟いてから、顔を向けると問いかける。この窮地を是非救って欲しいと目が訴えるのを眺めた広海は笑みを零すと手を伸ばす。
「オレは式を円満に進めて終わらせるのを願ってるんだけど・・・・・ほら、一応担当だし。」
「・・・・・オレが結婚する方が良いって事?」
伸ばした手を受け止め、広海の体を引き寄せながら問いかける声はさっきよりも低い。淡々と告げる広海に愛が無いと呟くのも忘れない暁の胸へと顔を摺り寄せた広海は彼の腕の中規則正しい心音を聞き瞳を閉じる。
「広海!」
「・・・・・オレは誰かが不幸になる恋愛だけはしたくなかったのに。」
「そんな綺麗事ばかりが恋愛じゃないだろ?」
否定も肯定もせずただ笑みを浮かべた広海は暁の腕の中、背へと回した腕に力をこめる。選択肢は色々な場所にあった。枝は幾重にも別れていたのに、今ここにいるのが全てだから、閉じた瞳はゆっくりと開いた広海は顔を上げる。これから起こる嫌な事を思い出しているのか眉は顰めたままだけれど、視線に気づいた暁がゆっくり、と笑みを浮かべてくる。
「・・・・・愛しているよ、暁。」
「俺も、愛してる、けど・・・・・珍しいな、言葉をくれるの。」
あまり口数が多い方じゃないのに、就いている仕事は接客業なのを前々から不思議に思うぐらい、滅多に気持ちを口に出さない広海の告白にさらり、と答えながらも暁は顔が緩むのを抑えられない。レアな告白はたまにだから、嬉しいのかもしれない事に今更気づく。 「次に言うのはじゃあ、一年後とかでも良い?」
「広海! 何か、考えてるわけ、いきなり告白なんて。」
「どうだろ。とりあえず、ほら、時間だろ、早く用意しなよ。」
暁の腕に嵌っている時計へと視線を向けると簡単に腕の中から逃れながら告げる広海の声に折角上がった気持ちが下降するのを感じながら暁は淡々と身支度を整えだした。
「用意が整ったら呼んで。 俺、今日は友人として呼ばれた人になるから。」
式と披露宴が行われるホテルの地下の駐車場で暁へと手を振りながら笑みを浮かべ淡々と告げる広海に訳も分からず頷いた暁は一人ホテルへと入っていく。車の中で肩を落とし歩いてく姿を見届けた広海は一人狭い車内で大きく深呼吸を何度か繰り返すと、ポケットから携帯を取り出した。少しだけ良心が咎めるけれど、頭を振るとすぐにボタンを操作した広海はある場所へと電話をかける。
*****
「全く! 式の準備は全て真理子さん任せで、あちらに申し訳ないと思わないの?」
さっきから延々と同じ事を繰り返す母親にうんざりした顔を隠すつもりも無く、眉を顰めたまま暁は渡された服を淡々と着ていく。勝手に息子の結婚相手を決め、ひたすら拒む息子の意思を踏み躙り、今日、この日を迎えた自分の事など全く棚上げの母親に言いたい事は山の様にあるけれど、無言で通す暁に母親はまだ何か言いたい事でもあるのだろう口を開こうとするけれど成り行きを黙って見つめていた父が素早く諌める。
「まぁまぁ、母さん。 暁もちゃんと来た事だし、良いじゃないか。少し、落ち着こう、な。」
言うと、母の肩を抱き部屋を出て行く父をネクタイを締めながら見送った暁は入った当初から感じていた息詰まる部屋の雰囲気からやっと解放され、手に持ったままの上着を無造作に投げ出すと椅子へと座りこみ大きな溜息を吐き出した。
「それで、ご両親は?」
「・・・・さぁ。 あれから戻って来ないんだよ・・・・・で、何考えてる?」
携帯ですぐに呼び出した広海は部屋に入ると、たった一人で座っている暁に首を傾げる。普通なら両親や親戚に囲まれているはずなのに、その疑問を口に出した広海に暁は苦笑と共に吐き出した。そんな暁に広海は笑みを返すと、そのまま手近な椅子へと腰掛ける。 「で、式は何時からとか聞いてるの?」
「聞いてない。 すぐに嫌味の応酬でそれどころじゃなかったから・・・・・進行表とかどこかにあんのかな?」
「式の係には渡されてるだろうけど・・・・・知り合いに聞いてこようか?」
「いいよ。 時間になったら呼びに来たりとかするんだろ?」
眉を顰めうんざりした声で告げる暁に広海は何も言わずに笑みを浮かべた。それきり会話が続かなくて、居た溜まれないのか、立ち上がる暁は部屋の隅に常備されてる飲み物を見つけると、何も言わずにコップに取り分けた一つを広海の目の前に置くと、自分はごくごくと飲み始める。喉を潤したおかげで少しは楽になったのかほっと息を吐く暁に広海は置かれたコップへと手を伸ばすと口をつける。
「こういう式って男の方って暇だよな?」
「まぁそうだね。結婚式なんて女性の為の式みたいだろ? 一生に一度の晴れ舞台とか良く言われてたし。」
今は違う、と言外に告げる広海に苦笑を零した暁は時計へと目を向ける。この部屋に広海が来てからすでに30分位は経っているはずだけど、出て行ったきりの両親は全く姿を見せる気配も無い。
「何か、した方が良いのか?」
「・・・・・良いんじゃないの? どうせ乗り気じゃないんだろ?」
「そりゃそうだけど。 このまま式に突入されるのも嫌なんだけど・・・・・」
「うーん、式の前に花嫁に会う人とかもいるけど、会いに来るかな? どう思う?」
首を傾げ問いかける広海に暁は無言で時計を睨むように見つめる。このまま、式が始まったら逃げる事もできない不安が過ぎって苛々と椅子の上、足を揺すりだした暁に広海は何も言わずに立ち上がる。
「・・・・・多分俺は結構酷い事をしようと思ってるよ・・・・・」
暁の傍に近寄ると、二人きりの部屋なのに声を潜め囁く様に告げる広海をじっと眺める。でもすぐにその顔には笑みが浮かぶから、そんな暁に広海は更に顔を体を近づける。音もなくそっと触れ合う唇は互いの熱を求めるようにすぐに深く長く重なる。腰へと手を伸ばし、広海を更に引き寄せる暁に逆らわず、広海は彼の上に跨りながらも唇を離さない。もう、音のしない静かなキスと違い、互いの舌を絡め、唾液を啜り合う、零れた唾液が口の端に零れ落ちても唇は離れず、やがて濡れた音が部屋中へと響き渡り始めた。一度離れた唇を名残惜しそうに眺める広海に暁は触れるだけの優しいキスを落とすと、自分の上に跨ったままの広海の顔へと手を伸ばす。
「酷い事って何? 俺にも酷い事?」
「・・・・・多分、だけど・・・・・周りにはもっと酷い事かな?」
「じゃあ、良いよ。 広海が傍に居てくれない事より酷い事は俺には無いから。」
顔を両手で包みこみ問いかける暁に広海はちょっとだけ目を伏せると、答えるから、暁は笑みを浮かべたまま顔を近づける。互いの唇がすぐにでも触れ合う程間近でさらり、と告げる暁に伏せていた瞳を上げた広海はただ笑みを返しすぐに瞳を閉じる。またすぐに触れ合う唇は先ほどの名残か微かに濡れた音を零しながら重なる。
*****
軽く何度も触れ合う唇は名残の熱に煽られ、すぐに深く長いキスへと変わっていく。移りゆくその瞬間、同じタイミングで広海と暁は瞳を薄っすらと押し開く。すぐに合う目と目。言葉はいらなかった。お互いにある熱はキス以上の事を望んでいるなら、それに従うだけ。だから、双方同時に互いの服へと手を伸ばしていた。早く素肌の熱が欲しくて、ねっとり、と濡れた音を響かせるキスをしながら、競い合う様に互いの服を脱がす。 シャツ一枚の暁と違い、広海はまだ上着を着たままのスーツ姿だったのに、先に肌を見せたのは広海が先だった。弾け飛ぶボタンも気にせず毟り取る様に脱がせ現れた肌に暁は濡れたままの唇を押し付けてくる。 首筋から這う様に舌を滑らせ、白い肌にそこだけ色づく赤い果実を躊躇う事なく口に含む。びくり、と揺れる広海の体をしっかり、ともう一度抱えなおした暁は二つついている赤い果実、もう一方は指で
摘み揉み扱く。ぷっくり、と存在を指や口の中でで小さく主張してくるソレと同時に、跨る下肢にも熱を帯びてくる場所がある事にも暁はすぐに気づいたから、指をそのまま下へと滑らせた。かちゃかちゃとベルトを外す間にやっと脱がせ現れた暁の肌にぴったり、と顔を押し付け広海は微かに荒い息を吐く。 体中が熱を持っている。どうすれば、良くなるのか知り尽くしたお互いの体を手繰り寄せ、熱に溺れていく。 部屋中を覆う濃密な空気、熱を帯びた吐息を貪るようなキスを交わし、溺れた熱に浮かされ、更に生み出す行為を繰り返した。誰が入ってくるかも分からない、部屋の中、二人はもう互いしか見えていまかった。
微かに鳴るドアをノックする音に気づいたのは、広海だった。気づいた所で、何かしようとは思わない。自分の上に乗り、緩やかに時には激しく腰を振り、額に汗を浮かばせた暁の首筋へと手を回し、ぎゅっと抱きついた広海は「もっと」と擦れた声で催促する。奥深くを抉られ、びくびくと体を奮わせながらも、自分の中にある異物を締め付ける。 耳元で呻く擦れた声を聞きながら、広海は更に回した腕へと力をこめた。 もうすぐ広海の計画は完全に果たされる。目の前の愛しい男を誰にも渡さない為に考えたその計画を思いついた時、広海はどれだけ惨めで浅ましいのかを自覚した。でももう戻れないし、戻る気もない。体の奥で蠢く熱が迸り、滾るのを感じながら広海は口元を歪ませる。反応の無いこちらに気づいた彼女は決して去ろうとはしないだろう確信がある。同じ人を愛しているからこそ、分かる事、口で言っても通じないのなら態度で行動で示せば良い。
「・・・・・暁、好き・・・・・愛してる・・・・・」
切れ切れの息の元、それでも告げる広海を抱きしめる腕に力をこめた暁は何度も顔へとキスを送る。
「愛してるよ、広海。・・・・・お前だけ・・・・・」
同じく耳元へと返してくれる答えに広海は暁へと笑みを返した。もうすぐ終わる何もかも、そうして始まる。お互いしか見えない世界、ソレを思い更に笑みを深くする広海に暁は顔を近づける。 鍵のついていない扉が開かれる、彼女と共にいた暁の両親からきっとお祝いにと渡されたのだろう、手にしていた花束が落ちていくのをばんやり視界の端へと映しながら、広海は暁へと抱きつく腕へと更に力をこめる。 end
何も言いません。聞きたい方は別の場所で・・・・・; 20090408
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