27

「修学旅行?」
「何、当たり前の言葉で驚いてんだよ・・・・・高二で行くに決まってんだろ?」
夏休みボケですか?と突っ込みも忘れない夏の言葉に悠里は驚いた自分が急に恥ずかしくなり顔を赤く染める。
新学期が始まり。テストだ何だと追われていたら、いつのまにか「残暑」もどこかに消え去り、景色や人の服装さえも変わっている。
「・・・・・いつ、行くんだっけ?」
「滝沢、何聞いてた?」
問いかけに首を傾げたまま、渇いた笑みを浮かべる悠里に夏は大きな溜息を吐き出す。
「10月に入ってすぐ、だよ。・・・・・場所は何が面白いのか分からない北海道だと。」
「・・・・・秋に?」
「そう、秋に。一番観光客が来ない場所なんだとさ・・・・・うちの学校なんかむかつくとこだよな。・・・・・北海道なら秋じゃなくて冬だろ?」
「観光する場所なんてあんの?」
「・・・・・さぁ?」
おもいっきり首を捻る夏の目の前で悠里の頭の中には思わず「北海道はでっかいどー!!」というフレーズと熊が浮かんできた。
場所だけは知っているけれど、ただ広い大地だという印象しか悠里の中には浮かばなかった。

「・・・・・北海道を激しく誤解してないか、ソレ。」
ばんばんと机を叩きながら笑いだした泰隆は相変わらず悠里の間違った知識が面白いのか、笑い続けている。
「・・・・・そういう、先生は?・・・・・・北海道といえば?」
「寒い、ぐらいしか記憶にないな。」
「行った事あるの?」
笑いすぎて潤んだ瞳を瞬かせ、ぼんやりと上を見上げ呟く泰隆に悠里は机へと身を乗り出し問いかける。
「卒業旅行が北海道だった。・・・・・スキーばっかやってたね。」
「・・・・・観光は?」
「しないね。行った場所が山だったし、スキーと温泉ぐらいしか楽しんでないよ。」
「僕等は札幌、函館、小樽だってさ。・・・・・観光なんてどこにあるの?」
ぶつぶつ呟く悠里は、北海道に秋に行って何が面白いの?とまだ文句を言っている。そんな悠里に泰隆は苦笑すると思いだした様に呟いた。
「・・・・・俺、引率のメンバーなんだよね、そういや。」
「本当?」
「うん。若手の先生は俺と保険のみっちゃんと吉野君かな?・・・・・二年の担任って男ばっかで花が無いよね〜」
「はい?」
冗談だって、と睨み付ける悠里に泰隆は笑みを浮かべ答えて来るけれど、悠里はそのまま背を向ける。
「・・・・・悠里?」
「授業始まるから戻ります。・・・・・失礼しました、先生!」
そのまま歩き出した悠里に泰隆は立ち上がると慌てて彼を抱きかかえる様にして止める。
「ちょっと、待った!・・・・・お前、本気で怒ってるだろ?」
「全然、離して下さい!」
「嫌だよ、放したら戻って来ないだろ?」
バタバタと暴れる悠里に呟いた泰隆は更にきつく抱きしめてくる。
「・・・・・授業・・・・・」
「次の時間は確か自習だろ?・・・・・いなくても全然大丈夫だから。」
にっこり、と笑みを浮かべ生徒に堂々とサボりを勧める先生の言葉に悠里は溜息を吐く。
「それでも、教師ですか?」
「・・・・・教師の前に機嫌の悪い恋人を宥めるただの男ですから、ね。」
抱きかかえた悠里を自分の方へと向けながら告げる泰隆に悠里は再度溜息を吐いた。
それでも伸ばされる腕を享受してその温もりに悠里は黙って身を任せる。
そっと降りてきた唇への温もりと同時に授業の開始を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


*****


「・・・・・っ、先生・・・・・なのに・・・・・」
「だから。・・・・・先生だけど、可愛い恋人の前じゃ恋する男だって。」
はだけたシャツの隙間から覗く肌に何度も舐めるようにキスをしながら告げる泰隆の声に悠里は彼の乱れていない服の袖をぎゅっと掴む。たった、それだけでもあがる息を押し殺し悠里は慣れている恋人の鮮やかな手管にただ唇を噛み締める。
「・・・・悠里?」
一際主張を始めた赤い粒を摘みながら耳元で囁く声に悠里はぞくり、と背を奮わせ目を閉じる。
耳に微かに漏れる泰隆の息がかかり、更にびくり、と体を揺らした悠里はそっと瞳を開く。
「・・・・・んっ、だ、め・・・・・」
僅かな抵抗を見せる悠里を何も言わずに泰隆は抱き寄せる。
「無理、だろ?・・・・・こんな中途半端じゃ、この後ぐだぐだ、だよ?」
ぎしり、と二人の体重で軋む椅子の音が静かな室内でやけに大きく響く。
「止めても、いいの?」
問いかけながらも、泰隆の手は止まらない。布越し、既に反応を見せだした悠里の下肢へと伸ばされた手がそっと形を撫でてくる。触れられただけで、更に熱くなる正直すぎる体に悠里は唇を噛み締めるとただ泰隆の首筋へと頭を擦りつけた。その背を軽く撫でた泰隆は悠里の顔を上げると最初のとは違う今度は深く長いキスを落とす。

授業の始まっている学校は使われている教室以外はかなり静まり返っていて、二人がいる場所も例外では無かった。
静まり返った廊下、遠くから微かに聞こえる声はかなり遠い。なのに室内の中は濃密な空気に占められている。
誰かが通りかかったらすぐにでも気づかれてしまうそんな気配が外に漏れそうで、悠里はせめて声だけはと、唇を必死に噛み締める。そんな悠里に気づいているはずなのに、泰隆はその手を止めようとはしない。
一番触れて欲しい場所をわざと逸らし、泰隆は唇を噛み締め、小刻みに震える悠里へと顔を向けると笑みを浮かべる。
この場に似つかわしくない、爽やかな笑み、確信犯なその顔から視線を逸らした悠里は体の奥すでに溢れだしそうな熱を必死に堪える。
「悠里、我慢は体に悪い、って言ってるだろ?」
わざわざ、顔を逸らした視線の先へと向け告げる泰隆は笑みをそのまま浮かべている。
「・・・・・・っ!・・・・・ひど、っ・・・・・んんっ!!」
漏れそうな声を必死に抑え呟く悠里の口をそのまま泰隆は塞いでくる。かちゃかちゃと聞こえる金属音、少しして肌に直に空気が触れるけれどすぐに温もりに包まれる。
「・・・・・やすっ・・・・・さん・・・・・」
「んっ・・・・・もう、焦らさないから、我慢しないで・・・・・」
キスの合間に呟く悠里に答えると、すぐに唇を塞ぎ、泰隆は悠里自身へと触れた手を性急に動かしだす。
もう、すでに先が濡れ、反応している場所に更に熱が溜まる。
くちゅくちゅ、と濡れた音まで聞こえるけれど、塞がれた口から漏れるのは、微かな隙間から息と、入り込んでくる舌に絡まれ飲み込みきれない唾液だけが零れ落ちる。
喉を伝う濡れた感触が気持ち悪いのに、一向に離されない唇では何も言えないまま、悠里はただ泰隆の腕へと手を伸ばすと、辛うじて残っている力で握り締める。

くちゅ、くちゅと聞こえてくる音がぐちゅ、ぐちゅと更に卑猥な水音に変わる。
いつのまにか、悠里だけのものではなく二つの形を握り合わせていた泰隆は、別の場所へと指を伸ばす。
互いの先走りだけで濡れた入り口を舌と唾液で濡らした指で泰隆は少しづつ開いていく。
「・・・・・あっ、んっ・・・・・んぁ・・・・・・」
唇を離されたから、溢れだす声を必死に堪えながら悠里は体の奥へとゆっくり入り込んでくる指に眉を顰める。体を開かれる前戯はいつまでたっても慣れない。
篭る熱が更に増え、体の奥が変になりそうな、突き入れられるそれとはまた違う言葉では上手く伝えられない曖昧なソレが悠里は何度体を重ねても慣れなかった。
眉を顰めまたしても唇を噛み締める悠里の眉間にキスを落とした泰隆はそのまま彼の体を再び目の前にある机の上へと持ち上げる。
「・・・・・泰隆、さん?」
いきなり机に乗せられ戸惑う悠里の声に構う事なく泰隆は丁度目の前に来た場所へと顔を埋めた。


*****


「んっ、んくっ・・・・・もっ・・・・・やっ・・・・・・」
ぐちゅぐちゅ、と鳴る水音が静かな部屋に更に大きく響く。たまに、ずずっと啜る音まで響き、もう唇を噛み締めるだけでは堪えられない喘ぎを抑えきれずに、悠里は口元に手を当て、声を少しでも押し殺そうとする。
「・・・・・んっ、もう・・・・・良い?」
濡れた唇を拭いながら、顔を上げ問いかける泰隆にだから悠里はただこくこくと首を振り頷く。
一端体を離した泰隆が体重をかけたからなのか、机がぎぎっと軋む音を出す。
顔を近づけてきた泰隆に悠里はもう一度唇を噛み締め直すと、首筋へと手を回し引き寄せようとする。
「・・・・・挿れるよ。」
背へと腕を回し悠里を引き寄せ唇へと軽くキスを落とした泰隆はそっと耳元へと呟く。こくり、と頷く悠里の唇を舌でべろり、と舐めた泰隆はそのまま唾液と舌と指で濡らした秘所へと熱く滾った自身を合わせる。
ずずっと入り込む熱い塊、体の奥に入り込む、というよりは飲み込んでいくそんな感じ。
自分とは違う熱が奥まで入り込み混ざり合う、別の体同志が一つに繋がる不思議な行為。
一つに繋がる、それだけで、心音まで重なる気がして悠里は泰隆の首へと回した手に少しだけ力をこめる。
「・・・・・平気?」
擦れた低い声、吐息が混ざる泰隆の呟きに悠里はびくり、と体を揺らし、ただ頷く。そんな悠里に中へと入り込んだまま動かずにいた泰隆自身がびくり、と蠢く。
「・・・・・っん!・・・・・な、に・・・・・」
「もう、だめ・・・・・動くから、ごめん・・・・・」
知らずのうちに締め付けていた内部で更に蠢くソレに泰隆は眉を少しだけ顰め呟くとそのまま腰を動かしだした。
突然揺り動かされ悠里は泰隆へとただ縋りつく。

いつもなら、悠里のペースも気遣ってくれるはずの泰隆の性急な動きに溢れだしそうな声を抑え唇へと顔を近づける。
喰らいつかれる、本当にそんなニュアンスが似合う激しいキスと比例する激しい動きに軋む机の音が更に響く。
「もっ、と・・・・・ゆっく、り・・・・・あっ、んんっ・・・・・」
「・・・・・だから、んな、余裕が・・・・・」
縋り付き絶え絶えの息の下呟く悠里を深く抱き込むと泰隆は更に奥を探りながら告げる。
ぐちゅ、ずちゅと聞こえる濡れた音、正気ならもちろん耳を塞ぎたくなるそんな卑猥な音すらも気にならない。篭る熱が一気に放出するその瞬間、悠里はきつく抱きしめられた腕の中抑えきれない声を漏らす。
びくびくと震える悠里の体の奥、熱い飛沫が勢いよく吐き出され、荒い息の下、泰隆は抱きしめた腕の中の恋人へとねっとりとしたキスを送る。
耳に届く鐘の音、それでも止まらない熱いキスに悠里は回した腕をそのまま更に泰隆へと縋りついた。


新展開はどこへ?・・・・・すいません、次回に持ち越しで。とりあえず新章突入です、かね?

back top