DOLCE VITA

愛の唄 番外

クリスマスだってイベントとしては大がかりだけれど、バレンタインデーも日本では結構ポピュラーな恋人同士の祭典だ。
クリスマスと違うのはそれが両思いじゃなくても『恋』をしている女の子なら誰でも楽しめるそういう事。
昔から男はチョコの数を競ったりとか、その日にどれだけチョコを貰えるか量や質などを競ったりなどしていたな〜とつい一昔前の懐かしい学生の自分を思い出しながら可愛くディスプレイされたショーウインドウをぼんやり眺めていた識はミラーの様に移る硝子越しに待ち人を見つけた。
振り向き笑みを向けた識に急いで来たのか少し赤らんだ頬を更に赤くしながらはにかんだ笑みを返してくれながら近づいてきたのは彼の可愛い恋人、肇だった。
「ごめん、待たせた?」
「大丈夫だよ、どこから行く?」
眉を少しだけ歪め笑みを見せる肇ににっこり、と微笑むとさりげなくその腰に手を伸ばした識はそっと彼を引き寄せる。
安心したのか今度はちゃんとした笑みを見せてくれる肇を促し識は歩き始めた。
最初に出会った時から妙に気になる人だったから、自分でもらしくなく世話を焼き、毎日肇の動向を気にしていた感情は一度言葉をつけて認めてみればなんて事はないただの「恋心」だった。
毎日、愛しさは募り、本当はいつだって腕の中に包み誰にも見せたくない程の気持ちが識の中をぐるぐると渦巻くけれど、見かけによらず結構意地っ張りな肇に識はいつだって溜息が止まらなかった。
口説き落としてやっと答えてくれた『同棲』の夢がやっと叶う第一歩の今日も待っている間に気が変わったらどうしようと、らしくもなく臆病な自分に苦笑しか浮かばなかった。
「識、識ってば・・・・・聞いてる?」
「・・・・・ごめん、ぼっとしてた、何?」
「あのさ、僕の希望としてはできるだけ部屋は広い方が良いんだ。」
「何で?」
「自分の部屋、やっぱりあったほうがいいだろ?」
「・・・・・そうか?俺は別にいいけど、駅から近い所で部屋が広めね、そういう線で探してみますか?」
「うん!」
笑みを向け合い、二人はあらかじめ調べておいた不動産屋へと少しだけ足を速め歩き出した。


*****



「なかなか、思うような所って見つからないもんだな。」
貰った間取りの紙をテーブルに投げだすと、大きく伸びをする識に肇はただ苦笑を返す。
何件か目星をつけていた不動産屋を巡りお勧めの物件だって見せてもらえたけれど、二人共あまりぱっとしない気持ちを抱えたまま家へと戻った。
それに男二人暮らしは不動産屋にもあまり良い印象は持たれず不快な気分さえ味わった。
「期限なんてないし、気軽に行こうよ。」
笑みを向け呟く肇に識は腕を伸ばすと彼をぎゅっと抱きしめる。
「何か、感じ悪いヤツもいたよな。ごめん、嫌な思いさせて!」
「・・・・・僕は平気だよ、識は、大丈夫?」
「俺も平気。肇が一緒だし。」
顔を見合わせて笑みを浮かべると二人は自然に顔を近づける。
ひっそりと耳元で泊まる事を勧めながら肇の服を乱しはじめる識に赤くなった顔で肇はこくり、と頷いた。

まだ半分眠気の残る頭で隣りで眠る恋人を起こさないようにそっと布団から這い出た識は新聞を取りに行き玄関先に落ちていた新聞を開きながら居間へと向かう。
目に留まったのは一枚のちらし。
新築マンションの売り出しの広告で間取りを見つめていた識の顔には自然に笑みが浮かんでくる。
さっきはひっそりと出てきた寝室に駆け戻ると識はまだ夢の中の肇を大声で起こしだした。
「肇!起きろってば、マンション買おう!!」
まだ眠りから起きない頭で吐き出されたその言葉を半分開いた目で聞いていた肇は慌てて跳び起きる。
「何、言って・・・・・どこから、そんな・・・・・」
「これ!新築マンションだって。二人で払おう、そんで俺らの帰る家にしよう!」
賃貸なんてまどろっこしい、と手に持つちらしを見せたまま嬉々としていう識に肇はぼんやりとそのちらしを見つめた。
肇はマンションの相場を知らない、だけど施工する業者の名前は大手で、完成予想図のイラストがとても良い感じだった。
欲しい部屋の価格を見て、まだ寝起きで上手く働かない頭を駆使して必死に給料とローンを照らし合わせる。
「・・・・・肇?」
ちらしを見たまま固まっているその様子に戸惑う様に声をかける識に肇はやっと顔を上げる。
「別れるとか、考えないの?」
「絶対に別れないし!・・・・・多分賃貸よりも融通聞くよ?」
「・・・・・絶対?」
「そう!絶対に離れてやんない。一人暮らしでもマンション買うヤツはいるじゃん。それに比べれば二人なんだから返済も早いよ。」
笑顔で付け加える識に肇はやっと笑みを向ける。
日の光が照らす中、二人は顔を見合すとそっと唇を触れ合わせた。


*****


お互いの両親にはほとんど事後承諾でマンションを購入したんだとしか伝えなかった。
これが新築の匂いかと改めて鼻を動かした肇に識が荷物の整理をしながら笑みを向けてくる。
「何?」
「別に、ほら、これ、そっちに持って行って。」
無難な言葉に話を変える識のそれ以上は言わずに肇は渡された荷物を言われた場所へと持っていく。
二人だけの生活なんだと肇は改めて互いの荷物で埋め尽くされている部屋を見る。
今までだって互いの家を何度も行き来したし、ほとんど入り浸り生活だってしていたけれど、だけどそれは〜の部屋とどちらか一方の名前がついた。
だけどこれからは二人の部屋なんだと改めて思う。
「肇!」
「ごめん、今行く!」
呼ばれる声に荷物を手にしたままの肇は急いで返事を返すと識の元へと向かう。
ここから始まる、二人だけの甘い生活。


えっと、本編より更に後日の話になるかと思われます。
マンション買わせる予定じゃなかったんだけどな、買わせちゃったよ; 20080214 up

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