楽園には遠い

長期休暇が取れ、念願のバカンスへと向かう飛行機の中。一足早く楽しい気分を盛り上げようとガイドブックを取り出す為に開けた鞄の中、見慣れない手紙が置かれていて、思わず手に取る。
触るだけで良質な紙が使われているのが分かるその手紙を暫く眺めていた僕はやっと出かける時の事を思い出す。
前日早目に寝たにも関わらず、ついついゆっくりしすぎて、結局バタバタしてしまった今日の朝。つい習慣で覗いたポストの中に入っていたこの手紙に気づき思わず鞄の中に押し込んだ手紙だった。
宛先はきっちり自分宛だけれど差出人の名前は書かれていなかった。だけど、とてもダイレクトメールには見えないそれを僕は丁寧に封を外し、中を見る。
開いた瞬間浮かれていた気分が急速に沈んでいくのを感じた。

長い事曖昧な関係を続けていた相手と別れたのはつい二週間前。長く付き合える相手だとは思ってもいなかったけれど、それなりに好きな人だったのは確か。だからこそ、長期休暇が取れた時には迷わず国外に出る事を考えた。長い間、彼一筋でいた自分に対する気分転換、そして国内にいれば狭い日本。家から一歩も出ない生活なんてきっと出来ないだろうから、ばったり会ってしまったら、そう考えると真っ先に国外に行く事を決定事項にしていた。
どう見ても下準備はかなり前からされていたのだろう、今、手の中にあるのは別れた相手の結婚式の招待状だった。
「別れ」を切り出したのはもちろん自分からだった。
煮え切らない曖昧な態度に苛々する事が多くなった今、潮時だと思っていたから。始まりも曖昧だった、だらだらとただ時だけが過ぎていった相手だった。
だけど、別れた相手にまでいくら学生時代からの知り合いだからといっても一応付き合っていた相手にまで自分の幸せを報告するその無神経な気持ちが僕のテンションを更に低くさせる。
「バカ男」
思わずひっそり、と呟き手紙を握りつぶそうとして僕は思い留まる。
式には参加しない。それは前々から思っていたし、不参加の通知は送ってあげようとは思う。だけど、どうしてもデリカシーの欠片も持たない別れた相手には何かしてやりたくてしょうがなかった。じゃないと、念願の休暇で楽しい旅行に浮かれていた気分を台無しにされた自分だけがただ惨めすぎる。
これから向かうだろう南の島でありったけの恨みつらみを愚痴りそうな自分が目に浮かぶ。

神様に愛を誓う?
バカにされた自分の気が何となくだけど晴れる事。それは別れた相手の過去の汚点を洗いざらい暴露する事、それ以外無いだろう。それなりのリスクは覚悟の上、僕はそっと口元を歪め微かに笑みを浮かべる。

南の島、一人楽しみながら、相手の幸せを壊す勢いで僕は行動するだろう。
自分でも分かってる。それは単なる僻みにしかならないって事。それで幸せが壊れるのかどうかも分からない。きっと確かめる術だって無いだろう。
だけどむかつく。
僕から切り出した「別れ」だけれど、巧く相手の思惑に乗って僕は別れを切り出した感じだ。曖昧に始まり、曖昧に終わる。
散々都合の良いように振り回された挙句、その相手の態度に疲れ、別れを切り出した僕。時期が重なる様に届いた招待状。
良いように利用されていたと思って何が悪い?
「別れ」もそうなる様に仕向けられたと思えば、この手紙の事だって理解できる。
ただただ、取り残された自分が惨めだ。

遠い南の島から散々考えた挙句に送りつけた手紙。
「不幸になりやがれ! バカ兄!!」
そう書き殴った手紙と過去のヤツの汚点を贈りつけた。

その後?
僕は知らない。そのまま、仕事を辞め、今居るここで第二の人生を歩む為の道を探し始めたから。
そう、今も僕は南の島にいる。今度こそ新しい、輝かしい自分だけの大切なモノや人を見つける事を夢見て、ここで生きていく事を決めたから。


何となく、書き殴り。
思いつくのはこんなのばかりで本当にやばいです; 20090710

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