希望の唄

夢かと思った。
繰り返し報道されているそのテレビの画面を見ながら震えだす手をぎゅっと握りこみ彼は深く息を吸いこんだ。
どうすればいいのかまだ具体的な案は自分の中から何ひとつ現れてくれない。これが現実なのかどうかの判断すらつかなくて、ただテレビの画面を眺める事しかできない彼の耳に突然呼び鈴が鳴り響く。
出ない彼に焦れたのかそれから矢継ぎ早に鳴りだす呼び鈴は迷惑以外のなにものでもない。形の良い眉を少しだけ顰めた彼は座っていた場所から渋々立ち上がると玄関へと向かった。
「今、何時だと思ってる? 迷惑だろ?!」
ドアをあけて開口一番に告げる彼の言葉にドアの前に立つ見上げるほど長身な男は沈んだ顔で彼を見つめてくる。今にも泣きそうなその男の顔に苦笑を浮かべた彼は男に中に入る事を促す。
「・・・・・どうしたら、良いのかな?」
いつもはもっとはきはきした声で話す男のいつになく沈んだ声に彼は苦笑を浮かべる。ほんの数年前、あの時も男はこんな風に沈んでいたのだったと思うと彼には少しだけ余裕が出来る。
「まだ、詳しくもはっきりも分からない・・・・・それに、俺はあいつの方が心配だよ。 ほら、入れって。」
手を引きもう一度促す彼に男はこくり、と頷くと玄関へと足を踏み入れる。背をぽんぽんとまるで幼子の様に撫でてやると今まで我慢していたのか男は顔をくしゃり、と歪ませると泣き出した。そんな男の背をもう一度今度は宥める様に擦った彼は玄関の外に近づいてくる気配に気づき顔を向ける。
どうしてそうなのかな?と顔には苦笑しか浮かばない。見覚えある顔が二つ、どちらも今懸命に泣き声を堪えている男と同じ位大事な顔見知りそして愛する仲間だ。
「あの、僕達・・・・・どうしたらいいか分からなくて・・・・・」
「ごめん 迷惑だと思ったんだけど・・・・・ここしか思い浮かばなくて・・・・・」
居心地悪そうに立ち尽くす男達に彼はだから今自分が出来る精一杯の笑みを浮かべた。
「分かってるから・・・・・入れよ、お前もーーっ! いつまでここで泣いてんだよ・・・・・」
部屋に入る事を促す彼に男達は沈んだ顔で靴を脱ぎだす。

「まだ・・・・・信じられないよ・・・・・」
呆然とテレビを眺めて呟く見た目坊ちゃんな男の横に座る少し斜に構えている感じの男が一度横目でテレビを見てからすぐに俯く。
「バカがっ! だから、気をつけろって言ったんだよ・・・・・」
舌打ちをし、吐き出す様告げる男にこの中で一番大きい体をしている男がただ苦笑を浮かべるけれど何も言わない。お茶を運んで来たこの家の住人である彼は困った様な苦笑を浮かべ舌打ちした男の肩を軽く叩くとお茶を勧める。
「とりあえず飲んで落ち着け! あっちからの連絡は無いけど大人しくしてるのが一番だろ? こんなに騒がれてるけど、起こった事は仕方無いから。」
そう言いながら、自分の持って来たお茶へと我先に口をつける彼に男達も渋々とコップへと手を伸ばす。
「でもさ、容疑者って酷くない?」
長い沈黙が続いたのに耐えれなくなったのか、むすり、と唇を突き出し、一番大きい体をしているけれどこの中で一番最年少の男の言葉に「仕方無いよ」と呟いたのは坊ちゃん風の男。瞳を細めてテレビ画面を見てはいるけれど、きっと自分の経験を思い出しているのかもしれないと彼は思う。あの時だって自分達は集まった。何をするでも無かったけれど、集まる事が最上だと信じていたから。
深く大きく息を吸い込む。
「大丈夫。 何とかなるよ、これまでもこれからも・・・・・だろ?」
「・・・・・・うん。」
伏し目がちになる男の肩をゆっくり掴んで彼は怒ったまま黙り込んでいる男へと顔を向ける。自分と同い年、だけど考え方はきっと全く違う。それでも、この中で一番意見が同じだろう男は視線に気づいたのか顔を上げる。しっかり、と目を合わせる。言葉にしなくてもお互いの言いたい事が分かる様な気がして彼は頷くと微笑む。
「あいつも反省してるだろ、今頃。 だからさ、俺達は帰れる場所をちゃんと守ってやろうぜ。」
どちらからともなく手を繋いでくる男から視線を逸らさないまま彼はゆっくり、と言葉を繋ぐ。泣き腫らした目で見上げる一番年下の男が三人の傍へと近づいて来る。
四人、しっかり、と手を繋ぎなおした。
「俺達は大丈夫! これまでもこれからも、変わらない、だろ?」
一人、一人の顔を見回しはっきりと告げる彼に三人はやっと苦笑ではない笑みを浮かべる。
きっと暗い場所で一人きり、もしかしたら犯した罪に戸惑い、後悔しているかもしれないあいつを思い浮かべる。それでも彼は笑みを浮かべる。今いる三人を見渡す。
「大丈夫だよね?」
「・・・・・僕達は平気・・・・・」
言い聞かせる様に呟く二人の横、憮然とした顔をまだ崩さない男へと彼は目を向ける。
「分かってる。 俺達は大丈夫。これからの事もちゃんと大丈夫・・・・・だろ?」
問いかける男の声に彼はますます笑みを深くすると繋いだ手へと力をこめる。

もうすぐ日が昇る。あいつの事も早く安心させてあげたいと彼は繋いだ手の温もりに瞳を閉じる。
僕等は立ち上がる、何度転んでも、立ち塞がる障害物を乗り越えていく。
早く、戻りたい、もうひとつの温もりを感じたくて、彼は繋いだ手を握り締める。


サイトに載せるのはどうかな?と思っていたのですが、とりあえずUP
完全オリジナルとしてどうぞ。20090426/20090912

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