久しぶりのデートだったはずだったのに、メールだけでドタキャンされたら怒るのはきっと柚希だけではないはず。 ぐびぐび、と焼け酒を煽る柚希の目の前で海がこの男にしては珍しくおろおろしている。
「おい、小林・・・・・飲みすぎだって!」
「うるさいよ、江藤。 これが飲まずにいられるかっての・・・・・大和のヤツ、付き合いだからって、おれとの約束キャンセルして合コンだぜ? 有り得ない!!」
ぶっすり、と唇を尖らせたまま吐き出す柚希に海は思わず苦笑を零す。目の前の友人の恋人がたとえ男だろうと変わらない友情を築ければ、とは思っているけれど、痴話げんかに巻き込まれるのは流石にちょっと一人身が虚しい。そんな事を思っての苦笑だけれど、肝心の柚希にはそれが分からないらしく、かなり酔っているのか、同じ事を何度も繰り返す。そろそろ呂律も妖しい柚希に海はいつお開きにすれば良いのかタイミングを計れずにただぼんやり、と話しを聞くだけだった。そうしてついにこてん、とテーブルにうつ伏せた柚希に海は困った様に目の前のグラスに手を伸ばしながら溜息を零す。
「・・・・・ごめん、迷惑かけた。」
不意に届いた声に海は顔を上げ、手に持っていたグラスを落としそうになりながら、ぽかり、と口を開く。そこに立っていたのは件の人である、目の前で潰れている柚希の恋人である大和だった。
「何で、ここが?」
「・・・・・ユズの携帯、居場所チェックできるから。」
困った様に笑みを浮かべながら種明かしをする大和に海は笑みを返すと席に着く事を促す。大和は一瞬戸惑うけれど、すぐに空いている椅子へと腰を落ち着ける。
適当に飲み物を頼み目の前にある残ったつまみへと手を伸ばす大和を見ながら海はグラスの中の液体を一口飲み込む。
「合コン、行ったんだって?」
「・・・・・ユズ? 合コンだって知らずに行ったんだよ、ゼミ会だって言うから、良い迷惑だよ。」
「約束キャンセルされたって、お冠でしたけど?」
「ゼミ会だって言われたら、教授も来るだろうし、そっちを優先するだろ? 騙されたのは俺なのに、話もまともに聞いてくれないんだぜ。」
本格的に寝息を立て出した柚希へと目を向けた大和のぼやきに海は微かに笑みを浮かべる。
「合コンだったって、何でばれたのかが気になるんだけどな。」
「そこかよ。 そこにいた奴にユズと一緒の時に話しかけられた、途中で帰った俺への非難でさ、もう最悪だよ。」
うんざりだと肩を疎め呟く大和に海は渇いた笑いを浮かべる。間が悪かったとしか言えないし、巧いフォローの言葉も見つからない。そんな海に大和は軽く溜息を吐くと、目の前にあるコップへと手を伸ばし、無言で一気に中身を煽る。
「大丈夫か?」
「平気。喉渇いてたし、巧く潤った。 じゃあ、俺、帰るわ・・・・・これ、連れて帰っても?」
これ、と柚希を指さす大和にこくこくと海がただ頷くと、大和は財布から適当な札をテーブルに置くと、寝息を立て、本格的に眠りへと向かっている柚希を担ぎ上げた。
「これ、良いよ。 後で、小林に請求するから・・・・・」
テーブルに置かれた札を返そうと立ち上がる海に「良いから」と手を振り、大和は担ぎ上げた柚希をそのままに店内を出て行く。残された海は何となく後姿を見送ると微かに溜息を吐き、空に近いコップへと手を伸ばした。
*****
ばしゃばしゃ、と掛けられる冷たい水に一気に眠気と酔いが遠のき柚希は飛び起きる。そうして、見慣れたバスルームに自分がいるのに改めて気づき、目の前にいるシャワー片手に座りこむ大和に気づいた。
「あの、ここ・・・・・」
「家。有り得ない、一度も起きないなんて、飲みすぎだろ?」
「・・・・・えっと・・・・・」
思わず頭に手をやり、濡れている服に改めて気づく。シャワーを掛けられ起きたのだから服が濡れていて当たり前なのに、そんな事も気づかない自分に柚希は引き攣った笑みを浮かべる。
「記念日は大切ですけど、日頃の節度も俺は大切だと想うんですが、どうでしょうか?」
「ごめん・・・・・だって・・・・・」
「合コンに行ったのは確かに俺が悪い、けど、意識なくなるまで飲むお前は悪くないと?」
片手に持ったシャワーから未だに出ている水を嫌味の様に足元へとかけながら呟く大和に柚希はぶすり、と膨れたまま黙り込む。 「仲直りの為に譲歩する気は?」
「・・・・・だって、久々だったのに、俺、ずっと楽しみに・・・・・」
鼻を啜る柚希に大和は空いている手で目にかかる髪の毛を払いのけると、シャワーをぽい、と床に置き、柚希へと近づく。
「それも分かってる。騙された俺も悪い、だけど、そのまま無視された挙句のこの仕打ちは無いと思わない?」
今にも泣きそうに潤む目を何度も瞬きさせる柚希へと大和はゆっくり、と顔を寄せると目元にそっと唇を押し付ける。水なのか涙なのか分からない程濡れてる柚希に何度も唇を離しては押し付けながら濡れた服へと手をかける。
「・・・・・大和?」
「もう、俺限界なんだけど・・・・・このままじゃ、本当に浮気するよ?」
「へ? あっ、ちょっと・・・・・どこ、っんん!」
言いながら素肌へと手を滑りこませる大和に柚希は思わず後ずさろうとして後ろが壁なのに気づく。あっという間に唇を押し付けられキスで抵抗の言葉を塞がれたまま、濡れた床へと押し倒される。
「やっ、ここ、どこだと・・・・・」
「どうせ濡れてんだから、もう脱いじゃえよ。 誰も来ないし、どこだって同じだろ?」
ささやかな抵抗をしながら、否定の言葉を吐き出す柚希の上にどかり、と体重をかけた大和は濡れて脱がしにくいはずの服をそれでもするすると脱がし、自分もさっさと服を脱ぎ捨てる。 現れた素肌に唇を押し付けられ、柚希は困った顔のまま、仕方なく目を閉じる。
「んっ、あっ・・・・・やっ、そこ・・・・・んっ・・・・・」
ひっきりなしにバスルームに響く声は大して意味をなさない。がんがん、と腰を打ちつける大和の首筋に腕を回し縋りついた柚希の甘い喘ぎが更に大和を煽る事なんて本人は気づきもしない。
「・・・・・やま、大和、俺っ・・・・・もう・・・・・」
「うん、俺もいきそう・・・・・」
ぐちゅぐちゅ、と繋がる部分が大和が腰を動かすたびに更に大きな音を出す。汚れても濡れても構わない場所だけど、流石に固い床はどうかと、柚希を抱え上げ自分の上に乗せた大和はそのおかげで更に深く繋がり、喘ぐ柚希の声に思わず舌を舐める。 唇を奪い声を塞ぎながらも、隙間から漏れる息遣い、零れる唾液をたまに舐めとり、大和は頂きへと向かう。
「・・・・・っあ、やっ・・・・・いく、いっちゃう・・・・・」
「だから・・・・・いけって・・・・・」
背に縋りつく柚希が喘ぎながら、大和の背中に爪を立てる。動かすたびにぴりぴり、と走る痛みに眉を顰めながらも大和は柚希の背を抱き寄せ深く奥を穿つ。びくびく、と震える体を抱きしめながらも溢れだす自分のものを止める事はもうできなかった。互いに荒い息を零しながらも、唇を合わせた二人は未だに繋がったまま、互いを抱き寄せる。 荒い息を整えながら、抱きしめた柚希の背を撫でた大和は久しぶりの温もりに深く繋がり熱を放出したはずの己が勢いを少しづつ取り戻すのを感じていた。
「・・・・・やっ、大和、あの・・・・・」
「うん? ああ、続きはベッドに行こうか。」
中で蠢く存在に気づいたのか、顔を上げる柚希の背をゆっくり、と撫でながら、大和はにっこりと笑みを返すとそのまま立ち上がる。 途端に抜けた存在があった場所から零れだすソレを普段なら洗い落としてから出るのに、抱え上げた柚希を降ろさないまま大和は濡れた体、そのままの姿でベッドへと向かう。
*****
何度繋がり、何度果てたのか、記憶も体もぐったりしている柚希の背を撫でていた大和は身軽にベッドから起き上がると、傍に置いてあった鞄を漁り出す。全裸で屈む後姿は何か笑える格好なのに、柚希はぼんやり、と大和を見たまま何も言わない。 疲れた体と同様に声を出すのもかなり辛かった。
「あった、ユズ、これ。 クリスマスプレゼント!」
小さな掌サイズの箱を手にした大和は戻ってくると、未だベッドに横になったままの柚希へと箱を見せる。
「クリスマス・・・・・って・・・・・」
「もうすぐだし、当日に渡せなんて事ないだろ? ほら、開けて見て」
箱を手渡しにこにこと笑みを浮かべたままの大和に柚希は重い腕を持ち上げるとうつ伏せになると箱へと手を伸ばす。リボンを取り、包みをがさがさと外した柚希は小さな箱の蓋を持ち上げた。
「・・・・・・これ・・・・・」
「時計を恋人に贈る意味って知ってる?」
「・・・・・・は?」
「あなたの時間を縛りたい、って意味だって。」
小さな箱の中に入っている腕時計を眺めながら、にやり、と笑みを向けてくる大和に柚希は顔を赤く染める。ありきたり、とか定番だとか、悪態はつけるけれど、欲しい、と願っていたのはたったひとつ。 いつでも一緒に入れる時間なのだと、思っていた事を見られているみたいで、柚希は枕に頭を押し付ける。
「ユズ、何か、感想は?」
「・・・・・ありがと・・・・・」
くぐもったその声に大和は笑みを浮かべるとそのまま、うつ伏せたままの頭へと顔を近づける。ぎしり、とベッドが軋み、同時に触れる唇を感じ、柚希は顔を上げた。待っていた様に唇へと近づいてくる大和に柚希はそっと瞳を伏せた。
あまりクリスマスと関係無い気がするのですが、とりあえず贈り物を贈る所でクリスマスかな?と。 年季の入った恋人同士になりつつある二人です。 20091221
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