中に入っても物珍しそうに辺りを見回している譲は自分に迫っている危機にもちろん気づいてもいなかった。 適当な部屋を見繕い譲を引き寄せ歩き出した慎二にも笑顔しか向ける事が無かった。
「あの、ここは?」
「遊べる所、二人きりでね。」
部屋の中に入りジャケットを脱ぎ捨てる慎二にやっと譲は部屋の中を眺めながら戸惑う様な笑みを向け問いかけてくる。 笑みを向け淡々と答える慎二に譲は立ち尽くしたまま動こうともしない。
「こっちに来いよ。・・・・・俺と遊びたいんだろ?」
手を差し伸べる慎二に譲は導かれるままおそるおそる歩き出した。 強引に手を引き寄せベッドへと押し倒してくる慎二を譲はそれでも呆然と見つめる。 眉を顰め今更自分に迫る危機に気づいた譲に慎二はただ笑みを深くすると顔を近づける。 触れ合う唇が微かに震えているのに気づき慎二は興奮で体中がざわざわするのを感じる。 小刻みに全身を微妙に奮わせたまま、もうその顔からは笑顔は消え、怯えながら自分を見る譲の瞳に慎二は内心更に欲望が肥大するのを感じながら、何度もキスを繰り返す。
*****
「・・・・・んっ・・・ああっ・・・もっ・・・・・・」
涙交じりの微かな喘ぎに笑みを深くすると慎二は目の前にある肌へと口づける。 強引に割り込ませた狭い秘孔はさっきから慎二自身を銜え込んでいるのか、押し出そうとしているのかも分からない動きを繰り返している。 額に汗を滲ませ、苦痛に眉を顰めた譲の寄った眉間へと体を伸ばしキスをすると薄っすらと瞳を開いた彼は慎二へと手を伸ばしてきた。 握り返してやると譲は微かに笑みを浮かべる。 その笑みに惹かれ少し肉厚な唇へとキスを繰り返しながら、慎二は動きを止めていた腰をそろそろと動かしだした。 躊躇う事なくがんがんと奥を突きあげる慎二に譲は縋りつこうとしながら最初は必死に抑えていた喘ぎを零しだす。
「・・・・・っく・・・・・んんっ・・・・・あっ・・・・・」
突き上げ掻き回す慎二を受け入れながら喘ぐ譲は痛みになのか、それとも甘さが伴ってきた声から生理的ななのか分からない涙を零しながらも潤んだ瞳で真っ直ぐにただ慎二を見つめてくる。 その視線が妙に肌を刺し、慎二はますます激しく勢いをつけて腰を突き上げだした。 ギシギシと早まるベッドの軋む音と、どんどん高くなる譲の喘ぎ声、そして肌と肌のぶつかりあう音、微かなでも激しい呼吸音のみが部屋の中を埋め尽くしていた。 中でぎゅっと無意識なのか、締め付けて来ながらも譲は涙交じりの顔で慎二を見上げると、甘い声を零しだした。
「・・・・・あんっ、っあん・・・・ああっ・・・・・」
内側を深く本能に任せて強引に突き始めた慎二に呼応するかの様に譲の喘ぎも大きくなっていった。 深く抉る慎二の腰の動きに譲はただ甘い声を零し続けた。 部屋中に広がる甘い喘ぎと肌が擦れ合う音。 慎二が譲の奥に何度目かの欲望を吐き出した時、譲は自分も白濁の液を零しながらも気を失いかけていた。 完全に落ちた意識に慎二は微かに息を吐くとずるり、と、ずっと嵌っていた自身を抜いた。 意識を失くしてもびくびく、と揺れる譲の後孔から零れだした白濁に慎二は苦笑を浮かべる。 零れ落ちる尽きない白濁に何度吐き出したのか思い出して、譲の顔を見る。 汗で額に張りついた髪を指先で外してやりながら、少し青ざめた顔に自嘲の笑みを浮かべた慎二はベッドから起き上がるとシャワーを浴びる為に浴室へと向かった。 意識の無い裸身を見て、少しだけ慎二は顔を譲へと近づける。 流石に顔色は悪いけれど呼吸は正常だと確認した慎二はぐったり、としたその背に薄手の毛布をかけると、自らは服を調え髪を整え身支度を整えた。
「また、機会があれば、な。」
心にも思っていない事を眠りこんだままの譲に話しかけ慎二はそんな事を呟いた自分に苦笑を浮かべた。 体の相性というのがあるのなら、きっと今までの誰よりも具合は良かった。 今でも思い出すと少しだけ胸が痛む、かつて愛した人よりもずっと、年若い男に背を向けると慎二はそっとドアを開くと静かに部屋を出て行く。 またいつものつまらない毎日の始まりだと、明けきらない空を眺めながらぼんやり思うと慎二は頭を振るとそのまま背後を振り向く事もせず歩き出した。
「・・・・・は?知り合い、って・・・・・誰?」
小首を傾げ、見た感じ男のくせに細く長い指で煙草を取り出し銜える浅葱に慎二はライターを差し出した。 「ありがと」と呟き煙草を吸い込む浅葱のライターを手の上で持て余しながら、慎二は一夜を共にした譲を思い出し話す。
「ふーん、俺の知り合い、ね?・・・・・そんなヤツいたかな? で、そいつがどうしたの?」
「・・・・・知り合いと寝たら、まずかったかな・・・と、ね。」
少しだけ自分の言葉に嫌悪を覚えたのか眉を顰める慎二に浅葱はただ笑みを返した。
「一夜だけじゃ、足りなくなるくらい良い体だったのか? 会いたいなら、探してやるけど?」
顔見知り程度なら、この町で暮らしてそこそこ遊んでいれば知らずに増えるものだと浅葱は呟きながらも、慎二へと顔を向け問いかける。 その笑みに少し不穏な感じがしたのか慎二は何も答えないままただ苦笑を浮かべた。
「名前分かるなら、探してやるよ。」
「いらない。・・・・・それより、浅葱の知り合いだったら面倒になるかな、とか思ったからさ。それだけ、もう二度と会わなくても良いよ。 面倒は嫌いだからさ。」
浅葱の親切心と少しだけ興味津々のその言葉に苦笑を浮かべた慎二は首を振ると呟いた。 それきり、その話は有耶無耶になり浅葱はつまらなそうな顔をして会話が切れる度に慎二を眺めてはいたけれど、それ以上踏み込んで来ることはなかった。
「ほら、浅葱立てる? 珍しいじゃんか、お前が飲み過ぎるって・・・・・」
「・・・・・じょーぶ、らいじょうぶ・・・・・あーぐるぐるするーーっ・・・・・」
「だから、ほらしっかり、しろって!」
言葉も怪しくよろける浅葱の腰を支え、引きづる様に乗せたタクシーの中で呟く慎二に浅葱は酔って潤んだ目を上げるが何も答えずただ笑みを浮かべた。 部屋へと向かう途中で肩に重みがかかり、浅葱の微かな寝息が聞こえてくるから慎二は溜息と共に苦笑を零すけれど、それでも彼を起こそうとはせずにそのまま浅葱の部屋へと向かった。
「ほら、歩け、歩けってば・・・・・」
「・・・んーーーーーっ・・・・・」
たいして変わらない身長差そして似たような体格の男に必死に語りかける慎二に相変わらずよろける浅葱は呻き声しか漏らさずしっかり意識があるのかも怪しい。 辿りついたドアの前、慣れた手つきであけると浅葱を支えていない方の手を伸ばし薄暗い部屋のスイッチを点けた慎二は抱えてきた浅葱を寝室へと寝かせた。 硬く瞼を閉じたままの浅葱を見下ろしてから、慎二は部屋を見回した。 相変わらず、殺風景な部屋に慎二は苦笑を浮かべたまま台所へと向かいコップに水を入れると寝室へと寝かせた浅葱の下へと向かった。 タクシーの中でほとんど寝ていた浅葱は人の苦労も知らずに健やかな寝息をたてている。 少し乱れた髪に服、いつも嫌味な笑みを浮かべる顔は酔っているからなのか少し夢心地な表情で、慎二は持っていたコップの水を飲見込むと溜息を吐いた。
*****
「本当にごめん!!・・・・・・俺、何かした?」
朝早く開口一番にそう言うと頭を下げる浅葱に慎二はまだはっきりしていない頭を振るとただ苦笑を浮かべる。 いつもと違う、嫌味な笑みを浮かべるそんな面影がどこに今は見当たらない、髪はぼさぼさ、皺のついたシャツを羽織っただけで、意気消沈している珍しい浅葱に慎二は横になったまま笑いだした。
「・・・・・慎二?」
「----ごめん、何か止まんない!!・・・・・っふ、ははは!!」
訝しそうに見る浅葱の声にも止められないまま腹を抱えたまま笑い始めた慎二がやっと落ち着いたのは、耳に届いた重い溜息だった。
「・・・・・浅葱、ごめん・・・何か、珍しくてさ・・・・・」
「いや、いいけど。・・・・・昨日はどうかしてたから・・・・・」
俯いたままぼそぼそと呟く浅葱に慎二は流石に笑いすぎな自分に内心反省するとまだ横になったままの体を起こした。
「浅葱?」
名を呼んでも無言の浅葱に慎二は顔を近づける。
「・・・・・ごめん、笑いすぎました。あんなに酔うの初めてじゃん、だから何かいつもとのギャップがおかしくてさ・・・・・・浅葱?」
肩を震わすから慎二は眉を顰めるとそっと顔を覗き込んでそのまま呆然とした。
「・・・・・浅葱ーーっ!!」
「ごめん、だってあまりに神妙に謝るからさ・・・・・本当にごめん、迷惑かけた!」
肩を奮わせ笑っていた浅葱に慎二は低く唸るような声で名を呼ぶ。 身の危険を本能で感じたのか慎二から離れて立ち上がった浅葱は笑みを浮かべたまま顔の前に手を合わせた。
「・・・ったく、体は?二日酔いとか無いのか?」
「ああ、全然平気!本当に悪かった、シャワー浴びてくるわ!」
笑顔で逃げる様に走り去る浅葱に慎二はソファーへと身を預けると深く息を吐いた。 浅葱が出てくると交代でシャワーを浴びにいった慎二は熱い湯を頭の上から浴びながら溜息を漏らすと瞳を閉じる。
次で終わるのか謎のまま、また次回!・・・・・やばいよ、終わる予定だったのに;
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