ハツコイ

〜PURE LOVE 番外〜

視線と視線が絡み合ったその時に予感がした。
とても言葉では言い現せないその予感は数年後確信に、そしてやっとそれに見合う言葉が当てはめられた。

「柚希〜飯なんだけど・・・・・いい加減起きようよ・・・・・」
朝が弱い恋人の顔を長い間眺めた後あまり起こす気もないのかひっそりと呟いた大和は身動ぎもしないでぐっすりと安眠している平和な顔に溜息を吐き、静かに立ち上がると台所へと向かった。
数ヶ月前まではお互いの気持ちの行き違いも有り「セフレ」にしかなれなかった二人が恋人に昇格できたのは幸か不幸か柚希の元恋人のお陰だった。
別れ話の後は大学に来ているのかも分からず消息不明との風の噂も流れている彼がいなければ自分達は互いへの気持ちを口に出す事もしなかっただろうと思う。
未だに彼を傷つけたと後悔はしているらしいけれど、最近の柚希はそれを口に出す事もしなくなった。
良く言えば前向きに悪く言えば溜め込んでいるになるのだろうけれど、大和はぎりぎりまでは見守ったままでいたかった。
人が人を束縛するのは「恋愛」には良くあることで互いを知るには何かしらの束縛をされているのではと思う。
ただそれを重いとかウザイと感じる次点でそれはもう「恋愛」関係では無いのだろう。
愛が無くても人は抱き合えるし、愛が無くても人は人を束縛は出来る。
人の欲には限りが無いと言われているし、その関係で溺れるのか沈むのかで大分形も変わってくるのだと思う。
今の自分がどうなのかと言われればまさに溺れてると答えるだろうと考えた大和はつい苦笑を浮かべた。
「おはよ〜〜。」
朝のやる気を奪う様なだるさ全開でのそのそと歩いてきた柚希に振り向いた大和は笑を浮かべる。
「おはよう。飯は?」
「・・・・・食べる。」
のろのろと食卓の席に着いた途端に大きなあくびをしながら呟く柚希の前に大和はサラダとフレンチトーストを置いてやる。
「相変わらず、朝は半死人だね、お前。」
腫れた瞼を擦りながらあくびを繰り返す柚希に大和は前の席へと座ると告げる。
「・・・・・大和は朝早いよね。羨ましいよ、社会人になっても苦労しないよ。」
もそもそとフレンチトーストを頬張りながら話す柚希に大和はコーヒーへと伸ばした手を止める。
「お前な〜そっちこそ、働いたらどうすんだ?」
「うーん。・・・・・ねぇ?」
曖昧な笑みを浮かべる柚希に大和は長く重い溜息を零した。


*****


「合コンだ?・・・・・本当に好きだな、江藤・・・・・」
「・・・・・お前は誘ってないから!はっきり人数合わせでもお前だけはごめんだ!」
呆れ顔で話す大和に海はきっぱり、と断言すると視線も合わせないままずるずると昼飯に、と選んだうどんを啜る。
おろおろと成り行きを見守りただ苦笑を浮かべる柚希へと笑みを返し大和も目の前の昼飯に選んだ親子丼をかきこみながら口を開いた。
「面倒だから頼まれても行かねーよ。もちろん柚希も出さないから。」
「・・・・・は?何でだよ!!・・・・・小林は行くよな〜今回はきっと大丈夫だぜ!何たってお嬢様学校清凛だぜ!!」
笑みを向け意気揚々と海が告げる学校名に柚希は苦笑を浮かべたまま首を振る。
「ダメだよ。・・・・・当分金欠だし、それにバイト探さないと。」
「・・・・・前のバイトはどうした?」
「無断欠勤で首。・・・・・まぁ仕方ないけど。」
笑みを浮かべたままさらり、と答える柚希に海は一瞬箸を止めてから思い当たったのか頷いた。
「次を期待してるから、・・・・・頑張れ。」
「うん、ごめん。」
すまなそうに告げる柚希に海は気にするな、とその背をバンバン叩くとうどんを啜りながら大和へと視線を向けてくる。
「・・・・・人数合わせでも、俺だけは嫌なんじゃなかったか?言われなくても出ないぞ。」
きっぱり先手を打つ大和に海はぐっと詰まると盛大に咽だして慌てて柚希がその背を叩きだした。
最近の昼はいつもこの三人だとその光景を眺めながら大和はぼんやり、と考える。
柚希の元恋人問題の一件から何となくつるんでるになり今はそれが当たり前になっているけれど、その前は学部が同じだから柚希は良く話していたらしいけれど大和にとって江藤は他人同然だった。
学部が違うからもちろん接点なんてたまに参加する合コンで顔を見る程度だったのに仲良く昼飯を取る間になるなんて想像もしていなかった。
何が縁になるのか本当に分からないと思う。
きっと、柚希の一件がなければ学部が違うからこそまともに話す事もなかっただろう江藤へと視線を向けた大和は楽しそうに笑いだした柚希へと顔を向ける。
まさか「恋」になるなんて思わなかった柚希との最初の出会いを大和は思い出しかけていた。

高校の入学式よりも更に遡る合格発表の日。
「受かったよ、お母さん。帰るよ・・・・・うん、じゃあね。」
携帯片手に合格の知らせをしている人はたくさんいたけれど、すぐ隣りだから妙に目についた人物。
そこに立っていた人こそが柚希で初めて彼をを認識した日だった。
記憶は今でも鮮やかに何度だって思い出せるあの出会いの日、確かに思ったのは「こいつとは友達にはなれなさそう」だった。
基本人見知りが激しい大和にとって柚希は友人になるにはタイプが違ったからで、あの日初めて会った大和にも簡単に笑顔を振り撒けるそんな八方美人は彼の経験上仲良くなれるはずがない人物だと思っていた。
だけどあの日視線が絡み合った瞬間ごく自然な笑みを向けられて自分は確かに動揺し、胸の奥底で何かが蠢くのを感じた。
それが何か深く考えようとしなかったあの頃のままだったのなら今、ここにはいないだろう。
それだけは確信できる。

「・・・・・と、大和!」
「---------!・・・・・ごめん、何?」
突然降ってきた声に驚いて顔を上げた大和に柚希は苦笑を浮かべる。
「どうしたの?・・・・・次の講義の時間だけど、平気?」
「あっ、と・・・・・柚希は?」
「次、休講だって話してたの聞いてなかった?・・・・・大丈夫、具合悪いとか?」
「・・・・・ごめん、ちょっと飛んでた。」
意味不明な大和の言葉に首を傾げる柚希に笑みを返してから海の姿がとっくに無い事にも気づいた。
「・・・・・江藤は?」
「人集めするって、さっき行ったよ。大和は次の講義遅れても平気?」
柚希の言葉に腕時計へと目を向けて大和は内心溜息を吐いた。
今からじゃ結構遠い教室まで間に合いそうも無くて柚希へと笑みを向けた。
「大和?」
「休講だって言ったよな?・・・・・なら、俺に付き合って。」
食べかけだった、とっくに冷めている親子丼を急いでかきこむと大和はかたり、と椅子から立ち上がり柚希へと笑みを向ける。
疑問を浮かべながらもつられて立ち上がる柚希の手を引きながら大和は頭の中で今の時間帯に最も人が来ない場所を考え始め出した。


*****


「大和〜何考えてるんだよ。」
呆れる声に構わないまま連れ込んだ空き教室の中、大和は柚希を引き寄せると強く深く抱きしめる。
「・・・・・柚希、欲しい。」
耳元へと囁いて息をそっと吹き込む大和の腕の中、柚希はびくり、と体を揺らし困った顔を上げる。
「・・・・・大和・・・・・」
「ダメ?」
「・・・・・ここ、学校だよ。」
「知ってる。でも、今すぐ欲しいんだけど、無理?」
言いながら首筋から胸元へとキスをしながら舌を這わせる大和に柚希は溜息を零す。
「・・・・・大和・・・・・」
「柚希・・・・・我慢できないんだけど・・・・・」
微かな吐息を零しながら擦れた声で呟く柚希にダメ押しの一言を大和は耳元へと囁くと戸惑う柚希の顔を上げ吐息さえも奪う深いキスをする。
「・・・・・っん」
微かな声を漏らす柚希を抱きしめたまま口内へと大和は舌を差し込み更にキスを深くした。
止まらないのを悟ったのか諦めたのか柚希はそろそろと背へと両腕を回してくれるからますます深くキスをしながら大和は柚希を固い床へと優しく座らせる。
唇を離し軽いキスを何度も送る大和に柚希はもうそれ以上何も言わずただされるがままに受け入れてくれる。
そっと笑みを浮かべる大和に困った顔で苦笑する柚希の唇へともう一度軽いキスを送ると本能の命ずるままの行為に溺れていった。
言葉も無くただ衣擦れだけが広く静かな部屋にひっそりと響き今、どこにいるのかも大和の中からは消えていった。

「・・・・・んあっ、ああっ・・・・・」
時折耐え切れない様に零れる喘ぎ声を聞きながら何度もキスを送り、大和は道具も無く唾液と精液だけで慣らしただけの最奥へと踏み込んだ。
いつもよりも慣らしてないせいか、更にきつく異物を押し出すかの様な内部に大和は一気に突き進みほっと息を吐き痛みに唇を噛み締め、額に汗を滲ませる柚希の髪へと手を伸ばす。
「・・・・・ごめん、痛い、よな?」
髪を掻きあげながら、眉を顰め問いかける大和を見上げて柚希は笑みを浮かべてくる。
「・・・大丈夫、だから・・・・・まだ、待って、て・・・・・」
切れ切れの擦れた声で呟く柚希に大和はじっとしたままただ頷いた。
本来受け入れる場所じゃないからこその痛みはもちろん双方にあるけれど、きっと受け入れる側の痛みは大和の苦痛など苦にならない程だと思う。
愛しいと思う瞬間は色んな場所にあるけれど、この瞬間は更に強く感じる。
決して理解できない痛みに堪えてくれる柚希に申し訳ないと思っていても今更立場を変える気はなくて、かといって挿入しないで済ませるほど我慢できる気も起きなくて毎度同じ事を繰り返す。
「もう、平気?」
息を吐く柚希にそっと問いかけると微かに頷いてくれるから大和はゆっくりと腰を動かしだした。
気をつけて、丁寧に優しく、行為の最初はいつもそう思うのに最後は理性より本能が勝つのはどうしてだろう。
それが男の悲しい性なら受け入れる側の柚希はどうなんだろうとたまに思う。
痛みに耐え堪えながらも次第に上気する体、更に快感に喘ぐ姿はまさに極上だ。
ただただ押し出そうとしていた内部がとろとろに蕩けて今度は更に奥へと引き込もうと動き出すそれさえも興奮を煽る。
愛しさは更に溢れだして一つになれた感動と快感が体中を駆け巡る。
「愛してるよ、柚希。」
耳元へと囁き更に奥へと踏み込む大和に柚希は痛みとか快楽の混ざった瞳を向けてくる。
潤んだ瞳を緩めて笑みを浮かべてくる柚希に大和は体中に電流が走る衝撃に襲われる。
「・・・・・と、やまと・・・・・ぁん、っく・・・・・」
奥を突く肉塊に眉を顰め縋りついてくる柚希をしっかり抱きしめたまま大和は今にもいきそうな自分を抑えながらも腰を振り出した。
くちゅくちゅと淫猥な音と互いの漏らす息だけが静かな教室にやけに響く。
言葉もなくただ二人快楽への止められない道を走り出した。


*****


まだ息の整わない内から何度も互いの唇を啄みキスを繰り返す。
ずるり、と抜いた自身の萎えたモノの後から溢れ出し零れる白い液に顔を上げると真っ赤な顔のまま困った顔をする柚希に大和は笑みを浮かべて顔を寄せる。
「ごめん、ナカに出しちゃった。」
「・・・・・言わなくても知ってるから、止めろ!・・・・・口に出さないで。」
「何、今更照れてんだよ、俺達、もっと凄い事ベッドで・・・・・」
「もうやだっ!・・・・・家に帰るっ!!」
下半身の濡れた不快な感触に頭を振り身を起こす柚希に大和は自分も素早く起きると再度謝り抱きしめる。
「大和?」
「愛してるよ、いつでもどこでも柚希が欲しくて溜まらない位。」
「・・・・・バカ・・・・・」
耳元へと囁く大和に照れた声で返すと柚希はそっと腕を伸ばしてくる。
背へと回した手でぎゅっと服を掴み胸元へと頭を預けてくるから大和はその頭へと顔を摺り寄せる。
「柚希?」
「大和は何しても良いよ。それが、おれには嬉しいから。」
そのまま小さな声で呟く柚希を大和は更にきつく抱きしめた。

初めて出会ったあの日、視線が絡み合ったその時に大和の中で起こった衝動は何年もかけてからやっと「恋」と呼べる形へと変わった。
愛しい存在を胸の中に抱きしめたまま大和は微かな笑みを浮かべる。
確かに溺れてる、行為だけじゃなくてその存在に。
「恋」だと認めてから坂を転げ落ちるようにまるで初めて「恋」を知った子供の様に。
「大和?」
「・・・・・帰ろう、柚希・・・・・これだけじゃ俺は足りない。」
キスを繰り返しながら呟く大和に柚希はただ頷いた。

傍に居てキスして抱きしめて温もりを感じて深く繋がってそれでも離し難い存在だと互いが認めれば確かにそれはきっと「恋愛」だと大和はそう思いながら柚希の手を引き歩き出した。


「PURE LOVE」補足という名の番外です。ラブです、これを書く為に読み直した本編に間違いをみつけ思わず訂正しました。
さて、次は慎二君補足番外が待ってます。

top