キスは好き。温もりを簡単に分け合えるのは抱き合う事だけど、ほんの少しの温もりを即座に感じる事が出来るのはやっぱりキスだと思うから。「愛してる」と何回も口に出すよりも正確に口に出さずとも素早く態度で伝えられる。それは手を繋ぐよりも的確に抱き合うよりも柔らかく伝える最大の方法だと思う。
「・・・・・っあ・・・・・」
唇を離した途端にとろり、と潤んだ目でこちらを見あげてくる最愛の恋人の麗しい顔を即座に見れるのは息が触れ合う程、間近に顔があるからだと思う。そう内心考えながら、翼はにこり、と笑みを向け濡れた穣の口元へと手を伸ばす。
「穣、今日は良い?」
「・・・・・うん、大丈夫・・・・・」
耳元へと息を吹きかけながら問いかける翼の囁く声に肩を疎めながらも穣はこくり、と首を縦に振るから、翼は思わず抱きしめそうになる腕を抑えこみ変わりに額を押し付ける。 一度修復不可能なぐらいに離れてしまったと思えた互いの心をもう一度重ね合わせてからは、穣はもちろんだけど、翼も互いの意見を今まで以上に聞く様になった。 当然と言えばそれまでだけど、とにかくコミュニケーションが欠落していたから起こった事態だと思うから、思った事は口に出す事を翼は穣に提案した。 元々考えてから口に出す慎重派の穣と思った事は何でも口に出す翼だから、穣は最初翼の提案に安易に頷くなんて事はもちろんしてはくれなかった。 だけど、お互いの言葉が足りなかったのには気づいていた様で渋々頷きはしたけれど、きっと今でも10、言いたい事があるならその内の5こぐらいしか言葉にしていないのに、翼は気づいていた。それでも一応は進歩だ。今までは10こあっても10ことも胸の中にしまいこみ口に出す言葉はそれとはきっと裏腹だったのだから。 腕を伸ばし抱きしめる翼の胸の中、体の力を抜いてこつり、と頭を押し付けてくれる穣の体を更に強く抱きしめ直した翼は丁度口元にある穣の額へと唇を押し付けた。
好きで好きで、片時も傍を離れたくない、そんな恋愛をしたのは翼の乏しい恋愛経験の中では唯一穣が始めてだった。 お互い近すぎず遠すぎず、自分の世界を持てる余裕、それが恋愛には不可欠だと思っていたのに、初めて穣に会った時から翼の恋愛観はかなり大きく変わった。触れていないと安心できない、なんて、今までの恋人には有り得ない。束縛がうざい、と思ったから破局したのに、昔の自分が今の翼を見たのなら、きっとバカみたいだと笑うかもしれない。 だけど、それだけ真剣に思える相手が見つかった事はきっと羨ましがられるだろう。 「翼?」
「・・・・・え? ああ、何でもないよ、ちょっと思い出しただけ?」
顔を覗きこみ問いかける穣の声に翼は慌てて笑みを浮かべると口を開く。 「恋多き男」と噂されていた穣には触れて欲しくない内容だからこそ愛想笑いでごまかしてから翼はごほん、と咳払いする。
「過去の俺は結構、いい加減だったなと思ってただけだよ。」
慌てて付け足す翼は、隠し事はしないと自分から言い出したのを思い出す。その答えに穣がますます首を傾げるから、翼は「今は一途で可愛い恋人にメロメロだよ!」と腕を伸ばし穣へと抱きつく。
「・・・・・翼、痛いって!」
「好きだよ、穣。 本当に好き。」
「・・・・・うん。」
抱きしめたまま、耳元へと唇を押し付け囁く翼の声に穣は俯きこくり、と小さく頭を動かす。甘い空気が部屋中を覆い出すのを感じながら、翼は再び穣へと顔を近づける。軽く何度も触れ合うキスはそうして、深いキスへと変わっていった。
凄く短いですが、これにて終了! 気が向いたら、番外とかサイトに再UPする時に考えてみます。 長らくこの子達にお付き合いありがとうございました。 20091123
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