Tous les jours

パズルのピースを組み立てる様に少しづつ構築していく生活。たまに歪だったり、欠けていたりするその場所を整え埋める為に努力する事が必要なんだと改めて知ったのは櫂と破局にまで発展した時。きっとこのまま別れてしまうのだと思っていた櫂の方が歩み寄り引きとめてくれたからこそ、まだ櫂は恋人のままだ。あの日、手を伸ばしてくれなかったら、あの日、諦めてしまったら、今の僕等はいないだろうとひしひしと感じる。恋は嬉しい、楽しいも辛い悲しいもあると知ったあの時から、同じ夜を同じ朝を何度も過ごして、小さな喧嘩もしたけれど同じ分泣き顔で謝り、笑顔を交わしあった。幸せが日々の積み重ねで変わっていくのなら、明日や明後日はきっともっと互いが好きになれていれば良いと願わずにはいられなかった。

とんとん、と馴染みのある足音が向かってくる足音がした気がして成はドアの方へと顔を向けてから、壁にかかる時計へと目を向ける。帰る時間はだいたいの目安だけど、と話してくれた時間にもうすぐなりそうだ。目の前にもう一度顔を向け、鼻を擽る美味しそうな匂いに満足そうな笑みを浮かべた成は後片付けを手早く済ませる。案の定それからすぐに鳴る呼び鈴の音に駆けだしそうに逸る気持ちを抑えながら成は玄関へと向かう。
「お帰っ・・・・・!」
最後まで言わせる事なくドアの外から勢いよく入り込んできた櫂はすぐに息が苦しくなる程成をぎゅうぎゅうと抱きしめてくるから、せめてもの抗議で背をばんばん、と叩く成と抱きつく恋人の後ろから「んっ、んんっ」と咳払いの音がする。
「・・・・・ああ、ごめん、忘れてた。 これ、今朝話してた同じ事務所のヤツ」
食生活が貧しい後輩がいるから連れてきても良いか?と聞きながらも目で断れと訴えていたのに気づかず頷いた成に溜息を吐きながらも帰りに連れてくると呟いた言葉を思い出し、櫂の肩越しに背後へと軽く頭を下げた成に彼は無言のまま微かな笑みを浮かべる。それからすぐに櫂へと顔を向けると唇を突き出し拗ねたような顔になる。
「ヤツとは何ですか? ちゃんと紹介して下さいよ、櫂さん!」
「・・・・・嫌だよ。 何でわざわざ、しかも家で飯やんないと行けないわけ? マジで訳分からん!」
呟きながらさっさと靴を脱ぐと成の腕を引きさっさと部屋に入る櫂の後を彼は慌てた様に靴を脱ぎ着いてくる。ソファーへとどかり、と腰を下ろす櫂にやっと腕を放され、成は早々に飲み物を取りに行くためにキッチンへと向かう。一人の空間でそっと溜息を吐いた瞬間背後からの突然の温もりに成はびくり、と体を震わせると顔を後ろへと向ける。
「お客様の相手は櫂がしないと、駄目だよ、ここに来るなんて・・・・・」
「・・・・・成! まだ俺は一言も言われてないんだけど・・・・・」
すぐに体の向きを反転させ胸元へと抱き寄せ顔を覗きこんでくる櫂にどくん、と鼓動が高鳴る。
「ダメ、だよ・・・・・お客さん・・・・・」
「成!」
躊躇い拒む成は強く名前を呼ばれ微かに息を吐くと顔を少しだけ上げる。一緒に暮らす事が決まってから、毎日のルールとして決めた数ある中の一つ。挨拶はきちんとする事。それからまるで新婚さんみたいに交わす柔らかなキスは決まって唇へ。爪先を少しだけ伸ばし、成は少しだけ高い櫂の唇へとちゅっと可愛いキスを送る。そして少しだけ赤くなった顔に笑みを浮かべると口を開く。
「おかえり、櫂。 お仕事ご苦労様。」
「・・・・・うん、ただいま、成。」
頷きにっこり、と笑みを返した櫂は抱きしめる腕に少しだけ力をこめると手を放し居間へと戻って行く。その後姿を少しだけ眺めた成は飲み物の用意をする為にすぐに流しへと体を向けた。


*****


ばくばくと出した食事を豪快に食べる後輩君、志波出(しばいずる)19歳、今年から一人暮らしを始めた出はそれまで実家暮らしだったらしく、好き嫌いを聞いてない事を心配していた成はその豪快な食欲に箸を止め思わず驚いた眼差しを向ける。それは櫂も例外では無かったらしく「何その欠食児童振り」と口に出す。
「だから、感謝してます! 何か久々に家庭料理を食べましたよ!」
「・・・・・お前、普段何食べてんの?」
「コンビニとかほか弁とか、スーパーの惣菜コーナーのご飯とか、ですよ。」
呆れた食生活に眉を顰める櫂に出は「美味しいですよ!」と続けながらも箸は止めない。
「・・・・・あの、おかわりいりますか?」
「ああ、すいません。 お願いします」
ごはんの入ってない茶碗に気づき思わず口を出した成に出はにっこり、と笑みを浮かべ茶碗を差し出す。その間もおかずを口に次から次へと放り込んでいくから、成はすぐに茶碗を受け取るとご飯をよそいに立ち上がる。
「お前な〜少しは遠慮をしろよ!」
「・・・・・だってこれ、美味いです。 いいな、櫂さんはいつもこれ食べてるんですよね、羨ましい・・・・・」
「そんなに羨ましいなら実家に戻れ! 美味い飯の一つや二つ、喜んで出してくれるんじゃないのか?」
「・・・・・うちの親、働いてるんで、そんなに料理も巧くないんですよ。 祖母ちゃんが生きていた頃は美味い飯が食えたんですけどね・・・・・」
亡き祖母を思い出したのか少しだけしんみり、と呟き箸を止める出に戻って来た成が茶碗をそっと差し出す。
「ご飯、美味しいです。 まじで櫂さんが羨ましいですよ・・・・・」
笑みを浮かべそう告げるとすぐに箸を動かし出した出に成は櫂と顔を見合わせ笑みを交わす。食後の飲み物を二人に渡すと、すっかり空になった皿を片付け忙しなく動く成を見ながら出は楽しそうに動く成を見ている櫂へと目を向ける。
「良いんですか? 俺がいるのに、目が嬉しそうですけど?」
「・・・・・何、言って・・・・・」
ひっそり、と掛けられる声にあまりに過剰に反応したせいかこちらを窺う成に「何でもない」と呟いた櫂は出へと顔を向ける。
「飯食ったんだから、帰っていいぞ。」
いつまでいやがる、と目で訴える櫂に肩をわずかに疎めた出は立ち上がり、「トイレどこです?」と問いかける。

鼻歌交じりの後片付けをしていた成は人の気配を感じて振り向く。
「・・・・・あの、どうかしましたか?」
「ご飯、本当に美味しかったです、ありがとうございました。」
「いえ、口に合って良かったですよ、わざわざすいません。」
洗い物で汚れた手を軽く水で流した成は出へと体を向けると笑みを浮かべる。そんな成に出は頭を掻くと少し迷った様に目を彷徨わせてから躊躇う様に口を開いた。
「俺、櫂さんがいなかったら、いや、あの事務所じゃなかったら、俺はモデルの仕事も中途半端で終わらせてました。」
首を傾げ不思議そうな目を向けてくる成に微かに笑みを浮かべた出は「これは内緒ですけど」と前置きをつけると一度深く大きく息を吸い込むと吐き出し口を開く。
「櫂さん、今人気が凄いって知ってますか?前もあったけどドラマに出たおかげなのか、結構幅広い世代に知られたおかげで人気もかなり急上昇です。 なのに、モデル時代からあの人性格は変わらない。 誰と接しても変わらない、それって凄いんです。偉くなると、性格も変わるっていうし、それなのに出会った時からあの人は全く変わらない。」
「・・・・・あの・・・・・」
「だから、こんな人になりたいってのが俺の目標なんです。 誰よりも櫂さんを知ってる後輩でいたいから、あなたにも会ってみたかった。」
「・・・・・僕に?」
「はい。 料理の巧い、櫂さんの大事な人。 癒し系って自慢されたの分かる気がしました。」
ぺこり、と軽く頭を下げにっこり、と笑みを浮かべる出に成は戸惑いながらも辛うじて笑みを返す。同居が同棲だときっとばれてるだろう出の視線から急に逃れたくなりながら成は顔が赤くなるのを止められなかった。

「また来ても良いですか? 本当に料理美味しかったので。」
「まともな飯ぐらい自分で作れ! うちの子誘惑しようとするなんて、二度と来るな!」
「・・・・・誘惑なんてしてないですって!」
「とにかく早く帰れ! そして二度と来るな!」
嫌そうな顔で追い払う櫂の背後にいた成へと顔を向けた出はにっこり、と笑みを浮かべる。
「また来ます! そして今度は誘惑してみますので、よろしく!」
櫂が手や足を出すより先に玄関の扉を開けた出はさっさと手を振ると出て行く。風の様に去ったその姿に成はくすくすと笑いだした。
「・・・・・成・・・・あいつ、家の敷居は二度と跨がせない!」
「誘惑なんてされてないよ・・・・・ただ、櫂がどれだけ格好良いか聞いてただけ、だよ?」
「俺?」
「うん。 尊敬している人なんだって、良かったね、後輩にちゃんと好かれてて。」
「・・・・・本当に誘惑はされてない? 顔、真っ赤にしてあいつと見つめ合ってたじゃん!」
「してない、って。 僕の好きな人を自慢されて嬉しかっただけ。」
「・・・・・まじかよ・・・・・」
疑り深く見ている櫂の目の前、さっさと歩き出した成はそっと溜息を零す。あれだけ「櫂さん好きです」オーラーを隠しもしなかった出なのに、誤解されるなんて可哀想と少しだけ同情してしまう。それだけ、櫂が自分の事しか見ていないのだと嬉しくなるのも事実だったけれど、つい笑みを浮かべそうになる顔を抑え成はまだ玄関に立ったままの櫂へと目を向けまた溜息を吐いた。


*****


ソファーに座り、テレビをぼんやり見ていた成はまるで降ってくる様に覆い被さってくる櫂に微かな悲鳴を零す。
「何、どうしたの?」
「・・・・・甘えさせて。 あれがいたせいで成に触れられなかった。」
ぎゅっと抱きついて頭を摺り寄せる櫂に成は苦笑を浮かべながらもその頭を撫でてやる。成の柔らかすぎる髪とは違い手ごたえがある櫂の髪はセットのしやすい憧れの髪質だ。雨の日なんて湿気で髪がもたつく成は櫂の髪が羨ましくて仕方なかった。
「・・・・・櫂、重いよ?」
「我慢して。 本当は仕事に行かないでずっと成だけに触れてるだけで俺は楽しいんだけど、な・・・・・」
ぼやきながら頭を更に摺り寄せてくる櫂に成は頭を撫でる手を止めないまま笑みを深くする。ゆっくり、とした穏やかな時間が流れる部屋の中、暫く成に抱きついたままの櫂がやっと顔を上げる。
どちらからともなく顔を近づけた二人は緩やかな優しい触れるだけのキスを交わした。何度も交わすキスがどんどん深くなり、いつのまにか狭いソファーの上、成は櫂の腕の中抱き込まれ、押し倒されていた。
「・・・・・んっ、櫂?」
「ダメ?・・・・・俺はいつでもどこでも成が欲しいよ・・・・・」
キスの合間に名前を戸惑う声で呼ぶ成の顔からすぐに首筋にもキスをしながら告げる櫂に成は無言で頭へと手を回す。素早くTシャツの中に手を滑らせ素肌をなぞりだす櫂に成はただ甘い吐息を零した。

明るい照明が照らす部屋の中、ソファーに押し倒された成の素肌は当に晒され、上に乗っている櫂もほとんど服はつけていなかった。互いに素肌を晒し、何度もキスを交わし互いの肌へと手を這わす。微かな喘ぎと互いの息遣い、それだけが静かな部屋を支配する。足を大きく広げ櫂がゆっくり、と沈み込んできて成は微かに唇を噛み締める。そんな成に顔を近づけた櫂はそっと唇を舌で舐める。
「我慢っ、しないで・・・・・声出しても平気だから、俺しか聞かない・・・・・」
「っん、やぁ・・・・・ダ、メっ・・・・・・ああっ!」
深く入ろうとする寸前に奥に力を籠める成にそっと囁く。その声にびくり、と身動ぐ成の力が少しだけ緩んだ隙に櫂は一気に奥へと押し進める。宥める様にキスをしながらも馴染むまで動こうとしない櫂に手を伸ばし縋りついてくるから、背に腕を回し、きつく抱きしめる。
びくり、と中が蠢き柔らかくなったのを感じた櫂がそっと腰を揺らすと成は縋りつく手に力をこめてくる。
「あっ・・・・・っふ、んっ・・・・・っく・・・・・」
喘ぐ声をそれでも微かに抑えているのか唇を噛み締めようとする成に何度もキスを送り、口内へと舌を滑りこませる。
くちゅくちゅ、と絡む舌から零れる水音、そして繋がった秘所からも零れだした濡れた音は櫂が突きあげる速度を少しづつ早めていくたびに激しくなっていく。狭いソファーの上、ほんの少し体勢を崩せば床に落ちてしまうかもしれない場所で明るい光の照らす室内で二人はどろどろに溶けあうまで絡みあった。
熱い情熱に突き動かされる様に交わったそれは一度では終わらず、結局場所をソファーからベッドへと移し、何度も深く繋がり体を簡単に清めた二人はベッドに横になるとすぐに眠りへとついた。
月明かりの照らす部屋の中、ぴったりと寄り添い幸せそうに眠る二人の寝息だけが響いていた。
そしてまた朝は来る。


書きたい話は他にもあったのですが、とりあえず幸せな二人にしてみました。
幸せを感じ取れたのなら成功です。
ではまた。 20090813

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