さくらいろドルチェ

薄紅色の花びらがまるで雪の様に舞い落ちるそんな中、ボクは君を見つけた。
運命でも偶然でも、君を見つけたその日からは毎日がボクにとって幸せのはじまり。姿が見れるそれだけで満足できたボクは、まだ恋を知らない子供だった。
辛くてもしんどくても、悲しくてへこんでても、君を見るだけでボクの気持ちは浮上した。
一日のはじまりに君と出会えるそれだけで、会えない日の何十倍もボクの中の気分が大きく変わっていた。
そんなただ君を見るだけの毎日が大きく変わったのは君が一人ではなくなってから。
気づけば君の隣りには笑顔で君を見上げる彼女がいた。
ただ見ているだけで満足していたボクの日常が第三者である彼女が現れた事で大きく音を立てて崩れていった。
見つめているだけで満足、本当はそんな事なかった。
いつだって、隣りに並んで見たかった。君の声を聞いてみたかった。
君の隣りに立てるボクでいたかった。
そんなボクの願望は当然君に届くはずもなく、君の隣りで当たり前の様に笑みを浮かべる彼女にボクは絶対になれない事も分かっていた。

駅にある大きな鏡の前ボクは一人立ち尽くす。
映るのは困った顔でボクを見る、大きな瞳がやけに幼く見える原因だと思わせる、だぼだぼの制服に身を包んだ少年の姿。それはまぎれもなく、自分自身の姿。
男であるボクは君の隣りには似合わない。
分かっていた事なのに、見せつけられる現実に戸惑う惨めなボクがいた。


*****


時は誰の上にも平等に流れる。
ボクが想いも告げる事なく勝手に失恋した思っても、世界は変わらないし、泣いて、泣き疲れ眠る夜を送っても、必ず朝は来る。
そうして、夏にあんなに君の隣りで笑顔を振り撒いていた彼女も秋が過ぎ、冬を迎える頃にはその隣りから消えていた。
じっと、ただ見ているだけの恋だった。
これから先も、君の隣りでまた新たな笑顔を振り撒く彼女が現れるその前に見ているだけのこの恋に、ボクはやっと終止符を打とうと思った。君と彼女を見て、胸が痛むのは、言わずに終わる恋に未練があるから。
だから、一度、木っ端微塵にボクの恋を打ち砕いてしまえば、きっと終われるそう思っていた。

また、桜の季節がやってくる。
毎朝、変わらず駅にいる君にボクは心を決める。
振られたら、君を見ないとと思うこの気持ちもきっと止められる。
君と会わない、会い辛い、そう思う内にボクの恋は消えていくはずだとそうボクは思う。
言わずに終わる恋のまま消えていく、そんな事がボクには出来なかった。

同じ時間の同じ電車にいつも正確に乗り込む君を待ち伏せする朝。
駅のホームからは今が旬の桜が満開に咲き誇っているのを眺める事が出来る。
君が階段を降りてくるのを見上げる。
最高潮に高鳴る鼓動を胸を抑え落ち着かせながらボクは大きく息を吸い込んだ。

「あの、話があるんです・・・・・今、良いですか?」

目の前を通り過ぎようとする君にボクは声をかける。少し上擦り、緊張で震えるボクのその声に君が足を止め、不思議そうな顔でボクを見つめる。初めて、君の視界に入るボクはそれだけで、満足出来そうな気がしたけれど、ぎゅっと手を握り締め口を開く。
告げるべき言葉はたった一言。


*****


はらはら、と舞い落ちる桜に包まれるボクの言葉。
春は出会いの季節、恋の季節そして、始まりの季節。
そして。
ボクの言葉に君は微かに笑みを浮かべると真っ直ぐにボクを見つめたまま声を出す。
否定も肯定もしないその言葉、想像していたよりも耳障りの良い心地良い低いその声が告げる言葉はたった一言。

「君の名は?」

まずはそこから、そう言われた気がしたボクは笑みを浮かべ口を開く。
罵りも嘲りもなかった君とのこれからをボクは想像できない。名前を伝え名前を知り、そこから少しづつ、見ているだけの毎日が変わっていくのをボクは感じていた。


私、結構こういうたった一人のモノローグが好きなのですが、恋が叶ったのかどうかは曖昧です。
まだ始まったばかりの二人という感じが出ているかな?
一人称は結構久々。 20100405

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