愛してほしいと願うのは 罪?

手にいれた愛の代償、それは甘くそして苦いモノ

大好きな人が出来たのは春。出会いや別れの季節だと言われているけれど、祝詞(のりと)には出会いの季節だった。
大好きだと思ったのは横顔、話す時の少し低い声、眠そうに欠伸をする仕草、どんなものにも目を奪われ好きになっていく気持ちだけが大きく膨らんでいった。
好きな気持ちが溢れて零れ落ちそうになって祝詞は初めて告白を考えた。
否定されるのは怖い、世界の中心が彼になっていたから、嫌われたらどうしたら良いのかも何度も考えた。
だけど、告白する前から本当は分かっていた。この思いが成就するはずが無い事も、まっこうから否定される事も無いけれど、叶うはずが無いという事も知り過ぎる程、知っていた。

「おはよう、今日はいつもより遅いね。」
「・・・・・おはよう、ございます。 今日は2限からだから・・・・・」
「そうなんだ。 大学楽しい?」
新聞の端から端へと目を配るのはもう朝の見慣れた彼の日常で、ダイニングにそっと入って来た祝詞にそれでも顔を上げ笑みを向けてくる顔に鼓動がとくり、と跳ねる。たわいもない問いかけにこくり、と頷きダイニングテーブルの椅子にちょこんと座る祝詞に笑みを見せた彼は目の前の新聞へとまた視線をを映した。
「あら、おはよう。・・・・・真咲さん、早く仕度しないと遅刻よ!」
ばたばたと歩いてきて淡々と声を出す彼女は身支度を整え、いつもだけれど一分の隙も無く着こなしたスーツ姿もばしっと決まったメイクも素晴らしいとしか言えない祝詞の姉、寿(ことぶき)は祝詞に気づいて柔らかな笑みを向けてはくれるけど、目の前の男にはシビアで急かす様な言葉を投げる。
新聞を折りたたみのろのろと立ち上がった彼は寿へと答えながら祝詞へと顔を向け笑みを浮かべ口を開く。
「分かってるよ。 じゃあ、大学頑張ってね、のりくん。」
「・・・・・いってらっしゃい、姉さん、義兄さん。」
笑みを返しながら祝詞は手を振り、姉に急かされる様にばたばたと彼は家から出て行く。マンションの重い扉が閉まる音の後、静かな空間で祝詞は変わらずの朝の光景にそっと溜息を吐いた。
祝詞は両親を早くに失くし、8歳上の姉と二人暮らしだったある日何の前触れも無く家族が新しく増えた。それが彼、園田真咲(そのだまさき)、姉である寿の結婚した人、つまり旦那。そう、だから祝詞の気持ちは叶わない、だって彼は姉のモノ、祝詞は姉と結婚したから着いてきたただのおまけだと分かっているから。付き合っていた事も知らなかったけれど8歳上の姉は元々恋人がいる事をあまり自慢もしなかったから気づかない祝詞がきっと鈍いのだ。
初めて会った日から、姉のモノだと分かっていた。なのに、きっとあれが一目惚れと言うのだろう。挨拶をする低く通りの良い甘い声に眩暈を覚えた。触れる手の温かさに意識が一瞬遠のくのを感じた。それでも祝詞は姉のモノだと言い聞かせてはいたけれど、もう我慢は限界に近づいていた。あの手に触れて欲しい、そんな欲求が祝詞の中を渦巻く。もう、この思いをどうにかしないと前にも後にも引けない自分を祝詞は知っていた。


*****


「お帰り、のりくん。 相変わらず、帰りが早いね。」
食事の支度をしている時、背後からかけられた声に祝詞は慌てて後ろへと体を向ける。困った笑みを浮かべるスーツ姿の真咲の両手には買い物をしてきたのだろう不似合いな食材が入ったビニール袋と鞄があった。
「おかえりなさい、義兄さん。 姉さんは、今日は残業?」
「らしいよ、メールで今日は遅いってあった。 そんな事より、たまには俺が食事の支度をするのに、いつものりくんにさせてごめんね。学校での付き合いとかは良いの?」
「・・・・・平気だよ、気にしないで。僕、料理好きだし。」
ビニール袋と鞄を置いて顔を覗き込んでくる真咲に内心の動揺を悟られない様笑みを浮かべた祝詞は頭を振ると答える。もともと寿と二人暮らしになってからは仕事で忙しい姉の変わりに食事を作るのは祝詞の役目だったし、言っている事に嘘や偽りはない。けれどそれでも困った笑みを浮かべる真咲に良いタイミングで出来上がった鍋の中身を確認した祝詞は火を消す。
「今すぐ食べる? それとも姉さんと一緒が良い?」
「いや、寿はいつになるか分からないらしいから、今すぐ食べよう。 料理は温かい方が美味しいだろ?」
「だね。」
頷きながら皿によそい準備を始める祝詞にスーツの上着だけを脱いだ真咲はテーブルを拭いたりと手伝ってくれる。仕事が忙しいのか、寿はほとんど定時に帰宅はしないのに、真咲はきっちり定時に帰ってくる。だから、真咲と二人の食事の時間は増えていく一方であまり話題の無い二人はテレビの音というBGMの中食事に専念しだした。
食事の後、スーツからラフな服に着替えた真咲が食事の後片付けはすると言うから祝詞は早々に部屋に戻ると、今日本屋で購入した雑誌を袋から取り出した。
片方はアルバイト情報誌、そしてもう一冊は賃貸情報誌。本格的に家を出る事を決めた祝詞はまずは目標の金額がどれくらいなのか、相場を知りたかった。一人で暮らす不安よりも傍に居続ける不幸の方が勝ったから、一刻も早くこの家を出たかった。

「のりくん、入るよ・・・・・話が・・・・・」
ノックの音と共に入ってくる真咲に祝詞は気づくのが少し遅れた。目敏く隠し損ねた情報誌を見つけた真咲は戸惑う祝詞に構わず部屋へと入ってくる。
「あの、何か用ですか? 用なら俺がそっちに・・・・・」
「・・・・・これ、何? この家を出て一人暮らしするつもり?」
手早く隠したはずの雑誌を手に取った真咲は眉を顰めたまま祝詞へと顔を向ける。問いかける声が少しだけ低いのに、彼が怒っているのに気づいたけれど祝詞は何も言わずに曖昧な笑みを向けた。
「祝詞! 一人暮らしは俺はもちろん、寿も認めないよ、ちゃんとした理由があるなら話せよ!」
「・・・・・特に理由が無いと一人暮らしは認められないっておかしいよ、俺だって一人暮らしに憧れるし、自立したいって思ってる。」
「自立って、まだ大学に行ってるだろ、卒業してからでも遅くない。」
「嫌なんだよ、この家にいるのが・・・・・新婚家庭の邪魔者なのは自覚してるし、俺が出て行けば、子作りだって姉さんも考えるかもしれないだろ?」
ぶんぶんと頭を振り、真っ向から否定してくる真咲に祝詞は一気に告げると息を吐き出す。呆然とその叫びを聞いていた真咲はこちらも息を張り詰めていたのか、微かに息を吐いた。
「子作りなんてまだ全然考えてないよ、それに、邪魔者なんて思ってないよ。のりくんがいるから、この家に帰るの楽しいよ。」
「でも、俺は・・・・・ここには、居たくないんだよ!」
柔らかになった声で告げる真咲に祝詞はその視線から逃れるように俯くと頭を振り、叫ぶ。
「のりくん・・・・・一人暮らしは寿の許可が貰えたらにして。 とにかく俺は反対だから、自立なら、大学卒業してからでも遅くない。のりくんの今一番大事な事は勉強だろ?」
「ここは真咲さんと姉さんの家なんだよ、俺だって健全な男だよ、恋人ぐらいいるから、だから・・・・・」
「そんな邪な理由じゃ俺は絶対に反対だよ・・・・・のりくん、彼女いたんだ、この家に連れてくれば良いだろ?」
「・・・・・真咲さん!」
「とにかく、これは預かっとく。 彼女がいるなら尚更一人暮らしは認められないよ。間違いでも起きたら相手も大変だろ?」
情報誌を二冊とも取り上げ真咲は話はもう無い、と部屋を出て行こうとするから祝詞は思わず立ち上がる。
「待って! 本当にこの家にいる方が困るんだ! 俺は真咲さんとはもう暮らせないんだ!」
必死で真咲の服の端へと手を伸ばし、ぎゅっと掴み叫ぶ祝詞に真咲はただ首を傾げてくる。
「それは、どうして?」
「だから・・・・・」
「だから?」
「・・・・・真咲さんが好きだから、諦める為にももう一緒にはいたくないんだ!」
淡々と問いかける声に祝詞は一瞬詰まった様に言葉を濁す。それでも問いかけ答えを待つ真咲に祝詞は大きく息を吸い込むと一気に吐き出した。告白なんて可愛らしい言葉じゃない事は自分が一番分かっている。反応が怖くて、顔が上げられないまま俯く祝詞の頭にふっと温い息がかかり、びくり、と体を揺らした祝詞は次の瞬間いきなりの浮遊感を味わう。驚く祝詞に構わず真咲はそのまま抱き上げた祝詞をベッドへと投げるように押し倒した。目を見開いたままいきなりの出来事に声も出ないのか、じっと真咲を見ている祝詞の視線に笑みを返すとそのまま真咲は顔を近づけた。

ぬるり、と湿った生暖かいモノが唇を何度もなぞり、祝詞は思わず体を起こそうとやっともがきだす。
何をされているのか理解できなくて、戸惑いを隠せない祝詞の抵抗は動揺も手伝ってかなり弱弱しい。そんな祝詞に唇を離した真咲はそのまま顔を覗き込んでくる。
「・・・・・真咲、さん?」
「祝詞は俺が好きなんだろ? こういう意味の好きじゃないのか?」
震える祝詞の声に笑みを浮かべたまま答えてくる真咲は再び唇を押し付けてきた。今度は唇をなぞる、それだけじゃなくて、少しだけ開いた隙間に堂々と舌まで滑りこませてくる。逃げ惑う舌をも絡めとられ、長い長いキスが続いた。祝詞は息さえまともにできないまま濡れた音を立て、離れる唇を呆然と眺めている。そんな祝詞に顔を離した真咲はただその顔に笑みを浮かべる。
どうして、なぜ疑問だけが頭の中膨れ上がるのに、巧く言葉に出来ないまま祝詞は黙り込み真咲はそんな祝詞の唇へと再びキスを仕掛けてくる。返す言葉の隙も作らせず何度も触れては離れるキスを繰り返す真咲は少しづつ祝詞の衣服へと手をのばしていく。そんな真咲に何がどうなっているのか分からないまま陥落していく祝詞の気持ちだけが取り残されていった。


*****


「・・・・・っく、んっ・・・・・やっ、ああっ・・・・・ふっ、く・・・・・」
広いベッドだけが異常に目立つ部屋の中、濡れた音と堪えた甘い喘ぎ声だけが尽きる事なく溢れる。そして次第に声が大きくなるのと比例してベッドがぎしぎしと派手な音を立て始める。
窓のないせいで、今が明るいのか暗いのか外の情景も分からない薄暗い部屋はその為だけに作られた部屋だと知ってはいるけれど、来るたびに心の奥に重い何かが積もって行くのを祝詞は感じていた。それでも、知らない、見ないフリをして、罪深い行為を繰り返すのは、あの家で触れ合うのが厳しい今の現状にあった。
隣りで煙草を吸い出した男の肩へと祝詞は頭を擦りつける。
「のり? 疲れたなら寝ていく?」
「・・・・・良い。 僕、先にシャワー浴びてくるから・・・・・」
気づきその頭を軽く撫でながら呟く声に祝詞はだるい体を勢いをつけて起こすと頭を振る。二人きりだと分かっていても全裸でシャワーを浴びにいくわけにはいかず脱ぎ散らかした服を探す祝詞はすぐに背後から抱きしめられる。
「・・・・・真咲、さん・・・・・離して・・・・・」
「もう少し、寛いでいこう。 まだ、大丈夫なはずだから、ね。」
「だめだよ。 一緒に帰れる偶然も三度目までだよ・・・・・」
だから、離してと絡みつく腕を離し、祝詞は全裸のままシャワーを浴びに浴槽へと逃げる様に走っていく。そんな祝詞に置いていかれた真咲はベッドの上、そっと溜息を吐いた。
ジャージャーと流れる水をぼんやり眺めながら祝詞は溜息を吐く。
一度でも触れたら戻れないと分かっていたはずなのに、求める腕を払えなくて、祝詞は結局ずるずると流されている。昼日中、ホテルで会うのもこれが何度目なのかも分からない。同じ家にいるのに、あの家では姉の手前、仲の良い唯の義理の兄弟、それだけで触れ合う事すら出来なくて選んだ道がこれだった。止めるべきだと分かっているのに求められると拒めない。二人だけの世界で思う存分触れ合うその時だけは何もかも忘れられた。どろどろに溶けあって一つになっているその瞬間が長く続かないと分かっていても、それでもあともう少し、言葉もなく触れ合うそれがいけない事だと分かっていても、最早止める術を祝詞は持たなかった。浴槽の壁に顔を押し付けるた祝詞は流れる水に打たれながら、瞳を深く深く閉じた。

「日曜日なのに、仕事?」
「・・・・・そうなの。緊急の案件があって早く終わらせないとまずいのよ。」
休日だというのに、珍しくスーツ姿の寿を見て思わず問いかける祝詞に彼女は困った様に眉を顰め苦笑をその顔に浮かべたまま告げると慌しく部屋を出て行く。残された祝詞は何も言わないまま、黙って寿の背を追ったままの姿勢でいる真咲へと視線を向け、ひっそりと緊張の為なのか、溢れだす口の中の唾液を飲み込む。
「・・・・・姉さん、大変だよね。 まっ・・・・・義兄さんは平気なの? 休日出勤とか聞かないけど・・・・・」
「うちは基本的に休日出勤事態が認められていないからね。 残業もあまり良い顔されないよ。」
肩を竦め答えながら、真咲は祝詞へと顔を向けると唇を少しだけ持ち上げる。その笑みにぴくり、と肩を揺らした祝詞は少しだけ後ずさりかけ更にこくり、と喉を鳴らした。想像すらしていない突然降って沸いた二人きりの部屋の中、真咲は無言で手を差し伸べてきた。怯えながらも数瞬後にはその手を取る自分を知っているかの様に真咲は笑みを更に深くした。

「あんっ・・・・・んんっ、あっ・・・・・んぁ・・・・・」
「・・・・・っく・・・・・・!」
ソファーの上、一糸纏わぬ姿で横になりひっきりなしに喘ぐ祝詞に覆いかぶさった真咲が低く呻くのと同時に体の奥で熱い奔流が起こり、自身からも堪え切れない迸りを零す。はぁはぁ、と互いの乱れた吐息を聞きながら祝詞は快感に震える腕を真咲へと伸ばす。その手を掴み自分の首筋へと誘導しながらも真咲は顔を近づけると貪るようなキスを仕掛けてくる。舌を絡め、くちゅり、と絡み合う舌が出す水音、そして重なり合う体から聞こえる卑猥な水音が部屋中を埋め尽くす。濃厚な行為の匂いが部屋中を占める中、突然鳴り響いた電話に祝詞は真咲から唇を離すと、電話のある廊下へと目を向けた。
「俺が行くから、祝詞はゆっくりしてろ。 あとでお風呂も入ろうね。」
身軽に立ち上がると、まだ行為の名残の抜け切らない祝詞の額へと軽いキスを送る真咲はそのまま廊下へと歩いて行く。その間も鳴り響く電話の音に祝詞は訳も分からず言い知れぬ不安を感じのろのろと起き上がると、散らばった服へと手を伸ばした。


*****


少しだけ青褪めた顔で戻って来た真咲は「出かけるから、支度して」と良い置き、自室へと慌しく戻って行く。嫌な予感が当たったのかどうか確かめる術すら分からないまま、祝詞は最低限必要な身支度を整える。車の鍵を持ち、真咲は何も言わずに祝詞を車に乗せそのまま慌しく走り出す。どこへ行くのか聞きたくても真咲は一度も祝詞を見ようとはしないから、口を開けないまま大人しく座っているしかできなかった。車内に篭る言いようの無い不安に祝詞は唇を噛み締めるとただ流れる街並みをぼんやりと眺めていた。

目の前が暗くなる、それは黙って立っているだけなのに起こる事なのだと祝詞は始めて知った。倒れそうな祝詞を真咲の腕がしっかりと抱き寄せたまま、二人は薄暗い部屋の中立っていた。
ベッドと言っていいのか分からない台の上、白い布を被せられたその人はほんの数時間前には笑顔を見せてくれていたのに、長い沈黙を破り堪えられない嗚咽が祝詞の喉から零れ落ちるのを見た真咲は無言のまま抱き寄せたその背を擦る。背に触れる温かいその手に祝詞は真咲へと縋る様に抱きついた。
この世で唯一の祝詞の身内である姉、寿はその日、還らぬ人となった。仕事一辺倒だった彼女は生きがいでもあったであろう『仕事』に殺された。仕事場で倒れた彼女は意識不明のまま病院に運ばれ意識はそのまま戻る事なく永い眠りへとついた。それは俗に言う過労死と呼ばれるもの以外のなにものでも無かった。享年27歳。若すぎる死だった。

一筋の煙が空へと上っていくのをぼんやり眺める祝詞は泣いて泣きすぎて腫れあがった目元を微かに潤ませる。ひりひりと痛む瞼は赤く腫れあがって、痛ましい。
「祝詞、ここに居たんだ。・・・・・そろそろ時間だから、戻ろう。」
肩に手を当て囁く声に祝詞は体をびくり、と奮わせる。葬儀の全ての段取りは全て真咲が整えた。親戚すらいない寿の葬儀は生前彼女が親しかった人だけを呼んだひっそりとした葬儀で、火葬場へと来たのは祝詞と真咲だけだった。泣いて泣いて何一つできない祝詞を支え、真咲は何も言わずにただ事務的に葬儀を行い、故人を偲んだ。
「・・・・・真咲さんは、泣かない、ね・・・・・」
それはあの日、報せを受けた時こそ青褪めていたけれど、その後は淡々としていた真咲に違和感を感じたからつい口に出た言葉で特に何を意図してではなかった。
「泣かないよ。 これで、祝詞は俺のモノだからね。」
「・・・・・え?」
思わず告げられた言葉に顔を上げる祝詞の横、真咲はここが火葬場だというのも忘れそうなほど鮮やかに微笑んだ。
「もう、あの家には二人だけ、俺と祝詞しかいない。・・・・・だから、早く帰ろう、俺達の家に。」
肩へと掛けた手に力をこめた真咲はそのまま祝詞へと顔を近づけてくる。触れる唇はすぐに口の中へと舌を侵入させる。深く絡みつく舌に思わず手を伸ばした祝詞を真咲はきつく抱きしめてくる。
「愛してるよ」
きつく祝詞を抱きしめる腕に更に力をこめたまま耳元へとそっと囁く真咲の声に涙で潤んだ瞳を大きく開く。ボロボロと音がしそうな程勢いをつけて流れていく涙をそのままに祝詞は抱きつく手に力をこめ、更にその背へと縋りつく。

いけないと分かっていた人の愛を手にいれた祝詞への罰は思っていたよりも重くて大きな代償だった。それでも祝詞はこの温もりを絶対に放す事は無い自分を分かっていた。
手に入れた愛する他人と引き換えに祝詞はこの世でたった一人の肉親を永遠に喪った。

- end -

2009-05-23


どんどん暗くなるのを止めれなかったのですが、真咲さんは幸せそうですよね?

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