室内の息苦しいほどの重い空気から目を逸らし白木深星(しらきみほし)は窓の外へと目を向ける。眩しい程晴れ渡る空は一点の曇りすら見えずに青い色が続いている。
「・・・・・もう一度、チャンスをくれないか?」
突然響く声に深星は窓から椅子の上、ずっと座ったままの男へと目を向ける。顔を上げ、眉を顰め、何かを耐える様に呟くその声に深星は気づかれない様にそっと溜息を吐くと静かに首を振る。
「無理、だよ。 同じには戻れない・・・・・」
深星のその言葉に男は膝に置いていた手をぎゅっ、と握り締める。そんな男から目を逸らし深星は存在すらも忘れていた時計へと目を向ける、話し合いの場が欲しい、と男に言われてこの部屋に来てから既に1時間は経っているのに気づく。片言の会話しかしていない男へと目を向けなおし深星はこの部屋に入って初めて笑みを見せる。
「さよなら、高梁さん。俺、行かないと、予定があるんです。 失礼します。」
男、高梁(たかはし)へと顔を向け淡々と話すと深星は軽く頭を下げると足早に出口へと向かう。
「待ってくれ! 俺は本当に君の事が・・・・・」
「・・・・・もう、遅いんです。さようなら!」
立ち上がり手を伸ばし追いすがろうとする高梁の手を振り払い深星は逃げる様に部屋を後にする。別れはいつだって苦い後味が残る。深星の恋愛はいつもそう。最後まで円満に笑顔でお別れなんて一度も無い。恋を初めてした15の時から深星の恋愛はいつだって口の中に何とも言えない苦い後味を残す。それは深星の好きになる人がいつも他に好きな人がいる人だったから。自分だけを好きでいてくれる人、そんな人は深星の過去付き合った人達の中には誰もいなかった。常に二番目、それに甘んじる深星は付き合っている時間も罪の意識に苛まれ、それが耐えられなくて別れを切り出す。 いつも同じ。初めて恋をした15の時から好きになる人にはいつも別に好きな人がいた。
静かな音楽の流れる深星お気に入りのバーに行くのも恋を失くした日だけと決めている。元々お酒が強くない深星は晩酌もしない。普段はアルコールとは全く縁の無い生活をしている。だけど恋を失くした日だけは無償にお酒が欲しくなる。 「お久しぶりですね、また失恋ですか?」
「・・・・・そう、いつもの頂戴。」
年配の人の良さそうなバーテンダーの言葉に深星は頷き注文をする。お酒の銘柄なんて詳しくないし、覚えようとも思わないけどこれだけは覚えた。鮮やかな慣れた手つきで目の前にグラスがすぐに置かれるから深星は手にとったソレにゆっくり、と口をつける。 マティーニ。逸話がたくさんあるんだ、と教えてくれた人がいたからカクテルといえばこれしか深星は知らない。ゆっくり、と口に含み味わうとこくり、と飲み込む。薄暗い店内にほのかに灯される灯り、耳に煩くない程度にゆっくりと流れる静かな音楽。目を閉じて短い思い出をお酒と共に喉の奥流し込んだ深星はバーテンダーに微かな笑みを浮かべるとそっと立ち上がる。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、今度は失恋しないで来れたら、って思うんですけど・・・・・また来ます。」
柔らかで温かい笑みを浮かべるバーテンダーに困った様な笑みを返しながら会計を済ませた深星は夜の町へと続く扉へと手をかける。
「・・・・・っと、ごめん!」
扉にかけた手を慌てて離す深星の頭に慌てた様な謝罪の声が降ってくる。
「ねぇ、何?」
「・・・・・人がいて・・・・・本当にすいません!」
背後からの甲高く媚びる様な甘い声に返事を返しながらも深星を見てくるその人の顔をじっくり、と見つめたまま深星は声を出す事も出来ずにその場に固まる。入って来たカップル、特別でも何でもない。ここは普通のバーだし営業してればお客が来るのは当然の事だ。不審者を見る様な冷たい視線に気づき深星は慌てて俯くと狭い通路のなるべく端へと避ける。
「行こうよ・・・・・・・・・・変な人」
腕を掴み急かすように告げる女の声に男は絡まる女の腕を離し先に行くように促す。不満そうに眉を顰めた女は深星の前を通り過ぎるその時にぽつり、と小さな声で呟き、かつかつとヒールの音を響かせながら店内へと先に向かう。
「・・・・・深星、だよな? 久しぶり、元気だったか?」
問いかけながら深星へと近づく男の前俯いた顔を上げる事もしないまま、深星は逃げる様に店を出ると走り出す。暫くして賑やかで華やかな夜の町から逃げる様に駆けた深星は肩で荒い息をしながら路上へと力なく座りこむ。たった一杯のカクテルでもアルコール。体中がふわふわとする。鼓動がやけに激しくて胸を抑えた深星は荒い息を隠せないままアルコールのせいなのか、それとも別の要因でやけに激しく動いてるのか分からない胸を抑える手をぎゅっと握り締める。失恋した日はお酒を飲み、苦い思いを消してまた次の恋を見つける。それが深星の今までの過ごし方で、訳ありの男にあのバーで会うのは予想外の出来事だった。 何年経っても忘れない、初めての恋、そしてその相手。あの時の胸の痛みまですぐに思い出すほど深星の中では消えない傷になっている相手、千草樹(ちぐさみき)とは、思えば5年振りの再会だった。
*****
目が覚めた場所を横になったままぐるり、と見渡し深星はごそごそと起き上がる。路面に蹲りその後の記憶が本当に曖昧だけど、見覚えある自分の部屋にいるからにはあの後無意識ながらも、自力で帰途にはついたらしい。やけに重い瞼を擦りながら深星は鏡に向かい、初めて重たい瞼の理由を知る。常に無いほど腫れた瞼の下の目は真っ赤に充血している。何度も擦ったのか目の周りは赤くなり鼻の下まで真っ赤になっている。触るとぴりぴりする顔をそっと水で洗った深星は電話機へと手を伸ばした。とてもじゃないけれど、仕事には行けそうもない。早々に諦めて休む事を告げる自分の声は泣き声をあげたのか擦れてまるで風邪を引いた時みたいだった。おかげで大した理由も告げずに休みは簡単に許可され、深星は冷蔵庫を漁るとアイスノンを取り出し薄手のタオルを巻くと閉じた目の上へとのせる。熱を持っていたのか、冷たさはじんわりと瞼に浸透してくるのを感じながら深星は昨夜、久しぶりに再会した樹の事を思い出す。
深星と樹は中学の入学式で初めて顔を合わせた。深星の通った中学は大学までエスカレーター式の私立中学だった。そこそこ進学率も評判の良いその学校に深星が入ったのは単に家が近かったからだ。市立の中学は深星の家から遠く離れていた。バスで通うそこよりも家から徒歩で通える、ただそれだけの理由で深星は受験戦争を勝ち取り入学した。樹は深星の様な単純な理由とは違い、後の大学進学に有利だから、その為にそこに来た、大半の生徒と同じ意味を持って入学した生徒だ。到底友達になれるはずのない二人が友達になれたのは、たまたま入学式の日に隣同士だったから、ただそれだけの理由だった。二人は三年間同じクラスで一番仲の良い、その時はただの友達だった。それが恋愛に発展したのは、そこが男子校で当然周りにいるのは男ばかりなそんな環境にいたせいもある。だけどそのまま友達でいれたはずなのに、道を踏み外したのは高校に進学するその年の春休み。友達数人で見たAVが原因だった。男子校だけど、基本ノーマルな性質の人間が多い。男同士の恋愛に寛容にはなれるけど、自分はいいや、大半がそう思うし深星も樹だってその中の一人だったはずだ。たった一本のAVが自分達の関係を変えるなんて深星も樹だって想像すらしていなかっただろう。 初恋すら知らない、性に遅れがちな深星は初めて見たAVが単純に気持ちが悪かった。ぐちゃぐちゃと画面いっぱいに聞こえる卑猥な音も、大げさな程喘ぐ大きな乳房をぶらさげた女も、その女に圧し掛かり、手を変え品を変え、でもやる事しか頭にない男も全てが深星にとって不気味なものにしか見えなかった。AVのあまりの酷さに目を背けた先にいたのが樹だった。心臓が跳ね上がった気がした。深星は樹に目を向けたままそっと激しく高鳴る胸を抑える。 樹は唇を引き結び、画面を睨み付ける様に眺めていた。それは潔癖な少年が嫌悪の目を向ける、そんなものではなく、かといって画面を見て興奮しているのとも違った。普段と変わらない無表情で画面を眺めている樹の姿に深星はびくり、と身震いをする。何が深星の中を動かしたのかは未だに分からない。だけど、普通じゃないテレビを見ているのに普段と変わらない樹に深星はゆっくり、と近づいた。自分を動かした衝動は今でも良く分からない。そっと手に触れる深星に驚いた目を向けてくる樹にただ笑みを向ける。突き動かされる様に握り返され、画面からひっきりなしに漏れる卑猥な音や声が覆う部屋から二人はそっと抜け出した。逃げる様にその場から去った二人は互いの手を握り合ったまま人気の無い場所を探し回る。会話もなく無言で町中を徘徊する自分達はあの時異常だったのかもしれない。滅多に人の来ない、踏み切りの真下にある小さな橋の下。どちらからともなく軽く唇を触れ合わせ、一度離し互いの顔を見るとまたすぐに今度は深く唇を触れ合わせた。AVの画面で男女がしていた舌を絡め合う深いキスを何度も交わし、いつの間にか座りこみ互いを抱きしめ貪るように何度もキスを交わす。それが二人の始まりだった。 体を重ねたのはそのキスから数ヵ月後、夏のある日。樹の自宅に遊びに来ていた日だった。恋人同士、とは違う。互いにキスをした翌日も友達の顔をし、普通の会話をしていたから。だけどたまに沈黙が訪れ、会話が途切れるとどちらからともなくキスを交わした。それでも会話は無かった。だから、深星は恋人とは思わなかったし、樹だってそうは思っていなかっただろう。一度キスをしてしまったら、一度体を繋げてしまったら、戻れなくなる道をただ歩いていたに過ぎない。そこに何の意味も無いまま、気が向くと体を重ねる日々が続く。そして大学進学と同時にその関係はぷっつり、と何の前触れもなく切れた。 理由は簡単で単純。樹に彼女ができたからだ。告白された、と自慢していたその声を聞いた時深星は祝福の言葉を捧げる事なくその場から逃げる様に走った。何で逃げているのか気づいたその時、自分が樹にいつの間にか恋をしていたのに気づいた。 彼女ができた樹に深星はもう必要ない。そう思うだけで胸は痛んだけれど樹に何かを聞く事すらも放棄した深星は逃げる道を選んだ。
あの時、思いを伝えていれば何かが変わったかもしれない、だけど、逃げた深星は樹に今更何を言えば良いのかも思いつかなかった。 だから、もう一度は会いたくない。気づけば手の中缶ビールはすっかり温くなっていた。鮮やかに浮かび上がる過去の思いでに微かな笑みを浮かべると、今でも消えない胸の痛みをまた閉じ込める為に深星は缶ビールを一気に煽った。
*****
一度会えば二度目、三度目は訪れる。まさにその言葉通りに今まで会わなかった樹と再び顔を合わせたのは職場だった。お互い一瞬声を失くし呆然と顔を見合わせる。
「・・・・・すいません、失礼しました。 高梁より推薦されました白木と申します。」
先に我に返ると深星はスーツの内側から取り出したパスケースの中から営業する時には数枚は持ち歩く名刺を目の前の人へと差し出す。つい、先日別れた高梁は同じ会社の上司と部下の関係だった。彼の転勤が深星との別れのきっかけだった。転勤に伴いいくつかの彼の仕事を割り振られた中に樹の会社、それも樹本人との営業も入っていた。嫌な偶然だと内心舌打ちをするけれど、仕事だと言い聞かせながら、深星はそっと息を吸い込むと営業時に浮かべる笑みを見せる。
「・・・・・ああ、どうも。高梁さん、転勤したんでしたね・・・・・・じゃあ、これ、あの、俺いや、わたしの名刺です。」
困った様な顔で名刺を受け取り、慌てた様に名刺を差し出す樹に深星は丁寧にソレを受け取ると頭を下げる。
「早速ですが、仕事の話を。高梁から引き継いだ内容・・・・・・・・」
「深星! 仕事の話なんかどうでも良い! 話たい事があるんだよ。」
資料を取り出し仕事の話を始める深星の言葉を遮り、樹は強い声で名を呼ぶと身を乗り出すように顔を近づけてくる。
「・・・・・っ、今日は・・・・・顔見せだけですので、積もる話は後日に致します。 お忙しい所を失礼いたしました。」
目を逸らしたまま立ち上がると樹の言葉を真っ向から無視した深星は深く頭を下げると急いで出した資料を仕舞いこみ立ち上がる。 「深星!」
「・・・・・この後も予定がありますので、今日はこれで失礼します。 また、後日お伺い致します。」
仕事の姿勢をあくまで崩さない深星の頑なな態度に樹は眉を顰めたまま口を閉じる。それでも何か言いたげに見る視線から逃れる様に再度頭を下げると深星はそのままドアへと向かう。
「・・・・・久しぶりに会うのに、その態度は酷くないか?」
ぽつり、と呟く声にドアへと伸ばしかけた手をびくり、と震わす深星に気づいたのか樹はすぐに立ち上がり近寄ってくる。
「大学で離れるなんて思わなかった。 元気そうだね、深星。」
俯く深星の顔を覗きこみ笑みを向け告げる樹。旧友との再会を心から喜ぶその笑みに攣られるように深星は口元に笑みを浮かべる。 「この後の予定はどのくらいで終わりそう?」
「え? あの、行って見ないと分からない、から・・・・・」
「・・・・・じゃあさ、終わったら電話してよ、いつでも良いから、な?」
約束を取り付けようと告げる樹に深星はただこくり、と頷く。頷く深星の姿に笑みを深くした樹は胸元から名刺をもう一枚取り出すと裏に何かをペンで書き「はい」と渡してくる。 条件反射で受け取った深星の手の中、名刺の裏に走り書きされたそれは番号とメールのアドレスだった。
「これ、プライベート用だから、連絡はこっちにして。 待ってるから、必ずしろよ!」
不思議そうな顔で名刺を見つめる深星に樹はそっと呟きその背を軽く叩くと耳元へとダメ押しの様に告げてくる。無言で頷く深星に笑みを向けた樹は深星が立ち去るのを見送る様に暫くその場に立っていた。背に刺さる視線が逃れられないのだと告げる様で深星は会社を出ると微かな溜息を零し鞄を持ち直すと頭を振り歩き出した。
恙なく話は終わり、営業相手に頭を下げ見送った深星は腕時計へと視線を向ける。 午後20時。まだまだ宵の口という時間帯である事に気づく。 携帯を取り出したその時に貰った名刺を取り出したっぷり5分、迷った末に名刺片手に番号を押す。
「ありがとう、電話くれて。 なぁ、何する?」
「・・・・・車だから、僕はウーロンと適当に摘めるので・・・・・」
「車って、仕事帰り?」
「うん。・・・・・でも、元々お酒には弱いから、本当に飲まないんだよ。」
微かに笑みを返し告げる深星に樹はそうか、と呟き丁度近くを通った店員を呼びとめ適当な品を数点頼む。一番先に来たのは飲み物で深星はウーロン、樹はビールだった。
「じゃあ、改めて再会を祝して、乾杯。」
ビールを持ち上げる樹に深星もウーロンを持ち上げこつん、とコップを触れ合わせるとすぐに口に含む。緊張のせいか普段より数度は上がっていた熱が、冷たい液体が喉を通ったおかげで、幾分体内を涼しくさせたのか、深星はそっと息を零した。
「今日はありがとう、付き合ってくれて。」
「ううん、こちらこそ、だよ。 じゃあ、ここで。」
入り口に立ち話しかけてくる樹に微かに笑みを返した深星は車の鍵を弄びながら答える。
「深星! 会えて良かった。 懐かしくて嬉しかった!」
会話はやっぱり続かなくて、駐車場へとすぐに足を向け歩き出した深星の背後から聞こえる樹の声に思わず足を止める。
「・・・・・本当にこちらこそ、だよ。 あの、送ろうか?」
一歩も動かず同じ場所にいる樹に深星は思わず口を開く。飲み屋に居てもそんなに会話は弾まなかったのに、狭い車内で二人きりなら更に会話は続かないはずだと分かっていたはずなのに、口から出た言葉を今更引っ込める事も出来ずに深星はぼんやり、と樹を見る。 「・・・・・良いのか?」
「もちろん、だよ。 家まで送るよ、俺は車だから・・・・・」
戸惑う声に笑みを返し、後には引けないまま頷く深星に樹は笑みを返し近づいてくる。
「狭くて小さくてごめんね、あの、家、ここから遠いの?」
助手席へと樹を勧め車のエンジンをかけながら問いかける深星に樹は住んでいる地名を告げる。それは深星の家とは駅一つも離れていない、あえて言うなら駅の裏と表。それだけ近くに居たのに今まで会わなかったのが不思議だった。
「・・・・・奇遇だね、僕もそこだよ。駅から遠いの?」
「いや、近くだよ。駅まで歩いて5分。○×のコンビニがある方だよ。」
「・・・・・そう、なんだ。家は反対側。しかも駅から結構離れてるから移動に車は欠かせないんだ。」
走り出した車の中で何とか会話を繋ごうとする深星に樹は頷くだけで、すぐに沈黙が訪れる。耐え切れなくて、信号待ちの時に深星はほとんど聞かないMDをわざわざ再生させる。
「あの、ごめん、音邪魔じゃない?」
「いや、別に。 こういう曲聞くんだ。」
流れる曲は甲高い女性のバラードで、あの頃の深星はあまり聞かなかった曲だ。つい最近車に乗せた妹の置き忘れたMDだけど、そんな事は口に出さずに深星はただ笑みを返す。見慣れた街並みに入ってそっと息を吐いた深星はやっと口を開く。
「家、どの辺?」
「・・・・・ああ、コンビニの右に入って左側のアパート。」
言われるままに車を進めた深星の視界にまだ新しい外観のアパートが見えてくる。空いている駐車スペースに車を停めた深星は樹へと視線を向ける。
「まだ、新築みたいだね。」
「・・・・・ああ、ありがとう、ここまで。 あの・・・・・」
「じゃあ、ね。 次に会うのは仕事でだけど、さよなら、千草。」
声を遮る様に言葉を連ねる深星に樹は微かに笑みを口元に浮かべる。名字を呼ぶのは他人行儀過ぎたかも、と考えながらもドアを開く樹に手を振る深星は彼が早くドアを閉めてくれる事を祈っていた。
「さよなら、深星。」
頑なに名前を呼ぶ樹に深星はただ笑みを返し、車から降りたはずの樹が未だに車のドアを掴むのに首を傾げる。
「・・・・・あの?」
「何もしなければ良かったのに。 連絡しなければ、送らなければ、こんな事にはならなかったのに。」
微かに笑みを浮かべた樹が車へとまた乗り込んでくるのに、疑問が浮かぶ深星は急激な衝撃を与えられ意識が遠のく寸前低い樹の呟きを聞いた気がした。
書いてたら続き物に・・・・・できるだけ早く続きをお見せできれば、と思います; 20090930
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