人には譲ってはならない矜持というものが誰にでもあると思う。 だけど、間違えた選択は二度と取り返しのつかない事態を招きかねないから、だからこそ、選択を誤ってはいけない。 腕の中、すやすやと安堵の寝息を響かせ安らかに眠る恋人の顔をそっと見つめた泰隆は大きな溜息を吐くと、随分遠回りした過去の自分を振り返りだした。
おおよそ手に入らないものは無いと思っていた、今考えるとかなりいきがっていたまだまだ幼い子供の部類に入っていた、今から二年前、ひょんな事から舞いこんだ「家庭教師」のバイト。それが泰隆の人生を大きく変える出来事だった事にはまだ気づいていないそのバイト先の生徒、それが泰隆と今、現在腕の中で安らかな寝顔を披露してくれている恋人悠里との出会いのきっかけだった。
「初めまして、今日から君の家庭教師になりました、永瀬泰隆と言います。よろしく。」
和やかに事を進めようと笑みを浮かべ手を差し出す泰隆を悠里はただ真っ直ぐ見つめたまま差し出した手を取ろうともしなければ、何も言葉を発しようとはしなかった。
「すいません、先生!・・・・・ほら、ゆうちゃん!・・・・・ちゃんとご挨拶して、失礼でしょう。」
悠里の隣りに立つ母親が変わりに笑みを浮かべながら息子に催促してみるが、悠里は頭を下げただけだった。 緊張しているのか、人見知りが激しいのか、とにかく第一印象では完璧に「合わない」そう感じた。
何度も会う内におざなりな挨拶やがちがちの敬語で答えてくれる様にはなったけれど、悠里は何も話そうとはしなかった。なのにきっかけは意外な所から出てきた。
「すいませんね、先生。今日は、ゆうちゃんだけなんですけどお夕飯は用意しといたので是非食べていって下さいね。」
来て早々に出かける支度を整えた母親の言葉に泰隆は最初は気まずいと思っていた。 一応何度も通ってはいるけれど、母親がいるからこそ、沈黙だって間が持ったのに、あの私語を一切話さない悠里と二人きり取り残される気まずい空間の中に居るのはとても居た堪れなかった。だから夕飯も理由をつけて断るはずだったし、これから先も自分と悠里の距離は縮まる事は無いと思っていた。
「ここで、少し休憩しようか?」
一段落着いたところで問いかけると悠里はこくり、と頷き椅子を引く。
「お茶、持ってきます。」
立ち上がり、部屋を出て行く後姿にそっと息を吐いた泰隆は椅子の上、階下へと降りていく足音を聞きながら大きく伸びをする。 部屋の中を見回し、泰隆は相変わらずきっちり整理整頓されている部屋の中にはどこを探しても娯楽と呼ばれる漫画やゲームの類が置いてないのが気になった。 息抜きできる自分の部屋、それが実家にある泰隆の部屋で、ベッドに寝転び漫画を読み、真剣にゲームをした悠里と同じ年の自分を思い出し少しだけ眉を顰めた時、鞄の隙間からはみ出たこの部屋にそぐわないモノに気づく。 ベッド脇のサイドテーブルに無造作に置かれた鞄はきっと学校指定だろう、黒いお馴染みの学生鞄で、特に変形もさせていなければ、粗雑に扱っているわけでも無いのか、新品とまではいかないけれど、三年目に入るというのに綺麗なものだった。 律儀に持ち歩いているのだろう教科書やノートに挟まれ色のついたビニールに包まれたモノ。 手に取るとそこそこの重さのそれは泰隆には馴染みのあるものと良く似ていた。
*****
「・・・・・先生、何を!!」
袋の中から取り出したモノがビデオテープである事を確認したその時、背後からタイミング良くかけられた声に泰隆はただ振り向く。手に持つモノへと目を向けた悠里は顔色を変え近づいて来た。
「あの、それは・・・・・クラスで回ってて・・・・・・」
「・・・・・中身が何か知ってるのか?」
「あの、・・・・・先生には、関係・・・・・無いです・・・・・」
悠里が手を伸ばしながら話すから、泰隆は内心想像どおりのモノだと確信しながら、取られない様にテープを悠里から遠ざける。 「・・・・・・先生!!」
「タイミング、良くない?・・・・・親はいないし、絶好の機会だよ。」
「良い、です。だから・・・・・」
顔を赤く染め否定する悠里はテープへと手を伸ばしてくるのを止めなかったけれど、泰隆は口元へと笑みを浮かべ、死守しながら耳元へと唇を近づける。 びくり、と震える体、怯えた目で見上げる悠里の顔に泰隆は更に笑みを浮かべると有無を言わせずにテレビの方へと歩いていく。 小型のテレビの下にあるビデオデッキに取り出したテープをセットした泰隆は動こうとしない悠里の腕を引きベッドへと座らせると持って来たリモコンの再生ボタンを押した。
「あんっ、ああん・・・・・いいっ・・・・・いっ・・・・・あああっ・・・・・!!」
いきなり始まった甲高い喘ぎ声にびくびくと小さな体を震わせる悠里へと何気なく目を向けた泰隆は上気した顔で画面に映る画から視線を恥ずかしそうに逸らす姿にこくり、と喉を思わず鳴らす。 ありきたりのパターン化されたAVなんて泰隆にはあまり興味が無い。 なのに初心な反応を見せる幼い姿態に泰隆は自身が少しだけ反応しているのを感じていた。 AVに釘付けな悠里の視界に入らないように隣へと腰を降ろす泰隆はもう一度じっくり、と悠里を見つめる。 見ないように逸らしながらも興味はあるのかちらちらと盗み見るそんな感じの視線は定まってはいない。 目の前に映るものから逸らすべきか見るべきか迷っている、そんなおどおどした姿が更に悠里の幼さを強調していて、泰隆は口元に自然に浮かぶ笑みを必死に気づかれない様に堪える。 赤くなったり青くなったりとめまぐるしく変わる表情からも幼さが伝わる。 その姿に明らかに興奮している自分に気づいた泰隆は唇を舐めるとそっと悠里へと手を伸ばした。
「・・・・・っ、先生?」
「大丈夫だから、前見といて・・・・・」
背後から抱きしめ、想像もできない場所へと手を伸ばしてきた泰隆に驚く悠里を宥めながらも、伸ばした手を止める事なく進ませた。布越しでも感じる、少しだけ熱を持って来た場所をそのまま緩く手で揉みだした泰隆に悠里はびくびくと体を揺らし固まる。 「大丈夫だから、そんなに硬くなるなよ。・・・・・気持ち良い事しかしないし・・・・・」
がちがちに固まる悠里の耳もとへと囁き、手早くズボンを寛げ出した泰隆に悠里は先が読めないのか瞬きを繰り返している。何が起こっているのか全く理解できていない、そんな表情の悠里に構わずに泰隆は手を下着の中へと強引に押し込む。実際に見えているわけではなく手で触れた感触、それだけだけど、反応は微かだけどしてきている。でも、手ですっぽり覆えるほど幼い性器にいけない事をしている、という危険な興奮が泰隆を更に煽る。
*****
抵抗らしい抵抗もしない幼い体をそのままベッドへと押し倒したのも、触るだけで終わるはずが、その先へと進んでしまったのも、悠里が何も知らなすぎだと言い訳ならなんぼでも言える。 その後、転げ落ち、自分の犯した過ちに引きづられる様に、嵌っていく悠里の真剣だった思いをも踏み躙る過ちを犯すのだけれど、長い事認める事が出来なかった。 本当に嵌っていたのは泰隆の方である事、去られて初めて気づいた感情をただずるずると引きづるだけの日々。それが、数年にも渡るなんて想像もしていなかった。
規則正しい寝息が泰隆を眠気に誘う。 おおきなあくびを噛み殺し泰隆は、安心しきった顔で眠る恋人の顔をもう一度見つめる。 離れていた間に、身長も伸びたし、あの頃の面影は起きている時にはあまり感じられないとは思っていたけれど、寝顔は変わらない。 何があろうとも二度と放しはしないだろう恋人をそっと抱き寄せると泰隆は顔を寄せると瞳を閉じる。 やがて静かな部屋には重なる二人分の寝息だけが響いていた。
なかなか進まない本編の変わりといってはなんですが番外で失礼しました。 泰隆さん、こんな人です。
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