LOVE LOVE LOVE

不機嫌な熱情*番外

恋人同士の祭典なんて言われているイベントは結構あるけれど、愛する人にチョコを贈るなんてこのイベントを考え出した人を恨みたくなるのは、こんな時、堂々と恋人にチョコをあげる為にうきうきとチョコレートを買い並ぶ女性達を見た時ではなく、その思いの形の一つ一つをこうして目の前で見る時だと思う。
「いらない、って言ったんだけど・・・・・机の上に置かれてたら、本当に他の方に迷惑だろ?」
困った顔で告げるのに、その声がどことなく弾んでいるのは、こちらの気のせいなのか分からなくて、引き攣りそうな口元を堪える為にぎゅっと引き結ぶと、悠里はそのまま山の様に置かれたチョコの山から目を逸らすと立ち上がる。
「・・・・・悠里?」
「俺、帰る」
「え? 帰るって、来たばっかだろ?」
「先生はチョコの山に囲まれて楽しそうにしててよ、じゃあ、さよなら!」
慌てる泰隆から顔を背けた悠里は上着を着込むとさっさと帰り支度を済ませ玄関へと歩き出す。背後から慌てた様に着いてくる足音にも振り向こうとはしないまま屈みこむ。
「悠里、それって、もしかしなくても嫉妬とか? たかがチョコレートだろ?ほら、義理でくれた奴だっているだろうし・・・・・」
「だから、何? 本気のチョコだってあるかもしれないだろ?・・・・・先生はその本気のチョコになんて贈るかだけ考えたら・・・・・じゃあ、お邪魔しました!」
靴を履く背後で言い訳がましく告げる声にすくっと立ち上がった悠里は背後を睨み付けると早口で一気に告げ軽く頭を下げドアを開く。
「ちょっと、待てって・・・・・・ここは怒る所じゃないだろーが!」
背後から羽交い絞めにされ開いたドアにかけていた手が滑り、悠里は無言で後ろへと顔を向ける。羽交い絞めにされているせいか、微妙に浮いている足も軽々と羽交い絞めにされる自分にも言い様の無い怒りが内心をぐるぐると渦巻く。向けようとした顔さえも、厚い胸板にぶつかり、巧く顔を上げる事もできずに、悠里はただ手足をばたつかせる。
「離せよ!・・・・・帰るって言ってるだろ!!」
「・・・・・嫌だよ。今、帰したら、当分口聞いてくれなそうなので、帰さないよ!」
年上の功なのか、性格を読まれていて、悠里はむっとした顔で唇を突き出す。
「・・・・・俺、帰りたい・・・・・」
「無理!」
ぼそり、と呟く声に無情な一言が即座に返されますます唇を突き出す悠里をそのまま泰隆は担ぎ上げると、部屋へと歩き出す。それでも諦められないのかばたつく悠里に少しだけ眉を顰めるけれど、何も言わない。
どさっとまるで荷物を投げるように扱われたのは、今も昔も実は余り無い。いや、人としての尊厳だけは守ってくれる人だった気がするのだけど、投げ出された格好のままそろそろと顔を上げた悠里は泰隆の顔に背筋が寒くなるのを感じた。


*****


「やっ・・・・・こんなの・・・・・んっ、やっだ・・・・・」
必死に頭を振り懇願する声に何も返さない泰隆に悠里は震える手を伸ばす。
「ここはその気だよ? 嫌がってないし、乗り気だ。」
微かに吐き出す息が自身へと吹きかけられ、悠里はびくり、と体を震わせる。両足を限界まで広げ持ち上げたまま、間に入っている泰隆はさっきから、悠里自身を握りこんだまま、口で舌で熱を持ったソレを愛撫しているけれど、いつもなら、悠里にも楽な姿勢を取らせてくれるのに、さっきからその光景は悠里の目に直接入ってくる。
わざと見せているのだと分かってても、身動き取れない様に体はいつのまにか固定されていて、泣きそうな顔で見上げた悠里は赤い舌が震える自身をねっとりと舐め上げるのを見て思わず顔を逸らした。
羞恥で顔を赤く染める悠里に構わず泰隆は何度も舌を使う。濡れた音が部屋中に響き渡り、羞恥で熱くなる体は別の熱をも生み出して、悠里は濡れた声を微かに漏らした。
「・・・・・っん、もう・・・・・」
「無理?」
舌がねっとり、と絡みつき、だらだらと既に零している先走りの液をも舐め上げるのを視界に写し、堪えきれずに漏らす声に泰隆の声が問いかける。ただがくがくと頷く悠里に泰隆は苦笑を浮かべると、やっと持ち上げていた両足を降ろしてくれる。
「・・・・・泰隆、さん・・・・・もう、欲しい・・・・・」
足を降ろしてはくれたけれど、まだ欲しい所を避けて焦らす泰隆はそれでも辛うじて指だけは挿れてくれたけれど、でも浅い場所を突くだけで、悠里はこくり、と喉を鳴らすと泣きそうな声で告げる。いけそうでいけない、そんな曖昧な感覚が体中を巡っていて、熱がぐるぐると燻っている。
「・・・・・挿れる?」
顔を上げ、首を傾げ問いかけてくる声にただ頷く悠里に泰隆はただ笑みを浮かべてきた。

いつもの倍も時間をかけ前戯を施されたせいなのか、意図的に一番欲しい場所を避けられての愛撫のせいなのか、燻る熱は悠里の理性も奪っていた。いつもなら、足を開いたままでいるのも拒むのに、無意識に両足を広げたまま、準備する泰隆をただぼんやりと眺めていた。ベッドの上、両足を開いたまま、寝転がるその中心ははちきれそうな熱に震え、シーツに滴り落ちそうな先走りの液でしっとりと濡れていた。
「良い?」
一応問いかけてくる泰隆に待ちきれないのかねだるよう、抱きついてくる悠里は話す事なくただ闇雲にキスをしてくるから、泰隆はその態度に苦笑を零しながらも、躊躇う事なく一気に秘孔を自身で貫いた。
「・・・・・んんっ!」
すんなりと、でもないけれど、一気に入り込んできた熱の塊に微かな声を漏らした悠里は縋りついた泰隆の背に爪を立てる。中を押し広げられ、どくどくと脈打つ熱い鼓動さえも感じられ、悠里は泰隆の背に爪を立てながらも、やっと待ち望んだものを与えられた安堵で微かに息を吐いた。馴染むまでじっとしてくれるのはいつもと同じで、慣れるまで、濡れた額に張り付いた髪を払ってくれる優しい指先を感じ、悠里は目を閉じたまま、泰隆の肩口へと頭を擦り付けた。
ゆっくり、と動かす態度に、行為が始まった時の泰隆の常とは違う激しさはもう無かった。ただ、ただ愛し合っているそれだけを感じられる温かい体温に包まれ、熱い熱に酔い、悠里の意識はどんどんと薄れていった。


*****


かつて無い程長く繋がっていた熱い熱から解放され、夢見心地でベッドに横たわっていた悠里の前に泰隆が突き出したのは可愛いラッピングに包まれた小さな箱だった。
「・・・・・何?」
「いいから、開けてみて。」
箱を押し付けながら告げる泰隆に掌に納まる小さな箱のラッピングを剥がしだす。べりべり、と男らしい剥きかたをする悠里の横、ベッドの端に腰掛けた泰隆は少しだけ苦笑を浮かべるけど何も言わない。やっと出てきたラッピングに包まれていた中身もやっぱり小さな箱で開いた悠里は思わず顔を上げる。
「・・・・・これ・・・・・」
「貰ったんじゃないよ、俺が自分で買いました。バレンタインデー、だからじゃないけどな。」
小さな箱の中に入っていたのは腕時計。それも、雑誌を見て散々欲しいと騒いでいた悠里お気に入りのメーカーのだ。
時計を取り出すでもなく呆然と見入っている悠里に泰隆は自ら時計を取り出すとそのまま悠里の腕へと嵌める。
「知ってる? 時計を贈るのはあなたの時間を縛りたいって事だって。」
「・・・・・泰隆、さん・・・・・」
「俺はチョコよりも形になるのが好きだよ。だって、こうして、縛れるだろ?」
顔を覗き込み笑みを浮かべる泰隆に悠里は泣きそうな顔に必死に笑みを浮かべる。縛りたいのはこっちの方だと口に出して言いたいのに、口を開けば必死に堪えている涙が零れそうでただ唇を噛み締める。
「・・・・・悠里、俺はお前を選んだ、分かってる?」
「・・・・・・ありがと・・・・・・」
俯き、小さな声で呟く悠里は握る布団の上にポタポタ、と雫を落とす。泰隆は笑みを浮かべたままそんな悠里をそっと抱きしめると俯く頭のてっぺんへとそっと唇を落とす。そっと伸ばされた悠里の手が泰隆の服の端を掴むからぎゅっと力をこめ抱きしめなおす。長い事、二人はただベッドの上抱き合ったままで、そうして、どちらからでもなく、自然とお互いの顔を見合わせ、唇を触れ合わせると長い、長いキスをした。


バレンタインデーにはかなり遅れましたが、とりあえず書けました。
何だかんだと言いながらも彼らは幸せそうです、連載も頑張ります! 20090218

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