逢いたくて、逢いたくて無茶を言った。 まだ世間の厳しさを知らないまま遊んで暮らせる気楽な大学生の自分と違い、恋人が忙しい身だと分かっていての我が儘だったけれど、どうしても今日だけはその我が儘を叶えて欲しくて夜空に白い息を吐きながら千尋は上を見上げた。 輝く色取り取りのイルミネーションは11月半ばから夜の街を一層華やかに変え、いつもならただベンチと噴水しかない場所には噴水を更に飾り立てるかの様に綺麗なツリーが設置されている。 時間毎に吹き出す噴水の水がツリーに飾られた電飾でより一層に際立つ夜の街には千尋の様な人待ちの顔があちこちに立っていた。 夜だというのに、冬だから結構どころかかなり寒いのに、鼻の頭を赤くして待つ人達の顔にはどの顔にも期待と不安が入り混じっていた。 自分もそんな顔をしているのだろうか?と手袋を嵌めた手を頬に当てた千尋は暖かい毛糸の温もりに少しだけ瞳を伏せると今日の約束を取り付けた昨夜の電話を思い出した。
「明日の夜だけでいいから、これから先電話だけでもいいから、お願い、律さん!!」
『あのね、前から言っているけど、俺の会社は今が一番ピークで・・・・・』
「一分でも二分でもいいから、律さんに会いたいんだ。お願いします!」
戸惑う様な歯切れの悪い声に千尋は必死に食いついた。 電話越しで目を見て必死にお願いできないのがもどかしくて、携帯を握り締め何度もお願いを繰り返す。
『・・・・・・分かったよ、そんなに居れないかもしれないけど、どこで会う?』
「ありがとう、律さん!・・・・・あのね・・・・・」
深い溜息の後、渋々承諾してくれる声に千尋は嬉々として告げた。
「キルトの広場!・・・・・・そこに、・・・21時!!」
『・・・・・分かった。』
一瞬の沈黙の後答えてくれる声に電話を切っても顔が緩むのを抑えられないまま千尋は布団の中へと潜りこむ。 興奮で高鳴る胸を抑えながら携帯を握り締めた千尋は瞳を閉じると愛しい恋人を思い浮かべながら眠りについた。
広場にある時計の鐘が鳴り響き千尋は上を見上げてからポケットから携帯を取り出した。 時刻は待ち合わせの21時になっていた。 暖かい缶コーヒーを二個自販機に買いに行き、元の場所に帰っても待ち人の姿すら見当たらないままで、一個はポケットにしまいもう一個のプルトップを開けると、ベンチに座り千尋はコーヒーへと口をつけた。 こくり、と一口飲むだけで、体が温まる気がしたまま一気に飲み干した。 来た時には人待ち顔の人達で溢れていたのに、次々と消えていくのをぼんやりと視界に写しながら千尋はもう一度携帯を取り出した。 メールも着信も入ってないままの携帯を眺めながら、待ち合わせの時間から、既に1時間以上も経過しているのが嫌でも目に入り大きな溜息を吐いた。 白い息が段々と濃くなる気がする。 立ったり、座ったりを繰り返しても寒さは強くなるばかりで、買ったコーヒーもポケットの中で冷めてきて、泣きそうな顔になりながらも、もう少しだけ、その気持ちだけで千尋はその場所からどうしても動けなかった。
*****
「ごめーーん!!・・・・・遅くなりました〜!!」
人並みを器用に潜り抜けながらも、真っ直ぐに千尋の元へと駆け込んで来た顔に不安な心が軽くなり安堵の溜息と共に自然と笑みが零れる。 はぁはぁ、と肩で息を吐きながらも、開口一番の謝罪に千尋は立ち上がるとただ首を振る。
「本当にごめん、ああ・・・・・やっぱり、外じゃなくて中で待たせるべきだったよな。」
真っ赤な鼻と頬を見て、両手で頬を覆いながら呟く声にも千尋は困った様な笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。
「とりあえず、暖かい場所に移動しようか。・・・・・本当にごめんな。」
何度も謝りながらも、手を引く彼に千尋は引かれるまま歩き出した。
「どう?」
店に入るまで、一言も話さない千尋に眉を顰め問いかける彼に千尋はほっと息を吐くとにっこり、と笑顔を浮かべる。
「・・・・・千尋?」
「・・・・・平気、だよ。・・・・・これ、すっごい熱い。」
「やっと話したーー。・・・・・怒ってない?・・・俺、かなり遅れただろ?」
「ううん、無理言ったのはこっちだし、それより、平気?」
首を傾げ逆に問いかけてくる千尋に彼、律は笑みを浮かべると目の前のコーヒーへと口をつける。
「流石に本当なら休日だし、それにクリスマスイブだし、家族サービスとかしたい奴もいるだろうし、もちろん恋人にもサービスしたいだろうしって、とりあえず早めに終わらせてきたんだけどね、ちょっと、交通機関に手間取ってさ。」
苦笑を浮かべる律に千尋は首を傾げかけてから、律の会社からここまでの距離を頭の中で思い出す。
「・・・ごめんなさい、遠かった、よね?」
「大丈夫だよ。それよりも、いつから待ってた?・・・・・寒かったなら別の場所に居てくれれば良かったのに。」
「・・・・・ツリーの下が良かったんだよ。」
唇を尖らせ真っ赤な顔で呟く千尋に律はただ笑みを浮かべた。 お互い、電話やメールはほとんど毎日していたけれど、会うのは久々でそのまま店の中で簡単な食事を食べながらその後もくだらない日常の話をずらずらと話した。 どんなに話しても話題は全く尽きないまま次から次へと溢れ出し、二人顔を見合わせ静かな店内にそぐわない笑いを必死に噛み殺した。
「うわぁーー広い!!・・・・・律さん?」
通された部屋を見て感嘆の声を上げながらも律へと戸惑う様に千尋が視線を向けてくるから彼はただ苦笑を浮かべる。
「まだ当分はゆっくり会えないから、これくらいは、ね。」
だから安心しろと笑みを返す律に千尋は部屋の中央に大きく構えたベッドへとおそるおそる腰を降ろした。 自分の部屋の薄っぺらく、固いベッドとは違うふかふかで、弾力もあるベッドに思わず横になると頬を擦りつける千尋に律は苦笑を浮かべると手にしていた鞄を床に置くと上着へと手をかける。
「律さん?」
「うん?・・・どうする?・・・・・先にお風呂行く?」
窮屈そうなネクタイを緩めながら笑みを向けてくる律に身を起こすと千尋は両腕を真っ直ぐに律へと伸ばした。
「千尋?」
「抱きしめて?・・・・・会いたかった、律さんに。」
腕を伸ばしたまま呟く千尋に律は笑みを深くすると、身を屈めベッドへと片足だけを乗せると不安定な体勢のまま胸元へと抱き込んでくる。 頭と背から腰をゆっくりと撫でる律の胸に顔を押し付けると千尋はやっと感じた温もりに鼻の奥がつーんとするのをごまかすように何度も頬を擦りつける。
「・・・・・会いたかった。」
そっと小さな声で呟く千尋を律は更に深く抱きこむと頭に顔を擦り付ける。
「俺も、本当はあのツリーの下で待ってた時からこうしたくて堪らなかった。」
千尋、と名を呼ばれ顔を上げると律は笑みを深くすると少しだけ腕を緩め触れるだけのキスをしてくる。 直に触れ合う温もりにもっと、との意味もこめて首筋へと腕を回してくる千尋に律は今度は少しだけ長いキスをしてくる。 唇を放すと自然と口を開く千尋に笑みを深くした律は今度は口腔へと舌を差し込むと奥に引っ込む舌を絡めとり、長く深いキスをしてくる。
「お風呂、どうする?」
「・・・・・後で、良い・・・・・」
唇を放しそっと問いかける律に真っ赤な顔で千尋は答えるから、律はそのままベッドへと千尋を抱え込みながらも沈み込んだ。
*****
慣れた手つきで服を脱がされベッドの上、一糸纏わぬ姿で久しぶりの懐かしい重みと温もりを感じる。 嗅ぎ慣れたはずの煙草の匂いの混じった少し柑橘系の香水の匂いすらも愛しくてたまらないまま、千尋は律の胸元に顔を埋めると大きく息を吸う。
「千尋?」
「・・・・・久しぶり、律さんの匂い。」
肌に顔を直に擦りつけうっとりとした目をして笑みを浮かべる千尋に律は笑みを返すとキスを何度も顔中に散らしながらも胸元へと手を伸ばす。
「んっ、り、つ・・・ん・・・・・」
もう何度も繰り返したキスのせいなのか、ぷっくり、と少しだけ膨れた乳首を指先で摘むと千尋は微かな声を零した。
「千尋、平気?」
問いかけに頬を赤くしたまま言葉も無くただ頷く千尋に律は頬へと空いている手を伸ばすとキスを唇へと送る。 舌を絡め、吐息さえも奪う深いキスの間も乳首に触れる手は止まらない。 摘んだり、捏ねたりと指先で何度も弄られ、唇を放された時には赤い顔を更に赤く染めたまま千尋は深く息を吐いた。 そんな千尋に笑みを浮かべたまま律は首筋へもキスを繰り返しながら下へと下がる。 指で何度も弄られ更に赤く腫れた乳首には触れずに、もう片方の乳首へと舌を絡める律に千尋はびくり、と体を揺らす。 鼻を鳴らし、んっ、と微かに声は零したけれどそっと伸ばした手で、素肌を撫でる様に動く頭へと手を載せると千尋は律の髪を撫でるように触りだす。 乳首をずっと触っていた手が下肢へと伸ばされ、反射的に千尋は体を揺らすけれど、何を言うでもなくただ髪に指を絡めたりと気を散らしていた。 乳首を一回じゅっ、と強く吸うと律は下肢へと移動するから、千尋は息を詰めると、口元へと手を当てる。 少しだけ頭を擡げているソレを律の指がそっと触れたそれだけで、少しだけ力を増した気がするのに、そこにねっとり、と舌まで絡められ千尋はびくり、と全身を揺らす。 ちろちろ、と先を舌で舐めながらも手で扱きだすから、見なくても自分のものがどんな姿になっているのか想像できて、千尋は口にあてた手の指に歯を立てる。 温もりに包まれ、更に羞恥が増し、指を噛む力も強くなる。
「・・・・・っん・・・んんっ・・・・・・」
腹に触れる髪が少しだけくすぐったいのに、それよりも包まれる快感の方が強くて千尋は必死に指を噛み声を堪えてはみるけれどそれでも零れる声を抑えられなかった。 鼻につく甘い喘ぎに冗長するようにじゅぷじゅぷと下肢から聞こえる音も段々と大きくなる。
「・・・・・ん、だっめ・・・・・イ、ク・・・・・」
とうとう指を放し零す千尋の声が聞こえたのか、律は更にソレへと軽く歯を当てながらも強く吸い込む。 目の前に白い光がちかちかとする感覚に千尋は一瞬体を固まらせると深く息を吐いた。 溢れ出る精液を更に吸い出す様に舌で先を突きながらも吸い込むから千尋は何度か体を奮わせる。 ぐったり、とした千尋の足を少し抱え押し開くと、そのまま律は後ろへも舌を伸ばした。 濡れた感触と同時に千尋が吐き出したものがゆっくりと塗り込められる様に中へと入り込んでくるのと同時に細く長い感触のするものも押し入ってくる。 何度も中を探られ慣らされ、千尋は深く息を吐いた。
「千尋?」
問いかける様な声に、千尋は真上にある律の顔へと腕を伸ばす。 答える様に身を屈め抱き込んでくれる律の腕の中、後孔へと押しつけられた欲望に気づき千尋はその先を思いつい息を詰める。 緊張を解すように何度も顔中に優しいキスを繰り返され少しだけ息を吐いたその時を逃さないで、ゆっくりと沈めてくる律に千尋は首へと回した手を握り締める。 体の奥で息づく熱い塊、久々に感じる自分以外の温度に二人が一つになっているのを、より深く感じながら千尋は更にきつく律へと抱きついた。
「・・・・・んっ・・・あん、んんっ・・・・・」
ゆっくり、と動かされ、角度が微妙に変わるだけで、零れる声を唇を噛み締め堪える千尋に律は何度もキスを繰り返す。 舌を絡めとられ、溢れる唾液を飲み込むことも出来ずに口の端にだらだらと零しながらも、キスを止めて欲しくなくて必死に抱きつき舌を探す。 ぐちぐち、と繋がる場所からたまに聞こえる音も、深いキスでぐちゅぐちゅと重なる音も耳に響き更に興奮が増す。 汗で滑る背へと必死に回した腕を放さないように更に力をこめる千尋を律は抱きしめなおしながらも、少しづつ速度を上げて中を突きあげてくる。
「あんっ・・・・・ああ・・・んぁ・・・・・」
深く奥を突かれ噛み締めていた唇を放し喘ぐ千尋に律は更に深く腰を動かし奥を探る。 中をぐるぐると掻き混ぜられている様な感覚と息づく欲望が更に誇大し体中の熱は更に高まり千尋は自分自身も熱に煽られ先からとろとろと零れだす先走りを感じる。
「・・・・・り、つ・・・あっ・・・・・んっ・・・・・・」
名を呼びかけながらも抑え切れない喘ぎを零す千尋の頬に優しいキスをすると律は何も言わずに更に深く突き上げを始めた。 息の音、触れ合う肌や擦れ合う布の音、繋がる水音が更に部屋中に響き千尋は目の前の情欲に濡れた瞳と視線を噛み合わせただ微かに笑みを浮かべた。 中で溢れる液が更に増えるのに、突き上げはますます強くなり、律の欲望は尚も膨れ上がる。 中で膨れる欲望をリアルに感じながら、千尋はいつのまにか囚われた自身を扱く律の手に促される様に快感への階段をひたすら駆け上がっていた。 目の前が白くなり、最奥に迸る快楽の証を感じながら千尋も自身を律の手の中で開放させた。
*****
結局ベッドで二回、狭いユニットバスの中で一回、濡れた体をそのままベッドへと移されまたもや始められた行為が終わった頃には薄っすらと窓に日が入りはじめていた。
「・・・・・律さん、いつから会社、おやすみ?」
眠い目を擦りながらも必死で呟く千尋の横、彼を抱きかかえると律は少し考え込むかの様に黙る。
「・・・・・・28日、からかな?・・・・・ちょっと微妙だけど、年末年始は一緒にいようか?」
それとも実家に帰る?と問いかけて来る律へと身を摺り寄せ千尋は一緒、と呟いた。 もう、ほとんど眠りそうな千尋の背を優しく撫でながら律は彼にそっとキスをする。
「なら、俺が会社休みになったら、千尋は俺の部屋においで。ずっと一緒にいよう、ね。」
微かに聞こえるその声にこくこくと頷いた千尋は重い瞼を閉じるとすやすやと寝息を零しだした。 そんな彼の寝顔を眺めながら律は笑み浮かべると更に深く抱き込むために千尋を引き寄せる。 起きたらクリスマスにちなんでケーキを買いに行って、部屋で二人で食べよう、いっそ、このまま千尋を部屋に引き止めるのもありかもしれない・・・・・そんな事を思いながらも律は小さなあくびを一つ漏らすと抱きしめた恋人を抱え込んで頭を押し付けると瞳を閉じた。
どこがクリスマス?・・・・・まぁクリスマスの時期だよ、という事で。 20071217
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